モルゴス

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モルゴス(Morgoth)は、J・R・R・トールキン中つ国を舞台とした小説、『シルマリルの物語』の登場人物。 イルーヴァタールによって作られたヴァラールの一人で、最も力を持つものだった。元々の名前は「力もて立つ者」と言う意味であるメルコール(Melkor)。

概要[編集]

メルコールはヴァラールの中でも最強の存在であり、他のヴァラの能力を少しずつ併せ持っていた。だがこの力を悪しき方向に使い、兄弟であるマンウェの王国を力で奪い取る事に費やした。この反逆を持ってメルコールと言う名を奪い去られヴァラールとしての資格を奪われる。

マイアールの中にはかれの力に畏怖し、仕える者も現れた。サウロンバルログと呼ばれる者たちがそれである。また、エルフを捕らえて拷問でねじ曲げ、邪悪なオークを創り出したほか、のような怪物も多数生み出している。

しかし数多いしもべに悪意を注ぎ込んで繰り出すうちに、本来は並ぶ者のないメルコール自身の力は少しずつ損なわれ、弱まっていった。アイヌアなら誰でもできる、肉体を棄てて不可視の姿に戻ることさえ、後にはできなくなった。

経歴[編集]

世界の創造[編集]

世界が始まる前、メルコールは存在するものを生み出したいばかりに「不滅の炎」を求めてしばしば虚空をさまよった。だが単独行動が過ぎるあまり、次第に独自の考えを抱くようになっていった。そして世界創造の歌アイヌリンダレが歌われる際、イルーヴァタールの意思に反して、かれは3度にわたって音楽に自分の曲を織り込んで合唱を乱した。このときイルーヴァタールに叱責されても考えを改めることなく、歌の主題が実在となって地球世界アルダが誕生すると、それをわがものにしようとした。マンウェにたしなめられていったんは退いたものの、ヴァラールが美しい地上を歩く姿を見て嫉妬に燃え、自らも肉体をまとうと同胞たちに戦いを挑んだ。しばらくは優勢だったが、トゥルカスが参戦するとアルダからの逃走を余儀なくされた。

灯火の時代[編集]

ヴァラールが中つ国にアルマレンの国を築き、「アルダの春」と呼ばれる平和な時代を謳歌しているさなか、メルコールはひそかに要塞ウトゥムノを北方に建造していた。ヴァラールはかれの帰還を察知したが、準備を整える前に奇襲を受け、アルマレンを照らしていた二つの巨大な灯火を破壊されてしまった。このときアルダがこうむった被害は甚大で、ヴァラールが最初に構想した世界は決して実現しなくなってしまった。

復讐を終えたメルコールはウトゥムノにこもり、災害の鎮圧で手一杯のヴァラールにはかれを追撃する余裕はなかった。やむなくヴァラールは中つ国を去り、西方大陸アマンに移り住んだ。邪魔者の居なくなったメルコールは第二の要塞アングバンドを建造して、さらに勢力の拡大を図った。

二本の木の時代[編集]

ヴァラールが新たにアマンに築いたヴァリノールの国は二つの木によって美しく照らされたが、その光は中つ国にまでは届かず、時おりヤヴァンナやオロメが訪れる以外にメルコールの支配を脅かすものは何もなかった。だがやがてヴァルダが新しい星々を天に輝かせ、エルフを目覚めさせた。早速メルコールはかれらを惑わそうとし、一部のものを捕らえてオークへとねじ曲げてしまった。オロメの報告を受けたヴァラールは、エルフ救出のために出陣してウトゥムノを攻略した。激しい戦いの末、メルコールはトゥルカスに組み伏せられ、アウレの鎖アンガイノールによって縛り上げられた。

ヴァリノールに連行されたメルコールはマンドスの砦に投獄され、三期のあいだ幽閉された。その後再びヴァラールの前に引き出されたかれは、へりくだって改心したふりをして見せた。そして実際に人々を助けて回ることで周囲を油断させつつ、ノルドール族に目をつけてかれらの間に不和の種をばら撒いていった。メルコールが何より欲したのは、フェアノールが作り出した宝玉シルマリルである。ノルドールの叛意を焚きつけるまではかれの目論見どおりになったが、フェアノールに悪意を見抜かれたメルコールは、いったんはアマンから行方をくらませた。

首尾よく追っ手をまいたメルコールは、大蜘蛛ウンゴリアントをつれてアマンを急襲した。ウンゴリアントの放つ闇でヴァリノールの国は大混乱に陥り、二つの木は枯れ果ててしまった。その隙にメルコールはフェアノールの父フィンウェを殺害してシルマリルを奪い、氷の海峡ヘルカラクセを渡って中つ国へ逃亡した。しかし力を与えすぎたウンゴリアントを制御できず、宝玉はおろか自分自身さえ喰われそうになり、大地を揺るがす絶叫を上げた。アングバンドから駆けつけたバルログがウンゴリアントを追い払い、一命を取り留めたメルコールはシルマリルを鉄の王冠にはめ込むと、世界の王を称して中つ国に君臨した。これより彼は、モルゴス、黒き敵などと呼ばれるようになる。

第一紀[編集]

中つ国北西部ベレリアンドをめぐって、モルゴスは何度もエルフたちに戦いを仕掛けた。まず、アマンには渡らなかったシンダール族を襲い、撃退はされたものの大きな損害を与えた。次にノルドールがかれを追って中つ国までやってきたのを知ると、ただちに軍勢を差し向けた。これが「星々の下の合戦」ダゴール・ヌイン・ギリアスである。このときのオーク勢はほぼ全滅したが、深追いしてきたフェアノールがバルログの首領ゴスモグに討ち取られたことでモルゴスは喜んだ。

アングバンドの包囲[編集]

やがてノルドールがベレリアンドの各地に国を築くに至って、モルゴスはまたも攻撃を仕掛けた。しかしオーク兵は1人残らず滅ぼされ、以後アングバンドは400年にわたって包囲された。この間、フィンゴルフィンへの奇襲が失敗したり、新しい怪物「」のグラウルングが未成熟のまま這い出して撃退されたりと、モルゴスの計画は思うように進まなかった。かれはシンダールや新たに目覚めた人間に悪意ある噂を流しつつ、時節を待って力を蓄えた。

ダゴール・ブラゴルラハ[編集]

そして、ついに包囲を破ったモルゴスは「俄かに焔流るる合戦」ダゴール・ブラゴルラハを仕掛け、ノルドールとかれらに味方する人間を散々に打ちのめした。だが怒りに燃えるフィンゴルフィンがアングバンドの門前に現れて一騎打ちを申し込んだため、配下の手前モルゴス自身も姿を現さざるを得なくなった。かれは黒い鎧をまとい、鉄槌グロンドと黒い盾を構えて決闘に臨んだ。フィンゴルフィンはモルゴスに7度斬りつけ、ついに力尽きて地面にたおれはしたが、最期の力で敵の左足に深手を負わせた。モルゴスはエルフ王の亡骸を狼に与えようとしたが、の王ソロンドールが飛来して顔を鉤爪で引っかき、フィンゴルフィンの遺体を運び去った。戦争におけるモルゴスの勝利は大きかったが、かれ自身が負った傷はこの後も癒えることはなかった。

シルマリルの奪還[編集]

モルゴスはなおもエルフや人間の諸国に攻勢をかけるのをやめなかった。その一方で守りをかためることも欠かさず、アングバンドには最強の魔狼カルハロスを控えさせていた。ところがかれの思っても見なかったことに、エルフの姫君ルーシエンと人間の勇士ベレンが玉座にまで侵入してきた。モルゴスはルーシエンの美しさに眼を奪われているうち、かの女の歌声の心地よさに眠り込んでしまい、ベレンによって冠からシルマリルの1つを奪い返されてしまった。目覚めたモルゴスはカルハロスを追っ手に差し向けたが、狼が戻ってくることはなかった。

ニアナイス・アルノイディアド[編集]

モルゴスといえど無敵ではないことを聞き知ったマイズロスは勢いづき、一大連合を形成してアングバンドを攻めた。モルゴス軍は一時追い詰められたが後に盛り返し、東夷の裏切りによって勝利を決定的なものにした。この戦いを称して「涙尽きざる合戦」ニアナイス・アルノイディアドという。ほとんど何もかもがモルゴスの意図したとおりに運んだが、かれがアマンにいたときから警戒していたトゥアゴンを捕らえることだけはできなかった。そこでモルゴスは、トゥアゴンと親しい人間の戦士フーリンを捕縛して28年の間拘禁し、その後慈悲を装って解放した。トゥアゴンに呼びかけるフーリンの行動によって隠れ王国ゴンドリンの所在をつかんだモルゴスは、ついにこの残り少ないエルフの拠点を陥落させた。しかしこのとき、トゥアゴン王の孫に当たるエアレンディルは無事に落ち延びていたのである。

怒りの戦い[編集]

成長したエアレンディルとその妻エルウィングは、大海を渡ってアマンにたどり着き、ヴァラールに中つ国の窮状を訴えて救いを求めた。こうしてヴァリノールからかつてない規模の軍勢が出撃し、西方からの干渉はもはやないと高をくくっていたモルゴスに決戦を挑んだ。モルゴスは全兵力で迎え撃ち、最終兵器の空飛ぶ竜まで投入したがついに破れた。再びアンガイノールの鎖で縛られたかれは、夜の扉の向こうの虚空に放逐され、エアレンディルによって見張りを受け続けることになった。

こうしてモルゴスはもはやアルダに手を出すことはできなくなったが、かれがエルフや人間の心に撒いた悪の種は決して消えることはなかった。

やがて起こるアルダ最後の戦い、ダゴール・ダゴラスにおいて虚空より帰還し、ヴァラールらとの戦いでマンドスの館から戻ったトゥーリンに心臓を貫かれ滅びるといわれている。