加熱式たばこ

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エアーズの一つ『STEAM HOT ONE』
紙巻きたばこを差し込んで加熱する装置『Heatbar』

加熱式たばこ(英: heated tobacco products)はタバコを燃焼させずに加熱するものである[1]。タバコ葉を加熱し、ニコチンを含むエアロゾルを生成する[2]。こうした製品は喫煙行動の特徴をもっている[2]。燃焼製品に似せて設計されている[3]

製造者は通常の紙巻きたばこよりも安全だと主張しているが、2016年時点でそのような主張は裏付けられない[1]。しかし様々な見解が示されている。

フィリップモリス社は、日本等では加熱式タバコの販売を行っている一方で、米国ではFDA(食品医薬品局)に加熱式タバコのアイコス(iQOS)の販売申請を提出しているものの、2018年1月25日にFDAが出した結論は、フィリップモリス社の「リスク低減の可能性製品」との商品概念を否定するものであり、2018年6月時点においても、その販売は許可されていない。

動向[編集]

SENDAI光のページェントの会場(宮城県仙台市勾当台公園)に設営されたgloの販売促進店舗兼喫煙所(2016年12月)

日本たばこ産業 (JT) は1997年から2004年までエアーズのブランドで販売していた。

2013年から日本たばこ産業が販売している電子たばこプルームは、ポッド(カートリッジ)に入ったタバコ葉を加熱する製品である[4]。メビウス、ピアニッシモ等、従来のたばこブランドの銘柄を取り扱っている。2016年には後継製品のプルーム・テックを、通信販売および福岡県の一部店舗で発売した。これはカートリッジに入った液体を加熱し、タバコ葉の入ったカプセルに蒸気を通過させる液体式となっている。

2015年にフィリップモリス社も、タバコ葉を加熱するiQOS(アイコス)を発売した[4]。専用の紙巻きたばこを加熱する製品となっている。2016年、アイコス芸人の登場により認知度があがり入手困難となった。 続いて、日本たばこ産業 (JT)は後継のプルームテックの販売を開始。2016年3月1日に福岡限定で先行販売されたが、一週間で販売停止し入手困難となった。公式サイトでの販売も開始された。

12月にはブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)からも加熱式たばこ「グロー(glo)」が発売された。仙台限定での先行販売された後、2017年10月2日から全国販売されている。

2017年11月20日、KT&G(元韓国国営タバコ)より加熱式たばこ機器「lil(リル)」が発売された。また、IOQSのヒートスティックと同形状の「Fiit」ブランドの加熱式専用たばこも同時発売されている。

健康への影響[編集]

加熱式たばこは健康への悪影響が少ないという主張はたばこ産業が出資した研究に基づいているが、このことを裏付ける、たばこ産業から独立した信頼できる研究は存在せず、かかる主張についての説得力のある証拠はない[5]オランダ国立公衆衛生環境研究所英語版(RIVM)は、加熱式たばこは従来のたばこよりも健康への害が少なそうであるものの、その害についてバランスの取れる見解を示すための研究は十分ではないと述べている[6]。 一部の科学者は従来の紙巻たばこと同様に危険だと考えている[5]

2016年に禁煙団体の Action on Smoking and Health は、「たばこ産業による長きにわたる詐欺の歴史」があるため、健康への影響に対する独立した研究が行われることが重要であると主張している[7]。heat not burn のような宣伝文句は科学の代わりにならない。[8]

2017年12月、フィリップ・モリス・インターナショナルの元社員や契約関係にあった科学者が、同社のアメリカ食品医薬品局 (FDA)への申請の根拠となっている臨床試験にいくつかの不備があったとの証言をしていることが、ロイターにより報道された。具体的には、ポーランドで実施された試験では、人間が1日に出す量を超える大量の尿が採取されていること、被験者56人のデータが廃棄されていたことなどの問題が指摘されている。[9]

2018年1月22日に、アメリカ食品医薬品局 (FDA)は暫定的な報告を出し、フィリップ・モリス・インターナショナルのiQOSが、「アイコスが生み出すエアロゾルは細胞を破壊し、人体組織にも悪影響を及ぼす恐れがあるが、従来の紙巻たばこに比べ、全般的な深刻度は低く、その被害ははるか一部に集中するように推測される」とした臨床試験報告を公表した。更に1月25日に、FDAによって下された結論は、フィリップ・モリス社が掲げる「リスク低減の可能性製品」という製品概念を棄却するものであり、同社の「通常のタバコ製品に比べ、タバコ関連の疾病リスクが低い製品である」との主張を否定するものであった。[10][11]

日本禁煙学会の見解[編集]

2017年7月21日には、一般社団法人日本禁煙学会が「加熱電子式たばこは、普通のたばこと同様に危険であり、受動喫煙で危害を与えることも同様である」旨の緊急警告を発し、加熱式たばこのエアロゾルに被曝した化学物質過敏症の患者に激しい咽頭痛と同時に呼吸困難を生じたとの事例を紹介している。[12]

日本呼吸器学会の見解[編集]

2017年10月31日には、日本呼吸器学会が「『非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解』について」との発表を行い、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコについて、

  • 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は、健康に悪影響がもたらされる可能性がある。
  • 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動吸引による健康被害が生じる可能性がある。従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない。

とし、使用者にとっても、受動喫煙させられる人にとっても、非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は推奨できないとしている。[13]

加熱式タバコに含有される有害物質について[編集]

日本呼吸器学会の見解では、加熱式タバコの主流煙中や呼出煙に含有される有害物質についても以下のとおり言及されている。

  • 主流煙中に含有される代表的な有害物質
  • 呼出煙中に含有される代表的な有害物質
    • ニッケルクロムなどの重金属濃度…燃焼式タバコの呼出煙よりも高い
    • PM2.5…燃焼式タバコの呼出煙よりも低いが、通常の大気中濃度の 14 - 40 倍
    • ニコチン…燃焼式タバコの呼出煙よりも低いが、通常の大気中濃度の 10 - 115 倍
    • アセトアルデヒド…燃焼式タバコの呼出煙よりも低いが、通常の大気中濃度の 2 - 8 倍
    • ホルムアルデヒド…燃焼式タバコの呼出煙よりも低いが、通常の大気中濃度の 20%高い

米国心臓協会での発表[編集]

2017年11月11~15日には、米国心臓協会(AHA)の年次集会において、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究班が「IQOS(アイコス)は血管に悪影響を与える」との研究結果を発表している。この研究はラットに「iQOSを加熱した蒸気」、「紙巻きたばこの煙」、「清浄な空気」を、それぞれ1回15秒間、5分間に10回曝露し、血管内皮機能の評価を行うもので、iQOS群で58%、紙巻たばこ群では57%低下であった。また、曝露を1回5秒間、5分間に10回とした場合も、iQOS群で60%、紙巻たばこ群では62%の低下が確認された。この実験結果により、iQOSの蒸気への曝露は紙巻たばこの煙に曝露した場合と同程度の血管内皮機能の低下をもたらすことが明らかとなった。 この実験結果について、同発表では「循環器系におけるたばこの煙への反応の仕方はヒトとラットで極めてよく似ているため、この研究結果はヒトにも当てはまる可能性がある」とし、「加熱式たばこの使用者は紙巻きたばこの喫煙者と同様に心血管の健康障害に直面する可能性がある」としている。[14]

相対的な害に関する研究[編集]

2017年8月4日に発表された「ニコチン製品の相対的な発がん性に関する研究」においてStephens, William E は、以下の順に害が減少するだろうと結論した。燃焼たばこ(通常の紙巻きたばこ)、加熱式たばこ、電子たばこ(通常のパワーで使用)、ニコチン吸入器。[15]

ニコチン製品における発がん性物質含有量[15]
物質 IARC発がん性 紙巻たばこ 加熱式たばこ 電子たばこ
アセトアルデヒド 2B 2.55×10−0 3.33×10−1 4.41×10−3
ホルムアルデヒド 1 1.54×10−1 1.06×10−2 8.07×10−3
NNN 1 4.63×10−4 2.57×10−5 1.94×10−7
NNK 1 2.88×10−4 1.64×10−5 8.39×10−7
カドミウム 1 1.99×10−4 検出閾値以下 1.01×10−5
1 7.52×10−5 4.09×10−6 7.06×10−6
ニッケル 2B 検出閾値以下 検出閾値以下 6.98×10−6
注・1:発がん性あり、2B:発がん性疑い。10をマイナスに何乗したかで記載されており、10−0は、10−1の10倍を意味する。

国立保健医療科学院の戸次加奈江らは、「加熱式タバコと燃焼式タバコの主流煙中に含まれる有害成分の比較」において、iQOSにおけるニコチン量は、紙巻きたばこと同程度であり、タバコ特異的ニトロソアミン(発がん性物質)は比較して20%、一酸化炭素は1%であった。しかしながら、この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく、少なからず主流煙に含まれていた。今後、iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある」としている。 [16]

健康被害の事例[編集]

加熱式たばこの喫煙により、好酸球性肺炎を発症した日本人の事例が、被害者第1号として医学専門誌に報告された。

出典[編集]

  1. ^ a b Caputi, TL (2016年8月24日). “Heat-not-burn tobacco products are about to reach their boiling point.”. Tobacco control. doi:10.1136/tobaccocontrol-2016-053264. PMID 27558827. 
  2. ^ a b Guy Bentley (2017年3月15日). “Heat-Not-Burn Tobacco: The Next Wave Of A Harm-Reduction Revolution”. Forbes. https://www.forbes.com/sites/realspin/2017/03/15/heat-not-burn-tobacco-the-next-wave-of-a-harm-reduction-revolution/#629237cc6292 
  3. ^ Jérôme Harlay (2016年11月9日). “What you need to know about Heat-not-Burn (HNB) cigarettes”. VapingPost. http://www.vapingpost.com/2016/11/09/what-you-need-to-know-about-heat-not-burn-cigarettes-hnb/ 
  4. ^ a b 清水律子、浦中大我 (2016年2月22日). “再送-〔焦点〕たばこ大手2社、「煙なき」戦いで火花 市場一変の可能性も”. ロイター. http://jp.reuters.com/article/idJPL3N15Y39J 2016年8月15日閲覧。 
  5. ^ a b 世界保健機関 (2016年7月12日). “Further development of the partial guidelines for implementation of Articles 9 and 10 of the WHO FCTC”. World Health Organization. pp. 5–6. 2017年9月1日閲覧。
  6. ^ Alternatieve tabaksproducten: harm reduction?”. [Netherlands National Institute for Public Health and the Environment. pp. 1–66 (2016年). 2017年9月1日閲覧。
  7. ^ ASH reaction to new Philip Morris IQOS 'heat not burn' product”. Action on Smoking and Health (2016年11月30日). 2017年9月1日閲覧。
  8. ^ Auer, Reto; Concha-Lozano, Nicolas; Jacot-Sadowski, Isabelle; Cornuz, Jacques; Berthet, Aurélie (2017年). “Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes”. JAMA Internal Medicine. doi:10.1001/jamainternmed.2017.1419. ISSN 2168-6106. PMID 28531246. 
  9. ^ 特別リポート:加熱式たばこiQOS、臨床試験に科学者が問題点を指摘、ロイター、2018年1月22日
  10. ^ 加熱式たばこiQOS、紙巻たばこより有害度低い=米暫定報告、ロイター、2018年1月22日
  11. ^ 加熱式タバコ「iQOS(アイコス)」を米食品医薬品局が否定!?、ヘルスプレス、2018年2月2日
  12. ^ 緊急警告 ! ! 「加熱式電子タバコ」は、普通のタバコと同様に危険です。 受動喫煙で危害を与えることも同様で、認めるわけにはいきません”. 日本禁煙学会 (2017年). 2017年9月30日閲覧。
  13. ^ 「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解」について” (2017年). 2017年12月2日閲覧。
    日本呼吸器学会 「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解」(本文)” (2017年). 2017年12月2日閲覧。
  14. ^ 加熱式たばこ「iQOS」、紙巻きたばこと同程度の血管内皮機能低下を示す” (2017年). 2017年12月2日閲覧。
    ヘルスプレス 「電子タバコ」安全神話が崩壊? 「IQOS(アイコス)」に健康被害の<イエローカード>!?” (2017年). 2017年12月2日閲覧。
  15. ^ a b Stephens, William E (2018年). “Comparing the cancer potencies of emissions from vapourised nicotine products including e-cigarettes with those of tobacco smoke”. Tobacco Control 27 (1): 10–17. doi:10.1136/tobaccocontrol-2017-053808. PMID 28778971. http://tobaccocontrol.bmj.com/content/27/1/10. 
  16. ^ 戸次加奈江、稲葉洋平、内山茂久、欅田尚樹「加熱式タバコと燃焼式タバコの主流煙中に含まれる有害成分の比較」、『Journal of UOEH』第39巻第3号、2017年、 201-207頁、 doi:10.7888/juoeh.39.201NAID 130006077578

関連項目[編集]