首相官邸無人機落下事件

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首相官邸無人機落下事件
事件に使用されたDJI社製のPhantomの画像。事件に使われた本機は、黒く塗装されていた
事件に使用されたDJI社製のPhantomの画像。事件に使われた本機は、黒く塗装されていた
場所 東京都千代田区永田町
座標
日付 2015年(平成27年)4月22日
兵器 小型マルチコプター(ドローン)
犯人 福井県小浜市在住の40歳の男性
動機 反原発のアピール
対処 ドローン製造会社による現場周辺の飛行禁止処置
航空法改正によるドローンの使用規制
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首相官邸無人機落下事件(しゅしょうかんていむじんきらっかじけん)とは、2015年4月22日東京都千代田区永田町にある総理大臣官邸屋上に、小型のマルチコプターが落下した事件。なお、本件で使用された機体は自立飛行が出来ないため正確にはドローンではなくラジコンヘリコプターの一種であるが、本稿では当時の報道にあわせドローンと表記する。

経緯[編集]

同日午前10時20分頃、官邸職員が偶然、屋上のヘリポート付近でドローンを発見し[1][2]、警視庁に通報した[3]。発見当時、横転などはしておらず、通常の着地のような状態だったという[3]。また、官邸関係者が侵入や墜落の様子を目撃したとの情報や犯行声明などはなく、けが人や建物の破損なども確認されていない[3][4]。他方、関連は不明ながら、取材にあたっていたテレビ朝日記者が午前11時半過ぎに黒い影が行ったり来たりするものを目撃した、との報道がされた[5]

警視庁の調べによると、発見されたドローンは中国の企業DJI社製のPhantom[6]であり、同機種は同年1月26日アメリカ合衆国で泥酔したシークレットサービス職員[7]ホワイトハウスに落下させたことや前年の2014年テロ組織のISILが偵察に利用していたこと[8][9]などで世界的な注目を浴びていた[10]。Phantomは直径約50cmで4つのプロペラが付いたクワッドコプターであり、白かった機体は黒く塗装され、小型カメラと茶色いプラスチック製容器を積載していた。容器は直径3cm・高さ10cmで中に液体が入っており、内部から微量のセシウム134セシウム137が検出された[2]

ドローン飛行に関する規制がほとんどないことや、テロ対策の弱点が顕在化した問題が指摘されており[4]、法施行も検討され始めた矢先だった。

軍事サスペンス作家の大石英司は、事件で使われたクワッドロータータイプの無人航空機について、兵器として有利ではなくテロ行為に使っても効果はほとんど見込めないと評した[11]。しかし、中東といった紛争地域では同機種がISILといったテロ組織によって積極的に爆発物投下に運用されている報告が多数あり[12][13][14]、対策の必要性は国際的に議論されている。

逮捕[編集]

4月24日夜8時過ぎ、「ドローンを官邸に飛ばした」とする福井県小浜市在住の当時40歳の元自衛官の男が福井県警小浜警察署に自首し、威力業務妨害容疑で逮捕された。男はドローンを官邸へ飛ばした動機を「反原発を訴えるため」とし、ドローンを飛行させたのは4月9日の午前3時半ごろ、容器の中に入れたのは「福島の砂100 g」だなどと供述している[15]。また、男は「官邸サンタ」と名乗り[16]、犯行の詳細な一部始終や犯行に使用されたドローンの写真などを掲載した[15]ブログを出頭直前に公開していた[17]

事件で使用されたPhantomの製造先であるDJI社は4月23日、同社ドローンに対して皇居周辺と総理大臣官邸をGPSで飛行禁止空域にする対応を行った[18]。また、同年7月22日には防衛省がドローン対策装備品を披露するために試験飛行させたPhantom[19]を紛失し、自衛隊が捜索するも通報で警察が回収する失態も起きていた[20]

この事件を契機の一つとしてドローンの法整備が本格化し、同年12月10日に施行した改正航空法により、無人航空機(ドローン)の定義及び無人航空機の飛行ルールが定められた[21][22][23]2016年(平成28年)3月17日に成立し、同年4月7日に施行したドローン規制法により、内閣総理大臣官邸をはじめとする国の重要施設、外国公館や原子力事業所などの周辺地域の上空でドローンを飛行させることが禁止された[24]。警視庁はDJIのSpreading Wings S900をベースにドローン捕獲部隊を発足させた[25]

裁判[編集]

男は、放射能マークが印刷されたシールを貼った容器と発煙筒などを装着したドローンを操縦し、首相官邸屋上に落下させて官邸の業務を妨げた威力業務妨害罪で起訴され、さらにドローンに取り付けた発炎筒について遠隔操作で電気着火できる状態に無許可で改造した火薬類取締法違反(無許可製造)で追起訴された[26][27]。弁護側は「被告の行為によって業務妨害の結果は発生していない」などとして無罪を主張、被告人は「多くの方に迷惑をかけて申し訳ない。今後違法行為をするつもりはない」と語った。2016年2月16日、被告人に懲役2年執行猶予4年の有罪判決が言い渡された[28]

出典[編集]

  1. ^ “「敷地内に入るなんて」官邸職員ショック隠せず”. 読売新聞. (2015年4月22日) 記事のアーカイブ
  2. ^ a b “首相官邸屋上にドローン セシウム由来の放射線検出”. 朝日新聞. (2015年4月22日). http://www.asahi.com/articles/ASH4Q3SV1H4QUTIL015.html 2015年4月22日閲覧。 
  3. ^ a b c “首相官邸にドローン ヘリポートに墜落か確認急ぐ”. 産経新聞. (2015年4月22日) 記事のアーカイブ
  4. ^ a b “首相官邸にドローン落下、テロ対策の弱点が顕在化”. 日本経済新聞. (2015年4月22日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H82_S5A420C1EA2000/ 2015年4月22日閲覧。 
  5. ^ “直前に黒い影、行ったり来たり 官邸にドローン落下”. テレビ朝日. (2015年4月22日) 記事のアーカイブ
  6. ^ “首相官邸で見つかったドローン、機種が判明”. ITmediaニュース. (2015年4月23日). http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1504/23/news070.html 
  7. ^ “ホワイトハウスにドローンを墜落させたのは酔っ払ったシークレットサービスだったことが判明、その後の対応の数々は”. GIGAZINE. (2015年1月29日). http://gigazine.net/news/20150129-drone-crashed-to-white-house/ 
  8. ^ “無人機市場を引っかき回す中国企業DJI”. WSJ. (2014年11月11日). http://jp.wsj.com/articles/SB12342273157179233952604580269582779988698 
  9. ^ “ISIS Used DJI Phantom as Surveillance UAS”. UAS VISION. (2014年9月1日). http://www.uasvision.com/2014/09/01/isis-used-dji-phantom-as-surveillance-uas/ 
  10. ^ “ドローンメーカー、ファームウェアで飛行禁止区域への侵入を防止”. WIRED.jp. (2015年1月30日). http://wired.jp/2015/01/30/drone-maker-to-add-no-fly-firmware/ 
  11. ^ “官邸ドローン、"オモチャ"相手に騒ぎすぎ”. 東洋経済オンライン. (2015年4月26日). http://toyokeizai.net/articles/-/67870 
  12. ^ Iraqi police build quadcopter “bomber” with DJI drone and badminton supplies”. Ars Technica (2017年2月25日). 2017年4月9日閲覧。
  13. ^ ISIS Is Now Using Hobby Drones to Kill People”. ギズモード (2016年10月11日). 2017年4月9日閲覧。
  14. ^ ISIS is using DJI Phantom drones to drop bombs over Mosul”. Geektime (2017年1月15日). 2017年4月9日閲覧。
  15. ^ a b “ドローン 出頭の男を逮捕 威力業務妨害疑い”. NHK. (2015年4月25日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150425/k10010060521000.html 2015年4月29日閲覧。 [リンク切れ]
  16. ^ “ドローン 事件関与を示唆するブログ”. NHK. (2015年4月25日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150425/k10010060461000.html 2015年4月29日閲覧。 [リンク切れ]
  17. ^ “首相官邸ドローン侵入事件 ブログを出頭直前に公開か”. TBS. (2015年4月26日). http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2478080.html 2015年4月29日閲覧。 [リンク切れ]
  18. ^ DJI japanが「総理官邸」「皇居周辺」をドローンの飛行禁止区域に GPSを使ったシステムで管理”. ITmedia. 2016年3月23日閲覧。
  19. ^ 防衛省のドローンが行方不明に 風の影響で”. ITmedia (2015年7月22日). 2016年10月31日閲覧。
  20. ^ 不明ドローンを回収 防衛省「申し訳ない」”. 日テレNEWS24 (2015年7月22日). 2016年10月31日閲覧。
  21. ^ ドローン、密集地で禁止 改正航空法が成立 産経新聞 2015年9月4日
  22. ^ ドローン飛行、国の許可・承認114件 改正航空法、規制初日 産経新聞 2015年12月10日
  23. ^ “ドローンなど許可申請ラッシュ 改正航空法施行 「こんなに来るとは」…国交省”. 産経新聞. (2015年12月27日). http://www.sankei.com/west/news/151227/wst1512270057-n1.html 2016年4月6日閲覧。 
  24. ^ 小型無人機等飛行禁止法について”. 警察庁. 2016年4月20日閲覧。
  25. ^ 警視庁ドローン捕獲部隊@東京マラソン | ドローンTrends
  26. ^ “「官邸ドローン」、40歳男を起訴 威力業務妨害罪で東京地検”. 産経新聞. (2015年5月15日) 
  27. ^ “官邸ドローン、被告を火薬類取締法違反で追起訴”. 読売新聞. (2015年6月25日) 
  28. ^ “無職男に猶予判決、威力業務妨害罪”. 産経新聞. (2016年2月16日). http://www.sankei.com/affairs/news/160216/afr1602160037-n1.html 2016年4月22日閲覧。 

外部リンク[編集]