質量保存の法則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

質量保存の法則(しつりょうほぞんのほうそく、: law of conservation of mass)とは(主として化学の領域で用いられる法則で)「化学反応の前と後で物質の総質量は変化しない」とする法則のことである。 。

目次

概説 [編集]

化学の領域で用いられることのある法則である。 化学反応の前後で質量がほとんど変化しなかったことや、かつて「物質は不滅だ」などと考えられていた時代があったので、こうした法則が主張された[1]が、「こうした考えは捨てなければならない[1]」と物理学辞典には書かれている。

(日本の小学校教育から中学・高校教育までの理科の教科書というのは、必ずしも現代の自然科学を教えるものではなく、あくまで将来、大学や大学院でそれを学ぶための準備的なトレーニングをする、という位置づけなので)化学の分野でかつて信じられた法則にも教育上の有用性を認めてそれを教えており、(相対性理論以降の考え方や自然科学史の詳細はとりあえず教えず)、「化学反応の前後で質量の総和は変わらない」とだけ説明されている。

相対性理論によれば化学反応によって放出または吸収されたエネルギーに相当する質量変化が起こっており、質量は厳密には保存されていないとされる。そのことを考慮に入れると「化学反応の前後で、それに関与する元素の種類と各々の物質量は変わらない」という表現がより正確な表現となる。

核反応の世界では実験的に十分に測定可能なだけの質量変化が起こっており、反応の前後で元素の種類や各々の物質量も変化していく。さらに、素粒子論の世界では物質・質量の生成や消滅が広範に起こっている。これらの世界においては、質量保存の法則や物質の不変性・不滅性は全く成り立っていない。

アメリカヨーロッパ初等教育では「化学反応の前後で質量の総和は変わらない」というようなlaw of conservation of mass(質量保存の法則)の指導は余りされておらず、化学反応で保存されるのは物質量であることを強く押し出すためprinciple of mass/matter conservationと表記される。[要出典]

歴史 [編集]

身近な化学反応である燃焼について考察すると、木や紙は燃やすと灰となって質量が大幅に減少する。(反対にスチールウールなどの金属は質量が増加する。)また、(熱気球に端的に見られるように)、気体を熱するとそれは軽くなるように感じられる。つまり日常的な感覚や直感では反応の前と後では、ものの質量は大きく変化するように感じられる。

(こうした感じ方を人々が持っている状況で)フランスの科学者、アントワーヌ・ラヴォアジエ1774年、(当時の測定技術で)精密な定量実験を行った結果、化学反応の前後では質量が変化しない、との結論を得て、後に、これを「質量保存の法則」として、元素の概念と共に提唱した。ラヴォアジエは、化学反応によっては元素が分裂して増加したり、消滅して減少したり他の元素に転化したりしない、と述べたのであった。 (なお、この考えから出発して、定比例の法則倍数比例の法則が発見され、原子分子及び化学量論の概念が確立してゆくことになり、ラヴォアジエは「近代化学の父」と呼ばれることになる。)

これらの考え方をさらに拡張して「物質不滅の法則」などという法則までも信じられた[2]。科学者たちは物質は不滅だと信じたのである。

だが、20世紀初頭、アインシュタインは相対性理論において、E=mc²という数式を提示し、質量はエネルギーは等価関係にある、とすることを提唱した(質量は消滅してエネルギーに変化しうる、とすることを提唱した)。このようにして、(物理学的な観点が記述されている)物理学辞典などでは「質量保存の法則という考え方は廃止されなければならない」と記述されるようになったのである。

相対性理論以前の物理学・化学では、閉じた系の「質量の総和が一定である」ということを公理として扱っていた。しかし、相対性理論を考慮に入れた現代物理学では、「質量の総和が一定である」という命題は日常的な場面において、あくまで近似的に成立するものであるとされている。

特殊相対性理論によれば、質量とエネルギーは等価であり、閉じた系において保存されるのは「質量の総和」ではなく「(質量を含む)エネルギーの総和」であるとされる。従って、化学反応によってエネルギーが吸収・放出されれば、それだけ質量も変化することになる。[注 1][注 2][注 3]

高エネルギーの素粒子反応においては粒子が消滅したり、新しく創られたりすることは、ごく普通の現象である[1]

脚注 [編集]

  1. ^ ただし、一般に化学反応で吸収・放出されるエネルギーは質量に比べて極めて小さいため、化学反応による質量変化は実用上無視可能であるのみならず、現在の技術ではそもそも相対論的質量変化が実際に起こっているかを確認すること自体が困難である。例えば水素の燃焼反応においては、エネルギーの放出量は2.96 eV(286 kJ/mol)であるが、これは反応前(H2+0.5O2)の質量16.8 GeV(2.99×10−26 kg)より10桁ほど小さく、相対性理論に基づく質量の減少量は約0.000000018%となる。現在の質量の測定精度は最大でも約8桁(約0.000001%)であり、化学反応による相対論的な質量変化の実験的測定は極めて困難である。
  2. ^ 素粒子論宇宙論では相対論的質量変化は本質的な意味を持つ。対生成対消滅核反応などに見られる強い相互作用に基づく変化では、質量と比べて十分大きな量のエネルギーの出入りが起こり、相対論的質量変化は無視できないものとなる。例えば核分裂反応であるウラン235中性子吸収による核分裂では、反応前の質量223 GeVに対しエネルギー放出量は203 MeVであり、約0.1%の質量減少が起こる。核融合反応であるD-T反応では反応前の質量2.82 GeVに対しエネルギー放出量は17.6 MeVで、質量減少量は約0.6%である。対消滅では質量の100%がエネルギーへと変換する。ベータ崩壊などに見られる弱い相互作用電磁相互作用に基づく相対論的質量変化は、小さな量ではあるが実測可能であり、質量変化の理論値と実測値とのずれがニュートリノなどの新たな素粒子の予測・発見につながっている。
  3. ^ 対消滅では質量の100%がエネルギーへと変換する。

出典 [編集]

  1. ^ a b c 『物理学辞典』 培風館、1824-1825頁。 【物質】
  2. ^ 『物理学辞典』、1825頁。 「物質不滅の法則」

関連項目 [編集]