標準レンズ

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標準レンズ(35mm判)
ニコンAiAFニッコール50mmF1.8D

標準レンズ(ひょうじゅんレンズ)とは、写真レンズの分類の1つである。広角レンズ望遠レンズの中間に位置する。

マクロレンズは、標準レンズと分類しない場合がある。

標準レンズの定義[編集]

代表的な説[編集]

標準レンズの基準は諸説あり、下記は代表的な例である。

肉眼の視野に近いとする説
35mm判[1](ライカ判[2])における焦点距離50mmの画角(対角線46°・水平40°)が「注視していない時に肉眼で視認できる視野に一番近い」とするが、肉眼に近い画角については28mm説、35mm説、85mm説など諸説ある。
対角線長に基づくとする説
実画面サイズの対角線長に近い焦点距離のレンズを「標準レンズ」とするが、アスペクト比が35mm判では2:3、6×4.5判では約3:4、6×6判では1:1とフォーマットごとに比率が異なるため、「対角線長を基準とするのは無理がある」という異論がある。
実画面サイズの対角線長の焦点距離のレンズはパースペクティブが自然である。ポートレート撮影の場合ではモデルとの距離も適度である。
レンズ特性による説
広角レンズの特性」・「望遠レンズの特性」の両方の特性が弱くなり重なった焦点距離が50mm(35mm判)であるとする説。広角・望遠の特性が弱いゆえにクセのない描写をするため「標準」とする。
そのクセのない標準性ゆえに平凡な描写になりがちであるが、撮影方法の工夫により広角的にも望遠的にも表現が可能である。そのため「標準レンズ愛好者」も存在し、「標準に始まり標準に終わる」などの格言が存在する。
その他
レンズの交換できるカメラでは、セット販売のレンズを指すこともある。以前は、大口径の50mmレンズもこの性格を有するレンズであった。

メーカーのインフォメーション[編集]

2010年現在、各メーカーが標準レンズと公称している単焦点レンズの焦点距離は、以下の通りである。

メーカー フォーマット 焦点距離 35mm判換算
焦点距離
備考
キヤノン 35mm判SLR[3]
35mmフルサイズDSLR[4]
40mm[5]
50mm
APS-CサイズDSLR 35mm 56mm相当
(28mm[6] 44.8mm相当
ソニー 35mm判SLR
35mmフルサイズDSLR
50mm
APS-CサイズDSLR 35mm 52.5mm相当
(30mm[7] 45mm相当
ニコン 35mm判SLR
35mmフルサイズDSLR
50mm
(60mmマクロ[8]
APS-CサイズDSLR 35mm 52.5mm相当
ペンタックス 中判SLR
(セミ判〈6x4.5cm判〉・56mm×41.5mm)
75mm 45mm相当
中判SLR(6×7判・55×70mm) 90mm (未発表)
105mm (未発表)
35mm判SLR 43mm
50mm
中判DSLR
(センサーサイズ44×33mm)
55mm 44mm相当
75mm 60mm相当
APS-CサイズDSLR 35mm 52.5mm相当
40mm 61mm相当
43mm 66mm相当
ライカ Sシステム
(センサーサイズ30×45mm)
70mm 56mm相当
35mm判SLR
35mmフルサイズDSLR
50mm

標準レンズの実際[編集]

標準単焦点レンズ[編集]

35mm判の標準レンズ[編集]

標準レンズの焦点距離が具体的に決まっているのは画面寸法24×36mmの35mm判(ライカ判[2])のみで、ライカの基準が業界標準として定着した公称焦点距離50mm、実焦点距離51.6mmである。例外としてはレンジファインダー時代のコンタックスが実焦点距離52.3mmを採用しているなどわずかである。

画面対角線長という観点からすると35mm判の標準レンズの焦点距離は「43.3mm」である。そのため40〜45mm程度の焦点距離を標準レンズとする場合もある。

35mm判の標準レンズの歴史[編集]

35mm判でも一眼レフカメラ(SLR)黎明期の設計技術や硝材ではSLRのミラーと干渉しないバックフォーカスを確保して、かつ良好な光学性能を有する公称50mmの大口径レンズを製造できなかったことから、55mmや58mmのレンズが製造された。特にF1.2の大口径レンズの多くは50mmより長い焦点距離のレンズが製造された。

その後テクノロジーの発達に伴って50mmF1.4という現代の標準的スペックと高い性能が両立可能になったことから、50mmよりやや長い焦点距離のレンズやF1.4よりやや暗いレンズに比して劣らない50mmF1.4レンズがカメラメーカー各社から販売されるようになった。現在では50mmF1.4というスペックの標準レンズは、6群の内1群を合成接着剤両凹レンズ両凸レンズを接着した、6群7枚構成の変形ガウスタイプが圧倒的多数である。

2000年代には、それまで標準単焦点レンズに消極的だったレンズメーカーにも動きがあった。2006年にレンズメーカーのコシナは、1975年からコンタックス(CONTAX)用として販売されていたプラナー50mmF1.4を硝材の見直しなどによって改良されたものを発売した。2008年にレンズメーカーのシグマが非球面レンズを採用した「50mm F1.4 EX DG HSM」をPIEに参考出品し、その後5月末に正式発表、同年発売された。このレンズは実焦点距離も50mmであり、50mmF1.4としては幾分大型で重い。

35mm判以外の標準レンズ[編集]

他のフォーマットでは、標準レンズの焦点距離は規格化されておらず、メーカーによって「標準レンズ」の焦点距離は異なる。

6×6cm判SLRを例にすると、対角線長は79.2mmであるが、ローライは「75mm」と「80mm」、マミヤのC3系は「105mm」を標準レンズとしている。

標準ズームレンズ[編集]

総論[編集]

標準ズームレンズ(35mm判)
Canon EF24-105mm F4L IS USM[9]
大口径標準ズームレンズ
(APS-Cサイズ専用)
Canon EF-S17-55mm F2.8 IS USM[10]
高倍率ズームレンズ
(APS-Cサイズ専用)
Canon EF-S18-200mm F3.5-5.6 IS[11]

標準ズームレンズとは、標準域の焦点距離をカバーするズームレンズのこと。焦点距離の範囲はフォーマットにより異なるが、35mmSLR・35mmフルサイズDSLRの場合では、広角側が24〜35mm・望遠側で70mm以上のレンズが主である。

APS-Hサイズ・APS-CサイズDSLR・フォーサーズシステムマイクロフォーサーズシステム)では、35mm判換算で同等の焦点距離イメージを持つレンズが、「標準ズームレンズ」である。

35mm判用のレンズは、レンズマウントに互換性のあるAPS-HサイズDSLR・APS-CサイズDSLRに装着可能である。しかし、デジタル一眼レフ専用レンズは、35mmSLR・35mmフルサイズDSLR・APS-CサイズDSLRには、同一メーカーであっても装着不可能か、装着可能であっても画像の四隅にケラレが発生する(詳細は、デジタル一眼レフ専用レンズ#旧来の一眼レフカメラとの互換性を参照)。

大口径標準ズームレンズ
開放F値がF2.8より明るい標準ズームレンズは、「大口径標準ズームレンズ」などと分類される。ズーム比は3倍前後のものが多い。大口径ゆえ重量があり、なおかつ高価なレンズが多く、プロのカメラマンが良く使う他、一部のアドバンスドアマチュアにも使われている。
高倍率ズームレンズ
ズーム比が6倍を超える標準ズームレンズを「高倍率ズームレンズ」などと通称する。高倍率ズームレンズとする基準は、メーカーにより異なる[12]。35mm判・35mmフルサイズの場合は、望遠側の焦点距離が200mm以上のレンズとなっている。特に近年ではカメラ初級者などに人気が高いが、テレ端、ワイド端で収差が目立つものもあり、さらにテレ側の開放値が概ね5.6以上と大きく、暗いところの撮影に不向きである。

またレンズ交換式でないデジタルカメラの多くは標準ズームレンズ、高倍率ズームレンズと解釈できるレンズを搭載している。

標準ズームレンズの歴史[編集]

世界で最初の35mm判(ライカ判)カメラ用標準ズームレンズは、1959年に発売されたフォクトレンダーの「ズーマー36-82mmF2.8」である。

日本国内では、1963年12月にニコンから発売されたレンズ組み込み式一眼レフカメラ「ニコレックスズーム35」に搭載された43-86mmF3.5(通称「ヨンサンハチロク」)である。35mm判の対角線長は43.3mmであり、対角線長を基準とすると広角側の43mmは標準レンズに相当する。しかし、35mm判標準レンズの標準である50mmからすると若干広角である。 当初35-70mmで設計を進めていたが、収差補正を行なううちに焦点距離が長くなったという。またそれ以前の1961年にはオートニッコールワイドズーム35-80mmF2.8-4が発表されていた[13]。 なお、これらのズームレンズには光学補正方式を採用している。ズーミングにより焦点が甘くなってしまうが、当時は複雑で精密なカムを量産する技術が確立されていなかったため不可避であった。NC(数値制御)工作機械の登場以降はカムによる機械補正方式となり、ズーミングによる焦点の移動は完全に近く補正されるようになる。

ニコレックスシリーズは商業的に成功したとは言えなかったが、ニコンはヨンサンハチロクをニコンF用交換レンズとした「ズームニッコール オート43-86mmF3.5」を発売、ズーム比が2倍で画質も良いとは言えないものの当時単焦点標準レンズの代わりとなる小型軽量のズームレンズは他になく、人気商品となった。

1973年12月に、キヤノンから「FD35-70mmF2.8-3.5S.S.C.」が発売された。1979年には改良を加え「ニューFD35-70mmF2.8-3.5」となり、1982年ごろまで販売された[14]

1980年代に入るとタムロンシグマトキナーなどのレンズメーカーから安価な35-70mmレンズが発売され、標準ズームが普及するようになった。

フォーマットと対角線長[編集]

フィルムカメラ[編集]

フォーマット(通称) 実画面サイズ 対角線長 感材
ポケットインスタマチック 13×17mm 21.4mm 110
インスタマチック 26×26mm 36.8mm 126
ハーフ判 24×18mm 30.0mm 135
35mm判(ライカ判) 24×36mm 43.3mm
6x4.5cm判 56×41.5mm 69.7mm 120/220[15]
6x6cm判 56×56mm 79.2mm
6x7cm判 56×69.5mm 89.3mm
6x8cm判 56×76mm 94.4mm
6x9cm判 56×82.6mm 99.8mm
4x5in判 86×120mm 148.0mm シートフィルム[16]
95×120mm 153.0mm

デジタルカメラ[編集]

フォーマット(通称) 撮像素子サイズ 対角線長 デジタルカメラの種類
35mmフルサイズ 24×36mm 43.2mm 35mm判(ライカ判)相当のイメージセンサーを搭載するDSLR[17]
APS-Cサイズ 23.4×16.7mm[18] 28.7mm APS-Cサイズ相当のイメージセンサーを搭載するDSLR
APS-Cサイズ相当のイメージセンサーを搭載するコンパクトデジタルカメラ[19]
フォーサーズシステム
(マイクロフォーサーズシステム)
17.3×13mm 21.63mm 4/3in相当のイメージセンサーを搭載するDSLR
1/1.8in 7.18×5.32mm 8.93mm コンパクトデジタルカメラ
1/2in 6.40×4.80mm 8.00mm コンパクトデジタルカメラ
1/2.5in 5.76×4.29mm 7.18mm コンパクトデジタルカメラ

脚注[編集]

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  1. ^ 35mmDSRについてメーカー各社の表記
    キヤノン - 「35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ」(キヤノン EOS-1V[1]
    ニコン - 「モーター内蔵35mm一眼レフレックス電子制御式フォーカルプレーンシャッターオートフォーカスカメラ」(ニコン F6[2]
    ミノルタ - 「レンズ交換式フラッシュ内蔵35mmAF・AE一眼レフカメラ」(ミノルタ α-9[3]
    ペンタックス - 「TTLストロボ内蔵 TTL AE・AF35mm一眼レフカメラ」(ペンタックス MZ-L[4]
  2. ^ a b ライカ判…2011年現在、ライカカメラAGは公式サイトにおいて「ライカ判」の名称を用いずに「35mmフィルム[5]」・「35mm判レンズ[6]」・「35mmフルサイズ(36×24mm)[7]」・「the full 35-mm format (24 × 36 mm)[8] (英語)」と表記している。
    本項においても、ライカ・キヤノン・ニコンなどの各メーカーの公式サイトにおいて用いられている「35mm」(「35mm判」)と表記する。
  3. ^ 一眼レフカメラのこと。SLR…Single-Lens Reflexの略。
  4. ^ デジタル一眼レフカメラのこと。Digital Single-Lens Reflexの略。
  5. ^ 40mm - EF40mm F2.8 STMを「単焦点レンズ 標準」に分類している。
  6. ^ キヤノンでは28mmもAPS-CサイズDSLR用の標準レンズに近いレンズとしている。
  7. ^ ソニーでは、30mmもAPS-CサイズDSLR用の標準レンズに近いレンズとしている。
  8. ^ ニコンでは、60mmマクロも標準(系)マクロとしている。
  9. ^ 「EF24-105mm F4L IS USM」をAPS-CサイズのDSLRに装着した時の焦点距離イメージは、35mm判換算で38-168mm相当となる。
  10. ^ 「EF-S17-55mm F2.8 IS USM」の35mm判換算の焦点距離イメージは、27-88mm相当。
  11. ^ 「EF-S18-200mm F3.5-5.6 IS」の35mm判換算の焦点距離イメージは、29-320mm相当。
  12. ^ キヤノンの場合、35mm判換算で29-320mm相当の焦点距離を持つ「EF-S18-200mmF3.5-5.6IS」を「EF-Sレンズ」に分類し、「高倍率ズームレンズ」と表現している。しかし、「EF28-300mmF3.5-5.6L IS USM」は、同等の焦点距離を持つレンズだが「望遠ズーム」に分類し「高倍率Lズーム」と表現している。
  13. ^ 『アサヒカメラ』2008年6月号、p.103
  14. ^ 『こだわりのレンズ選び』写真工業出版社、2003年、p126-127。
  15. ^ 120/220フィルムの実画面サイズは一例である。
  16. ^ シートフィルムの実画面サイズは一例である。
  17. ^ DSLRのイメージセンサーのサイズは、各社で異なる。
  18. ^ APS-CサイズDSLRのイメージセンサーのサイズは、メーカーにより異なる。詳細は、「APS-Cサイズ#各社のAPS-Cサイズ」を参照。
  19. ^ APS-Cサイズ相当のイメージセンサーを搭載するコンパクトデジタルカメラ…ライカ X1(2010年現在)

参考文献[編集]

  • 日本写真学会写真用語委員会 編 『写真用語辞典』 写真工業出版社1976年
  • 小倉磐夫 『カメラと戦争』光学技術者たちの挑戦、朝日文庫2000年ISBN 4-02-261309-2
  • 小倉敏布 『クラシックカメラ選書2 写真レンズの基礎と発展』 朝日ソノラマ、1995年
  • 吉田正太郎 『カメラマンのための写真レンズの科学 〈新装版〉』 地人書館、1997年
  • 田中希美男・並木 隆・佐々木啓太、他 『交換レンズ活用バイブル』 モーターマガジン社〈MotorMagazinMook・カメラマンシリーズ〉、2010年ISBN 978-4-86279-132-0

関連項目[編集]

外部リンク[編集]