超準解析

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超準解析(ちょうじゅんかいせき、Nonstandard analysis)とは、超実数やその上の関数について研究する解析学の一分野である。直訳すれば非標準解析学といった意味であるが齋藤正彦が超準解析という訳語を使い始めたためそのように呼ばれるようになった[1][2]。無限小解析と同一のものとも見なされる。

概要[編集]

超準解析ではイプシロン-デルタ論法によって一度は数学から追放されたと思われた、無限小無限大という極限に関する古典的で直観的な感覚、すなわち、いわゆる実数論にもとづかないライプニッツ流の古典的な微積分を数学的に厳密に定式化し、取り戻すことができる。このような古典的な微積分におけるオリジナルな無限小解析学とは区別されることもある。アブラハム・ロビンソンによって考案された。超準解析の基本的な手法である超積はアラン・コンヌらによって作用素環の研究に応用されてもいる。

超実数(ちょうじっすう、hyperreal numbers)は実数を拡張した数概念である。実数体に無限小・無限大を加えたものはをなし、超実数体と呼ばれる。超実数体は *R, R* などと表記される。そのを超実数という。ただし、無限小や無限大は 1 点ではなく、例えばある無限小について、それより小さい無限小、大きい無限小が存在する。無限大に対しても同様。また、1つの超実数の周りには、それと無限に近い超実数が無数に存在する。

超実数は数学的に厳密に構成することができる。しかし、標準的な超実数の構成には数学基礎論の手法が用いられており、ある程度の基礎論に関する知識を要する。超実数の構成は実数の構成によく似ていて、実数からなる数列に対して一定の同一視操作(例えば有限項の違いは無視する)をしたものを新たな数と見なすというものである。

超準解析における超準とは、実数体の超準モデルを用いることからきている。超準解析では、1つの対象に対して2通りのモデルを考える。2通りのモデルのうち、1つのモデルはもう1つのモデルを含むものである。

歴史[編集]

17世紀ニュートンライプニッツ微分積分学を創始したとき、彼らは極限収束の概念を極めて素朴に考えていた。後になって、ワイエルシュトラスの ε-δ 論法の発明により微分積分学は厳密化され、無限小や無限大という概念によらずに議論できるようになった。これにより、収束性に関する直観的なイメージをそのまま議論に用いる方法は廃れた。

ニュートンやライプニッツ以来300年間厳密に定義されなかった無限小量は ε-δ 論法の登場によって一旦は追放された。しかし1950年代に登場したモデル理論を初めて応用することで、1960年代にアブラハム・ロビンソンは超実数を考案して、古典的な無限小・無限大の概念を数学的に厳密な形で正当化し、無限小解析をそのままの形で蘇らせることに成功した。このロビンソンの理論が超準解析と呼ばれるものである。

超実数の公理[編集]

ジェロム=キースラーは、微積分の展開に最低限必要な前提を単純な公理としてまとめることに成功する。

  1. R はアルキメデス順序体である。
  2. R*R の真拡大順序体である。
  3. 任意の有限超実数はちょうど1つの実数に無限に近い。
  4. 任意の n 変数関数 f に対し、f の自然延長と呼ばれる n 変数超実関数 f* が対応する。特に、R* の体演算R の体演算の自然延長である。
  5. 2つの式系がちょうど同じ実解を持つならば、それはちょうど同じ超実解を持つ。

もう1つの同値な公理系がある。

  1. R は完備順序体である。
  2. R*R の真拡大順序体である。
  3. 任意の n 変数実関数 f に対し、f の自然延長と呼ばれる n 変数超実関数 f* が応じる。特に、R* の体演算は R の体演算の自然延長である。
  4. 2つの式系がちょうど同じ実解をもつならば、それらはちょうど同じ超実解を持つ。

ここで変数 x1, ..., xn を含む式系 S の超実解とは、n 個の超実数の組 <c1, ..., cn> で、S の式に現れるあらゆる関数の自然延長をとり、各変数 xici を代入して得られた式の両辺が定義されて、しかも全ての式が真となることである。

諸概念[編集]

実数体・超実数体[編集]

R を実数体、R* を超実数体といい、実数体の元を実数、超実数体の元を超実数という。超実数の元 x で、任意の正実数 r に対して |x| < r となるものを無限小超実数、ある実数 r が存在して |x| < r となるものを有限超実数、任意の正実数 r に対して |x| > r となるものを無限大超実数という。

無限に近い[編集]

キースラー著 「無限小解析の基礎」 の定義によれば、超実数 x, y に対し xy が無限小超実数のとき、xy とは互いに無限に近いといい、

x \approx y

とかく。

単子(モナド)[編集]

超実数 x に対し、

{\rm monad}(x) = \{y \in \mathbb{R}^* \mid x \approx y\}

x単子あるいはモナドという。「超実数 x と無限に近い超実数全体の集合」である。

{\rm galaxy}(x) = \{y \in \mathbb{R}^* \mid x - y \mbox{ is finite} \}

x銀河という。「超実数 x と有限な距離にある超実数全体の集合」である。

標準部分[編集]

標準部分定理によれば、任意の有限超実数はただ1つのある実数に無限に近い。これは、任意の有限超実数のモナドにはただ1つの実数が属しているということである。したがって、有限超実数 x に対して、 xr なるただ1つの実数 r を有限超実数 x標準部分といい、

r = {\rm st}(x)

で表す。標準部分関数 st は、galaxy(0) なるから R なる への全射準同型である。つまり、任意の有限超実数 x, y に対して

  • {\rm st}(x+y) = {\rm st}(x) + {\rm st}(y)
  • {\rm st}(x-y) = {\rm st}(x) - {\rm st}(y)
  • {\rm st}(xy) = {\rm st}(x){\rm st}(y)

である。これは、実数上の演算を、超実数に移した演算で置き換えられるということである。

x を無限小超実数とすれば、1 / x は無限大超実数である。さらに、x · (1 / x)2 は無限大超実数であり、x · (1 / x) は有限超実数であり、x2 · (1 / x) は無限小超実数である。これは、0 · ∞ が不定であることに対応する。

自然延長[編集]

f:R \to R,R^* \ni x=\{x_1,x_2,\dots\}(各x_i \in R)とするとき、

f^*(x)=\{ f(x_1),f(x_2),\dots \}で定義される超実関数 f* を、 f自然延長という。

脚注[編集]

  1. ^ 森毅 『[新装版]指数・対数のはなし』 東京図書、2006年、18頁。ISBN 978-4-489-00726-2
  2. ^ 斎藤正彦 『数のコスモロジー』 筑摩書房〈ちくま学芸文庫Math&Science〉、2007年、105頁、下から6行目

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]