博士

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博士(はくし)は、学位の最高位(博士の学位参照)。ドクターのこと。俗に「はかせ」ということもあるが、「はくし」というのが正式である。[要出典]

博士課程に在籍して学位審査に合格、修了した者に授与される課程博士と、在学しないまま学位審査に合格した者に授与される論文博士がある。また、学位ではないが、名誉称号としての名誉博士なども存在する。外交儀礼上、各国政府要人等が博士号取得者である場合、官名の後に博士閣下と敬称する事例が見受けられる。ドクター取得者は、欧米向けにはPh.D.(ピーエイチディー)と呼称されることも多い。

日本の学位等の分類
分類 大区分 小区分 授与される標準的な課程
学位 博士 規定なし 大学院の博士課程
(前期2年の博士課程を除く)
修士 規定なし 大学院の修士課程
(前期2年の博士課程を含む)
専門職学位 法務博士(専門職)[1] 法科大学院
教職修士(専門職)[1] 教職大学院
修士(専門職)[1] 専門職大学院
(法科・教職大学院を除く)
学士 規定なし 大学
短期大学士 規定なし 短期大学
分類 大区分 小区分 授与される標準的な課程
称号 準学士 規定なし 高等専門学校
高度専門士 規定なし 特定の専修学校の専門課程
(主に4年制以上)
専門士 規定なし 特定の専修学校の専門課程
(主に2~3年制)

概要

博士 (Doctor) の学位は、国によって多少の差異はあるものの基本的に最上位の学位として位置づけられている。通常は、大学など高等教育機関や学位授与機関における修士及びそれと同等の学力があると認められた者が、大学院博士課程あるいは博士後期課程を修了することで取得できる(コースドクターと称する)。また、論文審査により高度な研究能力があると認定された者にも授与されることがある(論文博士と称する)。どちらの場合にも、独自性のある研究論文や著書を提出し、博士論文審査に合格することが要件となっている。

博士の肩書き

英語ドイツ語などでは、博士への敬称は、Dr.(ドクター)となる(フランス語では点をつけずDrとすることが多い)。ただし、MDを持つ医師も、イギリスの外科系(あくまでミスター)を除いて、Dr.(ドクター)と呼ばれる。医師がPh.D.を取るには、並修課程を修得する必要がある。

日本では過去においては医学博士号の所持者は肩書きにM.D.(歯学博士号の場合はD.M.D.,D.D.S.)と記していた。しかし、現在の日本では博士学位の有無に拘らず、医師免許、歯科医師免許、獣医師免許を持つ者をドクターと呼称するのが通例である。また現在では医師免許を持つ人物をM.D.、歯科医師免許ではD.D.S.(D.M.D)、獣医師免許ではD.V.M.と記し、大学院課程にて医学博士号、歯学博士号、獣医学博士号(臨床博士号を含め)を取得した人物には、Ph.D.を併記する(例、M.D., Ph.D. といったように間にカンマを打つのが慣例である)。

1991年7月以前に授与された博士号では「博士」の前に専攻分野の名称を冠していたが(例えば文学博士、医学博士、理学博士)、1991年7月以降に授与された博士号では「博士(文学)、博士(医学)」のように「博士」に続けて括弧内に専攻分野を併記するようになった。また博士(学術)も用いられるようになったが、これはPh.D.の意味合いが強い[2]。また学位の表記は、正式には取得大学名を併記する(例: 『博士(工学)(東京大学)』、『京都大学博士(文学)』、『博士(法学)名古屋大学』)。

博士号の日本語訳

古くはPh.D.所持者の肩書きを「哲学博士」と訳すこともあったが、日本では意味不明なので、現在では単に「博士」とするのが通常である。

各種用語

博士課程 博士の学位の授与を受けるために在学する大学院課程のこと。
博士論文 「博士の学位」の授与審査を受けたときに提出した学位論文のこと。
博士号 「博士の学位」のこと。

博士号取得者のキャリア

最近[いつ?]は各国で、高等教育への関心が高まりつつある。そのため、社会人大学院や夜間大学院、通信制大学院といった形態で、働きながら研究して博士の学位を取得する人が増えている。またそうした社会経験の豊富な人口が大学の教員になることで、学問と社会の接点を拡大しているという面もある。

理系の博士は、企業からも一定の研究能力を持つ者として認知されることが多く、一部の産業では何人の博士を雇用しているかが信用の指標とされる場合がある。実際、日立グループと日立造船グループの関係者(在籍者とOB)の博士号取得者から成る「返仁会(へんじんかい)」が存在している。しかし、基礎研究を重視しがちな大学・研究機関においては、コミュニケーションスキルや従順さを重視する企業の求める人材との溝が指摘されることがあり、職域・活動に応じた知識や技能の向上は他の社会人と同様に重要である。

国際的な知識社会化、生涯教育の拡大、高度専門職の増加などが進行する中、社会において博士号取得者をいかに活かすことができるかが、多くの国々で問われている。しかしながら日本では、博士号取得者の新規雇用に積極的な企業や大学はそれほど多くはないのが実状である。企業の立場では、人事体系に技術専門職種及び一部の経営幹部を除き博士号取得者を処遇する体制が整っていないこと、大学側では博士号取得者は研究者(学者)であり外部への就職は自力で行うものという思考があるためといえる。

なお、博士号取得者は国会議員政策担当秘書の資格を無試験で取得できる他、労働基準法第14条にて高度な専門知識を有する者としても位置付けられている。

日本以外の各国の博士

博士号の学位制度は、国によって異なる。

アメリカの博士号

アメリカでは、学術による(専門博士でない)博士は、伝統的にDoctor of Philosophyの学位を授与される。このPhilosophyは一学問分野としての哲学ではなく、広く学術一般を意味し、Ph.D.と略される。また、大学によっては、Doctor of ScienceをPh.D.の替わりに選択することができたり、Doctor of Philosophyとは名称の異なる学位を授与することもある。

一般的に、Ph.D.の学位には専攻分野が添えられ、学位保持者の研究分野を明確にすることが多い。例えば、政治学の研究において授与された博士号であれば、Doctor of Philosophy in Political Scienceとなり得るし、環境科学の博士号であれば、Doctor of Philosophy in Environmental Scienceとされるであろう。

また、Ph.D.の学位ではなく、専攻ごとに細分された学位を授与する場合もある。例えば、工学における博士号で、Doctor of Engineeringという学位が授与されることもある。ここで、工学は、元来Liberal Artsに含まれておらず、基礎的な研究を重視する学術を追求する分野として考えられていない場合があることに注意しておきたい。さらに、Ph.D.の代わりに、Doctor of Scienceという学位を理科系の専攻に用いる大学もある。

このように、学術系の博士号の名称は、本邦に比べ複雑であり、学位の正式名称は大学によって異なり、一概に学位の名称を特定することはできないし、日本の博士号と一対一で比較することはできない。

また、純粋な基礎研究以外に、研究結果を実際に応用することを強調したプログラムでは、専門職学位を授与する場合が多い。その場合には、Ph.D.の学位を授与することは少なく、下記のような学位を授与することが多い。

  • Doctor of Theology(略称: ThD)(日本の博士 (神学) に相当)
  • Doctor of Psychology(略称: PsyD)(日本の博士 (心理学) に相当)
  • Doctor of Education(略称: EdD)(日本の博士 (教育学) に相当)
  • Doctor of Musical Arts(略称: D.M.A.)(日本の博士 (音楽) に相当)
  • Legum Doctor(略称: LL.D.)(日本の法学博士に相当)
  • Doctor of Social Science(略称: D.S.Sc.)(すでに社会科学系の博士号を持つものが2つ目に取得する社会科学系博士号)

これらの学位においても、名称の違いは大きい。

また、一部の専門職学位は、専門資格の取得の条件になっているが、日本のケースと異なることがある。例えば、PsyDは、アメリカでは5年間のフルタイム就学が必須であるが、日本では似たような学位や終了証が博士号に満たない能力で取得できる。例えば、臨床心理士は、修士号取得者が取得できるが、アメリカを含めた欧米では、これらの高度専門職技術者は往々に博士号が必須であり、心理学も例外ではない。一部の州では、博士号保持者以外が心理学者、または臨床心理士と自称することは違法ととらえられる可能性がある。

イギリスの博士号

イギリスの博士号は、PhD又はDPhilと略記される(DPhilはオックスフォード大学サセックス大学)。名誉博士号については、Doctor of Engineering等のようにofを用いて表記される。標準的な修学期間は多くの場合、修士号取得後3年間である。

ドイツの博士号

少なくとも、以下の学位が存在する。

  • Doctor der Agrarwissenschaften(略称: Dr. agr. (agriculturae) )(日本の博士 (農学) に相当)
  • Doctor der Ingenieurwissenschaften(略称: Dr.-Ing. (Doctor-Ingenieur) )(日本の博士 (工学) に相当)
  • Doctor der Rechtswissenschaften(略称: Dr. iur. (iuris) )(日本の博士 (法学) に相当)
  • Doctor der Mathematik(略称: Dr. math. (mathematicae) )(日本の博士 (数学) に相当)
  • Doctor der Medizin(略称: Dr. med. (medicinae) )(日本の博士 (医学) に相当)
  • Doctor der Zahnmedizin(略称: Dr. med. dent. (medicinae dentariae) )(日本の博士 (歯学) に相当)
  • Doctor der Philosophie(略称: Dr. phil. (philosophiae) )(日本の博士 (哲学) に相当)
  • Doctor der Gartenbauwissenschaften(略称: Dr. rer. hort. (rerum horticulturarum) ) (日本の博士 (林学) に相当)
  • Doctor der Naturwissenschaften(略称: Dr. rer. nat. (rerum naturalium) )(日本の博士 (理学) に相当)
  • Doctor der Staatswissenschaften(略称: Dr. rer. pol. (rerum politicarum) )(日本の 博士 (政治学) に相当)
  • Doctor der Verwaltungswissenschaften(略称: Dr. rer. publ. (rerum publicarum) )(日本の博士 (政治学) に相当)
  • Doctor der Musikwissenschaften(略称: Dr. sc. mus. (scientiae musicae) )(日本の博士 (音楽学) に相当)
  • Doctor der Wirtschaftswissenschaften(略称:Dr. sc. oec. (scientiarum oeconomicarum) )(日本の博士 (経済学) に相当)
  • Doctor der Sozialwissenschaften(略称: Dr. sc. soc. (scientiae socialis) )(日本の博士 (社会科学) に相当)
  • Doctor der Theologie(略称:Dr. theol. (theologiae) )(日本の博士 (神学) に相当)

フランスの博士号

フランスの博士号(: doctorat)は、国家による学位である(教育機関による学位ではない)。それを保証する国家免状 (diplôme national) は、大学、その他の認められた高等教育機関によって国家の名のもと発行される。博士号の取得に関する詳細は法令により定められている。取得のための修学期間は、標準で修士: master)取得後3年間である。その間に得られた研究成果をまとめた博士論文(: thèse de doctorat)を提出し、審査に合格することにより取得できる。

博士論文の審査は、報告者(: rapporteur)による論文の審査と、その後の審査会(: soutenance)からなる。報告者は、2名以上の博士論文指導資格(: habilitation à diriger des recherches)を持つ学外の当該専門領域の研究者であることが義務付けられている。そして、この報告者がそれぞれ別々に報告書を書き審査会に進めるかどうか決定する。1名でも反対があれば、審査会は開けない。また、審査会は、原則的に一般公開であり、3名から8名の審査員(: jury)もまた半数以上が学外の研究者でなければならない。この審査会を取り仕切るのは、プレジダンと呼ばれる博士論文指導資格を持つ大学教授もしくはそれに相当する研究者である。審査過程において、博士論文の指導教官は一人の審査員でしかなく、博士号授与の決定権は小さい。また、学外の研究者を多く取り入れることにより博士号の質を保つとともに、研究成果をその分野の著名な研究者に周知できる工夫がなされている。

ここで述べた博士号は学術的な研究に対するものだが、医学、歯学、薬学、獣医学における専門職の技能習得に対して授与される医師国家免状 (diplôme d'État de docteur) にも「博士 (docteur) 」の語が用いられる。

日本の博士号

日本においては、1887年(明治20年)5月21日、学位令(明治20年勅令第13号)が公布せられ、同令第1条により、博士と大博士の二等の学位が定められ、第2条により法学博士、医学博士、工学博士、文学博士、理学博士の五種が定められた。さらに、第3条により、博士学位は大学院の定規試験を通過した者に、帝国大学評議会の許しを得て、授与された。後、1914年、勅令第200号として改正学位令が公布され、同令第1条により、学位は博士に統一され(結局、「大博士」は授与された者がいないまま廃止となった)、学位の種類は文部大臣の定めるところとなった。同令では、学位授与の規定がより具体的に規定されるとともに、第10条により、学位の栄誉を汚辱した者にはこれを剥奪する、懲罰規定が盛り込まれるなどより詳細な規定が整備された。戦前においては原則として博士号授与機関は原則として帝国大学に限られ、その希少性から「末は博士か大臣」と詠われほど市井において高く評価され、学位の保持者に対しては敬意が表されていた。

今日の学位制度における博士の学位は1947年学校教育法の制定により整備されたものである。1953年、学位規則が制定され、新たな学位として修士の学位が加わり、学位は博士と修士の二等となった。1991年改正学校教育法により、学位は博士、修士に加え学士の三等とされ、それまで専攻分野を冠した学位名称だったものを、すべて博士、修士、学士に統一し、その代わりとして、博士(医学)というように学位の後に専攻名を括弧付きで併記することとされた。同年には、今日の独立行政法人大学評価・学位授与機構の前身となる学位授与機構が発足し、省庁大学校で大学院博士課程の修了に相当する教育課程をへた者に対する博士の学位は、当該大学校及び学位授与機構の審査を経た者に授与されることとなった。2000年、学位授与機構は、大学評価・学位授与機構に改組され、それまでの学位事業は同機構に承継された。更に2005年改正学校教育法により、上記三等の学位に加え短期大学士を加えた四等となり、これによって今日の学位制度が整えられた。この1991年の学位制度の改革の結果、博士については従来と比較して粗製濫造化が進んだとの批判も聞かれる。

現在、博士の学位については、学校教育法第67条、第68条の2において大学院を修了した者に博士または修士の学位が授与されることとされ、第68条2の2に前項の規定により博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認める者に対し、博士の学位を授与することができるとされている。さらに、学位規則第4条において、大学院博士課程を修了した者に博士の学位を授与することが規定されており、同条の2では大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者に対し博士の学位の授与を行うことができると規定されている。また、学校教育法第68条の2第4項第2号及び学位規則第6条の2において大学院(博士課程)に相当する教育を修了し、大学評価・学位授与機構の審査を合格した者に博士の学位を授与することとされている。

先述の博士と位置付けの異なるものに、法務博士がある。法曹養成制度の改革により、2003年以降、専門職大学院の一種である法科大学院において、法務博士の学位が新設された。司法試験の受験資格をこの学位取得者に限り、司法修習を大幅に簡素化したものである。従って、法学博士とは直接には関係しない。

諸外国においてもこれら専門職博士号は研究博士号とは区別された専門職学位として区別されている。

なお、日本では、博士論文は国立国会図書館への寄贈が求められ(納本の対象ではなく義務ではない)、取得後一定期間内に公刊することが義務づけられている。国立国会図書館と国立情報学研究所が作成している「博士論文書誌データベース」で国内の大学で授与されている博士論文の検索ができる。

日本における博士号の種類

1887年-1898年

1887年(明治20年)制定の学位令により、博士の種類は次の5種類とされた。

その後の改正で、徐々に博士の種類は追加されていった。

1898年以降

1898年(明治31年)12月9日の学位令改正により、4種類が追加され、合計9種類とされた。

1991年改正以前

1956年(昭和31年)に学位規則で17種類の博士の種類が定められたが、その後、1964年(昭和44年)に保健学博士、1975年(昭和50年)に学術博士が新設された。そして、前述の通り、1991年(平成3年)6月の学位規則改正により博士の種類が廃止されたが、その際に列挙されていた博士の種類は以下の19種類である。


1991年改正以降

1991年以降は、括弧つきで博士(医学)のように示される専攻分野名称には規定がなく、大学により定められるとされているため、現在では様々な名称が用いられている。1991年以前からある学位の表記が変更されたもの(医学博士→博士(医学)、文学博士→博士(文学)、工学博士→博士(工学)など)以外にも、以下のように、様々な専攻分野の博士学位が授与されている。学位の表記は取得大学名を併記しなければならない(例:『博士(工学)(東京大学)』、『京都大学博士(文学)』、『博士(法学)名古屋大学』)

理工系


人文社会学系


医歯薬学・保健体育・農学系


教育・家政・芸術・学術系


日本における博士号の取得

博士号の取得を志した場合、博士論文提出までに学会での発表を行い、博士課程在籍中に2編から3編の査読付き投稿論文を執筆するといった業績が博士の学位審査を受ける要件となっている場合もある。こうした要件は、大学研究科専攻教室研究室などによって異なる。

博士課程で学位を取得した場合は「修了」として認定されるが、就職などのために学位を取得する前に中途退学するケースも多い。所定の在学期間(3年間)以上在学し、修了に必要な単位を全て取得してはいるものの、学位論文だけが完成しないまま就職することも多く、こうした場合「満期退学」又は「単位取得退学」と称する[5]。在学年数を越えて大学院に留まる場合は研究生として在籍するケースもある。また、2005年の文部科学省中央教育審議会において文部科学大臣への答申の中で博士課程に社会人コースを設置し、社会経験にて実績のある人物の場合は1年間の在籍期間中に学位取得を志すことができるようにすべきだとされた。つまり、大学院の博士課程に社会人コースが設置された場合、1年間の修学期間で博士号を取得することが可能となる。

課程修了による博士号を課程博士、論文提出のみによる博士号を論文博士と呼び分ける。大学が博士号を授与した場合、授与大学ごとに通し番号が付けられて文部科学省に報告されるが、課程博士には甲1234XX号のように「甲」が、論文博士には乙1234XX号のように「乙」が付けられる。ただし、一部の大学においては学位記上ではこれらの区別がなされず、両者の通し番号が記載されていることもある。また、大学によっては、所定の期間在学し所定の単位を取得して退学した後、一定期間のうちに論文を提出することにより課程博士を与える制度を設けていることもあるが、同様の場合に論文博士として学力の確認(試験)の扱いを変える(一部免除する)大学もある。

なお、中央教育審議会は2005年6月13日の総会で大学院改革に関する中間報告「新時代の大学院教育 - 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて - 」をまとめ、文部科学大臣に報告、その中で、「論文博士」について、「諸外国の制度と比べ日本独特の論文博士は、将来的には廃止する方向で検討すべきではないかという意見も出されている」と述べる一方、反対意見も紹介した上で、「論文博士については、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していくことが適当である」としている(資料第1章第2節3 課程制大学院の制度的定着の促進を参照)。文部科学省の「中央教育審議会 大学分科会 大学院部会」の資料における「課程制大学院」の<学位授与の現状とその改善の方向>という項では「課程の修了に必要な単位は取得したが、標準修業年限内に博士論文を提出せずに退学したことを、いわゆる「満期退学」又は「単位取得後退学」などと呼称し、制度的な裏づけがあるかのような評価をしている例があるが、これは、課程制大学院制度の本来の趣旨にかんがみると適切ではない」と記されている。

日本における博士学位の意義と問題点

博士の学位は、明治・大正期において「末は博士か大臣(大将)か」と言われた程、信頼の高い称号であった。現在でも博士の学位は、日本の学術研究の指導的立場に立つ人材の育成、国際機関などに人材供給をしていく上で大きな意義を持つ。

かつての日本では理系の研究領域において博士号の授与例が多い一方、文系においては授与例が少ない傾向にあった。

しかし近年では、博士号は研究者の最終目標ではなく始発点との考えが広まりつつあり、とくに2001年学位規則改正後は、博士課程が拡充されるとともに若いうちに博士号を取得する方向に大学院指導も変化してきている。また博士号の取得が困難であると外国人留学生が日本の大学を敬遠することもあるため、文部科学省も各大学に対し博士号の授与を奨励している。

他方、このような政策は博士号の取得者を増加させ、博士の価値の低下[6]を招き、博士号を有しながらも定職に就けないオーバードクター問題を発生させている。その問題は文系においてとくに顕著である。また、博士号を有しながらも定職につけないのは、需要と供給、そして現在の日本の大学をとりまく現状とのミスマッチから起こっているのも大きい。このような状況の下、文部科学省は2009年6月5日、第2期の中期目標素案作りが進む各国立大学に、大学院博士課程の定員削減を要請した[7]

ディプロマミル等による学位偽造

博士学位の問題に偽造学位の問題がある。主に海外にて、学位を審査・授与するに足らないディプロマミルディグリーミルという機関が大学を称して、形式的な審査と料金を支払うことで、正式な博士の学位であるかのように学位を授与する(学位記を交付する)組織が存在する。アメリカでは、ディプロマミルを用いた経歴詐称が深刻であり、日本においても2004 - 2006年度で全国4大学に4人、「ニセ学位」によって採用・昇進した教員がいたことを2007年末に文部科学省が発表した[8]。このような問題を回避するためにも、学位の表記は本来は、取得大学名を併記しなければならない(例:京都大学博士(文学))が、実際に取得大学名が併記されることは未だ少ない。しかし、文部科学省より『「真正な学位と紛らわしい呼称等についての大学における状況に係る実態調査」の結果について』の発表があり、この中の「真正な学位と紛らわしい呼称等」で「近年、正規の大学等として認められていないにも関わらず、学位授与を標榜し、真正な学位と紛らわしい呼称を供与する者の存在についての指摘が我が国においてもなされるようになっています。このような呼称を取得した者が、その呼称を有していることを以って我が国の大学において採用されること及び昇進すること、あるいは その呼称の所持が大学における広報媒体において表示されること等があれば、学習者の誤認や我が国の高等教育に対する信頼低下等 につながりかねません」との文言を踏まえ、良識ある大学ではホームページの教員紹介欄に於いて博士と明記しながらも取得大学名を記していない教員については取得大学名を記さない事による偽造疑惑の懸念を持たれること、また大学自体の信用失墜を防ぐため呼称の取得機関の明示を図るよう指導しているところが多い。

アメリカの影響の強い国々では称号として氏名に博士を付けて呼ぶ(英語圏の場合、博士号所持者はMr.○○ではなくDr.○○と呼ばれる)ことが通例であるが、日本社会においてはそうした慣例は殆どなかった[9]。しかしながら近年のNHKおよび民放の番組においては諸外国の例に倣い日本人であっても博士号所持の研究者に対し「○○博士」と呼称する傾向が見られる(民間の研究者は除かれる)。なお、日本では、欧米に比べて、一般社会における博士号取得、とりわけ人文社会系の博士号の利点はきわめて少ない。

脚注

  1. ^ a b c 学位規則(昭和28年文部省令第9号) 第5条の2
  2. ^ 「我が国の文教施策」(平成3年度)(文部科学省)
  3. ^ 1974年(昭和49年)の学位規則改正により、1975年(昭和50年)に新設された。
  4. ^ 1964年(昭和44年)に新設された。
  5. ^ 過去においては慣習として経歴として満期退学で博士課程修了と記すことがまま見られたが、これは厳密には経歴の詐称になる。しかし現在の日本では、たとえば文科省や各大学の博士課程修了者の進路調査データには、単位取得満期退学も修了に含めてカウントしていることが通常であるし、また、一般社会では博士課程の学位取得者と未取得者との現状や違いが正しく理解されていない。こうした事情から、アカデミア以外の一般社会向けには、所定の単位取得満期退学の場合でも、課程修了と称しても必ずしも詐称には当たらない。日本のアカデミア向け履歴書には「博士課程(博士後期課程)中途退学」「博士課程(博士後期課程)単位取得退学」「博士課程(博士後期課程)満期退学」等と記すのが一般的である。なお、アメリカ型の学位システムを採用する国や地域では一般に満期退学はドロップアウトと見なされキャリアとは評価されない。このため、留学生は博士号を取得できない日本の文系の大学院を敬遠するようになっていった。これに対し、各大学は博士号を正規年限内に出すようになってきているが、今度は逆に学位のインフレーションが起こり、学位そのものの権威が下がる傾向がある。
  6. ^ 「博士の学位授与の取消しについて」東京大学 平成22年3月5日
  7. ^ 『朝日新聞』2009年6月6日、東京版朝刊、37頁
  8. ^ 朝日新聞、2008年1月6日朝刊、東京版、34面。
  9. ^ 博士号取得者が帝国大学卒業生に限られていて、その威信が非常に高かった明治大正時代には「博士号」は氏名に付記され敬称として一般に通用したが、昭和以降は学究の権威主義への批判の傾向と共に用いられることはあまりなくなった。

関連項目

外部リンク