不発弾

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不発で発見されたイラク軍の砲弾

不発弾(ふはつだん)とは、炸薬系列に何等かの異常があって爆発せずにある砲弾ロケット弾誘導弾等の弾薬類の総称である。一般には航空機から投下された爆弾が爆発せずに残っている物をこのように呼ぶ。

  • 発射薬系列の異常で発射されなかった弾薬類は、一般では同じく不発弾とも呼ぶが、専門的には不発射弾として区別される。本項では主に、不爆の弾薬類・爆弾について述べる。
  • 転じて、何等かの効果が期待されて行われた動作・興行などが、期待された効果を生まなかった場合に、このように形容される。単に不発とも呼ばれる。

概要

不発弾は火工品であるこれらの物品が正常に機能しなかったという点で、広義の不良品である。ただ、これらが人や施設・設備を破壊する等して損害を与えるために使用される以上、その構造は破壊を目的としたものが満たされており、これが後々になって動作した場合には、本来の目標とは異なる対象を破壊してしまうこともあるため、問題とされる。

不発弾の原因のほとんどは信管の動作不良によるものだが、外見から原因を断定するのは困難かつ危険である。原因の一例を挙げれば以下のようなものがある。

  • 適切な衝撃が与えられなかったために撃針が作動しなかったもの
  • 起爆薬・伝爆薬・炸薬いずれかの劣化による炸薬系列の断裂によるもの
  • 安全機構の解除に必要な遠心力等の外力がなんらかの原因で得られなかったもの
  • レーダーの電気的なトラブルによるもの

この他にも様々な要因によって発生し得る。中には起爆させるためのタイマーが数百時間にセットされているために、一見すると不発弾に見えるものも存在し、これは外見からは判別は不可能である。

弾薬類の構造は、先端・後端または両端に取り付けられた非常に敏感な信管が先に炸裂し、鈍感だが威力の高い炸薬を誘爆させるという構成をとる。信管の細部構造は、衝撃等で作動する撃針が、敏感だが威力の弱い起爆薬を爆発させ、やや感度は劣るが威力の高い伝爆薬を誘爆させる構成が一般的である。このような弱い爆薬から強い爆薬へと連鎖反応的に誘爆させていく機構が、炸薬系列である。通常は、この炸薬系列にカムタイマー電池レーダー等を組み合わせた安全機構が加わり、これにより無用に爆発しないような状態で貯蔵されたり運搬される。使用される際には、安全機構内のストッパー等を外してから投下機構などに装填される。

弾丸の不発(不発射弾)

弾丸の場合、銃器からこの動作不良を起こした弾丸を抜き出してからでないと次の弾丸を発射できない構造の物も多い。特に弾丸を連続的に発射する機関砲機関銃短機関銃自動拳銃自動火器ではそこで連続発射が停まってしまう物もあるため、発射トラブル(排莢不良/ジャム)となる。ただしチェーンガンないしガトリング砲のように外部から動力を得ている物は、強制的に不発の弾丸が排除されるため、動作不良には成らない。

迫撃砲の不発射の場合、信管は作動していないが発射装薬が活きている状態となる[1]。しかも砲身の一番下にある砲弾を専用工具等を用いて砲口から取り出す[2]という、極めて特殊な作業が必要になる。富士総合火力演習にて迫撃砲の不発射が観客の目の前で起こり、それから安全策として観客席から離れた位置からの射撃に変更となっている。

戦車のように密閉された場所の場合、不発射弾の処理は非常に危険である。ただでさえ狭い車内で砲弾を安全に薬室から取り出さなければならないのに、それを狭いハッチから外に出さなくてはならず、しかもそれを地上まで降ろさなくてはいけないからである。

無反動砲のような火砲の場合、撃針で雷管を叩いて不発射となった場合、一定の時間射撃姿勢を維持していつでも弾頭が射出されても良い状況を維持し、定められた時間が経過後に砲手及び副砲手・安全係等は射場指揮官の統制の元、不発弾を安全な方法で回収し処理部隊に後送している。特科の場合は装薬に不具合があることが多く、一定時間経過後に装薬を取り出して別の装薬を用いて射撃する場合もある。

無反動砲の縮射弾射撃の場合、操作ミスにより不発弾が発生してしまう場合が存在するが、基本的にその場で処理される。84mm無反動砲の場合は64式小銃を携行して不発射となった弾薬を64式に装填して射撃処理する。60式106mm無反動砲の場合は12.7mm重機関銃やスポットライフルを用いて処理する。

詳しくは実包雷管の項などを参照のこと。

不発弾の問題

戦時中において、不発弾が問題とされるのは作戦(戦術)の可否においてのみで、特に大量の爆弾を使用している場合には、何割かが爆発しなくても、予測できる範疇内であれば、ほとんど問題とされない。例えば爆撃において常に2割の爆弾が不発弾であるならば、2割5分多めに爆弾を積載して爆撃すればよいためである。

だがこの不発弾に「機能上に欠陥がなくとも爆発しなかった物」がある場合に安全装置が外れた「信管に適切に衝撃を加えさえすれば、すぐ爆発する」状態で爆発しないまま放置される。このような不発弾は一種の地雷のようなもので、戦後復興の妨げになる。

爆弾は通常、製の容器に火薬を充填しており、特に戦乱の長く続いた地域で発生する資源不足の折に、スクラップとして鉄製品にリサイクルするというケースも聞かれる。だが信管を処理する段階で失敗、爆発させてしまってスクラップ業者等が爆死するという事件も報じられている。また等に落ちた爆弾を処理しようと掘り起こしていて、被害に遭うケースも聞かれる。

なお、米国は日本に対して第二次大戦の際に焼夷弾を大量に使用し、この中には発火に失敗してそのまま残った物もあり[3]、これにはマグネシウムが使用されていた。第二次大戦当時の日本では生活に必要な鍋釜といった調理器具でさえも徴発して兵器の製造に充てたため、深刻な金属不足に見舞われていた。そのような状況下で横行した悪徳商法の中には、一見アルミニウムのように見えるマグネシウムを加工して鍋釜を作り、これを売るという信じられないようなケースもあったという。これらマグネシウム製の鍋釜の中には、火に掛けられた途端に発火して、跡形もなく燃え尽きたこともあった。

これらは一つずつ航空機から落していた時代よりも、クラスター爆弾のような大量の爆発物を撒き散らして四散する爆弾の方が、後々に残る不発弾の量的な問題も多く、かつての紛争国での大きな問題となっているため、禁止せよとする議論も盛んである。(→クラスター爆弾の項を参照のこと。)

問題の回避

戦時中の不発弾の問題に関して、爆弾をわざと劣化しやすいように設計して、一定期間経った物は爆発しないようにするという設計思想もある。ただこの方法は動作不良にも繋がるため、採用はあまり進んでいない。

その一方で注意を喚起するように、わざと目立ち易い色(黄色など)に塗装することもある。これらは不発弾回収の便を考慮してのものではあるが、逆に目立つ色であることから、事情を知らない子供が拾って弄っていて爆死するケースも聞かれた。

アフガニスタンでも使用されたクラスター爆弾では、黄色い清涼飲料水の容器サイズである円筒形の子爆弾に帯や風船(小さなパラシュート構造)がついていたが、これを市民が弄って死傷したため、先の使用禁止の議論にも繋がっている。これらは人道的な目的で空中投下ないし配布した難民救済用の食糧パック“HDR(Humanitarian Daily Rations)”(→レーション)も、黄色いビニール袋に包装されていたため、更なる混乱を煽っていると非難された事例もある。2003年のイラクでも、配布された食料パックが似ているとして、同種問題が指摘されている。

なお食糧パックは、この混乱を避けるため、後にオレンジ色のパッケージへと変更された。

不発弾の処理

日本における不発弾の扱い

不発弾処理は特に危険であるため、自衛隊内でも特に専門教育を修了した隊員のみ実施できる業務である。陸上自衛隊および航空自衛隊では、不発弾処理要員として一定以上の資格を持つ隊員に対して不発弾処理き章が授与される。

第二次世界大戦において空襲を受けた市街地や、地上戦の行われた沖縄硫黄島などの各種建設現場マンションなどの再開発、鉄道の連続立体交差工事など)や海岸から不発弾が発掘されることは現在でも珍しくなく、大規模な空襲を受けなかった京都でも戊辰戦争当時の砲弾が発掘された事例もある。これらの自衛隊外で発生した不発弾を部外不発弾と呼び、陸上自衛隊は各警察本部長から、海上自衛隊は自治体からの要請で処理にあたっている。

実際に戦争で使われたものではなく、演習場での実弾演習時にも砲弾等の不発弾は一定量発生し得る。このような物は部内不発弾と呼び、通常はただちに爆破処理されるので社会的な問題になることはない。しかし中には演習場に入り込んだ軍事マニアらが不発弾を持ち出し、演習場外で誤って爆発させてしまうという事故も複数発生している。

これら不発弾は所持だけでも爆発物取締罰則にて罪に問われる。過去の爆発(爆死)事故事例では、マニアが持ち出した砲弾を置物に改造しようとして、信管を外そうとしている内に誤って爆発させてしまったケースなどが報じられており、このほか爆死した自衛官の家宅捜索で違法な銃火器・爆発物収集マニア向けに加工不発弾などを販売するためたくわえられていた大量の武器弾薬が発見されたことから、周辺住民退避の上で不発弾処理班が出動したケースも2003年に報じられている(→沖縄・自衛官爆死事件)。

不発弾を発見した場合は、いつ爆発するか予測が付かないため、無闇に近付かずに最寄の警察に110番通報するなどして、専門家に任せることが奨められる。

1992年11月4日大分県のバイク店で爆発事故があり、店舗が焼失して地面にえぐる様に大きな穴を開けた。当初はガス爆発と思われたが、大分県警察と消防による現場検証で金属片が見つかったこと、さらに科学警察研究所で調査した結果、爆発したのは第二次世界大戦時における米軍の不発弾であることが判明した。戦後47年経過した時点でも不発弾は爆発し得ることを知らしめた事件だった。

実際に市街地での不発弾処理作業が行われる場合、災害対策基本法に基づく警戒区域が設定され、周辺を封鎖して行われる。封鎖地域への立ち入りは禁止され、地域内の住民や病院に入院中の患者などは地域外への避難を余儀なくされる。特に都市部の幹線道路や鉄道路線が封鎖地域にかかる場合、道路の通行止めや列車の運行が中止されるため、影響が大きい。そのため通勤・通学等への影響が少ない日曜日に行われることが多い。

不発弾爆発で民間人への国からの補償は、沖縄県の防災危機管理課によると、補償金という名目ではないが、見舞金という形で存在している。 2009年1月に糸満市で起きた不発弾爆発事故をきっかけにできたもので、「沖縄特別振興対策調整費」の一部(「事業名:沖縄県不発弾等安全基金」)として条例に基づいて、死亡の場合1000万円、負傷の場合は程度によって750万~314万円を沖縄県が支払うということになっている。

関連項目

他言語版Wikipediaの『不発射弾』の記事

「不爆弾」については言語リンクを参照。

参照

  1. ^ 81mm迫撃砲では不可能だが、120mm迫撃砲 RTではりゅう縄と呼ばれる綱を引くことで撃針を操作し不発の時点で当該操作を行い発射を試みることが多い
  2. ^ 120mm迫撃砲RTの場合は底板付近の操作で弾が取り出せる構造になっており、創立記念等では当該機能を用いて擬製弾を砲口から落とした後に下から砲弾を回収し再び副砲手に弾薬を渡すといった様子が確認出来る
  3. ^ 姫路城天守の最上階に落ち、奇跡的に発火しなかったため焼失を免れた例など