1955年のロードレース世界選手権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
1955年の
FIMロードレース世界選手権
前年: 1954 翌年: 1956


1955年のロードレース世界選手権

1955年のロードレース世界選手権は、FIMロードレース世界選手権の第7回大会である。5月にスペインモンジュイックで開幕し、イタリアモンツァで開催される最終戦まで全8戦で争われた。

シーズン概要[編集]

6月、4輪のル・マン24時間レースメルセデスが観客席に飛び込んで爆発炎上し、ドライバーと観客81名が死亡するという事故が起きた。このモータースポーツ史上最悪の大惨事の影響は大きく、各国でモータースポーツを危険視する声が高まり、スイスでは国内でのレース開催を禁止する法案が可決された。このため1949年にロードレース世界選手権が始まった時からその1戦に加えられていたスイスGPもこの年から開催されなくなり、この年の選手権は前年より1戦少ない全8戦で争われた。また、開催地が転々としていたドイツGPはこの年初めてニュルブルクリンクの22.8kmの北コースが舞台となった。

オランダGP(ダッチTT)では、スターティングマネーを低く抑えられてきたことでプロモーターに対する不満が燻っていたプライベート・ライダーたちが行動を起こした。要求が受け入れられなかった彼らはレースをボイコットすると宣言し、350ccクラスがスタートすると十数人のライダーがパレードのようなスロー走行で1周した後にピットインしてしまったのである。さらにジレラワークスライダーであるジェフ・デュークレグ・アームストロングがプライベーターたちを擁護した(ただし、2人はレースのボイコットには反対だった)ため騒動が500ccクラスにまで波及するのを恐れた主催者側は話し合いに応じ、スターティングマネーの増額を認めた。こうして騒動は収まったに見えたがこの年のシーズン終了後の11月、FIMはデューク、アームストロングを始めとする争議に加わったライダーたちに対する処分を発表、翌年の1月1日から6ヶ月間の世界選手権への出場を禁止した。これにより、デューク、アームストロングとジレラは1956年シーズンの開幕戦からの2戦を欠場せざるを得なくなったのである[1][2]

500ccクラス[編集]

チャンピオンマシンのジレラ4

チャンピオンのジェフ・デュークを擁するジレラが磐石の体制で新シーズンを迎えたのに対し、ランキング2位のレイ・アムが乗ったノートンは前年をもってワークス活動から撤退してしまった。MVアグスタに移籍して今シーズンを戦うはずだったアムは、ところがグランプリシーズン前にイタリアのイモラで開催されたレースで事故死してしまう[3][4]。アムに代わって同じく今シーズンからMVアグスタに移籍したウンベルト・マセッティがジレラに挑んだ。

開幕戦のスペインではレグ・アームストロングがジレラでの初勝利を挙げたが、第2戦のフランスから第6戦オランダまでの5戦中でデュークが4勝を飾る。デュークが唯一落としたベルギーでもチームメイトのジュゼッペ・コルナゴが勝利しており、開幕から第6戦までジレラが1位を独占していた。そしてアルスターGPでは金銭的なトラブルによってジレラチームが欠場することになりデュークもレースに出なかったが、デューク以外で唯一タイトルの可能性のあったチームメイトで2位のアームストロングも欠場したため、デュークはこの時点で3年連続となる500ccクラスタイトルを確定した[3][5]

350ccクラス[編集]

500ccクラスではジレラに太刀打ちできなかったモト・グッツィだが350ccクラスでは無敵を誇り、この年は全戦で勝利した。マン島の250ccクラスでGP初優勝を飾ったビル・ロマスは続けて350ccクラスでも勝利するとシーズンの残りのレース全てで優勝か2位という安定した速さを見せ、ボイコット騒動のあったダッチTTでチャンピオンを決めた[6]

250ccクラス[編集]

NSUの市販250ccレーサー、NSUスポルトマックス

前年小排気量クラスで圧倒的な強さを見せたNSUワークス参戦を中止したことにより、250ccクラスは全5戦で5人の勝者が生まれる混戦となった。緒戦のマン島ビル・ロマスMVアグスタの単気筒125ccを203ccにボアアップしたマシンで獲ると、第2戦のドイツは地元のヘルマン・パウル・ミューラーがNSUの市販レーサーで勝利した。ワークスを引き上げたNSUだが250ccの市販レーサーの開発と販売は継続しており、ロードモデルをベースに開発されたこの単気筒マシンはグランプリを戦うのに充分な戦闘力を持っていたのである[3]オランダではロマスがトップでチェッカーを受けたが「燃料補給の際にはエンジンを止めなければならない」というこの当時のルール違反を犯したために2位に降格、ルイジ・タベリが繰り上げ優勝となった[3]アルスターGPではジョン・サーティースがグランプリ初優勝を飾り、カルロ・ウビアリがこのクラス初優勝を遂げた最終戦のイタリアで5位となったロマスがタイトルを獲得した。ところが11月のFIM会議にてオランダでのロマスを失格とするという裁定が下され、この結果タイトルは逆転でミューラーのものとなった[3][7]。この時45歳だったミューラーはグランプリの最年長チャンピオンである[3]

125ccクラス[編集]

撤退したNSUに代わって125ccクラスを支配したのはイタリアのMVアグスタだった。マン島ではルイジ・タベリが自身にとってもスイス人にとっても初となるグランプリ優勝を成し遂げ、第2戦以降はカルロ・ウビアリが5連勝で1951年以来となる125ccクラスチャンピオンとなると同時に、MVアグスタにシーズン全勝の記録をもたらした[8]

グランプリ[編集]

Rd. 決勝日 GP サーキット 125ccクラス優勝 250ccクラス優勝 350ccクラス優勝 500ccクラス優勝 レポート
1 5月1日 スペインの旗 スペインGP モンジュイック スイスの旗 L.タベリ No Race No Race アイルランドの旗 R.アームストロング 詳細
2 5月15日 フランスの旗 フランスGP ランス・グー イタリアの旗 C.ウビアリ No Race イタリアの旗 D.アゴスチーニ イギリスの旗 G.デューク 詳細
3 6月10日 マン島の旗 マン島TT マン島 イタリアの旗 C.ウビアリ イギリスの旗 B.ロマス イギリスの旗 B.ロマス イギリスの旗 G.デューク 詳細
4 6月26日 ドイツの旗 ドイツGP ニュルブルクリンク イタリアの旗 C.ウビアリ ドイツの旗 H.P.ミューラー イギリスの旗 B.ロマス イギリスの旗 G.デューク 詳細
5 7月3日 ベルギーの旗 ベルギーGP スパ No Race No Race イギリスの旗 B.ロマス イタリアの旗 G.コルナゴ 詳細
6 7月30日 オランダの旗 ダッチTT アッセン イタリアの旗 C.ウビアリ スイスの旗 L.タベリ オーストラリアの旗 K.カバナ イギリスの旗 G.デューク 詳細
7 8月13日 北アイルランドの旗 アルスターGP ダンドロッド No Race イギリスの旗 J.サーティース イギリスの旗 B.ロマス イギリスの旗 B.ロマス 詳細
8 9月4日 イタリアの旗 イタリアGP モンツァ イタリアの旗 C.ウビアリ イタリアの旗 C.ウビアリ イギリスの旗 D.デイル イタリアの旗 U.マセッティ 詳細

最終成績[編集]

ポイントシステム
順位 1 2 3 4 5 6
ポイント 8 6 4 3 2 1
  • 500・350ccクラスは上位入賞した5戦分の、250ccクラスは3戦分の、125ccクラスは4戦分のポイントが有効とされた。
  • 凡例

500ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン SPA
スペインの旗
FRA
フランスの旗
IOM
マン島の旗
GER
ドイツの旗
BEL
ベルギーの旗
NED
オランダの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イギリスの旗 ジェフ・デューク ジレラ - 1 1 1 - 1 - 3 36 4
2 アイルランドの旗 レグ・アームストロング ジレラ 1 3 2 - - 2 - 2 30 1
3 イタリアの旗 ウンベルト・マセッティ MVアグスタ 3 - - 4 - 3 - 1 19 1
4 イタリアの旗 ジュゼッペ・コルナゴ ジレラ - - - 5 1 - - 4 13 1
5 イタリアの旗 カルロ・バンディローラ MVアグスタ 2 - - 3 - - - - 10 0
6 イギリスの旗 ビル・ロマス モト・グッツィ - - - - - - 1 - 8 1
7 イタリアの旗 リベロ・リベラーティ ジレラ - 2 - - - - - - 6 0
7 ドイツの旗 ワルター・ツェラー BMW - - - 2 - - - - 6 0
7 フランスの旗 ピエール・モネレ ジレラ - - - - 2 - - - 6 0
7 イギリスの旗 ジョン・ハートル ノートン - - - - - - 2 - 6 0
11 イギリスの旗 ボブ・マッキンタイヤ ノートン - - 5 - - - 4 - 5 0
12 オーストラリアの旗 ケン・カバナ モト・グッツィ - - 3 - - - - - 4 0
12 ベルギーの旗 レオン・マルタン ジレラ - - - - 3 - - - 4 0
12 イギリスの旗 ディッキー・デイル モト・グッツィ - - - - - - 3 - 4 0
15 イタリアの旗 ティト・フォルコーニ MVアグスタ 6 4 - - - - - - 4 0
16 イタリアの旗 オーランド・バルディノーチ ジレラ 4 - - - - - - - 3 0
16 イギリスの旗 ジャック・ブレット ノートン - - 4 - - - - - 3 0
16 イタリアの旗 ドゥリオ・アゴスチーニ モト・グッツィ - - - - 4 - - - 3 0
16 オランダの旗 ドリカス・ヴィアー ジレラ - - - - - 4 - - 3 0
20 イタリアの旗 ネッロ・パガーニ MVアグスタ 5 - - - - - - - 2 0
20 フランスの旗 ジャック・コロー ノートン - 5 - - - - - - 2 0
20 ベルギーの旗 アウグステ・ゴフィン ノートン - - - - 5 - - - 2 0
20 オーストラリアの旗 ボブ・ブラウン マチレス - - - - - 5 - - 2 0
20 ニュージーランドの旗 ピーター・マーフィー マチレス - - - - - - 5 - 2 0
20 イタリアの旗 アルフレッド・ミラーニ ジレラ - - - - - - - 5 2 0
26 ベルギーの旗 フィルマン・ダウ ノートン - 6 - - - - - - 1 0
26 イギリスの旗 デレク・エネット マチレス - - 6 - - - - - 1 0
26 オーストラリアの旗 ジャック・アーン ノートン - - - 6 - - - - 1 0
26 イギリスの旗 ジョン・ストー ノートン - - - - 6 - - - 1 0
26 南アフリカの旗 エディ・グラント ノートン - - - - - 6 - - 1 0
26 イギリスの旗 ジョン・クラーク マチレス - - - - - - 6 - 1 0
26 ドイツの旗 エルンスト・リーデルボーチ BMW - - - - - - - 6 1 0

350ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン FRA
フランスの旗
IOM
マン島の旗
GER
ドイツの旗
BEL
ベルギーの旗
NED
オランダの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イギリスの旗 ビル・ロマス モト・グッツィ - 1 1 1 2 1 2 32 44 4
2 イギリスの旗 ディッキー・デイル モト・グッツィ 2 - - - 3 - 1 18 1
3 ドイツの旗 アウグスト・ヘブル DKW - - 2 2 4 - 5 17 0
4 オーストラリアの旗 ケン・カバナ モト・グッツィ - - 5 - 1 - 3 14 1
5 イギリスの旗 セシル・サンドフォード モト・グッツィ - 3 4 4 - 4 - 13 0
6 イギリスの旗 ジョン・サーティース ノートン - 4 3 - - 3 - 11 0
7 イタリアの旗 ドゥリオ・アゴスチーニ モト・グッツィ 1 - - - - - - 8 1
8 イギリスの旗 ボブ・マッキンタイヤ ノートン - 2 - - - 5 - 8 0
9 イギリスの旗 ジョン・ハートル ノートン - 6 - - - 2 - 7 0
10 イタリアの旗 ロベルト・コロンボ モト・グッツィ 3 - - 5 - - 6 7 0
11 オーストラリアの旗 キース・キャンベル ノートン - - - 3 - - - 4 0
12 ベルギーの旗 アウグステ・ゴフィン ノートン 4 - - - - - - 3 0
13 イタリアの旗 エンリコ・ロレンツェッティ モト・グッツィ - - - - - - 4 3 0
14 ニュージーランドの旗 ジョージ・マーフィ AJS 5 - - - - 6 - 3 0
14 ドイツの旗 カール・ホフマン DKW - - 6 - 5 - - 3 0
16 オーストラリアの旗 モーリス・クインシー ノートン - 5 - - - - - 2 0
17 オランダの旗 ハンス・バートル DKW - - - 6 6 - - 2 0
18 フランスの旗 ジャック・コロー ノートン 6 - - - - - - 1 0

250ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン IOM
マン島の旗
GER
ドイツの旗
NED
オランダの旗
ULS
北アイルランドの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 ドイツの旗 ヘルマン・パウル・ミューラー NSU 3 1 3 6 4 16 20 1
2 イギリスの旗 ビル・ロマス MVアグスタ 1 - - 4 5 13 1
3 イギリスの旗 セシル・サンドフォード モト・グッツィ 2 3 5 5 - 12 14 0
4 スイスの旗 ルイジ・タベリ MVアグスタ - 4 1 - - 11 1
5 イタリアの旗 ウンベルト・マセッティ MVアグスタ - - 2 3 6 11 0
6 アイルランドの旗 サミー・ミラー NSU - - - 2 3 10 0
7 イギリスの旗 ジョン・サーティース NSU - - - 1 - 8 1
7 イタリアの旗 カルロ・ウビアリ MVアグスタ - - - - 1 8 1
9 ドイツの旗 ウォルフガング・ブラント NSU - 2 - - - 6 0
9 ドイツの旗 ハンス・バルティスバーガー NSU - - - - 2 6 0
11 イギリスの旗 アーサー・ウィラー モト・グッツィ 4 5 6 - - 6 0
12 イタリアの旗 エンリコ・ロレンツェッティ モト・グッツィ - - 4 - - 3 0
13 イギリスの旗 デイブ・チャドウィック RD Special 5 - - - - 2 0
14 イギリスの旗 ビル・ウェブスター ベロセット 6 - - - - 1 0
14 ドイツの旗 ヘルムート・ハルマイヤー NSU - 6 - - - 1 0

125ccクラス順位[編集]

順位 ライダー マシン SPA
スペインの旗
FRA
フランスの旗
IOM
マン島の旗
GER
ドイツの旗
NED
オランダの旗
ITA
イタリアの旗
有効ポイント 合計ポイント 勝利数
1 イタリアの旗 カルロ・ウビアリ MVアグスタ 3 1 1 1 1 1 32 44 5
2 スイスの旗 ルイジ・タベリ MVアグスタ 1 2 2 2 - - 26 1
3 イタリアの旗 レモ・ベンチュリ MVアグスタ - - - 3 2 2 16 0
4 イタリアの旗 ジュゼッペ・ラッタンジ モンディアル 4 3 3 - - - 11 0
5 イタリアの旗 アンジェロ・コペタ MVアグスタ 5 5 - - - 3 8 0
6 イタリアの旗 ロモロ・フェリ モンディアル 2 6 - - - - 7 0
7 イギリスの旗 ビル・ウェブスター MVアグスタ - - 5 - 4 - 5 0
8 オーストリアの旗 ルドルフ・グリマス モンディアル - - - - 3 - 4 0
9 イタリアの旗 タルクィニオ・プロヴィーニ モンディアル - 4 - - - - 3 0
9 イギリスの旗 ビル・ロマス MVアグスタ - - 4 - - - 3 0
9 ドイツの旗 カール・ロッテ MVアグスタ - - - 4 - - 3 0
9 ドイツの旗 アウグスト・ヘブル DKW - - - - - 4 3 0
13 ドイツの旗 ベルンハルト・ペルトルシェ IFA - - - 5 - - 2 0
13 ドイツの旗 ビル・シャイトハウアー MVアグスタ - - - - 5 - 2 0
13 ドイツの旗 ジークフリート・ヴュンシェ DKW - - - - - 5 2 0
16 スペインの旗 マルチェロ・カーマ モンテッサ 6 - - - - - 1 0
16 イギリスの旗 ロス・ポーター MVアグスタ - - 6 - - - 1 0
16 ドイツの旗 エルハルト・クルムフォルツ IFA - - - 6 - - 1 0
16 ドイツの旗 エーリッヒ・ヴンシェ MVアグスタ - - - - 6 - 1 0
16 イタリアの旗 パオロ・カンパネリェ モンディアル - - - - - 6 1 0

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • ジュリアン・ライダー / マーティン・レインズ『二輪グランプリ60年史』(2010年、スタジオ・タック・クリエイティブ)ISBN 978-4-88393-395-2
  • ケビン・キャメロン『THE GRAND PRIX MOTORCYCLE』(2010年、ウィック・ビジュアル・ビューロウ)ISBN 978-4-900843-57-8
  • マイケル・スコット『The 500cc World Champion』(2007年、ウィック・ビジュアル・ビューロウ)ISBN 978-4-900843-53-0