嫌煙

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
高速道路PAで、分煙により片隅に置かれた喫煙所
虎渓山パーキングエリア

嫌煙(けんえん、anti-smoking)とは、受動喫煙を本人の可否にかかわらず強いられることについて異を唱えること、あるいは受動喫煙を避けることで、受動喫煙を避ける権利を嫌煙権(けんえんけん)と呼んだ。これは1970年代の日本において、未だ公共施設や飲食店などの禁煙分煙化や、列車飛行機など公共交通機関禁煙席設置がほとんどされていなかった時代に提唱された造語である。

この言葉は、健康と生活環境への意識が高まりをみせた1978年に、市民運動として「嫌煙権の確立を目指す人びとの会」が発足したときに使われ、以降はマスメディアにも取り上げられ、一般にも普及していった。

歴史[編集]

「嫌煙」と「嫌煙権」は、1978年に発足した「嫌煙権確立を目指す人びとの会」の共同代表でコピーライター中田みどりが提唱して広まった言葉である。英語では、"non-smokers' rights"[1]が対応する語彙である。

「嫌煙権確立を目指す人びとの会」は、

  1. たばこの煙によって汚染されていないきれいな空気を吸う権利
  2. 穏やかではあってもはっきりとたばこの煙が不快であると言う権利
  3. 公共の場所での喫煙の制限を求めるため社会に働きかける権利

この3つの「嫌煙権」を掲げてスタートした。

他人のたばこの副流煙を間接的・強制的に吸わされた結果、急性または慢性の健康被害を受けることは、非喫煙者の基本的人権である健康権幸福追求権の侵害と考えられた。特にぜんそくなどの呼吸器疾患を持つ患者にとっては生命の危機につながりかねず「生命の尊厳」の侵害ともなる。このため、嫌煙権運動は一種の人権運動として定義される。嫌煙権運動は喫煙者に喫煙をやめることを要求するものではなく、公共の場所や職場などの共有の生活空間について、社会的・制度的に受動喫煙防止措置を講ずることにより、非喫煙者の権利を保護することを目的とした運動である。

嫌煙権運動の中では、公共スペースでの受動喫煙防止を進めることで非喫煙者の権利を保護すること、非喫煙者や煙草の煙が苦手な人が自らの立場を明確にする(カミングアウト)ことで社会的理解を求めること、喫煙者に対する啓蒙などの活動が行われた。喫煙者の中にも状況により他喫煙者の副流煙を望まない者も見られる。嫌煙権運動の広まりに対し、喫煙者からも趣旨に理解を示し喫煙マナーを守ろうとする者がみられるようになった。嫌煙権運動においては、喫煙者もたばこ産業の被害者という観点から、たばこ病訴訟などの裁判支援なども行っている。

また嫌煙権運動の時代においては、医学界でも受動喫煙の危険性の知見が確立していった、受動喫煙による健康被害については人体への影響に関する学術的見地が例示され、たばこの煙により頭痛などの体調不良(受動喫煙症)を起こす化学物質過敏症の患者もいることが判明した。このため多くの医学系学会が「禁煙宣言」を発表し、嫌煙権運動よりもさらに強い喫煙規制を求めるようになった(詳細は「受動喫煙#ETS及び受動喫煙に関する声明」を参照)。

1980年代から1990年代にかけては、嫌煙権運動が一般的に認識されはじめ、交通機関の喫煙規制など受動喫煙防止のための措置が次第に進んだ。2000年代以降は、単に「煙草や喫煙者を嫌う」ことと混同されることを避けるため、「嫌煙」という言葉は「受動喫煙防止」という表現に取って代わられるようになった。

2005年11月8日、日本たばこ産業は、第19回厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会で、「(喫煙は)個人の嗜好としてたのしむ自由がある」と主張する内容を含む資料を提出した[2]

こうしたたばこ業界の主張に対し、世界保健機関 (WHO) は2007年5月31日の世界禁煙デーにおける「たばこ産業の作り話をあばく」と題した発表で、「毒の含まれない空気を吸う権利は、公共の場で喫煙して他人の健康を脅かす喫煙者の権利よりも優先する。これは都合の良さの問題でも、合法製品を使う自由といった問題でもない。他人の健康を脅かすことを避けるため、どこで喫煙すべきかという問題である」として、受動喫煙を避ける権利が喫煙者の権利に優先することを明確に示した[3]

近年は、受動喫煙防止に対する社会的認識が進み、2005年にはWHOによりたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約が発効し、日本においても2002年に健康増進法が施行された。2010年には日本初の受動喫煙防止条例である神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例が施行され、その後は各地で同様の条例や路上喫煙禁止条例が制定された。こうして、病院役所学校施設などの公共施設や、百貨店、飲食店、娯楽遊戯店などにおいても禁煙や分煙が取り組まれ、1970年代に始まった運動はようやく実を結ぼうとしている。

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]