虚飾で彩られたカラス

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借り物の羽で彩られたコクマルガラス[1]

虚飾で彩られたカラス』(きょしょくでいろどられたカラス)は、イソップ寓話のひとつ。ペリー・インデックス101番。

場合によっては『鳥の王さまえらび』や『おしゃれなからす』、『王様になりたかったカラス』という別題で記載されている。

出典[編集]

この話は散文ギリシア語のアウクスブルク校訂本に見えている。中務哲郎訳では「黒丸烏と鳥たち」という題になっている[2]

パエドルスによるラテン語韻文の寓話集の第1巻の3番目に類話が置かれている。ここではコクマルガラス孔雀の羽を拾っておしゃれをし、自分の仲間たちを嘲笑する。さらに彼は孔雀の仲間にはいろうとするが、孔雀たちは恥知らずのコクマルガラスから羽をむしり、追い返す。さっきまで見下されていたもとの仲間も彼を相手にすることはなかった[3][4]ペリー・インデックスではこの話に472番という別の番号をあてている。

バブリオスによるギリシア語韻文の寓話集では72番目に置かれている。王を選ぶのではなく鳥の美人コンテストになっており、かなり潤色が施されているが基本的には散文ギリシア語と同じ話である[5][6]

カラスが他の鳥の羽で自分の身を飾るが他の鳥にむしられるという話は、ホラティウス『書簡詩』1.3.18-20にも見えている[7]

13世紀イギリスのオドー・オブ・シェリトン (Odo of Cheritonの寓話集にも共通点のある話がある。ここではカラスが孔雀に羽を2枚だけほしいという。孔雀がそれを許すとほかの鳥たちも次々に同じ要求をし、孔雀は裸になってしまう(ペリー・インデックス621番)[8]

ラ・フォンテーヌの寓話詩では第4巻第9話にパエドルス版をもとにした「孔雀の羽で飾られたカケス」 (fr:Le Geai paré des plumes du paonを収録している。

日本ではパエドルス版の話がキリシタン版の『エソポのハブラス』(1593年)に「孔雀と、烏の事」の題で載せられている[9]。同じ話は『伊曽保物語』の中巻27話に「烏と孔雀の事」として見える[10]

福沢諭吉『童蒙教草』(1872年)には「借着したる烏の事」の題で載せられている[11]渡部温通俗伊蘇普物語』には「呆鴉の話」として見える[12]。いずれもパエドルス版の話である。

あらすじ[編集]

ある時ゼウスは、鳥たちに集まる日時を決め、その中から鳥たちの王を立てるというお触れを出した。

カラス(コクマルガラス)は自分の姿は黒く醜いと思い込んでいたので、美しく装うために、野や森を見てまわり、他の鳥たちが落とした羽を拾い集め、身体中に貼りつけた。

約束の日、鳥たちが集まると、最も美しい羽を持つ彼をゼウスは王様にしようとした。他の鳥たちは怒って、それぞれ見覚えのある自分の羽をカラスから引き抜いた。結局、彼に残されたのは、自分自身の黒い羽だけだった。

教訓[編集]

人は借りものではなく、持って生まれたもので生きていくべきである。

脚注[編集]

  1. ^ “The Vain Jackdaw”, Aesop's Fables: A New Revised Version From Original Sources, (1884), http://mythfolklore.net/aesopica/aesop1884/29.htm 
  2. ^ 中務 1999, pp. 94–95.
  3. ^ パエドルス/バブリオス 1998, pp. 16–17.
  4. ^ 吉川 2020, pp. 117–118.
  5. ^ パエドルス/バブリオス 1998, pp. 234–235.
  6. ^ 吉川 2020, pp. 118–119.
  7. ^ 吉川 2020, p. 119.
  8. ^ The Birds, the Peacock and His Feathers, Aesopica: Aesop's Fables in English, Latin and Greek, http://mythfolklore.net/aesopica/oxford/89.htm 
  9. ^ Cujacuto, carasuno coto.」『大英図書館所蔵 天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』画像』国立国語研究所、1593年、456頁https://dglb01.ninjal.ac.jp/BL_amakusa/show.php?&chapter=3&page=50&size=50&part=1 
  10. ^ ウィキソースには、伊曾保物語の原文があります。
  11. ^ 小堀 2001, p. 258.
  12. ^ トマス・ゼームス 著、渡部温 訳「第四 呆鴉(あほうがらす)の話」『通俗伊蘇普物語』 3巻、1875年https://dl.ndl.go.jp/pid/895204/1/14 

参考文献[編集]

  • パエドルス、バブリオス 著、岩谷智・西村賀子 訳『イソップ風寓話集』国文社〈叢書アレクサンドリア図書館〉、1998年。ISBN 4772004041 
  • 小堀桂一郎『イソップ寓話―その伝承と変容』講談社現代新書、2001年(原著1978年)。ISBN 4061594958 
  • 中務哲郎 訳『イソップ寓話集』岩波文庫、1999年。ISBN 400321031X 
  • 吉川斉『「イソップ寓話」の形成と展開―古代ギリシアから近代日本へ―』知泉書館、2020年。ISBN 9784862853103