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==生体==
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ホルムアルデヒドはアミノ酸や生体異物を代謝する際、内因的に生成し、ホルムアルデヒドに暴露されていない人でも、血液中ホルムアルデヒド濃度が2.61 ± 0.14 μg/g(ほぼ2.6ppm)との報告がある<ref>[http://www.safe.nite.go.jp/japan/sougou/data/pdf/risk/pdf_hyoukasyo/310riskdoc.pdf 化学物質の初期リスク評価書] - 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター</ref>。
ホルムアルデヒドはアミノ酸や生体異物を代謝する際、内因的に生成し、ホルムアルデヒドに暴露されていない人でも、血液中ホルムアルデヒド濃度が2.61 ± 0.14 μg/g(ほぼ2.6ppm)との報告がある<ref>[http://www.safe.nite.go.jp/japan/sougou/data/pdf/risk/pdf_hyoukasyo/310riskdoc.pdf 化学物質の初期リスク評価書] - 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター</ref>。
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ホルムアルデヒドはさまざまな要因により生体内で生成する。<ref name="He2017">{{cite book
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;生成
===生成の例===
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[[一炭素代謝]](one carbon metabolism)と呼ばれる代謝回路で[[葉酸]]の酸化的分解によりホルムアルデヒドが生成されると2017年に研究結果が発表された。<ref>{{cite journal
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===防御機構===
ホルムアルデヒドは有毒であり、生体防御機構が存在する。
ホルムアルデヒドは有毒であり、生体防御機構が存在する。
:;DNA修復
:;DNA修復

2018年11月10日 (土) 09:12時点における版

ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒドの構造式 分子模型
識別情報
CAS登録番号 50-00-0
E番号 E240 (防腐剤)
KEGG D00017 (医薬品)
C00067
特性
化学式 CH2O
モル質量 30.03
外観 無色気体
密度 0.8153 g/mL 液体
相対蒸気密度 1.08
融点

−92 °C, 181 K, -134 °F

沸点

−19.3 °C, 254 K, -3 °F

への溶解度 非常によく溶ける
危険性
安全データシート(外部リンク) MSDS
EU分類 有毒 T
EU Index 605-001-00-5
NFPA 704
4
3
0
Rフレーズ R23/24/25 R34 R40 R43
Sフレーズ (S1/2) S26 S36/37/39 S45 S51
引火点 64 °C (147 °F)
発火点 430 °C (806 °F)
爆発限界 7–73%
半数致死量 LD50 100 mg/kg (oral, rat)
関連する物質
関連する官能基 アルデヒド基
(ホルミル基)
出典
ICSC
NIST webbook
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ホルムアルデヒド (formaldehyde) は有機化合物の一種で、最も簡単なアルデヒド。毒性は強い。分子式 CH2O、または COH2、示性式 HCHO。酸化メチレンとも呼ばれ、IUPAC命名法では メタナール (methanal) と表される。CAS登録番号は [50-00-0]。

製法・性質

触媒存在下にメタノールを空気酸化して得られる。さらに酸化が進むとギ酸となる。融点 −92 ℃、沸点 −19.3 ℃、分子量 30.03である。刺激臭を持つ無色の気体である。

などの極性溶媒に可溶で、37% 以上の水溶液はホルマリンと呼ばれる。ホルムアルデヒド及びホルマリンを含むホルムアルデヒド水溶液は、毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されている。簡単に重合し、無水のものはトリオキサン(CH2O)3、水溶液からはパラホルムアルデヒドHO(CH2O)nH を生ずる。

フェノール樹脂メラミン樹脂尿素樹脂などの原料としても広く用いられる。

ホルマリンの2016年度日本国内生産量は 986,893トン、工業消費量は562,782トン である[1]

生体

ホルムアルデヒドはアミノ酸や生体異物を代謝する際、内因的に生成し、ホルムアルデヒドに暴露されていない人でも、血液中ホルムアルデヒド濃度が2.61 ± 0.14 μg/g(ほぼ2.6ppm)との報告がある[2]

生成要因

ホルムアルデヒドはさまざまな要因により生体内で生成する。[3]

  • 食事摂取(メタノールなどを消化代謝してホルムアルデヒドが生成)
  • 生体内メチルアミンの脱アミノ
  • 生体内の脂肪、糖、タンパク質から
  • 一炭素代謝からの生成
  • DNA、RNA、ヒストンなどの脱メチル化
  • 腸内細菌による生成
  • 酸化ストレスによる生成

生成の例

一炭素代謝(one carbon metabolism)と呼ばれる代謝回路で葉酸の酸化的分解によりホルムアルデヒドが生成されると2017年に研究結果が発表された。[4][5][6][7] とりわけ、5,10-メチレン-THFTHFDHFが酸化的分解を受けやすいとしている。

防御機構

ホルムアルデヒドは有毒であり、生体防御機構が存在する。

DNA修復
ホルムアルデヒドによるDNA損傷を修復する機構がある。
解毒
生成したホルムアルデヒドは、グルタチオンと反応しHM-GSHとなり、酵素のADH5によりF-GSH、さらに別酵素のFGHによりギ酸となり、再び一炭素代謝の原料になると発表された。

人体への影響

人体へは、濃度によって粘膜への刺激性を中心とした急性毒性があり、蒸気は呼吸器系、目、のどなどの炎症を引き起こす。皮膚や目などが水溶液に接触した場合は、激しい刺激を受け、炎症を生ずる。ホルムアルデヒドはWHOの下部機関である国際がん研究機関によりグループ1の化学物質に指定され、発癌性があると警告されている。

いわゆる「シックハウス症候群」の原因物質のうちの一つとして知られる[8]。建材、家具などから空気中に放出されることがあり、濃度によって人体に悪影響を及ぼす。

なお、2009年国際がん研究機関のモノグラムでは、骨髄性白血病の原因物質として特定されている。2010年米国環境保護庁(EPA)統合リスク情報システム“Integrated Risk Information System”(IRIS) [11]では白血病ホジキンリンパ腫、上咽頭ガンのユニットリスク[12] (Toxicological review of formaldehyde- inhalation assessment ) が公表されており、年齢による感受性の違い(Age-Dependent Adjustment Factor, ADAF)を考慮したユニットリスクは1.1×10-4μg-1m3(生涯1μg/m3の環境下において1万人あたり1.1名がホルムアルデヒドを原因とするガンになるという確率)としている。このユニットリスクではホルムアルデヒドの日本の室内環境ガイドライン(100μg・m3:短期暴露)と比較して1,000倍厳しい数値となる。参考までに大気環境基準のベンゼンでは許容できる発ガンリスクとして10-5が運用されており、ホルムアルデヒドの10-4は10倍厳しい数値となる。なお、IRISによるユニットリスクでは年齢による感受性の違い(ADAF)を「成人と比較して2歳児未満の乳児に対して10倍、16歳未満の若年層には3倍のリスクがある」と結論付けている。またホルムアルデヒド暴露と小児喘息に関する複数の疫学研究を総合的に評価(Systematic Review)した結果、有意な関連性があると結論付けている。(例:暴露濃度=100μg・m3の相対危険度(オッズ比)は非暴露郡に比べ4.8倍:McGwin et al., Environ. Health Pespect., 118,313(2010))2011年フランスでは、公共の保育所、学校等の指針値を現在の100μg・m3から2015年には30μg・m3(長期曝露も考慮)・2023年から10μg・m3(長期曝露も考慮)とする省令[13]が施行されている。

用途

接着剤塗料防腐剤などの成分であり、安価なため建材に広く用いられている。エンバーミングにおいてもこの希釈液が用いられる事が多い。

1948年10月30日から1990年11月22日まで農薬登録を受け、殺菌剤として稲のいもち病やジャガイモの黒あざ病防除に種子消毒の形で使用された[9]

ホルムアルデビドの水溶液はホルマリン水溶液として理科室の標本としておかれていることも多い。

食品

水道水にはホルムアルデヒドの水質基準値が存在する。また、食品衛生法でもホルムアルデヒドが規制されている。しかし、一部の魚類[10][11]や椎茸(乾燥椎茸と一部の生鮮椎茸[12])など、(健康に影響の無い範囲であるものの)ホルムアルデヒドが含まれている天然食材が存在する。

規制

いわゆる「シックハウス症候群」の対策として現在、建築基準法によりホルムアルデヒドを放散する建築材料の使用制限が設けられている[13]。建築材料には、放散量によって制限を受けない低放散量のF☆☆☆☆から内装への使用制限を受けるF☆☆までのランクがあり、ランク外の物は内装仕上げには使用できない。また、天井裏等にはF☆☆以下は使用できない。

居室内の気中濃度としてWHO厚生労働省により 0.08 ppm の指針値が設けられている。しかし、現在のところ、性能規定や指針値を超えた場合の罰則等はない。

化粧品においては、DMDMヒダントインやイミダゾリジニル尿素を含んでるものは、医薬品医療機器等法及び同施行規則で「ホルムアルデヒドに過敏な方および乳幼児のご使用はおさけください。」と記載することが義務付けられている[14]

利根川水系の浄水場におけるホルムアルデヒド検出事故

2012年5月、利根川水系の浄水場で、水質基準値1リットルあたり0.08mgを上回る最大0.168mgのホルムアルデヒドが検出される事故が発生した[15]。原因は、埼玉県の化学メーカーが委託した高崎市産業廃棄物処理業者が利根川に処理水を廃棄した際に、廃液に含まれるヘキサメチレンテトラミン(HMT)が塩素と反応してホルムアルデヒドが生成されたと特定された(ホルムアルデヒドが直接流出したわけではない)[15][16]。この産廃業者は化学メーカーから廃液65.91トンを受託し、中間処理をほどこしたうえで放流した。このうち廃液にはHMTが国の調査の0.6~4トン[17]、埼玉県・群馬県・高崎市の調査で6トンが流入したと推計された[16]

脚注

  1. ^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
  2. ^ 化学物質の初期リスク評価書 - 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
  3. ^ Rongqiao He (2017). “chapter2 Metabolism of formaldehyde in vivo”. Formaldehyde and Cognition. Springer. p. Fig.2.1. doi:10.1007/978-94-024-1177-5. ISBN 978-94-024-1177-5 
  4. ^ “Natureハイライト/生化学: ホルムアルデヒドの解毒が一炭素代謝を促進する”. Nature 548 (7669). (2017). https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/88642 2018年11月10日閲覧。. 
  5. ^ “Formaldehyde Detoxification Creates a New Wheel for the Folate-Driven One-Carbon “Bi”-cycle”. Biochemistry 57 (6). (2018). doi:10.1021/acs.biochem.7b01261. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.biochem.7b01261 2018年11月10日閲覧。. 
  6. ^ “生化学:哺乳類は内因性の遺伝毒性ホルムアルデヒドを一炭素代謝へ流用する”. Nature 548 (7669). (2017). doi:10.1038/nature23481. https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/548/7669/nature23481/%E5%93%BA%E4%B9%B3%E9%A1%9E%E3%81%AF%E5%86%85%E5%9B%A0%E6%80%A7%E3%81%AE%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%AF%92%E6%80%A7%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%92%E3%83%89%E3%82%92%E4%B8%80%E7%82%AD%E7%B4%A0%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E3%81%B8%E6%B5%81%E7%94%A8%E3%81%99%E3%82%8B 2018年11月10日閲覧。. 
  7. ^ “Mammals divert endogenous genotoxic formaldehyde into one-carbon metabolism”. Nature 548 (7669). (2017). doi:10.1038/nature23481. PMC 5714256. PMID 28813411. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5714256/. 
  8. ^ 室内環境学会編「室内環境学概論」東京電機大学出版局(2010)シックハウス
  9. ^ 植村振作・河村宏・辻万千子・冨田重行・前田静夫著『農薬毒性の事典 改訂版』三省堂、2002年。ISBN 978-4385356044 
  10. ^ 天然魚類中のホルムアルデヒドについて 長崎県衛生公害研究所報 2003年
  11. ^ 食品安全総合情報システム 食品安全関係情報詳細 syu03410940369 台湾行政院衛生署食品薬物管理局、輸入食品の検査で不合格となった食品を公表 内閣府食品安全委員会 2011年8月16日
  12. ^ しいたけのホルムアルデヒド含有量に関する調査結果について 厚生労働省食品安全部基準審査課 2009年6月19日
  13. ^ 室内環境学会編・関根嘉香監修「住まいの化学物質-リスクとベネフィット―」東京電機大学出版局(2015)ホルムアルデヒド発散建材
  14. ^ 医薬発第九九〇号 化粧品規制緩和に係る薬事法施行規則の一部改正等について (各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省医薬安全局長通知)
  15. ^ a b 群馬県「利根川水系の浄水場におけるホルムアルデヒド検出事案への対応状況について」
  16. ^ a b 「利根川水系の浄水場におけるホルムアルデヒド検出事故」リスクマネジメント最前線、東京海上日動リスクコンサルティング
  17. ^ 「利根川水系におけるホルムアルデヒドによる水道の影響について」厚生労働省平成24年5月24日

関連項目

外部リンク