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警察の暴力、または警察による残虐行為は、警察官が一般市民に対して不当または過剰な力を行使し、市民権を侵害する行為である。これには、身体的な傷害嫌がらせ、身体的または精神的な加害や暴言物的損害、および殺害等が挙げられる[1]

世界的な発生事例

シドニー大学で活動家に対して違法な極技を使用するオーストラリア警察。

警察官は、警察権の発動による実力行使を政府により許可されているが、本来は過度な暴力に傾かぬ用に警察比例の原則があり、それが法文化されている国も多い。しかし、警察による暴力は、全体主義的な国を始め、民主主義国家でも広く横行している[2]

人種プロファイリングによる警察の暴力

警察官が、特定の人種の人に対して過度な疑惑を抱く事(レイシャル・プロファイリング)で、人種的マイノリティは警察の暴力の対象となりやすい[3][4]

特に近年、アメリカ合衆国において、白人警察官によるアフリカ系アメリカ人に対する暴力、殺害事件に対しての抗議運動が活発化している。2012年、フロリダ州における白人自警団によるトレイボン・マーティン射殺事件を機に活発化した、抗議活動ブラック・ライヴズ・マターが始まる。2014年の白人警察官によるエリック・ガーナー窒息死事件マイケル・ブラウン射殺事件を受けて、ファーガソンを中心に全米にデモが拡大した(en:Ferguson unrest)。

2020年5月、ミネソタ州ミネアポリスで知能犯罪の疑いを受けたジョージ・フロイドが、警察官の膝で首を8分46秒押さえつけられ死亡した。それにを受けて、ミネアポリスを中心に全米で抗議活動が行われている(ジョージ・フロイド殺害に対する抗議活動)。

日本においても、外国人犯罪の深刻度を警察庁の広報が過度に強調しているとの批判がある[5]。2020年5月には、渋谷区で在日クルド人男性が、根拠のない疑いにより押さえつけられる様子が動画に撮影され、後日、渋谷警察署前でデモが行われた[6]

集会参加者に対する警察の暴力

集会の自由の原則がある国においても、デモやストライキなどの政治集会に対して、警察が治安維持の名目で武力を行使する事例が見られる。

2012年には、南アフリカのマリカナ鉱山で労使交渉を目的とした労働者と警察隊の間で武力衝突がおき、47人が死亡した(マリカナ鉱山における労使対立)。警察隊の労働者への発砲は、現地メディアでは大量虐殺 (massacre)と表現された[7][8]

2013年のトルコ反政府運動において、強権主義的な政府に対する反対運動に対して、政権側が警察を導入してデモの鎮圧化を謀った。最終的に、2人の死者、数千人の負傷者と多くの逮捕者を出した[9]

2019年-2020年香港民主化デモは、逃亡犯条例改正案に反対するデモとして始まり、最大約200万人の参加者(主催者発表)とする巨大なデモと発展した。デモ隊と警察隊の衝突は過激化し、警察は実弾発砲を含む武力行使で対応し、多くの死傷者と逮捕者が出ている。ゴム弾を用いて意図的にデモ参加者の頭部を狙うなど[10][11][12] 、多くの警察による暴力が報告された。また、デモ参加者に対するレイプを含む性暴力、失踪事件、建物からの落下による死亡などについて、警察の関連が疑われている[13][14][15][16][17][18]

発生の構造

ロンドンで警察官に地面に押しつけられ、死亡したIan Tomlinson (2009年).
郵便局占拠に対する強制排除事の警察による暴力に抗議するデモ バンクーバー・カナダ(1938年)

警察官の暴力行為の原因として、トラウマなどの警察官個人の精神病質が指摘されることがある[19]。しかし、このような「腐ったリンゴ理論」は、警察組織の構造にある根本的な問題を無視した、スケープゴートであるという指摘がある。王立カナダ騎馬警察によるレポートによると、「腐ったリンゴ理論」は警察組織や管理職の警官が、根本的な組織的問題を是正せず、個々の警察官の資質の問題にすり替える、単純化された言い訳だと指摘する[20]

同レポートでは、警察組織の構造的な問題として、以下を指摘した。

  • 警察の組織内に警察風土、警察職業文化に従う同調圧力が存在する事。
  • 警察内の不祥事汚職を、見て見ぬ振りをする警察風土(Blue Code of Silence)により、違法行為を行う警察官とそれを支持する犯罪者母体が継続的に存在すること。
  • 上司からの命令が絶対であるなど、強固な権威主義的な縦社会であること(より強固な権威主義である組織ほど、個人による倫理的な決断ができないという研究もある)。
  • 警察組織内に内部調査などの自浄機能が欠如している事。

ニューヨーク大学教授、Jerome Skolnickによると、警察で働く人の中には、徐々に社会に対して権力的な感覚を持ち、自身は法の上に立っている、という認識を持つ場合がるという[21]。この様な警察官の職業的人格形成は、個人の資質でなく、組織の職業文化に依存する事も指摘されている[22]。日本においても警察の職業文化は確認され、法執行経験や治安維持経験が、警察官の権威主義的パーソナリティを強固にしていると報告された[22]

関連項目

脚注

  1. ^ Emesowum, Benedict (2016-12-05). “Identifying Cities or Countries at Risk for Police Violence”. Journal of African American Studies 21 (2): 269–281. doi:10.1007/s12111-016-9335-3. ISSN 1559-1646. 
  2. ^ Amnesty International Report 2007”. Amnesty International (2007年). 2007年8月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月1日閲覧。
  3. ^ “Why do US police keep killing black men?” (英語). BBC News. (2015年5月26日). https://www.bbc.com/news/world-us-canada-32740523 2018年10月23日閲覧。 
  4. ^ Powers, Mary D. (1995). “Civilian Oversight Is Necessary to Prevent Police Brutality”. In Winters, Paul A.. Policing the Police. San Diego: Greenhaven Press. pp. 56–60. ISBN 978-1-56510-262-0 
  5. ^ 中島真一郎 (2005). 日本における外国人犯罪の実像 (Report).
  6. ^ “「警官に押さえ込まれけが」 渋谷署前で200人が抗議デモ クルド人訴えに共鳴”. 毎日新聞. (2020年5月30日). https://mainichi.jp/articles/20200530/k00/00m/040/179000c 2020年6月1日閲覧。 
  7. ^ Richard Stupart (2012年8月16日). “The Night Before Lonmin's Explanation”. African Scene. 2012年8月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年8月17日閲覧。
  8. ^ Monde Maoto and Natsha Marrian (2012年8月17日). “BDlive”. BDlive. 2012年8月17日閲覧。
  9. ^ “トルコ反政府デモ5夜連続、政府の陳謝でも鎮静化せず”. AFPBB News (フランス通信社). (2013年6月5日). http://www.afpbb.com/article/politics/2947932/10852205 2020年6月1日閲覧。 
  10. ^ Hong Kong police declare China extradition protest 'a riot' as rubber bullets and tear gas fired at crowd”. CNN. 2019年6月12日閲覧。
  11. ^ “Hong Kong police fire rubber bullets as extradition bill protests turn to chaos”. Reuters. https://www.reuters.com/article/us-hongkong-extradition/hong-kong-police-fire-rubber-bullets-as-protests-turn-to-violent-chaos-idUSKCN1TC1WR 2019年6月12日閲覧。 
  12. ^ Hong Kong extradition: Police fire rubber bullets at protesters”. 2019年6月12日閲覧。
  13. ^ 郭文貴爆驚人事實:美國議員、政界人士看到陳彥霖的照片哭了”. www.cmmedia.com.tw. 2019年11月12日閲覧。
  14. ^ 科大生周梓樂留院第5日 今晨8時不治”. Apple Daily 蘋果日報. 2019年11月12日閲覧。
  15. ^ 香港警察已成人類文明的惡夢 | 甄拔濤 | 立場新聞” (英語). 立場新聞 Stand News. 2019年11月12日閲覧。
  16. ^ 港網憤傳少女遭港警輪姦墮胎 警方啟動調查” (中国語). RFI - 法國國際廣播電台 (2019年11月9日). 2019年11月12日閲覧。
  17. ^ 正在香港採訪的德國記者在美國社群媒體發文:香港警察比IS更可怕” (中国語). RFI - 法國國際廣播電台 (2019年11月11日). 2019年11月12日閲覧。
  18. ^ Police Misconduct in 2019 Hong Kong Democratic Movement” (英語). 2019 Hong Kong Democratic Movement (2019年11月14日). 2019年11月14日閲覧。
  19. ^ Scrivner, "The Role of Police Psychology in Controlling Excessive Force" 1994: 3–6
  20. ^ Loree, Don (2006年). “Corruption in Policing: Causes and Consequences; A Review of the Literature”. Research and Evaluation Community, Contract and Aboriginal Policing Services Directorate. Royal Canadian Mounted Police. 2007年9月1日閲覧。
  21. ^ Skolnick, Jerome H.; Fyfe, James D. (1995). “Community-Oriented Policing Would Prevent Police Brutality”. In Winters, Paul A.. Policing the Police. San Diego: Greenhaven Press. pp. 45–55. ISBN 978-1-56510-262-0 
  22. ^ a b 吉田如子 (2010). “日本における警察官職業文化一調査票調査によって一”. 法社会学 (72): 250-283. doi:10.11387/jsl.2010.72_250. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsl/2010/72/2010_250/_article/-char/ja/.