コンテンツにスキップ

クレーム・ド・カシス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
クレームドカシスから転送)
クレーム・ド・カシス
(ヴェドレンヌ社)

クレーム・ド・カシス (Crème de Cassis) は黒すぐり原料とした、甘味の強い深紫色のリキュールである。様々なカクテルに使われる他、そのまま(ストレート)でも楽しまれる。

歴史

[編集]

ヨーロッパでは古来よりビタミンCを豊富に含むクロスグリの薬効が見出されており、他のリキュール同様にとして飲用されていた。今のようなタイプのクレーム・ド・カシスは1841年フランスブルゴーニュ地方で登場し、それまで飲用されていたラタフィア・ド・カシス ("Ratafia de Cassis"、「カシス果実酒」)という黒すぐりのリキュールにとってかわった。最初に販売したのはルジェ・ラグート社である。これは黒すぐりを中性スピリッツの中で破砕し、砂糖を加えたものである。クレーム・ド・カシスはブルゴーニュの特産であるが、フランスの他の都市やルクセンブルクカナダケベック州などでも生産されている。クレーム・ド・カシスはフランスにおけるリキュール生産量の25%、果実系リキュールに占める割合としては40%を占める。市場の流通においても専用枠が設けられている。毎年およそ1,600万リットルのクレーム・ド・カシスが生産されており、その大部分がフランス国内で消費され、一部が輸出されている。

製造法

[編集]
原材料のクロスグリ (Ribes nigrum)

ワインの醸造と同様、製造時には果実の鮮度維持が重要である。黒すぐりは収穫してから24時間以内にリキュールの製造に持ち込まねばならない。これは果実の収穫後のビタミンCの酸化が急速に進むためである。果実は−30°Cで保存され、中性スピリッツ中で破砕されたあとは−5°Cでおよそ5週間かけて浸出される。最後に砂糖を加えて果実の酸味と甘味のバランスをとり、ろ過すれば完成する。クレーム・ド・カシスは蒸留を経ていないリキュールであり、温度変化や酸化に弱い。開栓後はその都度密封して冷蔵保存する必要がある。

品質規定

[編集]

カシス以外の果実系リキュールはEUの規定により、1リットルあたり250グラムの糖を含有すると「クレーム・ド」の表示が可能となる。しかしクレーム・ド・カシスだけは例外で、1Lあたり400g以上の糖を含まなければこれを名乗ることができない。また15度以上のアルコール度数も要求され、多くの製品は16〜20度に調整されている。

クレーム・ド・カシスの品質は、使用する果実の量や製造工程とともに、黒すぐり自体の品質の影響を受ける。ブルゴーニュ地方の中でもコート=ドール地区産の黒すぐりのみを使ったクレーム・ド・カシスは、AOCの規定に則り「クレーム・ド・カシス・ド・ディジョン」 (Crème de Cassis de Dijon) を名乗ることが許される。また1997年より、使用する果実の量と共に手作りのレシピの遵守を条件としたAOC「クレーム・ド・カシス・ド・ブルゴーニュ」 (Crème de Cassis de Bourgogne) の取得を目指す動きもある。

飲用法・利用法

[編集]
キールとその材料

クレーム・ド・カシスは甘味が強いのでストレートでの飲用には向かないが、ロックで飲まれるほか様々なカクテルに使われる。カシス・ソーダカシス・オレンジのように、ソーダトニック・ウォーターといった炭酸飲料や、柑橘類の果汁で割るのが一般的である。他にも以下のようなカクテルが作られている。

カクテルの他にもクレーム・ド・カシスは、ババロアシャーベットなどのデザート作りに活躍するほか、ブラジルのクリーム・ド・パパイヤのように、クレーム・ド・カシスをかけて食すデザートもある。また、主に赤ワインの風味を補う目的で、料理酒として用いられる。テーブルビートポタージュのような野菜料理の甘味に厚みを加えることも可能である。

関連項目

[編集]

参考文献

[編集]
  • 大槻健二 監修 『リキュールとカクテルの辞典』 成美堂出版、1999年。ISBN 4-415-00835-6
  • 渡邉一也 監修 『リキュール&カクテル大辞典』 ナツメ社、2004年。ISBN 4-8163-3734-2
  • 谷昇 著 『ル・マンジュ・トゥー 素描するフランス料理』 柴田書店、2003年。ISBN 978-4-388-05905-8

外部リンク

[編集]