四大法律事務所
四大法律事務所(よんだいほうりつじむしょ)とは、日本における最も大規模な法律事務所4つの総称であり、現在では以下の事務所を指す。
略して「四大事務所」ないし「四大」ともいい、英語では"Big Four law firms"ないし単に"Big Four"という。また、5番目に大きい事務所を加えて「五大事務所」と呼ぶこともあり、この場合、現在ではTMI総合法律事務所が加わることとなる。
概要
時期によって合併による名称変更はあるものの、構成に実質的な変動はなく、以下の4事務所を指すものである[1](括弧内は2011年5月現在における所属弁護士数。なお、以下の順序は同時点での所属弁護士数の順序。)。
- 西村総合法律事務所→西村ときわ法律事務所→西村あさひ法律事務所 (474名)
- 長島・大野法律事務所→長島・大野・常松法律事務所 (344名)
- 森綜合法律事務所→森・濱田松本法律事務所 (311名)
- アンダーソン・毛利法律事務所→アンダーソン・毛利・友常法律事務所 (308名)
所属弁護士の人数が5番目に大きい法律事務所を含めて「五大事務所」と呼ぶこともあり、この場合は時期によって構成が異なり、かつてはあさひ・狛法律事務所が、近時ではTMI総合法律事務所(233名)が含まれることになる。
いずれも、主に企業を顧客として総合的なリーガル・サービスを幅広く提供する法律事務所である点が特徴である。
かつては多くとも数十人規模の弁護士によって運営されていた日本の法律事務所であるが、事務所同士の合併によって所属弁護士数が100人を超える事務所が初めて誕生したのは、2000年(平成12年)のことである[2]。その後も弁護士事務所同士の合併や、新人弁護士の大量採用が行われたことなどによって、所属弁護士数が100名を超えるような事務所が複数誕生し、「四大法律事務所」ないし「四大事務所」などと括られるに至った[2]。現在では、いずれも300名を超えており、最大手の西村あさひ法律事務所は500名に近い。
日本における大手法律事務所は、その多くが、元来、「渉外」案件を業務の中心とする渉外法律事務所であり、そのためにしばしば「大手渉外事務所」とも呼ばれていた。しかしながら、1995年(平成7年)以降には現在の外国法共同事業に基づいた欧米法律事務所が日本に展開するようになったことから、現在の四大事務所を含む日本の大手法律事務所は、日本国内の企業法務案件にその事業分野の中心を移し、「渉外」案件は取り扱い業務の一部に過ぎなくなってきている[2]。一方で、日系企業のアジア進出に伴い、中国やインドのみならず、ベトナム、インドネシアといった東南アジアへの業務展開が広がっている[3]。
四大法律事務所を含む日本の大手法律事務所に係わるもうひとつの特徴は、それらの殆んどが外資系ではなく、日本国内の独立系事務所として維持されていることにある[4]。
解説
この記事には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
大規模化の歴史
日本の大手法律事務所の大規模化は、1990年代末頃から、いわゆる大手渉外事務所が、年度ごとの新人弁護士の採用人数を当時としては多い10名程度まで増やすことにより始まった。もっとも当時の日本の法律事務所は、大手と呼ばれるところでも所属弁護士が50名程度と、英米に比べれば極めて小さなものであったが、それでも国内において特に大規模であったことから、やがて「四大法律事務所」との呼称が誕生した。
今のような大規模化の先鞭をつけたのは、2000年、当時の四大の1つであった長島・大野法律事務所と常松簗瀬関根法律事務所の合併である。この合併により、新人弁護士の入所を合わせると100名を超える弁護士の所属する事務所が誕生し、当時の法曹界においては大きなニュースとなった。その後、大規模化の傾向は、特定の事務所にとどまらないものとなった。
合併等に係わる年表
四大に限らず、準大手事務所についても含めて記載した。
- 2000年 長島・大野・常松法律事務所 - 長島・大野法律事務所と常松簗瀬関根法律事務所の統合。
- 2001年 東京青山・青木法律事務所 - 東京青山法律事務所と青木総合法律事務所の統合。
- 2002年10月 あさひ・狛法律事務所 - あさひ法律事務所と小松・狛・西川法律事務所の統合。
- 2002年12月 森・濱田松本法律事務所 - 森綜合法律事務所と濱田松本法律事務所の統合。
- 2003年2月 シティユーワ法律事務所 - 東京シティ法律税務事務所(法律部門)とユーワパートナーズ法律事務所の統合
- 2004年1月 西村ときわ法律事務所 - 西村総合法律事務所とときわ総合法律事務所の統合。
- 2004年10月 西村ときわ法律事務所 - 三井安田法律事務所から前田博弁護士らのグループが西村ときわ法律事務所へ移籍。
- 2005年1月 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 - アンダーソン・毛利法律事務所と友常木村法律事務所の統合。
- 2005年7月 森・濱田松本法律事務所 - 森・濱田松本法律事務所とマックス法律事務所の統合。
- 2005年9月 シティユーワ法律事務所 - シティユーワ法律事務所と大場・尾崎・嶋末法律事務所の統合。
- 2007年4月 東京青山・青木・狛法律事務所、長島・大野・常松法律事務所 - あさひ・狛法律事務所の一部の弁護士が東京青山・青木法律事務所や長島・大野・常松法律事務所に移籍。
- 2007年7月 西村あさひ法律事務所 - 西村ときわ法律事務所とあさひ法律事務所国際部門の統合。
- 2008年7月 TMI総合法律事務所 - 東京永和法律事務所および東京永和特許事務所の弁護士および弁理士らがTMI総合法律事務所に移籍。
大規模化の背景
所属弁護士数が100名を超える法律事務所は、2001年(平成13年)の時点では3事務所であったものが、2009年(平成21年)には7事務所となり、そのうち最大のものは500名近くの弁護士を擁するようになった[5]。この背景には、1.8万人(2001年)→ 2.6万人(2008年)という44%もの弁護士数増加があるものの、なかでもビジネスロイヤーの急激な増加が指摘される[5]。
端的に言えばヒト・モノ・カネの流動のグローバル化により日本国内・特定分野などの専門性が顧客の需要に応えられなくなってきた事実を打開することが目的であることが大きい[要出典]。このような大規模化の理由としては、アメリカやイギリスの外資系法律事務所が日本に進出するようになったことによる影響が指摘されている[要出典]。実際、渉外法律事務所の中でも、外資系法律事務所の進出により最も影響を受けたといわれるファイナンス系への特化の傾向が強く、かつてはユーロ債発行業務を寡占していた常松簗瀬関根法律事務所、濱田松本法律事務所、友常木村法律事務所、三井安田法律事務所及び青木総合法律事務所[6]は、いずれも大規模な再編の当事者となり、外資系法律事務所ないし大手法律事務所に吸収された[7]。
大規模化の第二の要因としては、複数の分野にわたる複雑な案件が増加し、法律事務所のいわゆる「総合化」、ワンストップ・サービスの実現が求められることとなったことがあげられる[要出典]。これは、主に、企業法務(いわゆるコーポレート)を中心に大規模化を進めていた大手法律事務所が金融(ファイナンス)、倒産・事業再生あるいは知的財産に特化した他の中小規模の事務所を吸収することによってなされた。例えば、長島・大野・常松法律事務所は、長島・大野法律事務所が、金融に強い常松簗瀬関根法律事務所を統合したものである。また、森・濱田松本法律事務所は、森綜合法律事務所が、渉外金融案件に強い濱田松本法律事務所が合併したものである。また、西村ときわ法律事務所は西村総合法律事務所が倒産・事業再生に強いときわ総合法律事務所を統合したものであり、さらに金融に強い旧三井安田法律事務所の前田博弁護士らのグループを吸収した。いずれも取扱分野が増えてシナジー効果も生まれたと考えられる[要出典]。
また、大規模化が始まった当時より、M&A(特に法務デュー・ディリジェンス)など、大規模・複雑で多人数の弁護士を要する業務が急激に増大したこと、規制緩和(事前規制型から事後チェック型への移行)などを背景としてビジネス分野における弁護士の関与の度合いがより高まったことも大規模化の主要な原因として挙げられる[要出典]。
さらに、大規模化による顧客誘引力、優秀な新人弁護士の獲得能力の増大も、見逃せない要因である[要出典]。以前は法律事務所による広告が禁止されていたこともあり、日本では法律事務所に関する情報が外国に比べると極端に少ないこと、また、実質的な実務能力に関する評価は客観的に示しにくいことから、所属弁護士の数や当該法律事務所のブランドという外部から見て明らかに分かる情報に、顧客や新人弁護士などが左右される傾向が強く、法律事務所の評価に繋がっている側面が指摘できる[要出典]。
大規模化の現在及び将来
このような法律事務所の大規模化は、現時点ではおおむね成功していると考えられている[要出典]。特に、日本国内におけるコーポレート案件・ファイナンス案件については、21世紀に入ってから四大法律事務所による寡占化がかなり進んだと考えられている[要出典]。もっとも、当面、急激に増加してきたM&Aなどの取引案件が減少に転じた場合に、大規模化の傾向が維持されるのかは疑問の余地がある。実際、リーマンショックによる企業業績の悪化でM&A案件は急減し、証券化やファイナンスの分野も一気に冷え込み、当然ながら大手事務所でも大量採用世代の“間引き”が強化されつつある[8]。また、法律事務所の大規模化には問題があるとも指摘されている。なぜなら、大手事務所は特定の分野に特化しているため、自分が下に就いたパートナーの取扱い分野の業務の下請け仕事しか経験できない。一方、中堅以下の事務所の若手は、刑事の国選から倒産、会社法、離婚、相続など、幅広い業務を経験しながら、日本に存在するありとあらゆる法律の全体像を把握していく訓練を受ける[9]。また、大規模法律事務所は、効率性の観点から、大企業相手の法的業務ばかりを引き受け、その結果、そのような法的サービスを受けられない中小零細企業と大企業との間で法的サービスの格差が広がると懸念されている。ただ、アメリカやイギリスなどの諸外国の法律事務所が数千人規模の人員を有していることからすれば、大規模化そのものは、まだ程度としては端緒に過ぎない、という見方もできる。
所属弁護士
かかる大手事務所に所属を希望する新人弁護士などが増加している近時の傾向もあり、所属する弁護士は、司法試験に合格した者の中から、成績証明書、面接などを用いて選考される[10]。合格年次は若く、また、東京大学を始めとする著名な大学の出身者によって占められている。 パートナークラスでは、ランキング等で評価される弁護士は、四大法律事務所以外にもそれなりに数多く存在するものの、一般的には新人採用の局面においては四大法律事務所が相対的に有利な地位を占めているとも言われる[要出典](ただし、あえて大規模事務所を忌避する法科大学院生・司法修習生も少なくはない[要出典])。
四大法律事務所の弁護士は、勤務開始から7~10年程度はいわゆるアソシエイト弁護士(勤務弁護士)として、パートナー弁護士(共同経営者、もしくはそれに準ずる格を事務所内で有する弁護士)から指示された仕事を担当するのが通常であり、その後は海外留学などを経て、当該事務所のパートナー弁護士に昇格するのが一般の昇格ルートであった。そもそも現在の中核パートナーの多くは、事務所が大規模化する以前に各々の事務所に入所した者がほとんどであり、自ら独立するのでなければ事務所でパートナーに昇格するのが当然の前提であった。
他方、今日の大規模化した法律事務所のアソシエイトのキャリアパスについては未だ明らかでない。上記のように、事務所の大規模化とそれに伴う採用増の傾向が見られるようになったのは90年代末からだが、その後司法試験による合格者の大幅増に対応して、採用者数はさらに激増しつつある。これら若手アソシエイトのパートナー昇格率については、事務所の拡大と絡んで不透明な部分も多い。米国では1割~3割程度と言われているが、日本においても、10人以上の昇進候補のシニア・アソシエイトからある年においては一人しかパートナーに昇格しなかった事務所もあるなど、確実に競争の激化は始まっている。
海外研修など
所属弁護士は、勤務開始からおよそ3~6年後にアメリカのロー・スクール(あるいはイギリスの大学院)のLL.M.コースへの留学を行うことが多い。大規模法律事務所に所属する日本人弁護士が増え、ロースクールへの留学を志望する人数が総体として増えていることや、近年は同期にあたる弁護士が一事務所で20~30名と増加していることによる同一事務所内での競争の激化などから、以前よりは留学への門は狭くなっており、今後のさらなる弁護士数の増加と相俟って、特にハーバード大学、スタンフォード大学、コロンビア大学、ニューヨーク大学等の、一般的に人気があるとされるロー・スクールへの進学については競争が激化する可能性は高い[要出典]。また、これまでは、典型的な例として、1年間のロー・スクール留学後、現地ないしはその他海外のロー・ファームで1年間程度の研修をするのが一般的と言えたが、前記の志望人数の増加や、アメリカの法律事務所が多数日本にも進出していることなどから、ロー・ファーム研修の可能性も低くなりつつあり、日系企業の海外拠点(ニューヨーク支店やロンドン支店)への出向という形式での研修も増加しつつある。
海外留学に限らず、若手から中堅にいたる弁護士の専門的研修などの意味合いや、弁護士の資格を有する人材への需要が拡大していることから、内外の金融機関や商社などの民間企業への派遣や、法務省、金融庁、外務省、経済産業省、公正取引委員会、証券取引等監視委員会などの官庁、日本銀行などの公的機関などへの出向もある。また、ベトナム、カンボジア、ラオスなどに、法典の起草や法律家の人材育成という法整備支援の長期専門家として派遣されることもある[11][12](大手法律事務所のアジア展開と法整備支援とのシナジーを指摘する見解もある[13]。)。一方、日本大使館のリーガルアタッシェ(大使館に勤務する法律家)は、もっぱら法務省・検察庁及び裁判所からの出向者であり[14][15][16]、四大法律事務所からの出向者は欧米及びアジアのいずれにも見当たらない。
事務所の規模と力量の関係
大規模事務所といっても、所属弁護士人数にその事務所の実力・名声が規模に比例するわけではないことは当然である。たとえば、英国のマジック・サークル(後述)のうち、規模において上位4事務所(Big Four)は、所属弁護士数において2,000人から3,000人を超えるものもあるが、英国きっての名門事務所とされるスローター・アンド・メイの弁護士数は600人に満たず、英国の法律業界としては中規模程度である。それにもかかわらずスローター・アンド・メイはその圧倒的な収益性の高さから、英国の法律事務所の中でも特異な存在とみなされ、Big Fourと合わせてマジック・サークルに数えられている。これは、英米においては法律事務所の財務状態が公表されているため(有限責任であるLLP形態であるため債権者保護等のため財務状態の公表が必要となる)、所属弁護士一人当たりの収益性(PPL=Profit Per Lawyer)、パートナー一人当たりの収益性(PPP=Profit Per Partner)といった数値が外部から算定可能であり、これが法律事務所の評価を図る一つの重要な指標ともされる(PPL、PPPの高い事務所ほど、それだけの弁護士報酬をクライアントに請求できるブランド力があるともいえる)。同様に、米国においては例えばワクテル・リプトン(Wachtell Lipton Rosen & Katz)といった事務所が、所属弁護士数よりもむしろその収益性の高さによりトップファーム(そして望ましい就職先)であると目されている。
日本においてはこのようなPPL、PPPといった数値は公開されていない(ただし各事務所において内部使用目的で計算自体はされている)。そのため、規模は小さくとも収益性の高い小規模・中規模事務所という存在は外部からは見えにくい存在となり、結局は外部から見える唯一の数字である所属弁護士数の大小が、クライアントやリクルート等、外部からの評価に直結しやすいという側面があることも否定できず、これが前述のような大規模事務所による増員政策の一要素ともなっている[要出典]。実際には、企業法務における中村・角田・松本や日比谷パーク、知的財産における中村合同など、規模は小さくとも四大事務所と比肩する評価を得るブティック事務所も存在しているため、大規模事務所であることが必ずしも小中規模事務所より優れているというわけではない。
海外の弁護士評価機関による評価
上記のように外部から法律事務所のブランド力などを判断し難いという日本の法律業界の状況においては、国内法律事務所の力量を単なる所属弁護士数ではなく、担当案件やクライアントからの評価によって格付けする海外の弁護士格付機関による評価は一定程度参考になる。一例として、会社法務部員からもっとも頻繁に参照される弁護士ディレクトリーともいわれるチェインバーズ(Chambers and Partners)、リーガル・ファイブハンドレッド(Legal500)およびアイエフエルアール・ワンサウザンド(IFLR1000)などはランキング調査をおこなっている(例えば、International In-house Counsel誌が2万人を超える企業内法律家を対象に実施した独立調査において、51%がChambers & Partnersを、22%がLegal500を、14%がMartindale-Hubbell を法律事務所・弁護士の評価を調査するときに最も使用すると回答している。また、アイエフエルアール・ワンサウザンド(IFLR1000)は、金融の分野に特化した法律事務所を21年に渡り調査し、現在ではニューヨーク、ロンドン、香港に調査機関を構え100地域以上の法律事務所を対象に幅広くランキング調査を行っている。)。これらのランキングはクライアントへの聞き取りや、当該事務所の担当案件等をもとに、恒常的・定期的に更新されている。
これらのランキングにおける評価については、ブティック事務所も分野においては健闘しているものの、全体としては四大事務所が高く評価されている。もちろん、すべての分野においてこれらの事務所がトップと目されているわけではない。たとえばチェインバースの倒産法ランキングにおいては、西村あさひがトップファームとされるものの、他の四大事務所はトップファームではなく、森・濱田松本が準トップ(Band2)、長島、アンダーソンにいたってはランク外となっており、その反面、倒産法案件で著名なビンガムがこれらの事務所を抑えてトップファームとされているなど、倒産法案件における大手事務所の手薄さが反映されている(大手事務所はとりわけ金融機関のクライアントとの関係上、倒産案件がコンフリクトとなることに原因があると言われる[要出典]。西村あさひのトップへのランクインは倒産法においてトップファームであったときわ総合の合併が有効なシナジーを生んだ結果とも考えうる[要出典]。)。
同様に、チェインバーズの知的財産法分野については、中村合同特許法律事務所が日本では唯一のトップファームとしてランクされている(四大法律事務所は、準トップにアンダーソン、森、長島が入り、他に知的財産で著名なTMI、阿部・井窪・片山、ユアサハラがランク付けされ、西村あさひは準々トップとされる。)など、いまだに一定の法分野においてはいわゆる「ブティック事務所」が健在であることがこれらのランキングにおいても如実に反映されている。
また、IFLR1000及びリーガル500の資本市場/仕組金融・証券化分野については、渥美坂井が四大法律事務所の森、長島、西村と同様トップファームとしてランクされアンダーソンは準トップにランク付けされている。「金融法務に強い」と広く認知されているように、渥美坂井は、住宅ローンの証券化を日本で初めて手がけるなど、同分野のリーディングファームとして数多くの実績を持つ[17]。なお、これらのランキングは担当案件、クライアント層、クライアント企業へのヒアリング等をもとに作成されているが、ランク付け手法は様々であるため、下記ランキングが必ずしも正当に日本の国内事務所の実力を反映したものではないことは言うまでもない。いかなる点が評価されたかは、チェインバーズ、リーガル500およびIFLR1000のウェブサイトにて各分野ごとに事務所別の詳細なコメントが掲載されているため参照されたい。 (※下記表中の事務所名の配列はすべて出典に従いアルファベット順)
分野 | 国内トップとされる事務所 | その他 |
---|---|---|
銀行・金融法務 | アンダーソン/森/長島/西村 | 準トップに渥美坂井、リンクレーターズなど4事務所、準々トップに2事務所 |
資本市場 | アンダーソン/森/長島 | 準トップに西村、伊東三冨など3事務所、準々トップにホワイト・アンド・ケースなど2事務所 |
証券化・仕組金融 | アンダーソン/森/長島/西村 | 準トップに渥美坂井(単独)、準々トップにシティユーワなど2社 |
競争法務 | アンダーソン/日比谷総合/長島 | 準トップ西村、森、大江橋など5社、準々トップにベーカー、ジョーンズデイなど4社 |
企業法務・M&A | 森/長島/西村 | 準トップにアンダーソン(単独)、準々トップにTMI、スキャデンなど5社 |
紛争解決 | アンダーソン/森/長島/西村 | 準トップに日比谷パークなど2社、準々トップにTMIなど4社 |
労働法務 | アンダーソン/フレッシュフィールズ | 準トップに森、長島、西村、第一芙蓉など5社、準々トップにベーカーなど3社 |
知的財産 | 中村合同 | 準トップに、阿部・井窪・片山、アンダーソン、森、長島、TMI、ユアサハラの6社。準々トップに西村など7社 |
国際通商 | ベーカー/西村/ホワイト・アンド・ケース | 準トップ以下は存在せず、アンダーソン、森、長島はランク外 |
投資ファンド | アンダーソン/森/西村 | 準トップに長島、ベーカーなど3社 |
不動産 | アンダーソン/森/長島/西村 | 準トップに渥美坂井、牛島、スキャデンの3社。準々トップにTMI、オリックなど3社 |
事業再生・倒産 | ビンガム・マカッチェン・ムラセ/西村 | 準トップに森、阿部井窪片山。準々トップに2社。アンダーソン、長島はランク外 |
税務 | ベーカー/長島 | 準トップに足立ヘンダーソン、アンダーソン、森。西村はランク外 |
事務所 | 国内トップランクとされる部門数 |
---|---|
西村あさひ | 8部門 |
長島・大野・常松 | 8部門 |
森・濱田松本 | 7部門 |
アンダーソン・毛利・友常 | 8部門 |
ベーカー・アンド・マッケンジー | 2部門 |
日比谷総合、フレッシュフィールズ、中村合同、ホワイトアンドケース、ビンガム、キャスト、大江橋 | 1部門 |
このように、14部門中、四大事務所のいずれも、それぞれ7ないし8部門において国内トップ事務所であると評価され、二番手であるベーカー・アンド・マッケンジーの2部門を大きく引き離し、全体として大きな存在感が表れている(ただし国際部門においてはベーカーの存在感は非常に大きいものがある)。また、これらの事務所は、トップとされていない分野においても少なくともBand3以内にはランクインしていることがほとんどである。
また、2011年11月現在におけるLegal500におけるランキングは以下の通り。ただし、Legal500においては、べーカー、リンクレーターズといった有力な外国法共同事務所は別ランキングに集計されている点、留意が必要である。海事法分野においては四大事務所はいずれもランク外とされている。具体的な評価コメントについてはLegal500ウェブサイト参照のこと。
分野 | 国内トップとされる事務所 | その他 |
---|---|---|
銀行・金融法務 | アンダーソン/森/長島/西村 | Rank2に渥美坂井(単独)。Rank3にシティユーワ、TMIの2社 |
資本市場 | アンダーソン/森/長島/西村 | Rank2に渥美坂井(単独)。Rank3にTMI(単独) |
企業法務・M&A | アンダーソン/森/長島/西村 | Rank2に渥美坂井、TMI。Rank3にシティユーワなど4社 |
紛争解決 | 森/長島/西村 | Rank2にアンダーソン(単独)。Rank3に渥美坂井など9社 |
知的財産 | 中村合同/TMI | Rank2に阿部・井窪、森、長島、ユアサハラ。Ranks3にアンダーソン、西村など3社 |
プロジェクト・エナジー | アンダーソン/長島/西村 | Rank2に渥美坂井、森、TMIの3社 |
不動産・建設 | アンダーソン/森/長島/西村 | Rank2に渥美坂井(単独)。Rank3に隼あすかなど3社 |
海事法務 | 平塚/戸田/東京山王/吉田 | Rank2に岡部・山口(単独)。四大事務所はいずれもランク外 |
仕組金融・証券化 | 渥美坂井/森/長島/西村 | Rank2にアンダーソン、シティユーワ、TMIの3社 |
税務 | アンダーソン/長島 | Rank2に森、西村の2社。Rank3に足立ヘンダーソン、TMIの2社 |
評価の対象となる11部門中、西村あさひが7部門、長島・大野・常松が8部門、森・濱田松本およびアンダーソン・毛利・友常がそれぞれ6部門においてトップ事務所とされるなど、四大事務所が他の国内事務所を圧する存在感を有している(これに続くのはTMI、中村合同、渥美坂井など1部門)。
また、2011年10月現在におけるIFLR1000におけるランキングは以下の通り。
分野 | 国内トップとされる事務所 | その他 |
---|---|---|
銀行・金融法務 | アンダーソン/森/長島/西村 | TIER2に渥美坂井、ベーカーマッキンゼー、リンクレーターズ。TIER3にシティユーワ、TMI |
資本市場/資金調達 | アンダーソン/森/モリソン/長島/西村 | TIER2にベーカーマッキンゼー、リンクレーターズ |
資本市場/仕組金融・証券化 | 渥美坂井/森/長島/西村 | TIER2にアンダーソン、リンクレーターズ。TIER3にベーカーマッキンゼー、シティユーワ |
M&A | 森/長島/西村 | TIER2にアンダーソン、ベーカーマッキンゼー、リンクレーターズなど7社。TIER3にアレン、渥美坂井、シティユーワなど10社 |
プロジェクトファイナンス | アレン/ハーバート/ミルバンク | TIER2にアンダーソン、ベーカー、長島、西村など8社。TIER3に渥美坂井、ノートンローズなど7社 |
評価の対象となる5部門中、森・濱田松本、長島・大野・常松および西村あさひが4部門、アンダーソン・毛利・友常が2部門においてトップ事務所とされるなど、四大事務所が他の国内事務所を圧する存在感を有している。一方、資本市場/仕組金融・証券化部門においては、四大事務所以外に渥美坂井がトップ事務所として評価されている。
再言となるが、以上はあくまでも国際的な企業法務において頻繁に参照される格付ランキングを用いて、『所属弁護士数』という数値以外のデータにより、四大事務所がいかなるプレゼンスを有する存在であるかを例証するにすぎず、国内法律事務所の能力を正当に評価したものであるとは限らない。
諸外国の類例
- イギリス
ロンドンを拠点とし、多くの事務弁護士(ソリシター)を中心とする法律家(リーガル・アドバイザーと総称されることもある各国の法律家)擁してグローバルに活動を行っている以下の4つの最大手弁護士事務所はBig Four(四大)と呼称される。
- アレン・アンド・オーヴェリー
- クリフォード・チャンス (en:Clifford Chance)
- フレッシュフィールズ・ブルックハウス・デリンガー (en:Freshfields Bruckhaus Deringer)
- リンクレーターズ
なお、これに規模は小さく英国内案件に偏重しているが名声においてはBig Fourを凌駕するともいわれる名門事務所、スローター・アンド・メイを加えた5事務所を『マジックサークル』 en:Magic Circle (law) と呼称することが定着している[18]。また、これに続くハーバート・スミス、シモンズ・アンド・シモンズ、アシャースト、クライド・アンド・コー等を「ゴールデン・サークル」、「シルバー・サークル」と呼ぶこともある。
- フランス
フランスの四大法律事務所は、FIDAL、Landwell & Associés、Ernst & Young Société d'Avocats及びTajである。
- デンマーク
デンマークの四大法律事務所は、 Bech-Bruun、Kromann Reumert、Plesner及びGorrissen Federspiel Kierkegaardである。
脚注
- ^ 熊谷真喜氏の発言、[1]
- ^ a b c 木南直樹「欧米法律事務所のグローバル化と日本の弁護士」『自由と正義』(日本弁護士連合会)Vol.60、平成21年10月1日発行
- ^ 日本経済新聞2010年10月18日朝刊「大手法律事務所、アジア展開急ぐ 業務提携や拠点開設 M&A助言など獲得狙う」
- ^ 吉川精一「英国における弁護士の二極化と弁護士自治の弱体化」『自由と正義』(日本弁護士連合会)Vol.60、平成21年10月1日発行
- ^ a b 牛島信「経済不況と国際法律事務所への影響」『自由と正義』(日本弁護士連合会)Vol.60、平成21年10月1日発行
- ^ 松本啓二「クロスボーダー証券の法律実務における日本の法律事務所の経験 - ユーロ・サムライ債、為替管理、準拠法等の視点から」7頁
- ^ ここでいう「外資系法律事務所」とは、外国弁護士のみにより構成される事務所のことではない。
- ^ ZAITEN2011年11月号「「上場企業非公開化」で稼ぐ 大手法律事務所“金脈”の軌跡」
- ^ ZAITEN2011年11月号「「上場企業非公開化」で稼ぐ 大手法律事務所“金脈”の軌跡」
- ^ legal500.com
- ^ http://www.jurists.co.jp/ja/topics/others_3930.html
- ^ http://www.mhmjapan.com/ja/news/3028/detail.html
- ^ 栗田哲郎「ビジネスロイヤーから見たアジア法と法整備支援
- ^ 絹川健一「館員エッセイ リーガルアタッシェとは
- ^ 熊田彰英「検事出身のアタッシェとして」
- ^ 我が国の裁判官制度の現状と問題点
- ^ ロイヤーズマガジン2009年7月号「Style of Work ~事務所探訪」
- ^ As more New York firms begin practicing English law, some corporate clients are looking outside the City's magic circle 『Financial Times』 20-Aug-2001
外部リンク
日本の50大法律事務所 2011 藤本大学