公訴時効

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公訴時効(こうそじこう)とは刑事上の概念で、犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると公訴が提起できなくなることをいう。時効の一種である。

総説[編集]

沿革[編集]

フランス法にならった治罪法(明治13年=1880年公布)の「期満免除」の制度が起源で、1924年(大正13年)に公布された旧刑事訴訟法には「時効中断」(旧刑事訴訟法第285条1項)の制度が基本であったが、第二次世界大戦後、GHQの勧告により「時効停止」の制度に変り[1]、現在の刑事訴訟法は「時効停止」制度を採用している。しかし、税法における通告処分については公訴時効の中断の効力を有するとしており(国税犯則取締法第15条、関税法第138条第3項、地方税法第74条の30等による国税犯則取締法の準用)、判例(昭和39年11月25日 最高裁判所大法廷 判決)では、時効制度は立法政策の問題であり、刑事訴訟法が、一般的には時効中断の制度をとらなかつたからといって、国税犯則取締法第15条の公訴時効中断の効力を否定するものではないとしている。

「時効中断」とは公訴提起によってそれまで進行していた時効期間が元に戻ることであり、「時効停止」とは、公訴提起等の一定の事由により公訴時効の進行を停止させ、停止事由が消滅した後、再び残りの時間が進行することを指す。現行刑事訴訟法は、一般的には時効停止の制度のみを認める。例えば、殺人未遂罪(最高刑は死刑で公訴時効までの期間は25年)の事件から20年経過後に起訴され、その後、公訴棄却や、管轄違いの判決などを受けて、そのまま再び起訴されずに5年が経過すれば、公訴時効は完成する。時効が完成すれば、たとえ公訴提起されても、免訴判決(刑事訴訟法第337条4号)がなされることになる。

関連条文の構造[編集]

刑事訴訟法・第251条は、時効期間の標準となる刑についての定めである。懲役刑罰金刑併科(懲役と罰金の両方を課すこと)を定める盗品等有償譲受け罪刑法256条2項)では、懲役刑に、懲役刑、罰金刑および懲役刑と罰金刑との併科の中から刑を選択できる法人税法159条1項違反では、懲役刑がそれぞれ時効期間の基準となる。よって、盗品等有償譲受け罪の公訴時効は7年、法人税法159条1項違反は5年である。なお、刑の軽重は刑法第10条によって定まる。

刑事訴訟法・第252条は、刑の加重・減軽が行われる場合、時効期間を定める基準は、処断刑(法定刑に法律上・裁判上の加重減軽を加えたもの)ではなく、法定刑によることを定める。

刑事訴訟法・第253条は、公訴時効の起算点を規定しており、公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行する。

刑事訴訟法・第254条は、1項で、公訴の提起によって時効が停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定したときから、再び時効が進行する旨を定める。また、2項では共犯の一人に対してなされた公訴の提起による時効停止の効果は他の共犯にも及ぶ旨規定している。共犯間での不公平を避けるための規定である。

刑事訴訟法・第255条は、犯人が国外にいる場合、または逃げ隠れしているために公訴を提起して起訴状の謄本を送達できなかった場合、この期間は時効が停止する旨を定めている。ちなみに、「国外にいる場合」とは、逃げ隠れしている場合と異なり、公訴提起があったかどうか、起訴状の謄本の送達ができなかったかどうかには関わりがない(最高裁S37.9.18刑集16-9-1386白山丸事件)、また、一時的な海外渡航による場合であっても停止される(平成21年10月20日 最高裁判所第一小法廷 決定)。なお、起訴状の謄本の送達については第271条を参照のこと。

公訴時効制度の本質[編集]

公訴時効制度の趣旨についてはいずれの法律の明文にも、その解説及び解釈は盛り込まれていない。また、判例の立場も明らかにされていない。公訴時効制度が設けられている理由について次のような見解がある。

実体法説
時の経過とともに「犯人が憎い」「厳罰に処すべし」といった社会の復讐感情が減少し、また刑罰により一般人に対して犯罪を思い止まらせる必要性や、犯人に対する再教育の必要性が減少(可罰性が低下する)することで国家の刑罰権が消滅する点に本質があるとする説である。
この説に対しては、刑罰権が消滅しているのであれば無罪判決を言い渡すべきであるところ、法が免訴判決を言い渡すべきと規定すること(刑事訴訟法337条4号)との整合性がないという批判がある。
この批判に対して、他に免訴となる事由として、犯罪後の法令により刑が廃止されたとき(刑事訴訟法337条2号)及び大赦があったとき(刑事訴訟法337条3号)という明らかに刑罰権が消滅した場合が含まれることから、刑罰権の消滅と免訴判決は矛盾しないという反論がある。
訴訟法説
時の経過とともに証拠物凶器写真などの物的証拠)が散逸し、または経年劣化による腐敗で長期間の保存と事実認定が困難になり、適正な審理ができなくなることを防止するため公訴権が消滅する点に本質があるとする説である。
この説に対しては、証拠が十分に存在する場合にも一律に公訴権が消滅することの説明がつかないという批判(i)がある。DNA型鑑定などの科学技術が飛躍的に向上したことにより、証拠の長期保全が可能になったことが批判の背景にある。また、刑事訴訟法250条が法定刑の重さにより時効期間に差を設けていることを説明しきれていないという批判(ii)がある。
しかし、批判(i)に対しては、長期に保存可能な証拠が存在しても、この証拠と犯罪事実との関係性や故意の認定については、結局、他の証拠に頼らざるを得ず、時の経過による事実認定の困難性は解決できるものではなく、また、科学技術が向上したとしても被告人に有利な証拠(アリバイなど)や無罪証拠は散逸を免れず、誤判の恐れに変わりはないという反論がある。
競合説
「実体法説」と「訴訟法説」の両方の理由があるとする説である。
両説に対する批判はこの説についても向けられるという批判がある[2][3][4]
しかし、競合説は実体法説に対する批判には訴訟法説で答え、訴訟法説に対する批判には実体法説で答えることに特徴があり、そのような批判は当たらないという反論がある。
新訴訟法説
犯人と疑われている者が一定期間訴追されない場合、その状態を尊重し、個人の地位の安定を図るため公訴権が消滅すると説明する。殺人事件があった場合に家族や恋人が犯人視されることや、現金がなくなった場合に経理担当者が横領犯視されることがあるが、このような法的に不安定な状態を永遠に続けないために、公訴時効があるということになる[5]
この説に対しては、公訴時効の本質論の説明を放棄しているという批判がある。
なお、『犯人と疑われている者』を『犯人』に置き換えた「『犯人』が一定期間訴追されない場合、『犯人』の地位の安定を図るために公訴時効があるとする説」は新訴訟法説ではなく、実体法説である[6]
誤審防止説
アリバイなどの「無実の証拠」は時の経過とともに急速になくなるので、無実の者を誤って有罪にすることを防止するため、時間の制限があるとする説である[7]

公訴時効の期間[編集]

2010年(平成22年)4月27日に公布・施行された改正刑事訴訟法により、「人を死亡させた罪であつて(法定刑の最高が)死刑に当たる罪」については公訴時効が廃止されたため、公訴時効が完成することはない。その他の罪の公訴時効期間については、いずれも刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第250条に定められている。まず、「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く)」(同条1項)と「”人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの”以外の罪」(同条2項)に分け、その上で、法定刑の重さにより時効期間の長さが定められる。

条項 罪の種類 時効期間 具体的な罪の例
人を死亡させた罪であつて死刑に当たる罪 公訴時効なし 殺人罪強盗殺人罪など。
250条1項 人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く) 無期の懲役又は禁錮に当たる罪 30年 強制わいせつ致死罪強姦致死罪など。
長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪 20年 傷害致死罪危険運転致死罪など。
上に掲げる罪以外の罪 10年 自動車運転過失致死罪業務上過失致死罪など。
250条2項 「人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの」以外の罪 死刑に当たる罪 25年 外患誘致罪外患援助罪現住建造物等放火罪現住建造物等浸害罪など。
無期の懲役又は禁錮に当たる罪 15年 汽車転覆等罪通貨偽造罪詔書偽造等罪身の代金目的略取等罪強盗強姦罪など。
長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪 10年 強盗罪傷害罪など。
長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 7年 窃盗罪不動産侵奪罪詐欺罪恐喝罪業務上横領罪など。
長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 5年 あへん煙輸入罪水道汚染罪特別公務員暴行陵虐罪受託収賄罪未成年者略取罪など。
長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪 3年 名誉毀損罪暴行罪過失傷害罪過失致死罪脅迫罪威力業務妨害罪器物損壊罪など。
拘留又は科料に当たる罪 1年 侮辱罪軽犯罪法違反など。
  • 2010年(平成22年)4月27日に公布・施行された新法(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号))には、経過措置が定められている(同法附則3条)。この経過措置によれば、改正後の刑事訴訟法250条の規定は「この法律の施行の際既にその公訴の時効が完成している罪については、適用しない。」とし(附則3条1項)、改正後の刑事訴訟法250条1項の規定は「刑法等の一部を改正する法律(平成16年法律第156号)附則第3条第2項の規定にかかわらず、同法の施行前に犯した人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもので、この法律の施行の際その公訴の時効が完成していないものについても、適用する。」とされ(附則3条2項)、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもので2010年(平成22年)4月27日までに公訴時効が完成していない罪については、すべて新法が適用されることとなる
  • 刑法第31条から第34条の2までの規定は、「刑の言い渡しを受けた者」が、当該条文にある期間の経過により、その執行が免除される規定であり、刑事訴訟法の公訴時効とは制度的に異なる(刑の時効)。

かつての公訴時効期間[編集]

公訴時効期間は、2004年(平成16年)12月の刑事訴訟法改正により、延ばされた(2005年(平成17年)1月1日施行)。なお、この時点における改正では時効期間の遡及適用については規定されておらず、改正法施行前に犯した罪の公訴時効については改正法附則3条2項により「従前の例による」と規定されているが、前述したとおり、平成22年改正法附則3条2項により「人を死亡させた罪で禁固以上の刑に当たるもの」については平成22年4月27日までに時効が完成していなかった場合は公訴時効延長の対象とされることになった。一方で、平成22年改正法附則3条2項の反対解釈として、2010年4月27日まで公訴時効が完成していなくても、2004年12月31日以前に犯された「人を死亡させた罪で禁固以上の刑に当たるもの」以外の犯罪(強盗致傷罪、強姦致傷罪、現住建造物放火罪など)については、なお平成16年改正法附則3条2項の適用を受け平成16年改正法施行以前の時効期間が適用されることになり、一連の公訴時効延長改正の適用対象外とされているので注意を要する。

条項 罪の種類 時効期間 具体的な罪の例
改正後 改正前
250条 死刑に当たる罪 25年 15年 殺人罪、強盗殺人罪など。
無期の懲役又は禁錮に当たる罪 15年 10年 強盗強姦罪など。
長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪 10年 7年[8] 強盗罪など。
長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 7年 窃盗罪など。
長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪 5年 5年 逮捕監禁罪など。
長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪 3年 3年 暴行罪など。
拘留又は科料に当たる罪 1年 1年 侮辱罪など。

公訴時効の停止[編集]

公訴時効の停止制度とは、一定の事由により、公訴時効の進行が停止し、停止事由が消滅した後に残存期間が進行する制度である。明文に規定された主な停止理由は以下の通りである。

  • 公訴時効の停止は、公訴の提起があって、はじめて停止する(刑事訴訟法第254条1項)。つまり、単に被疑者の身柄を確保(逮捕)しただけでは、公訴時効は停止しない刑事ドラマなどで、公訴時効の完成する数日前のところで逮捕に漕ぎつける描写もあり、あたかも「逮捕=時効の停止」であるように誤用されることもあるが、実際に公訴時効の完成する1~2週間前に逮捕できても、状況によって起訴前に公訴時効が完成する恐れが高くなる。身柄確保してから直ちに調べを行ない、検察庁送致しなければ検察は起訴出来ないので間に合わない。
  • 例えば、公訴時効の成立する21日前(3週間前)に逮捕された松山ホステス殺害事件の犯人、福田和子が起訴されたのは公訴時効完成の11時間前と、ぎりぎりの状態であった。
  • 被疑者が逃亡中など所在不明の場合でも、起訴を繰り返すことにより時効の進行を止めることができる。詳細は、公訴時効#論点の「日本ヘルシー産業社長脱税事件」を参照。なお、被告人に対し2ヶ月以内に起訴状が送達できない場合は裁判所が公訴棄却することになるが、再び起訴することは可能である。
  • 被疑者が国外にいる場合または犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかった場合は、国外にいる期間又は逃げ隠れている期間について公訴時効を停止する(刑事訴訟法第255条)。この条文の事実上の運用としては国外逃亡中の公訴時効停止が殆どである。例としてよど号グループ小西隆裕魚本公博若林盛亮赤木志郎)が挙げられる。
  • 共犯者の起訴から結審まで、公訴時効を停止する(刑事訴訟法第254条2項)。例としてオウム真理教関係特別手配被疑者平田信高橋克也菊地直子)や、渋谷暴動事件の大坂正明、連続企業爆破事件桐島聡等がいる。また、明石花火大会歩道橋事故では、明石署の元副署長が明石署地域官の公判中は時効が停止していたことを理由に時効が完成せず、事故発生から5年後の2009年検察審査会によって業務上過失致死罪(当時の公訴時効が3年)で起訴されたが、地方裁判所は公訴時効が成立していたとして免訴判決を言い渡している。

論点[編集]

公訴時効停止効の存否に関する問題[編集]

  • 起訴状不送達の場合
起訴状謄本が法定期間内に送達されなかった場合に、公訴時効停止効が生じるかという問題がある。この点につき、検察官が訴追意思を明示している以上、可罰性の減少や証拠の散逸は阻止されているとして公訴時効の停止を認めた判例がある最高裁決定昭和55年5月12日。これに従い、1995年の日本ヘルシー産業社長脱税事件(群馬県高崎市の健康食品販売会社社長脱税事件)では、1999年3月から所在不明のまま法人税脱税の罪で起訴し、起訴状不到達を理由に裁判所が公訴棄却を決定すると検察が再び起訴することを繰り返し、2007年3月に元社長が身柄拘束されるまで計42回起訴を繰り返すことで公訴時効(5年)の進行を止めた事例がある。また、香川県高松市での特別老人ホームの建設を巡る汚職事件で逮捕が出ていた元同市議宮本和人について、2005年香川県警事情聴取を行った後逃亡を続けるようになったため、高松地検が、時効の完成を防ぐため、容疑がかかっている2件の贈賄罪で再起訴を繰り返した事例がある。なお、うち1件については、2010年2月27日に時効となった[9]
この判例の立場に対し、起訴状が不送達の場合に公訴時効は停止しないとする見解もある。逃亡しているわけではない被告人にとって、不知の間に停止することは不当であるという点、公訴時効の遡及的失効を特に規定する271条2項を重視することを理由とする[10]
  • 訴因不特定の場合
訴因不特定を理由として公訴棄却された場合にも、公訴時効停止効が生じるかという問題がある。この点につき、検察官の訴追意思は訴因を基準に考えるべきであるとして、訴因不特定の場合は訴追意思が明示されていないため公訴時効は停止しないと考えられている。

公訴時効の起算点に関する問題[編集]

  • 結果犯の場合、結果が発生して初めて処罰可能となるため、結果時を起算点とするのが判例の立場である[11]
  • 結果的加重犯の場合、起算点を基本犯の結果発生時とするか、加重結果の発生時に置くかが問題となる。
  • 科刑上一罪の場合、起算点を個々の犯罪行為ごとに考えるか、犯罪行為全体について考えるかが問題となる。

公訴時効の期間の算定基準に関する問題[編集]

法律の改正があった場合について
  • 時効期間の変更があった場合
犯罪行為が終わった後、起訴前に時効期間を変更する立法があった場合
#改正前の規定に服するのか(行為時説)
#改正後の規定に服するのか(裁判時説)という問題がある。
前述の平成16年法律第156号による改正では経過規定が設けられ、改正前の期間によることとしている(刑法等の一部を改正する法律(平成16年法律第156号)附則第3条第2項)。
経過規定がない場合、時効制度を純然な訴訟上の制度と解して、裁判時説に立つ説(旧法以来の判例の立場)と、時効によって刑罰権が消滅するため、刑法6条を準用して、もっとも短い公訴時効期間に従うとの説がある(鈴木茂嗣、参考文献『注解 刑事訴訟法 中巻 全訂新版』265頁)。
  • 法定刑の変更があった場合
当該犯罪についての法定刑が変更された場合、改正された後の法定刑に定められた罰条によって公訴時効が定まる(適用時法定刑説)。つまり、犯罪後の改正により法定刑が重くなった場合は、改正前の刑に基づくことになる(刑事罰不遡及の原則)。逆に軽くなった場合は、経過規定がある場合を除けば、刑法第6条により改正後の軽い刑に基づく。判例は、この立場に立つ。
期間計算の標準となる刑について
  • 科刑上一罪の場合、時効期間の算定基準に関しては以下の二つの説がある:
  1. 本来は数罪なので、各犯罪ごとに時効を決定するという、個別説(大部分の学説)。
  2. 一罪として処理されるので、一体としてとらえるべきで、その中の重い罪を基準とする、統一説(判例1[リンク切れ] 判例2[リンク切れ] の立場)。
ただ、判例は、牽連犯について、時効期間を一体として考えると、手段行為の公訴時効は、目的行為が実行されない限り完成しない不都合が生じるので、各訴因について、時効期間を決すべきとする(判例1[リンク切れ] 判例2[リンク切れ])。
  • 両罰規定の場合、業務主又は法人について罰金が課されるがこの場合の時効は、行為者に懲役が規定されていても、業務主又は法人について課される罰金の時効(3年)になる。(昭和35年12月21日 最高裁判所大法廷 判決)。ただし個別立法の多くは、両罰規定の適用において、行為者の時効の例によるという規定をおいて時効期間を行為者と同じにしている(例 法人税法第164条第2項)。
  • 訴因変更と公訴時効

公訴時効が及ぶ範囲に関する問題[編集]

  • 誤起訴により真犯人ではない者が起訴された場合
真犯人ではない者が起訴された場合、真犯人について公訴時効が停止するか否かという問題がある。真犯人について共犯者と扱い刑事訴訟法第254条2項を根拠に公訴時効は犯罪事実の範囲で及ぶとする肯定説がある。これに対して、公訴の効力は人的に可分であるのが原則として(刑事訴訟法第249条参照)、公訴時効の停止も起訴状記載の被告人にのみ及ぶため、真犯人については公訴時効が停止しないとする否定説が有力説として存在する。実際の議論としては受刑者への無罪判決が言い渡された足利事件でジャーナリストが追っている真犯人に関して議論がある。
  • 訴因変更がなされた場合
適法に起訴された後、訴因変更により新訴因の罪名では公訴時効期間を経過している状態となった場合、裁判所は免訴判決をすべきか否かという問題がある。この点につき、公訴事実の同一性の範囲内で一事不再理効が認められるため、その範囲で時効を停止させ訴因変更の可能性を残すべきであるとして、当初の起訴により公訴事実の同一性の範囲内にある事実については時効が停止するという判例が存在する。

民事消滅時効との違い[編集]

公訴時効と民事上の時効は異なるため、公訴時効が完成した犯罪行為(業務上過失致死など)について、民事上の不法行為による賠償責任を追及することが可能な場合もある。不法行為による損害賠償請求権の時効消滅期間は、被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、または不法行為時点から20年となる(民法724条)。もっとも後者については、民法上の消滅時効とも異なる除斥期間であると考えられている。

ナチス犯罪の公訴時効[編集]

ナチスによるホロコーストなどについては、フランスなどで公訴時効を無期限停止した(たとえば「人道に対する罪に対する時効不適用を確認する法」など)[1]

2001年にはイタリアが、第二次世界大戦中に同国北部で大量虐殺事件に関わったとされる元ナチス親衛隊将校フリードリヒ・エンゲルの犯人引渡しを求めた。ドイツは引渡しを拒否する一方で翌2002年に同国のハンブルク裁判を開始した[12]。犯罪終了(終戦)から57年を経て公訴提起された例である。

ナチス時代の行為でドイツにおいて公訴時効が停止されているのは「謀殺罪(計画的殺人)」であるが、これはあくまでも謀殺罪一般の公訴時効が停止されているのであり、法律上はナチスと関係はない。また、謀殺罪以外のナチス時代の犯罪は全て時効が完成している(そもそもドイツの刑法上「ナチス犯罪」に関する法的定義は存在しない。このため「ナチス犯罪の時効を停止する」事は法律上不可能である)。 しかし、ドイツにおける謀殺の時効は1781年以来、帝国刑法典が20年と定めていた。だが第二次大戦後、ナチスの虐殺が政権崩壊から20年を経た65年に時効になることが問題になり、連邦議会は起算点を西ドイツ成立の49年に変更。その後、諸外国の圧力から時効を30年に延長し、その期限となる79年に謀殺の時効を廃止した。この背景によりしばしば「ナチス犯罪に時効は存在しない」という論調がなされることがある。

公訴時効完成直前に起訴された事件[編集]

長期捜査#主な長期捜査事件」も参照

検察審査会で不起訴不当とされながら公訴時効が完成した事件[編集]

公訴時効成立後に犯人が発覚・自首・身柄拘束された事件[編集]

捜査機関の怠慢により公訴時効となった例[編集]

  • 1997年大阪府藤井寺市内で発生した傷害事件について、大阪府警羽曳野署が被疑者を割り出していたにもかかわらず、署内に証拠品や逮捕状の請求書が放置されたままとなり、2004年公訴時効が成立していたことが、同月までに判明。請求書や証拠品は、2012年に同署の機械室内から発見されており、他署でも同様に不適切な証拠品や書類の保管が実施されている可能性が出ている[15]

公訴時効停止・廃止議論[編集]

改正刑事訴訟法施行までの経緯[編集]

2009年2月、世田谷一家殺害事件の遺族らが中心となり、時効の停止・廃止に向けて活動する「殺人事件被害者遺族の会」(通称:宙の会)が結成された。また、「全国犯罪被害者の会」(通称:あすの会)も殺人など重大事件における時効廃止を求める決議を行うなど、時効制度の見直しを求める遺族の声は高まってきていた。

遺族らは時効制度の存在理由とされている主に以下の点を問題にしている。

  • 「時の経過とともに遺族の被害者感情が薄れる」とされるが、実際には悲しみや苦しみは一生残り続ける。
  • 「時の経過とともに証拠物が散逸する(長期間の保存ができない)」とされるが、近年、DNA鑑定などの捜査技術が大幅に進歩し、犯人のDNAが特定されている事件では、時間の経過に関係なく犯人を特定する証拠物とでき、「冤罪の問題」についてもDNA鑑定により他人を犯人と誤る確率は極めて小さい。

これらの意識の高まりなどから、法務省は勉強会を開き、2009年3月31日に「凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について~当面の検討結果の取りまとめ~」を作成、5月12日から6月11日までパブリックコメントを行い[2]、7月17日にパブリックコメントの結果[3]と、最終報告書[4]を公表している。最終報告書では、「公訴時効の撤廃に賛成する意見」と「公訴時効の撤廃に反対する意見」の両論が記されている。DNA型鑑定については、慎重な意見が記載されている。

法務省は、2009年11月16日から法制審議会刑事法部会で公訴時効関係について審議している。部会でこれまでに議論された選択肢は以下の通りである[16]

  • 廃止案:殺人や強盗殺人について時効は廃止。
  • 延長案:殺人や強盗殺人について時効となる期間を現行の25年から50年などに延長。
  • 廃止+延長案
    1. 殺人や強盗殺人は廃止し、強姦致死は30年、傷害致死は20年などに延長。
    2. 殺人や強盗殺人は廃止し、強姦致死は25年、傷害致死は15年などに延長。
  • 停止案
    1. 犯人の可能性がある人のDNA型などを特定できる場合は、「名前」ではなく「DNA型」を被告人とみなして起訴することにより時効を停止する。
    2. 「合理的な疑いを超えて」真犯人のものと認定できるDNA型などの証拠がある場合、検察官の請求を受けて裁判官が時効を停止するかどうか判断。

また12月22日、再び公訴時効の在り方等についての意見募集[5]を開始した。内容は、同年5月12日の意見募集とほぼ同じである。意見募集は2010年1月17日に締め切られ、集まった意見[6]が2010年1月20日に法制審で公表された。そして同年1月28日の法制審で、人を死亡させた罪の公訴時効について見直すとした「要綱骨子案」が提示され、結果的には勉強会の報告と方向性が同じものとなった。以下骨子案の要旨である[17]

  • 公訴時効の廃止延長案
    • 人を死亡させた罪のうち、
      • 最高刑が死刑のものの公訴時効は、廃止する。
      • 最高刑が無期懲役、無期禁錮のものの公訴時効は、30年に延長する。
      • 最高刑が20年の懲役、禁錮のものの公訴時効は、20年に延長する。
      • 最高刑が20年未満の懲役、禁錮のものの公訴時効は、10年に延長する。
    • 公訴時効の廃止延長の対象とする事件は、改正法の施行後に発生したものだけでなく、施行前に発生し、時効未完成の事件を含める。ただし施行前に時効が完成した事件は対象にならない。
  • 刑の時効の廃止延長案
    • 有罪判決を受けた者について
      • 死刑については刑の時効を廃止する。
      • 無期懲役、無期禁錮については、刑の時効を30年にする。
      • 10年以上の懲役、禁錮については、刑の時効を20年にする。
    • 刑の時効の廃止延長は、法の施行以降に刑が確定したもののみを対象とする。

法務省は部会の議論を受け、法制審の答申を受けた上で第174通常国会に政府として刑事訴訟法改正案を提出。4月27日に改正法(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号))が可決成立し、即日施行された。

施行以前に表明された時効見直しを懸念する意見[編集]

こうした時効見直しに対する世論の高まりに対して、懸念する意見も表明されていた。

時効の見直しには、日本弁護士連合会(日弁連)が「無実の被疑者や被告人の人権が守れなくなる」と強く反対している。事件発生から長期間たつと関係者の記憶が薄れ、無罪を裏付ける証拠も見つけにくくなり、冤罪が起きかねないからである[18]。また、時効がなくなると、重要参考人とされた人が無実である場合、一生、捜査の対象になることへの懸念が表明されている[19]。さらに、警察庁は、時効が廃止された場合、証拠物などをどのように保管していくのか、限りある捜査力をどう振り分けるのかが課題となると法務省側に指摘している[16]

また、法務省が法制審に提示した上記骨子案に盛り込まれた「改正法が施行される前に犯した罪で、施行の際に時効が完成していないものについても、時効廃止などの見直しを適用する」とする考えが、「何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。」とする憲法39条の事後法・遡及処罰の禁止の原則に反するのではないかという議論が生じている。これまでの部会の議論では「39条の字義通りに解釈すれば違反とは言えない」という意見が出ているが、これに反対する意見も表明されている[16]

日本国外の状況[編集]

米国では、連邦法により死刑に当たる罪は公訴時効がない[20]。しかし、それ以外の罪については、テロ犯罪、未成年者への犯罪などの例外を除き、一律5年で連邦法上の公訴時効を迎える[20]

連邦法では性犯罪に限り、事件現場に残されている犯人のDNAに人格権を与えて起訴するDNA起訴ジョン・ドウ起訴[21]が導入されており、「人格があるとみなされたDNA」が起訴された場合は時効が停止する[22]。州法レベルでは、対象犯罪などが異なる場合がある。

イギリスには公訴時効という制度は存在しない。フランスでは一般の重罪は10年で時効が完成するが、上記の理由により集団虐殺など人道に対する犯罪については公訴時効がない。ドイツでは、殺人のうち特に重い事案の公訴時効は30年で完成するが、民族謀殺、殺人嗜好など特定類型の殺人については公訴時効にかからない。[23] [24]

脚注[編集]

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  1. ^ 原田 (2004:196-197)。1948年4月ごろの刑事訴訟法改正協議会でGHQから出されたプロブレムシート第65問で「時効停止」が勧告されたため中断から停止に変ったとされている。
  2. ^ 安富潔 『刑事訴訟法講義』初版 168項 「総合説は実体法説及び訴訟法説のそれぞれ疑問点がいずれも妥当する」
  3. ^ 『条解 刑事訴訟法』第3版増補版 弘文堂 452,453項 「競合説(実体法説と訴訟法説を併せた説であるがこれに対しては両説に対する批判があてはまる)」
  4. ^ 白取祐司 『刑事訴訟法』 白取祐司 日本評論社 98項 「両方の論拠を挙げるのが(3)競合説であるが、逆にいうと両説の難点を併有するともいえよう」
  5. ^ 原田 (2004:208)田宮裕博士の説として「公訴は被告人を危険におくものである。こういう状態におかれなかったという事実ないしはそれに対する一般の感覚を尊重するために設けられた一つの訴訟上のインスティテユーションではないか。ある個人が一定の期問訴追されていない(刑罰を加えられていないのではない)という事実状態を尊重して、国家がもはやはじめから訴追権そのものを発動しないという制度ではないか。実体法説のいう刑罰を、ここでは訴追というものに置き換えたもので、一般の時効制度と共通の思想によっている。これは訴訟法説ではあるが、証拠散逸説とは根本的に違う。そうすると、公訴時効は、訴追という事実に対する被告人の利益のための制度だということになる」(田宮裕「日本の刑事訴追」200頁(有斐閣、1998、初出:研修488号(1989)))を紹介している
  6. ^ 原田 (2004:177)で、富田博士の「時の経過に因りて生じたる事実上の状態を尊重し此状態に反し〔犯罪必罰の〕一般原則を適用することを以て却て秩序維持の実際的目的に適合せざる所あるものと為したるものなり」(富田由寿『刑事訴訟法要論』843-836頁(有斐閣、1913))、豊島博士の「公訴の時効を設けたるは事実の勢力に重きを置きたるが為なりと信す。……然るに今犯罪を数年の後に至りて罰せん乎却て現在の秩序を躁躍するに止まり犯罪人及び世人に対しては何等の効験なかるべきなり。時効を設けたるは実に犯罪後に生じたる総ての事実と法律の正義と相抵触するに當り法律をして事実に屈従せしめ以て其調和を図るに外ならざるなり」(豊島直道『修正刑事訴訟法新論』267-270頁(有斐閣、1910))を実体法説として紹介している。なお、これらの説を新訴訟法説に含めるとすると、戦前から新訴訟法説が主張されていたことになり、一般的な認識に反することになる
  7. ^ 原田 (2004:208)坂口裕英博士の説として「公訴時効は、処罰されるわれわれの『防御権』を保障する刑事訴訟法上の制度」(坂口裕英「公訴の時効」鴨良弼編『法学演習講座⑪刑事訴訟法(重要問題と解説)』259頁(法学書院、1971))を紹介している
  8. ^ 「長期10年以上の懲役又は禁錮にあたる罪」でまとめられていた。
  9. ^ 再起訴19回で異例の引き延ばし、時効が成立 読売新聞 2010年2月27日
  10. ^ 『別冊ジュリスト刑事訴訟法判例百選』 第8版 井上正仁編 第218項
  11. ^ 最高裁判所第三小法廷決定 1988年(昭和63年)2月29日 、昭和57年(あ)第1555号、『業務上過失致死、同傷害』。2014年8月17日閲覧
  12. ^ “第2次大戦中にイタリア人虐殺/元ナチス隊長裁判を開始/ドイツ”. しんぶん赤旗. (2002年5月12日). http://www.jcp.or.jp/akahata/aik/2002-05-12/11_0702.html 
  13. ^ 要旨;時効成立直前に被疑者が逮捕された未成年者殺人事件 (PDF)
  14. ^ HP手配写真が決め手で逮捕 来年12月時効の事件(共同通信/47NEWS 2008年8月15日)
  15. ^ 逮捕状請求書:放置されたまま時効成立 大阪・羽曳野署 毎日新聞 2014年9月26日
  16. ^ a b c 朝日新聞朝刊 2010年1月29日閲覧
  17. ^ 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会 配布資料23 凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方等に係る要綱骨子(案)
  18. ^ 日本弁護士連合会 2009年6月11日 凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する意見書
  19. ^ 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会第5回会議議事録2010/1/20, p38, 第3発言者
  20. ^ a b アメリカ合衆国法典18編213章3281条
  21. ^ JD起訴、「ジョン・ドウ」は英語で名無・太郎のこと
  22. ^ 法務省法制審議会「配布資料18 アメリカにおけるDNA型情報により被告人を特定して起訴する取扱いについて」2009年12月21日
  23. ^ 法務省法制審議会「配布資料7 公訴時効制度に関する外国法制の概要」2009年11月16日
  24. ^ 法務省公訴時効勉強会 (2009年3月31日). “凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方について~当面の検討結果の取りまとめ~” (日本語). 2010年1月27日閲覧。6ページ「4 諸外国における公訴時効制度」参照

参考文献[編集]

関連項目[編集]