新生児呼吸窮迫症候群

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新生児呼吸窮迫症候群
新生児呼吸窮迫症候群の胸部レントゲン画像(網状顆粒状陰影、気管支透亮像、ベル型胸郭)
概要
診療科 小児科学, 産科学
分類および外部参照情報
ICD-10 P22
ICD-9-CM 769
OMIM 267450
DiseasesDB 6087
MedlinePlus 001563
eMedicine emerg/15
Patient UK 新生児呼吸窮迫症候群
MeSH D012127

新生児呼吸窮迫症候群(しんせいじこきゅうきゅうはくしょうこうぐん、英語: (Infant) Respiratory Distress Syndrome: (I) RDS)は、新生児呼吸不全の一つ。

概要[編集]

病態・臨床像[編集]

肺の未成熟によって肺サーファクタントが欠乏し、肺コンプライアンスの低下から肺胞虚脱、肺血管抵抗増大の病態を呈する。発症は生後2〜3時間後であり、リスク・ファクターとして下記のようなものがある。

また、動脈管開存症(PDA)の併存が高頻度で見られることも知られている。

検査・所見[編集]

呻吟、多呼吸や努力性呼吸が見られ、チアノーゼを呈する。血液ガス分析では、PaO2の低下とPaCO2の増大とアシドーシスが見られる。胸部X線写真ではびまん性細網顆粒状陰影が特徴とされるほか、Bomsel 分類II型以降では気管支内の空気による透亮像(air bronchogram)、Bomsel分類 IV型ではすりガラス状陰影が見られる。

また、特徴的な検査として、羊水小泡沫安定性試験(マイクロバブルテスト)がある。これは、サーファクタントが直径15μm以下のマイクロバブルを安定させることを利用したもので、100倍の顕微鏡下において、羊水では5/mm2未満,胃液では10/mm2未満のweakであれば、ほぼ確定診断となる。

治療[編集]

治療は、人工サーファクタントの投与と呼吸管理による。この人工サーファクタントとしては、田辺三菱製薬サーファクテンが多用されている。 サーファクテン1V(120mg)あたり生理食塩液4mLでよく懸濁し、120mg/kg(体重1kgあたり1V)を生後8時間以内に気管内に投与する。 肺内に行きわたるように、投与は4,5回に分けて行ない、1回ごとに体位変換する。 サーファクテンにおいて副作用は報告されていない。

また、動脈管開存症(patent ductus arteriosus, PDA)が併存している場合は、これに対する標準的な治療であるシクロオキシゲナーゼ阻害剤(インドメタシンなど)投与が行なわれる。 PDA 併存例の場合、RDS が治療によって改善すると肺血管抵抗が低下するため、動脈管を介しての左→右シャントが増大して心不全を来たす恐れがあることから、PDA の治療を並行して進めることが重要である。

新生児一過性多呼吸[編集]

新生児一過性多呼吸Transient tachypnea of the newborn: TTN)は、wet lung, II型RDSと呼ばれていたもので、出生直後において、肺胞液や羊水の吸収遅延からRDS様の症状を呈する。帝王切開での出生児に多く見られる。

診断は、生後6時間以内に出現する多呼吸(60回/分)を伴う呼吸障害について、除外診断によって行なわれる。多くの場合は多呼吸を主訴とし、呼吸音は清明、胸部単純X線像では肺門部血管陰影の増強と末梢肺野でのair trappingが認められる。小泡沫安定性試験は通常は陽性である。

症状こそRDSに似ているものの病態はまったく異なり、通常は30〜40%の酸素投与によって後遺症なく治癒する。また、5cmH2O程度の持続気道陽圧(CPAP)を加えることも有効である。ただし、肺胞からの血清成分漏出で二次的にサーファクタント欠乏を起こして重症化することがあり、この場合はRDSと同様のサーファクタント補充療法が行なわれる。

参考文献[編集]

  • 大関武彦, 古川漸, 横田俊一郎『今日の小児治療指針 第14版』医学書院、2006年。ISBN 978-4-260-00090-1 
  • 高久史麿, 尾形悦郎, 黒川清, 矢崎義雄『新臨床内科学 第8版』医学書院、2002年。ISBN 978-4-260-10251-3