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'''ウィークボソン''' (Weak boson) は[[素粒子物理学]]において、[[陽子]]の約80倍~90倍の質量を持つ粒子で[[弱い相互作用]]を伝播する[[スピン角運動量|スピン]]1の[[ボース粒子|ボソン]]である。'''弱ボソン'''とも言う。[[ベータ崩壊]]を引き起こす。[[中性子]]の崩壊をクォークで見ると、中性子の中の1つの[[ダウンクォーク]]がウィークボソンを放出して[[アップクォーク]]に変わり、ウィークボソンは直ちに[[電子]]と[[反ニュートリノ]]に崩壊する。ウィークボソンは他の素粒子に比べ質量が大きいため、ごく短時間のうちに別の粒子に崩壊してしまうという特徴を持つ
'''ウィークボソン''' ({{lang|en|weak boson}}) は[[素粒子物理学]]において、[[弱い相互作用]]を媒介する[[粒子]]である。'''弱ボソン'''とも言う。
ウィークボソンは[[スピン角運動量|スピン]]1の[[ベクトル]][[ボソン]]で、WボソンとZボソンの二種類が存在する。Wボソンは[[陽子]]の約80倍、Zボソンは約90倍と他の素粒子に比べて大きな[[質量]]をもち、ごく短時間のうちに別の粒子に[[崩壊]]してしまうという特徴を持つ。

電荷を持つ'''Wボソン''' (正の[[電荷]]をもつ'''W<sup>+</sup>'''とその[[反粒子]]'''W<sup>-</sup>''')と電荷持たな'''Zボソン''' ('''Z''') 総称である。
Wボソン電荷 &plusmn;1 (W<sup>+</sup>,W<sup>&minus;</sup>もち、両者は互に反粒子関係にある。
Zボソンは電荷 0 で、反粒子は自分自身である。


1968年に理論で存在が予言され、1983年にその存在が確認された。
1968年に理論で存在が予言され、1983年にその存在が確認された。

== 概要 ==
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このエネルギースケールを'''ウィークスケール'''と呼ばれる。
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== 参考文献 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[ワインバーグ=サラム理論]]
* [[弱い相互作用]]
* [[ゲージ粒子]]
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* [[素粒子物理学]]
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* [[弱い相互作用]]
== 外部リンク ==
* [http://pdg.lbl.gov/ Particle Data Group]

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2012年10月3日 (水) 19:54時点における版

ウィークボソンの性質
粒子名 質量 電荷 スピン
Wボソン[1] 80.385(15) GeV ±1 1
Zボソン[2] 91.1876(21) GeV 0 1

ウィークボソン (weak boson) は素粒子物理学において、弱い相互作用を媒介する素粒子である。弱ボソンとも言う。 ウィークボソンはスピン1のベクトルボソンで、WボソンとZボソンの二種類が存在する。Wボソンは陽子の約80倍、Zボソンは約90倍と他の素粒子に比べて大きな質量をもち、ごく短時間のうちに別の粒子に崩壊してしまうという特徴を持つ。 Wボソンは電荷 ±1 (W+,W)をもち、両者は互いに反粒子の関係にある。 Zボソンは電荷 0 で、反粒子は自分自身である。

1968年に理論で存在が予言され、1983年にその存在が確認された。

概要

弱い相互作用ベータ崩壊に代表される、粒子の種類を変える相互作用である。

ベータ崩壊では4つのフェルミオンが関わっており、4-フェルミ相互作用と呼ばれる。 湯川はこの反応を

のように2段階で起きているとした。それぞれの反応では2つのフェルミオンと1つのボソンが関わっており、湯川相互作用と呼ばれる。

シュウィンガーは弱い相互作用と電磁相互作用の共通性から両者には関係があると考え、Wボソンと光子を合わせて SU(2) の三重項(随伴表現)とする模型を考えた。 この模型には、光子は質量をもたないがWボソンが質量をもつ理由や、Wボソンが質量をもつ故に相互作用のくりこみが不可能であるなどの困難があった。

グラショウは対称性を SU(2)×U(1) に拡張する必要性に気付いた。 ワインバーグサラムヒッグス機構により対称性が自発的に破れて質量を与える理論を考えた[3]。 この理論によりZボソンの存在と、Zボソンが関わる中性カレントというそれまでに無かった相互作用が予言された。 この予言によりグラショウ、サラム、およびワインバーグは1979年にノーベル物理学賞を受賞した[4]

WボソンとZボソンは1983年にCERNのスーパー陽子シンクロトロン(SPS)によって発見された。

WボソンとZボソンの質量はCERNの大型電子反電子衝突型加速器Large Electron–Positron Collider, LEP)により精度良く測定されている。 電弱相互作用はウィークボソンの質量程度のエネルギースケールで破れる。 このエネルギースケールをウィークスケールと呼ばれる。

脚注

  1. ^ PDGLive Particle Summary
  2. ^ PDGLive Particle Summary
  3. ^ Weinberg (1967)
  4. ^ The Nobel Prize in Physics 1979

参考文献

  • S. Weinberg (1967). “A Model of Leptons”. Phys. Rev. Lett. 19: 1264. doi:10.1103/PhysRevLett.19.1264. 
  • 南部陽一郎、他『大学院素粒子物理1』講談社、1997年。ISBN 4-06-153224-3 

関連項目

外部リンク