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[[数学]]および[[理論物理学]]において、[[テンソル]]が添字の対に関して'''反対称''' (''anti­symmetric'') もしくは'''歪対称''' (skew-symmertic) であるとは、それら添字の入れ替えに関して[[正負|符号]]が反転することを言う。また、'''交代的''' (''alternating'') であるとは、それらを等しいと置いたとき零になることを言う。{{仮リンク|係数体|en|base field}}の[[標数]]が {{math|2}} でないときこれら二つの概念は一致する([[多重線型写像]]の項も参照)。
#redirect[[反対称性]]
* 反対称: {{math|''T''{{ind|…''i''…''j''…}} {{=}} −''T''{{ind|…''j''…''i''…}}}}
* 交代: {{math|''i''{{ind|k}} {{=}} ''i''{{ind|''j''}} ⇒ ''T''{{ind|…''i''{{ind|''k''}}…''i''{{ind|''j''}}…}} {{=}} 0}}

もう少し一般に、添字集合の部分集合 {{mvar|J}} に関して反対称(resp. 交代的)とは、{{mvar|J}} の任意の二元に関して反対称(resp. 交代的)となるときに言う<ref>{{cite book| author=K.F. Riley, M.P. Hobson, S.J. Bence| title=Mathematical methods for physics and engineering| publisher=Cambridge University Press| year=2010 | isbn=978-0-521-86153-3}}</ref><ref>{{cite book| author=Juan Ramón Ruíz-Tolosa, Enrique Castillo| title=From Vectors to Tensors | publisher=Springer| year=2005| isbn=978-3-540-22887-5 |url=http://books.google.co.za/books?id=vgGQUrQMzwYC&pg=PA225 |page=225}} section §7.</ref>。添字については、一般に共変添字 (covariant) も反変添字 (contra&shy;variant) も考えるものとする。例えば最初の三文字に関して反対称なテンソルとは
: <math>T_{ijk\dots} = -T_{jik\dots} = T_{jki\dots} = -T_{kji\dots} = T_{kij\dots} = -T_{ikj\dots}</math>
を満足するものである。

任意の添字の{{仮リンク|互換 (数学)|en|Transposition (mathematics)|label=対の入れ替え}}に関して符号を反転するテンソルは'''完全反対称''' (completely anti&shy;symmetric)(もしくは全反対称 (totally anti&shy;symmetric))あるいは単に'''反対称テンソル'''(はんたいしょうテンソル、{{lang-en-short|''anti&shy;symmetric tensor''}})と言う。同様に任意の添え字の対に関して交代的なテンソルを'''交代テンソル'''(こうたいテンソル、{{lang-en-short|''alternating tensor''}})という。{{mvar|p}}-次の完全反対称(あるいは交代)共変テンソルは[[微分形式| {{mvar|p}}-形式]]、完全反対称(あるいは交代)反変テンソルは{{仮リンク|多重ベクトル|label= {{mvar|p}}-ベクトル|en|multivector}}と呼ばれる。

== 例 ==
反対称テンソルの例には以下のようなものが挙げられる:
* [[電磁気学]]における[[電磁テンソル]] {{math|''F''{{ind|&mu;&nu;}}}}.
* [[擬リーマン多様体]]上の{{仮リンク|リーマン体積形式|en|Riemannian volume form}}.

== 定義 ==
[[ベクトル空間]] {{mvar|V}} に対し、その {{mvar|k}}-次[[テンソル冪]] {{math|''V''{{exp|&otimes;''k''}}}} を考える。{{mvar|k}}-次(または {{mvar|k}}-階)テンソル {{math|''T'' &isin; ''V''{{exp|&otimes;''k''}}}} が(完全)'''反対称'''であるとは
: <math>\tau_\sigma T = \sgn(\sigma)T\quad (\forall\sigma\in\mathfrak{S}_k)</math>
を満たすことをいう<ref>{{harvnb|横沼|loc=定義 2.2|p=52}}</ref>。ここで {{mvar|&tau;{{ind|σ}}}} は記号 {{math|{1, 2, …, ''k''{{)}}}} の置換 {{math|σ &isin; 𝔖{{ind|''k''}}}} に付随するテンソルの[[テンソル積|組み紐写像]]、{{math|sgn(σ)}} は {{mvar|σ}} の{{仮リンク|置換の符号|label=符号|en|sign of a permutation}}である。

{{mvar|V}} の[[基底 (線型代数学)|基底]] {{math|{{mset|''e''{{ind|''i''}}}}}} を取り、{{mvar|k}}-次反対称テンソル {{mvar|T}} を適当な係数を用いて
: <math>T = \sum_{i_1,\dots,i_k=1}^N T_{i_1i_2\dots i_k} e^{i_1} \otimes e^{i_2}\otimes\cdots \otimes e^{i_k}</math>
の形に書けば、この基底に関する {{mvar|T}} の成分 {{math|''T''{{msub|''i''{{ind|1}}''i''{{ind|2}}…''i''{{ind|''k''}}}}}} はその添字の任意の{{仮リンク|互換 (数学)|en|Transposition (mathematics)|label=互換}} に関して符号を変える、すなわち
: <math>T_{i_{\sigma 1}i_{\sigma 2}\dots i_{\sigma k}} = \sgn(\sigma)T_{i_1i_2\dots i_k}</math>
が任意の置換 {{mvar|σ}} について満足される。

{{mvar|V}} 上の {{mvar|k}}-次反対称テンソル全体の成す空間は、しばしば {{math|''A''{{msup|''k''}}(''V'')}} や {{math|Alt{{msup|''k''}}(''V'')}} で表される。{{math|''A''{{msup|''k''}}(''V'')}} はそれ自身ベクトル空間を成し、また {{mvar|V}} が {{mvar|N}}-次元ならば {{math|Alt{{msup|''k''}}(''V'')}} の次元は[[二項係数]]を用いて
: <math>\dim \operatorname{Alt}^k(V) = {N \choose k}</math>
で与えられる<ref>{{harvnb|横沼|loc=命題2.7}}</ref>。反対称テンソル空間 {{math|Alt(''V'')}} は {{math|''k'' {{=}} 0, 1 ,2, …}} に対する {{math|Alt{{msup|''k''}}(''V'')}} の[[ベクトル空間の直和|直和]]
: <math>\operatorname{Alt}(V)= \bigoplus_{k=0}^\infty \operatorname{Alt}^k(V)</math>
として構成される。

== テンソルの反対称成分{{anchors|反対称化作用素|交代化作用素|反対称成分|交代成分}} ==
{{mvar|V}} は[[標数]] {{math|0}} の体上のベクトル空間とする。{{math|''T'' &isin; ''V''{{exp|&otimes;''k''}}}} を {{mvar|k}}-次テンソルとすれば、{{mvar|T}} の反対称成分(交代成分)
は、符号付き平均化(反対称化、交代化)
: <math>\operatorname{Alt} T = \frac{1}{k!}\sum_{\sigma\in\mathfrak{S}_k} \sgn(\sigma)\tau_\sigma T</math>
によって与えられる反対称テンソルである。和は {{mvar|k}}-次[[対称群]]の全体を亙ってとる。明らかに、{{math|''T'' &isin; ''V''{{exp|&otimes;''k''}}}} が反対称テンソルであるための必要十分条件は {{math|Alt(''T'') {{=}} ''T''}} を満たすことである<ref>{{harvnb|横沼|p=54}}</ref>。

基底をとって考えれば、[[アインシュタインの和の規約|和の規約]]を用いて
: <math>T = T_{i_1i_2\dots i_k}e^{i_1}\otimes e^{i_2}\otimes\cdots \otimes e^{i_k}</math>
と書くとき、{{mvar|T}} の反対称成分は
: <math>\operatorname{Alt} T = \frac{1}{k!}\sum_{\sigma\in \mathfrak{S}_k} \sgn(\sigma)T_{i_{\sigma 1}i_{\sigma 2}\dots i_{\sigma k}} e^{i_1}\otimes e^{i_2}\otimes\cdots \otimes e^{i_k}</math>
と書ける。右辺に現れるテンソル成分は、しばしば対称化する添字を[[ブラケット|角括弧]]で括って
: <math>T_{[i_1i_2\dots i_k]} = \frac{1}{k!}\sum_{\sigma\in \mathfrak{S}_k} \sgn(\sigma)T_{i_{\sigma 1}i_{\sigma 2}\dots i_{\sigma k}}</math>
とも書かれる。例えば、{{mvar|V}} の次元は任意として、二階共変テンソル {{mvar|M}} に対し
: <math>M_{[ab]} = \frac{1}{2!}(M_{ab} - M_{ba})</math>
であり、また三階共変テンソル {{mvar|T}} に対して
: <math>T_{[abc]} = \frac{1}{3!}(T_{abc}-T_{acb}+T_{bca}-T_{bac}+T_{cab}-T_{cba})</math>
と書ける。これはまた適当な階数の{{仮リンク|一般化されたクロネッカーのデルタ|en|generalized Kronecker delta}}
を用いて、
: <math>M_{[ab]} = \frac{1}{2!} \, \delta_{ab}^{cd} M_{cd} ,</math>
: <math>T_{[abc]} = \frac{1}{3!} \, \delta_{abc}^{def} T_{def}</math>
と書くことができる。これは一般に、{{mvar|p}}-次テンソル {{mvar|S}} に対して
: <math>S_{[a_1 \dots a_p]} = \frac{1}{p!} \delta_{a_1 \dots a_p}^{b_1 \dots b_p} S_{b_1 \dots b_p} </math>
の形にまとめることができる。

== 交代テンソル積 ==
{{seealso|外積代数#交代テンソル代数}}
単純テンソル {{mvar|T}} をテンソル積
: <math>T=v_1\otimes v_2\otimes\cdots \otimes v_r</math>
として書くとき、{{mvar|T}} の交代成分はその因子ベクトルの交代積(楔積)あるいは[[外積]]
: <math>v_1\wedge v_2\wedge\cdots\wedge v_r := \frac{1}{r!}\sum_{\sigma\in\mathfrak{S}_r} \sgn(\sigma)v_{\sigma 1}\otimes v_{\sigma 2}\otimes\cdots\otimes v_{\sigma r}</math>
と呼ばれる<ref>{{harvnb|横沼|loc=§3.1}}</ref>。一般に、交代テンソル空間 {{math|Alt(''V'')}} に[[反対称]]かつ結合的な積 "{{math|&and;}}" を入れて[[体上の多元環|多元環]]にすることができる。二つのテンソル {{math|''T''{{ind|1}} &isin; Alt{{msup|''k''{{ind|1}}}}(''V''), ''T''{{ind|2}} &isin; Alt{{msup|''k''{{ind|2}}}}(''V'')}} が与えられたとき、交代化作用素を用いて
: <math>T_1\wedge T_2 = \operatorname{Alt}(T_1\otimes T_2)\quad\left(\in\operatorname{Alt}^{k_1+k_2}(V)\right)</math>
と定義すれば、これが実際に反対称かつ結合的であることが確かめられる。

== 対称テンソルとの関係 ==
添字 {{mvar|i, j}} に関して反対称なテンソル {{mvar|A}} と、同じ添字に関して対称なテンソル {{mvar|B}} との{{仮リンク|テンソルの縮約|en|Tensor contraction|label=縮約}}は恒等的に {{mvar|0}} に等しい。

一般のテンソル {{mvar|U}} に対して、その成分を {{mvar|U{{ind|ijk…}}}} とするとき、添字 {{mvar|i, j}} に関する対称成分および反対称成分
: <math>\begin{align}
U_{(ij)k\dots} &=\tfrac{1}{2}(U_{ijk\dots}+U_{jik\dots}),\\
U_{[ij]k\dots} &=\tfrac{1}{2}(U_{ijk\dots}-U_{jik\dots})
\end{align}</math>
に関して、(「成分」の名の示唆する通り)テンソル {{mvar|U}} は
: <math>U_{ijk\dots}=U_{(ij)k\dots}+U_{[ij]k\dots}</math>
なる和に分解される。

== 関連項目 ==
* [[レヴィ&ndash;チヴィタ記号]]
* [[対称テンソル]]
* [[反対称行列]]
* [[外積代数]]
* {{仮リンク|リッチ解析|en|Ricci calculus}}

== 注 ==
{{reflist}}
== 参考文献 ==
* {{cite book|和書| author= 横沼健雄 | title= テンソル空間と外積代数 | series= 岩波講座: 基礎数学 | publisher= 岩波書店 | year= 1977}}
* {{cite book |pages=85–86, §3.5| author=J.A. Wheeler, C. Misner, K.S. Thorne| title=[[Gravitation (book)|Gravitation]]| publisher=W.H. Freeman & Co| year=1973 | isbn=0-7167-0344-0}}
* {{cite book |author=R. Penrose| title=[[The Road to Reality]]| publisher= Vintage books| year=2007 | isbn=0-679-77631-1}}

== 外部リンク ==
* {{MathWorld | urlname= AntisymmetricTensor | title= Antisymmetric Tensor}}
* [http://daisy.math.sci.ehime-u.ac.jp/users/tsuchiya/math/fem/exterior/section2.pdf

{{tensors}}
{{DEFAULTSORT:はんたいしようてんそる}}
[[Category:テンソル]]
[[Category:多重線型代数学]]
[[Category:数学に関する記事]]

2015年12月9日 (水) 20:36時点における版

数学および理論物理学において、テンソルが添字の対に関して反対称 (anti­symmetric) もしくは歪対称 (skew-symmertic) であるとは、それら添字の入れ替えに関して符号が反転することを言う。また、交代的 (alternating) であるとは、それらを等しいと置いたとき零になることを言う。係数体英語版標数2 でないときこれら二つの概念は一致する(多重線型写像の項も参照)。

  • 反対称: Tij = −Tji
  • 交代: ik = ijTikij = 0

もう少し一般に、添字集合の部分集合 J に関して反対称(resp. 交代的)とは、J の任意の二元に関して反対称(resp. 交代的)となるときに言う[1][2]。添字については、一般に共変添字 (covariant) も反変添字 (contra­variant) も考えるものとする。例えば最初の三文字に関して反対称なテンソルとは

を満足するものである。

任意の添字の対の入れ替えに関して符号を反転するテンソルは完全反対称 (completely anti­symmetric)(もしくは全反対称 (totally anti­symmetric))あるいは単に反対称テンソル(はんたいしょうテンソル、: anti­symmetric tensor)と言う。同様に任意の添え字の対に関して交代的なテンソルを交代テンソル(こうたいテンソル、: alternating tensor)という。p-次の完全反対称(あるいは交代)共変テンソルは p-形式、完全反対称(あるいは交代)反変テンソルはp-ベクトル英語版と呼ばれる。

反対称テンソルの例には以下のようなものが挙げられる:

定義

ベクトル空間 V に対し、その k-次テンソル冪 Vk を考える。k-次(または k-階)テンソル TVk が(完全)反対称であるとは

を満たすことをいう[3]。ここで τσ は記号 {1, 2, …, k} の置換 σ ∈ 𝔖k に付随するテンソルの組み紐写像sgn(σ)σ符号である。

V基底 {ei} を取り、k-次反対称テンソル T を適当な係数を用いて

の形に書けば、この基底に関する T の成分 Ti1i2ik はその添字の任意の互換 に関して符号を変える、すなわち

が任意の置換 σ について満足される。

V 上の k-次反対称テンソル全体の成す空間は、しばしば Ak(V)Altk(V) で表される。Ak(V) はそれ自身ベクトル空間を成し、また VN-次元ならば Altk(V) の次元は二項係数を用いて

で与えられる[4]。反対称テンソル空間 Alt(V)k = 0, 1 ,2, … に対する Altk(V)直和

として構成される。

テンソルの反対称成分

V標数 0 の体上のベクトル空間とする。TVkk-次テンソルとすれば、T の反対称成分(交代成分) は、符号付き平均化(反対称化、交代化)

によって与えられる反対称テンソルである。和は k-次対称群の全体を亙ってとる。明らかに、TVk が反対称テンソルであるための必要十分条件は Alt(T) = T を満たすことである[5]

基底をとって考えれば、和の規約を用いて

と書くとき、T の反対称成分は

と書ける。右辺に現れるテンソル成分は、しばしば対称化する添字を角括弧で括って

とも書かれる。例えば、V の次元は任意として、二階共変テンソル M に対し

であり、また三階共変テンソル T に対して

と書ける。これはまた適当な階数の一般化されたクロネッカーのデルタ英語版 を用いて、

と書くことができる。これは一般に、p-次テンソル S に対して

の形にまとめることができる。

交代テンソル積

単純テンソル T をテンソル積

として書くとき、T の交代成分はその因子ベクトルの交代積(楔積)あるいは外積

と呼ばれる[6]。一般に、交代テンソル空間 Alt(V)反対称かつ結合的な積 "" を入れて多元環にすることができる。二つのテンソル T1 ∈ Altk1(V), T2 ∈ Altk2(V) が与えられたとき、交代化作用素を用いて

と定義すれば、これが実際に反対称かつ結合的であることが確かめられる。

対称テンソルとの関係

添字 i, j に関して反対称なテンソル A と、同じ添字に関して対称なテンソル B との縮約は恒等的に 0 に等しい。

一般のテンソル U に対して、その成分を Uijk… とするとき、添字 i, j に関する対称成分および反対称成分

に関して、(「成分」の名の示唆する通り)テンソル U

なる和に分解される。

関連項目

  1. ^ K.F. Riley, M.P. Hobson, S.J. Bence (2010). Mathematical methods for physics and engineering. Cambridge University Press. ISBN 978-0-521-86153-3 
  2. ^ Juan Ramón Ruíz-Tolosa, Enrique Castillo (2005). From Vectors to Tensors. Springer. p. 225. ISBN 978-3-540-22887-5. http://books.google.co.za/books?id=vgGQUrQMzwYC&pg=PA225  section §7.
  3. ^ 横沼, p. 52, 定義 2.2
  4. ^ 横沼, 命題2.7
  5. ^ 横沼, p. 54
  6. ^ 横沼, §3.1

参考文献

外部リンク