嚥下障害

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嚥下障害(えんげしょうがい)とは、種々の原因によって嚥下の機能が損なわれること。嚥下障害は誤嚥性肺炎の原因となり、栄養摂取に経管栄養胃瘻を必要とすることがある。

一般病院における嚥下障害患者の原因[1]

原因[編集]

発達期(おおむね18歳未満)における発達障害や、発達期以降では様々な疾病障害、またはその後遺症によって起こる。嚥下障害の原因は器質的原因、機能的原因、心理的原因の3つに大別される。

器質的原因

先天異常、腫瘍炎症、外傷、加齢性変化(の脱落)などによって喉頭および食道の構造そのものが傷害されている場合。原因や疾患から分類する方法もあるが、たとえばリハビリテーションの見地から見ると、運動神経・筋群・硬組織といった出力系と感覚受容器・知覚神経といった入力系に分類する方が目的に適っているという[2]

嚥下障害の原因となる器質的疾患 (藤本[2]を改変)
外傷・感染 口腔、顔面/頚部
先天異常 下顎、口腔、食道など 唇裂口蓋裂, 先天性食道閉鎖など
頸椎疾患 頚椎の変形による通過障害 強直性脊椎骨増殖症, 変形性頚椎症
頚椎手術合併症 頚椎前方固定術後
先天奇形 頭蓋底陥入症, Chiari奇形
腫瘍 腫瘍による障害 神経浸潤:頭蓋底 (V, VII-XII) 混合性喉頭麻痺, (咽頭癌, 頭蓋底腫瘍)
神経浸潤:下頚部, 縦隔 (反回神経) 肺癌, 食道癌, 甲状腺癌
腫瘍による圧排や狭窄 口腔癌, 咽頭癌, 食道癌
疼痛 口腔癌, 咽頭癌
放射線治療による障害 神経損傷, 切断 骨・筋の欠損
瘢痕/浮腫による運動制限
脳腫瘍, 頭蓋底腫瘍, 頭頂部癌など
機能的原因

構造物の形態に問題がなくとも、それを動かす筋肉、神経に障害がある場合。頻度として多い脳卒中による嚥下障害や、頻度はやや少ないが神経変性疾患その他の神経筋疾患はここに含まれる。また先天異常でも形態異常ではなく、神経の異常あるいは筋力・筋緊張低下といった機能的な嚥下障害もある。

心理的原因

神経因性食欲不振症など摂食障害の他、認知症、うつ病などで食欲制御が傷害されている場合もここに含まれる。精神疾患を持たない人の有病率が6%であるのに対し、精神疾患患者の32%が嚥下障害を持っている[3]。窒息事故の割合もはるかに高い (一般で100,000人中0.66に対して、精神疾患患者では100,000人中85)[4]。認知症ではしばしば食事をしたことを忘れるが、食事をしたことを忘れても食欲制御が傷害されていなければ異常な量の摂食は困難である。研究は少ないが、嚥下造影検査の分析から認知症では84%の患者が何らかの嚥下障害を持っている、という報告がある[5]

嚥下の中枢機構[編集]

嚥下のパターン形成機構は下位脳幹、脊髄に存在すると考えられている。その制御として咽頭、喉頭知覚の脳幹への入力、皮質延髄路のや大脳基底核の関与が考えられている。

嚥下障害の評価[編集]

反射[編集]

口蓋反射

左右の前口蓋弓を軽くこすると軟口蓋が挙上する反射。

咽頭反射

咽頭後壁をこすったときに軟口蓋挙上する反射。

水分嚥下試験(WST)[編集]

3mlの水を注射器で被験者の口腔内にいれて嚥下してもらう。注入後5秒以内にむせ込みなく飲めれば正常である。

反復唾液嚥下テスト(RSST)[編集]

30秒間に唾液を何回嚥下できるのかを検査する。2回以下では異常である。

嚥下造影[編集]

喉頭ファイバー[編集]

球麻痺と偽性(仮性)球麻痺[編集]

球麻痺とは延髄の諸脳神経(舌咽神経迷走神経舌下神経)の運動神経核の障害により、発語、発声、嚥下、呼吸、循環などの障害をきたして生じる症状である。偽性球麻痺とは延髄神経核の上位ニューロンである皮質延髄路の障害によって生じる症状をさす。嚥下障害において両者の障害は異なると考えられている。

球麻痺の嚥下障害

球麻痺では延髄にある疑核弧束核、網様体および嚥下関連ニューロン障害で嚥下障害をきたす。典型例は脳血管障害ではワレンベルグ症候群、変性疾患では筋萎縮性側索硬化症などがあれられる。嚥下動態では口腔相障害は軽度であり、咽頭相である嚥下反射障害が主体である。嚥下反射が起こりにくく、起こっても不十分である。CPGによる嚥下筋群の活動様式のプログラム異常と考えられている。軟口蓋、咽頭挙上、咽頭収縮、食道入口部開大などの運動障害が認められる。停滞型の嚥下障害である。

偽性球麻痺の嚥下障害

皮質延髄路障害であり、皮質・皮質下型、線状体型、橋型の3型が知られているが嚥下動態は同様である。従来は両側病変で生じるとされていたが皮質領域の片側性病変でも嚥下障害が生じるという報告がされている。反射は起こりにくいが、嚥下中枢自体は障害されていないため、嚥下反射が起こればそのパターンは保たれている。嚥下動態は口腔相の障害(食塊形成不良)、咽頭期への移送の障害、嚥下障害の惹起不良が主体である。口腔期と咽頭期のタイミングがずれることが問題となり、嚥下反射は保たれる。食塊形成しにくい水分は特に誤嚥しやすい。

特殊な嚥下障害[編集]

前部弁蓋部症候群(Foix-Chavany-Marie syndrome[編集]

失行[編集]

口腔顔面失行
嚥下失行

筋萎縮性側索硬化症[編集]

内科的治療[編集]

ドパミンーサブスタンスP系の賦活

アンデオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)はサブスタンスPの分解を阻害するため咳反射が高まり、嚥下反射も改善する。L-DOPAも嚥下反射を改善させる。アマンタジンなどもドパミン放出を促進し嚥下反射を改善させる。

その他

シロスタゾールは嚥下反射改善効果が知られている。

外科的治療[編集]

輪状咽頭筋切除術、喉頭挙上術、喉頭蓋管形成術、喉頭摘出術、気道食道分離術、声門閉鎖術などが有効な場合もある。

[編集]

  1. ^ 山脇正永
  2. ^ a b 藤本保志 (2012) p.292
  3. ^ Regan, J; Sowman, R; Walsh, I (Apr 2006). “Prevalence of Dysphagia in acute and community mental health settings”. Dysphagia 21 (2): 95-101. PMID 16763936. 
  4. ^ Craig, TJ (Nov 1980). “Medication use and deaths attributed to asphyxia among psychiatric patients”. Am J Psychiatry 137 (11): 1366-1373. PMID 7435669. 
  5. ^ Horner, J; Alberts, MJ; Dawson, DV; Cook, GM (Fall 1994). “Swallowing in Alzheimer's disease”. Alzheimer Dis Assoc Disord 8 (3): 177-189. 

出典[編集]

  • 山脇正永「総論:神経疾患における嚥下障害の特徴と理解」藤島一郎監修『疾患別に診る嚥下障害』医歯薬出版、2012年
  • 藤本保志「総論:頭頸部の器質的疾患による嚥下障害の特徴と治療」藤島一郎監修『疾患別に診る嚥下障害』医歯薬出版、2012年

参考文献[編集]

関連項目[編集]