クロダイ

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クロダイ
分類
: 動物Animalia
: 脊索動物Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
上目 : 棘鰭上目 Acanthopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : スズキ亜目 Percoidei
: タイ科 Sparidae
亜科 : ヘダイ亜科 Sparinae
: クロダイ属 Acanthopagrus
: クロダイ A. schlegelii
学名
Acanthopagrus schlegelii
(Bleeker, 1854)
和名
クロダイ
英名
Japanese black porgy
sea bream

クロダイ(黒鯛、学名Acanthopagrus schlegelii)は、スズキ目・タイ科に分類される魚の一種。東アジア沿岸域に分布する大型魚で、食用や釣りの対象として人気がある。

日本ではチヌ(茅渟)という別名もよく用いられる。学名の属名"Acanthopagrus"は「のある鯛」の意で、種小名"schlegelii"は日本の脊椎動物を多数記載したヘルマン・シュレーゲルに対する献名である。

特徴

全長は最大70cmを超えるが、よく漁獲されるのは30cm前までである。背側と鰭膜は和名通り-灰色で、腹側は白色をしている。体側は銀色に光る灰色だが、不明瞭な縦縞があるものも多い。鰓蓋上端・目の後方やや上に、目と同程度の黒斑が一つある。

体型は左右から押しつぶされたように平たい楕円形で、典型的なの体型だが、マダイに比べると口が前に突き出す。顎の前方には3対の犬歯、側面には3列以上の臼歯があり、ヘダイ亜科の特徴を示す。背鰭は11棘条・11軟条、尻鰭は3棘条・8軟条からなり、クロダイ属のラテン語名"Acanthopagrus"は発達した棘条に由来する。特に尻鰭の第2棘条が強大に発達する。側線鱗数(そくせんりんすう)は48-56枚、背鰭と側線の間の鱗は6-7列で、この点で近縁種と区別できる。

生態

北は北海道の南部、日本列島朝鮮半島から台湾までの東アジア沿岸域に分布する。ただし奄美大島以南の南西諸島には分布せず、ミナミクロダイ、ナンヨウチヌ、ヘダイといった近縁種が分布する。

タイ科の大型魚としては珍しく水深50m以浅の沿岸域に生息し、河口の汽水域にもよく進入する。環境への適応力も高く、岩礁から砂泥底まで見られ、汚染にも比較的強い。冬は深みに移動するが、夏は水深1-2mの浅場に大型個体がやって来ることもある。

他のタイ科魚類と同じく小魚や甲殻類貝類など様々な小動物を捕食するが、クロダイはタイ科魚類でもかなりの悪食で海草なども食べる他、釣りの餌にはスイカみかんを使う例もある。

産卵は春に海域で行われ、直径0.8-0.9mmほどの分離浮性卵を産卵し、水温20℃では約30時間で孵化する。孵化直後の仔魚は体長2mmほどで卵黄嚢をもつ。体長8mmほどから砂浜海岸の波打ち際や干潟域、河口域などの浅所に集まり、プランクトンを捕食して成長する。生後1年で体長12cm、5年で26cm、9年で40cmほどに成長するが、マダイと比べると成長が遅い。

夏から秋には海岸域で全長10cm足らずの若魚を見ることができる。若魚はスーッと泳いではピタッと停まるのを繰り返しながら餌を探す。水中の砂底で砂煙を上げるとこれらの若魚が近寄ってきて、多毛類スナモグリなどの餌を漁る様が観察できる。

成長によって性転換する魚としても知られる。性転換する魚はメス→オスが一般的(マダイ等)だが、クロダイを含めたヘダイ亜科は雄性先熟を行い、オス→メスに性転換する。2-3歳までは精巣が発達したオスだが、4-5歳になると卵巣が発達してメスになる。ただし全てがメスになるわけではなく、雌性ホルモン(エストラジオール-17β=E2)が不足したオスは性転換しない。

利用

漁獲

身近な海域に生息する大型魚だけに、昔から食用として漁獲されてきた。釣り定置網刺し網スピアフィッシング)など各種の沿岸漁法で漁獲される。

食材

身はタイ科らしく歯ごたえがある白身だが、やや磯臭い。

食べ方

刺身洗い塩焼き煮付けなど和風料理の他、ムニエルアクアパッツア等の洋風料理でも食べられる。

釣り

釣りにおいては食性の広さ、警戒心の強さ、魚の大きさから人気があり、釣りの仕掛けは人や地域によって様々な工夫が凝らされる。釣り餌を例にとっても、一般的なゴカイ類や小型のカニ類に始まり、ザリガニカイコトウモロコシの粒やスイカの小片に至るまで、様々なものが用いられている。他にも、たとえばエビで包む「紀州釣り」など、複数の素材を組み合わせる釣り餌の技法もある。 クロダイが上から落ちてくる物体に対して激しく喰いつく性質を利用したヘチ釣りが親しまれている。 また、近年はポッパーを使ったトップウォーターゲームや、Mリグ等のルアーによる釣りも楽しまれている。

別名

関西地方を中心に「チヌ」という別名がよく用いられるが、他にもクロ(東北地方)、ケイズ(東京都)、カワダイ(川鯛:北陸地方)、チンダイ(山陰地方)、チン(九州)、クロチヌなど、様々な地方名がある。ただし「クロ」など一部の呼称でメジナ類との重複が見られるので注意を要する。

また、成長によって呼び名が変わる出世魚でもある。関東ではチンチン-カイズ-クロダイと変わり、関西ではババタレ-チヌ-オオスケとなる。
釣り人の間では、大物としての呼び名として、50cm以上を「年無し」、60cm以上を「ロクマル」と称されている。
瀬戸内海、特に広島湾での魚影が濃くこの海域のみで日本の2割近くが水揚げされる。

近縁種

クロダイは他にも多くの近縁種があるが、大きさや習性などに大きな違いはなく、漁獲時には一括りにされることも多い。近縁種を見分けるには背びれと側線の間にある鱗の列がポイントとなる。

キチヌ Acanthopagrus latus (Houttuyn,1782)
西日本からオーストラリアアフリカ東岸まで、西太平洋インド洋に広く分布するが、南西諸島には分布しない。クロダイよりも内湾を好み、河口域に多く生息する。和名通り腹びれ、尻びれ、尾びれが黄色なので、「キビレ」「キビレチヌ」などと呼んでクロダイと区別する。側線鱗数は43-48枚、背鰭から側線までの鱗は4列で、クロダイよりも鱗の数が少ない。クロダイの産卵期が春に対して、秋産卵を行う。
ミナミクロダイA. sivicolus Akazaki,1962
南西諸島だけに分布する固有種。側線鱗数は46-52枚、背鰭から側線までの鱗は5列で、鱗の数が僅かに少ない以外はクロダイによく似ている。内湾や河口域の他、サンゴ礁でも見られる。
ナンヨウチヌ A. berda (Forsskål,1775)
石垣島から台湾、オーストラリア、インド洋沿岸域まで広く分布する。側線鱗数43-52枚、背鰭から側線までのうろこは4列。クロダイより体高が高く、背中が盛り上がっているように見える。マングローブ内などに多数生息する。
オキナワキチヌ A. sp.
琉球列島に分布する。体下面の鰭が黄色を帯びるのでキチヌに似るが、キチヌとは分布域が異なる。オーストラリア産のオーストラリアキチヌA. australis)に似る。また、体側が白っぽいことから、沖縄では「チンシラー」(白いチヌの意)と呼ばれ、ミナミクロダイとも区別される。
ヘダイ Rhabdosargus sarba (Forsskål,1775)
西日本を含む西太平洋・インド洋に広く分布する。クロダイに似るが別属として分類され、口先が突き出ないこと、体側は鱗の列の縦縞が目立つこと、背鰭軟条13・尻鰭軟条11でクロダイより多いことなどが特徴である。クロダイより沖合いに生息し、身に磯臭さがない。

参考文献

  • 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』ISBN 4-635-09021-3
  • 岡村収監修 山渓カラー名鑑『日本の海水魚』 ISBN 4-635-09027-2
  • 永岡書店編集部『釣った魚が必ずわかるカラー図鑑』 ISBN 4-522-21372-7
  • 藍澤正宏ほか『新装版 詳細図鑑 さかなの見分け方』講談社 ISBN 4-06-211280-9

外部リンク