超函数

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数学において超函数(ちょうかんすう、: generalized functions)は函数の概念を一般化するもので、いくつかの理論が知られている。超函数論は滑らかな函数よりも不連続函数の構成において特に有用であり、また点電荷のような(極限へ向かう)物理現象の記述にも重宝する。超函数の応用範囲は極めて広く、特に物理学工学においても利用されている。

超函数に対するある種の手法のよくある特徴として、それが作用素の数値的函数としての日常的な側面に基づいて構築されることが挙げられる。超函数の歴史は演算子法についてのいくつかの考え方に始まるものとも考えられるが、より現代的な超函数論は佐藤幹夫代数解析と呼んだ手法と近い、ある種の方向性から興ったものと考えられる。超函数論に重要な影響を与えたのは、偏微分方程式論や群の表現論などからの技術的な要請であった。

先駆的な研究[編集]

19世紀の数学には、例えばグリーン函数の定義やラプラス変換、あるいは(可積分函数フーリエ級数には必要でない部分の)リーマン三角級数論などが、超函数論の片鱗として垣間見える。これらは当時、解析学の一部とは扱われていなかったものである。

工学におけるラプラス変換の重用は、経験則に基づく記号的操作としての演算子法を生み出した。演算子法の正当化は発散級数を用いて与えられたため、純粋数学の観点からは悪い風評をうけることとなるが、これらは後の超函数法の典型的な応用先である。1899年に出版されたヘヴィサイドの本 Electromagnetic Theory(『電磁気論』)は演算子法の定番の教科書となった。

ルベーグ積分が導入されると、超函数は初めて数学の中心に踊り出ることとなった。ルベーグ積分論では、殆ど至る所一致する可積分函数はすべて同値であると看做される。これはルベーグ積分論において函数の個々の点における値というのは函数の重要な特徴ではないということを意味する。可積分函数の本質的な特徴は、函数解析学における明確な定式化(つまり、他の函数の集合上で定義される線型汎函数として定義する方法)のもとで与えられた。こうして、弱微分の概念が定義されるようになる。

1920年代後半から1930年代に掛けて、その後の研究の基となる更なる展開がなされる。ディラックのデルタ函数ポール・ディラックが(彼の科学的的形式主義の一部として)大胆に定義したもので、これは測度を(素性のよい函数を成す電荷密度のような)密度として考えるという扱い方をしている。ソボレフは、偏微分方程式論の研究において偏微分方程式の弱解をきちんと扱うために、数学の観点からも十分正当な超函数論を初めて定義した。同じ頃、関連するほかの理論がボホナーフリードリヒらによっても提案されている。ソボレフの業績は後にシュワルツによってさらに拡張され発展することとなる。

シュワルツの分布の理論[編集]

いくつかの目的に対して、限定的なものとして受け入れられるようになっていた超函数の概念は、ローラン・シュワルツによって発展させられた分布の理論として実現されることとなる。これは原理的な理論と呼ぶことのできるもので、位相線型空間に対する双対性の理論に基づく。これと双肩を成すものとして、応用数学ではより「アド・ホック」な(ジェイムズ・ライトヒルが述べたような)滑らかな函数の列による近似が用いられた。これは現在では軟化子の理論に含まれる。

分布(シュワルツ超函数)の理論は大いに成功し、今も広く用いられているが、主に線型作用素についてしか扱えないという欠点からすれば十分ではない。つまり、ディラックの分布には(非常に特別な場合を除けば)乗法を定義することができない(これは古典的な函数空間を成すのとは対照的である)。例えば、ディラック・デルタの自乗は意味を成さない。1954年前後からのシュワルツの仕事はこのような困難を内在を示している。

この乗法問題を解決する方法はいくつも提案された。そのひとつにエゴロフ(Yu. V. Egorov)[1]による非常に単純で直観的な超函数の定義に基づくものがあり、超函数の上のあるいは超函数同士の任意の演算ができるようになる((Demidov) のエゴロフの項も参照せよ)。

乗法問題のほかの解法は、量子力学経路積分の定式化に見つかる。これは、座標変換で不変な量子力学についてのシュレーディンガーの理論との同値であることが求められるから、この性質は経路積分でも満たされなければならない。超函数の全ての積についてこれを修正したものが、(H. Kleinert, A. Chervyakov)[2]によって示された。この結果は次元正則化から導かれるところのものと同値である[3]

超函数環[編集]

超函数の成す多元環の構成について、シロコフら(Yu. M. Shirokov)[4]、あるいはロジンガー、エゴロフ、ロビンソンら(E. Rosinger & Y. Egorov R. Robinson)[5] などによって様々な提示が成されている。前者の場合、乗法は超函数の適当な正則化によって決定される。後者では、超函数の乗法を構成することで考えられる。

超函数の非可換環[編集]

超函数の環は、函数 F = F(x) の平滑成分 Fsmooth と特異成分 Fsingular への射影を適当な方法で与えることによって構成することができる。すなわち、超函数 F, G の積は

  1. FG=F_{\rm smooth}\,G_{\rm smooth}+F_{\rm smooth}\,G_{\rm singular}+F_{\rm singular}\,G_{\rm smooth}

なる形で与えられる。このような規則を主となる函数空間とその上に作用する作用素空間の両方に適用するのである。こうして定義される乗法は結合性を持つものとなり、符号函数の平方はこの方法で定義される平方が(座標の原点を含めて)至る所 1 であるような函数となる。ここで、(1) 式の右辺において特異部分同士の積となる項が現れないことに留意すべきである(このおかげで特にディラックデルタの平方は δ(x)2 = 0 を満たす)。この定式化は(積を考えない)旧来の超函数論を特別の場合として含むものになっているが、構成される環は非可換になる(例えば、符号超函数とデルタ超函数とは反交換的である)[4]。この代数の応用として提案されているものは少ない[6][7]

超函数の乗法[編集]

シュワルツ超函数論を限定的なものとする超函数の乗法の問題は、非線型問題では深刻である。

これに対する手法は今日様々提示されているが、最も簡明なものはエゴロフ (Yu. V. Egorov) による超函数の定義に基づくものであろう。別な方法として、コロンボ(J.-F. Colombeau) の構成に基づく結合微分環を構成するものがある(コロンボ代数英語版を参照されたい)。これは、「緩増加」函数を「無視可能」函数の成すネットで割って得られる商空間

G = M / N

を構成するものである。ただし、緩増加性や無視可能性は族の添字に関する増加に関して言う。

コロンボ代数[編集]

簡単な例は N 上の多項式スケール

s = \{ a_m:\mathbb{N}\to\mathbb{R},\, n\mapsto n^m ;\; m\in\mathbb{Z} \}

を用いて得られる。このとき、任意の半ノルム代数 (E, P) に対して、商空間

G_s(E,P)= \frac{
\{ f\in E^{\mathbb N}\mid\forall p\in P,\exists m\in\mathbb Z:p(f_n)=o(n^m)\}
}{
\{ f\in E^{\mathbb N}\mid\forall p\in P,\forall m\in\mathbb Z:p(f_n)=o(n^m)\}
}

が構成できる。特に、(E, P) = (C, |•|) であるとき、コロンボの超複素数が得られる(これは「無限大」および「無限小」を含んで、なおも厳密な四則演算が展開できるようなもので、超実数とよく似ている)。また、 (E, P) = (C(R), {pk}) のときは(ただし、pk は、k-階以下の全ての導函数についての、半径 k の球体上での値の上限)、コロンボの単純化代数が得られる。

シュワルツ超函数の埋め込み[編集]

この代数には D のシュワルツ超函数 T が、入射

j(T) = (φnT)n + N,

を通じてすべて「含まれる」と考えられる。ここで、∗ は畳み込みであり、

φn(x) = n φ(nx)

が成立する。ただしこの入射は、軟化子 φ(これは C-級で、可積分かつ原点 0 における各階の導函数が消えない)の取り方に依存するという意味で、標準的でない。標準的な埋め込みを得るには、添字集合を少し変更して N × D(R) とし、D(R) 上の適当な(q のオーダーを除いてモーメントが消えているような函数の成す)フィルター基を考える必要がある。

超函数の層構造[編集]

(E, P) をある位相空間 X 上の半ノルム代数の(前)層とすると、Gs(E, P) もこの性質を持つ。これにより、制限の概念が定義され、部分層に関する意味で超函数のが定義できる。特に、

  • 部分層 {0} に対して、この意味での台は通常の意味での台(つまり、函数の零点集合に含まれる最大の開集合の補集合)を定める。
  • 部分層 E(の標準定値入射での埋め込み)に対して、特異台と呼ばれるものが得られる。これは砕けた表現をすれば、超函数が(E = C という意味で)滑らかな函数にならないような集合の閉包である。

といったようなことが成り立つ。

超局所解析[編集]

フーリエ変換は、(成分ごとに)コンパクトな台を持つ超函数に対しても(矛盾なく)定義可能である。これにはシュワルツ超函数に対する構成と同じ方法を用いたり、ラース・ヘルマンダー波面集合を用いたりすればよい。

超局所解析の特に重要な応用として、特異点伝播の解析がある。

各種の超函数論[編集]

一般に超函数論と言われる理論には、たとえばヤン・ミクシンスキーによる「畳み込み商」を用いた演算子法なども含まれる。これは積分領域畳み込み整域を成すような函数環の商体を構成する方法である。あるいは、佐藤超函数の理論も挙げられる。これはもともと解析函数の境界値として定義されたものだが、現在は層の理論を用いて構成される。

位相群[編集]

ブリュアは、今日シュワルツ=ブリュア函数として知られる、試験函数のクラスを導入した。これは従来の議論では、多様体定義域とするのが典型的であったのを、局所コンパクト群のクラスまで広げたものになっている。これが最もよく応用されるのは数論、特にアデール代数群の理論においてである。アンドレ・ヴェイユテイトの修士論文を、これを用いて書き直し、イデール群上のゼータ超函数を特徴付けた。また、L-函数の明示公式にもこれを応用した。

超切断[編集]

このような話をさらに推し進めて、滑らかなベクトル束超切断(一般化された切断)を考えることができる。これはシュワルツのように試験対象の双対対象を構成する方法によるもので、試験対象としてコンパクト台付きの滑らかな切断を用いる。最も発展したのは、微分形式の双対にあたる微分カレントの理論である。これらの概念は、微分形式からド・ラムのコホモロジーが生じるのと同じ仕方で、ホモロジー的な特質を持つ。これにより、ストークスの定理を非常に一般な形で定式化することができるようになる。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • L. Schwartz: Théorie des distributions
  • L. Schwartz: Sur l'impossibilité de la multiplication des distributions. Comptes Rendus de L'Academie des Sciences, Paris, 239 (1954) 847-848.
  • I.M. Gel'fand et al.: Generalized Functions, vols I–VI, Academic Press, 1964–. (Translated from Russian.)
  • L. Hörmander: The Analysis of Linear Partial Differential Operators, Springer Verlag, 1983.
  • A. S. Demidov: Generalized Functions in Mathematical Physics: Main Ideas and Concepts (Nova Science Publishers, Huntington, 2001). With an addition by Yu. V. Egorov.
  • M. Oberguggenberger: Multiplication of distributions and applications to partial differential equations (Longman, Harlow, 1992).
  • M. Oberguggenberger: Generalized functions in nonlinear models - a survey. Nonlinear Analysis 47(8) (2001), 5029-5040 online here.
  • J.-F. Colombeau: New Generalized Functions and Multiplication of Distributions, North Holland, 1983.
  • M. Grosser et al.: Geometric theory of generalized functions with applications to general relativity, Kluwer Academic Publishers, 2001.
  • H. Kleinert, Path Integrals in Quantum Mechanics, Statistics, Polymer Physics, and Financial Markets, 4th edition, World Scientific (Singapore, 2006)(also available online here [8]). See Chapter 11 for products of generalized functions.

出典[編集]

  1. ^ Yu. V. Egorov (1990). “A contribution to the theory of generalized functions”. Russ. Math. Surveys (Uspekhi Mat. Nauk) 45 (5): 1–49. 
  2. ^ H. Kleinert and A. Chervyakov (2001). “Rules for integrals over products of distributions from coordinate independence of path integrals” (PDF). Europ. Phys. J. C 19 (4): 743–747. Bibcode 2001EPJC...19..743K. doi:10.1007/s100520100600. http://www.physik.fu-berlin.de/~kleinert/kleiner_re303/wardepl.pdf. 
  3. ^ H. Kleinert and A. Chervyakov (2000). “Coordinate Independence of Quantum-Mechanical Path Integrals” (PDF). Phys. Lett. A 269: 63. doi:10.1016/S0375-9601(00)00475-8. http://www.physik.fu-berlin.de/~kleinert/305/klch2.pdf. 
  4. ^ a b Yu.M.Shirokov. Algebra of one-dimensional generalized functions. Theoretical and Mathematical Physics, 39, 291-301 (1978) http://en.wikisource.org/wiki/Algebra_of_generalized_functions_%28Shirokov%29
  5. ^ cite wanted
  6. ^ O. G. Goryaga; Yu. M. Shirokov (1981). “Energy levels of an oscillator with singular concentrated potential”. Theoretical and Mathematical Physics 46 (3): 321–324. doi:10.1007/BF01032729. http://www.springerlink.com/content/k2164755540243kw/. 
  7. ^ G. K. Tolokonnikov (1982). “Differential rings used in Shirokov algebras”. Theoretical and Mathematical Physics 53 (1): 952–954. Bibcode 1982TMP....53..952T. doi:10.1007/BF01014789. 
  8. ^ http://www.physik.fu-berlin.de/~kleinert/b5