仮面の悪役

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パール・ホワイトの連続活劇『家の呪い英語版』に登場する「The Hooded Terror」は、「仮面の悪役」というキャラクター造形を定義した

仮面の悪役」(: masked villain、または: masked mystery villain[1][2]は、大衆小説などにおけるストックキャラクターのひとつである。また、「仮面」は文字通りの意味である必要はなく(文字通りである方が多いが)、むしろ比喩的に「騙している英語版(正体を隠している)」ことの意味合いを持つ場合もある。

歴史[編集]

連続活劇において生み出され一般化された仮面の悪役というストックキャラクターは、映画『家の呪い英語版』(1918年)の「謎の覆面男(The Hooded Terror)」(映画史において初のフルコスチュームで正体不明の悪役)を皮切りに、20世紀初頭のパルプ・マガジントーキー時代の連続活劇における冒険物語で頻繁に用いられることとなった[3][4]。また、ポストモダンホラー映画[5]では、「怪しむ余地のない被害者であることを強調するために正体を隠す」キャラとしての役割も担った[6]犯罪小説にもサスペンスや疑念の雰囲気を盛り上げるために登場することがある。物語の登場人物たちと同じように読者や観客にその正体を推測させることで興味を持たせたり[3]未知のものへの恐怖英語版を引き出すことで緊張感を持たせるために使われる[7]:135

スーパーヴィランでは、たびたび見られるキャラクター造形である。

日本においては、『機動戦士ガンダム』をはじめとしたアニメ作品や特撮作品でよく見られるキャラクターとなっている。

役柄[編集]

スター・ウォーズ』に登場する仮面の悪役であるダース・ベイダー

物語の主要な敵役を担うことが多いが、主人公と直接対峙する子分に対して、「正体不明/素性不明」という性質を活かして黒幕として陰で暗躍することも多い[3]。たいてい、主人公が悪役を倒すためには、悪役の正体を突き止める必要がある[8]

一方で、こういった悪役は、主人公の一人か、主人公を助ける重要なになることもまた多い。

正体[編集]

作者は、観客読者に、悪役の正体について、虚実入り混じった手がかりを与えることがある(あるときは登場人物が見つけるように、またあるときは観客や読者だけが見つけるようにするために)。ただし、物語の登場人物に明かされる前に、観客にその正体が明かされることは通常ない[8]悪役子分でさえ、仕えている人物の正体を知らない場合がある。

他方では、『ローン・レンジャー』や『The Masked Marvel』のように、主人公の正体が不明で最後まで多くの人物が候補として挙げられる作品もある。

パロディ[編集]

このようなタイプの悪役はパロディ化されやすい傾向があり、文字通りのマスクを使い、ステレオタイプな邪悪な笑いを伴って現れることがある。

キャラクター例[編集]

連続活劇[編集]

初登場年 人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
1914 The Clutching Hand 拳骨
The Exploits of Elaine
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
1917 The Hidden Hand The Hidden Hand
1918 The Hooded Terror 家の呪い英語版
The House of Hate
1919 Monsieur X 蛸の手英語版
The Trail of the Octopus
The Faceless Terror The Fatal Fortune
1920 Fur-coated Mystery Man 怪敵英語版
The Phantom Foe
鉄の手/The Iron Hand 見えざる手英語版
The Invisible Hand
Phantom Face The Mystery Mind
1922 The Purple Shadow The Purple Riders
1928 The Frog The Mark of the Frog
The Claw The Mystery Rider
1929 The Wolf Devil Queen of the Northwoods
1932 黒鷹/The Black Hawk 空中飛行便の秘密英語版
The Air Mail Mystery
1934 The Rattler Mystery Mountain [7]:129
1935 The Tiger Shark The Fighting Marines [7]:133
1936 The Dragon 世界航空戦英語版
Ace Drummond
[9]:99[7]:133
1937 The Scorpion Blake of Scotland Yard
1938 The Octopus The Spider's Web
The Lightning The Fighting Devil Dogs
1939 Don Del Oro Zorro's Fighting Legion
The Wasp Mandrake the Magician [7]:133
1940 The Skull Deadwood Dick
1941 The Ghost Dick Tracy vs. Crime, Inc. "One of the most memorable of all the masked villains of serials" according to William C. Cline.[7]:133, 135
The Iron Claw The Iron Claw
The Scorpion Adventures of Captain Marvel [2][7]:129
The Gargoyle The Spider Returns 『The Spider's Web』(1938年)の続編[7]:133
1945 Captain Mephisto Manhunt of Mystery Island [7]:129
The Master Key The Master Key
1946 The Crimson Ghost The Crimson Ghost
1949 The Wizard Batman and Robin [7]:133
以下の悪役は、「仮面」や「覆面」をしているわけではなくて、姿を隠している悪役である。
初登場年 人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
1931 The Voice The Vanishing Legion アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
1933 The Black Ace The Mystery Squadron
1937 The Lame One Dick Tracy
1940 The Black Tiger The Shadow
1946 Mr. M The Mysterious Mr. M
1949 Dr. Vulcan King of the Rocket Men [9]:129

小説[編集]

以下の悪役は、正体不明の悪役も含む。
人物 邦題
原題
概要 備考
1909 エリック オペラ座の怪人
The Phantom of the Opera
フランスの旗 フランス 醜悪な人相を覆い隠す仮面
オペラ座に住み付く怪人
音楽の才能に溢れ、投げ縄や奇術の達人
1924 大佐 茶色の服の男
The Man in the Brown Suit
イギリスの旗 イギリス 強力な国際犯罪組織の首領で悪魔のようにずるがしこい人物
2006 A プリティ・リトル・ライアーズ英語版
Pretty Little Liars
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 全身を黒装束で包み、黒いフードを被る
暴露や脅迫を繰り返す正体不明の人物 
ドラマ『プリティ・リトル・ライアーズ』にも登場する

マンガ&アニメ[編集]

人物 邦題
原題
概要 備考
1969 怪人マントメガネ
(The Hooded Claw)
ペネロッピー絶体絶命
The Perils of Penelope Pitstop
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 目元を隠すマスク
マントを翻すと誰にでも変装出来る
1991 オソダシ仮面 ジャンケンマン 日本の旗 日本 目元はサングラス様で頭ごと覆う覆面
悪用のために様々な道具を作ることができる発明家
1999 トビ NARUTO -ナルト- 右目に穴の空いた捻れ模様の仮面
敵の攻撃をすり抜ける能力を持っている
2012 アモン英語版 レジェンド・オブ・コーラ
The Legend of Korra
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 フードを被り、額に赤い円が描かれている白い仮面
「イコリスト」のリーダー
人の“曲げ”力を取り除く力を持っている
2014 オール・フォー・ワン 僕のヒーローアカデミア 日本の旗 日本 パイプで繋がれ生命維持装置も兼ねる黒いマスク
他者の“個性”を奪うことができる。奪った“個性”を他者に与えることもできる。
以下の悪役は、「仮面」や「覆面」をしているわけではなくて、姿を隠している(正体不明の)悪役である。
人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
1946 オクトパス英語版 The Spirit アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 紫色の手袋が特徴的な犯罪者
決して素顔を見せない変装の達人
1983 ドクター・クロウ ガジェット警部
Inspector Gadget
フランスの旗 フランス
イギリスの旗 イギリス
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
鉤爪のついた手以外、顔や全身は不明
世界征服を目論む、犯罪結社「M.A.D.」の首領
1994 あの方/烏丸蓮耶 名探偵コナン 日本の旗 日本 黒ずくめの組織のボス
シルエットでは、首筋まで伸びた髪と高い鼻、やや肥満気味な体型をしているが、素性や素顔は不明
2004 ギデオン・G・グレイヴズ スコット・ピリグリム英語版
Scott Pilgrim
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ぼやけた写真や影でしか姿を現さない人物
ラモーナ・フラワーズの7番目の邪悪な元カレ
「ラモーナの邪悪な元カレ同盟」のリーダー兼創設者

ゲーム[編集]

人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
2004 Jack of Blades Fable アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 赤いフードに頭を覆う、白い仮面
2006 かめんのおとこ MOTHER3 日本の旗 日本 片目を隠したヘルメットのような仮面
ブタマスク軍の指揮官
ライトセーバーのような剣と光線銃を駆使し、雷を操り、強力なPSIも使う
背中にはエンジンが搭載された機械の翼があり、飛行が可能。
2009 ジャン・デスコール レイトンシリーズ 顔の上半分を覆う白いマスク
サーカス団の様な派手なマント
自称「高き志を抱く一科学者」
第2シリーズ

テレビドラマ[編集]

ドラマ『スクリーム・クイーンズ』シーズン1に登場する赤い悪魔
人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
2004 - 2005 カーバー英語版 NIP/TUCK マイアミ整形外科医
Nip/Tuck
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 真っ赤な口紅が際立つ白い女性顔の仮面
整形手術を受けた女性専門の切り裂き魔
シーズン2~3
2015 赤い悪魔英語版 スクリーム・クイーンズ
Scream Queens
大学のマスコットでもある赤い悪魔の仮面 シーズン1
Lakewood Slasher スクリーム英語版 ゴーストフェイスよりもダークで人間に近い造形のマスク
正体を隠しつつ連続殺人を行うための変装
シーズン1~2
2016 緑の怪物英語版 スクリーム・クイーンズ
Scream Queens
角を持つ緑の怪物のマスク
古い伝説に言い伝えられる、毒性沼に住む沼の怪物を装う
シーズン2
以下の悪役は、「仮面」や「覆面」をしているわけではなくて、姿を隠している(正体不明の)悪役である。
初登場年 人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
1971 - ショッカー首領 仮面ライダーシリーズ 日本の旗 日本 悪の秘密結社ショッカーを率いる首領。姿を一切見せず、各地のショッカー基地にある鷲型のレリーフから声で指令を送るのみで、歴代の大幹部でも直接謁見することはできない。一人称は基本的に「私」

映画[編集]

初登場年 人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
1977 ダース・ベイダー スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望
Star Wars
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 生命維持装置と連動した黒いマスク
高い指揮能力を持つ、フォースの使い手
[10][11]
1978 マイケル・マイヤーズ ハロウィン
Halloween
ジェームズ・T・カークがモデルの白塗りのハロウィンマスク
尋常ではない屈強な身体
[5]
1990 The Blank ディック・トレイシー
Dick Tracy
顔のないマスク
ギャングを襲撃し、金を奪う
1996 ゴーストフェイス 『スクリーム』シリーズ
Scream
ハロウィンのコスチュームで、ムンクの『叫び』をモチーフにした仮面
正体を隠しつつ連続殺人を行うための変装
テレビドラマ『スクリーム英語版』シーズン3にも登場した
2004 Evil Masked Figure スクービー・ドゥー2 モンスターパニック
Scooby-Doo 2: Monsters Unleashed
金属製のマスク
モンスターを生み出す装置を使って、街中で暴れる
ジグソウ 「ソウ」シリーズ
Saw
髪の毛の付いた豚の被り物
ゲームの対象となる被験者を誘拐する際に必ず使用する
2014 ヨウカイ ベイマックス
Big Hero 6
神経トランスミッターとなっている隈取の仮面
大量の「マイクロボット」を操る
以下の悪役は、「仮面」や「覆面」をしているわけではなくて、姿を隠している(正体不明の)悪役である。
初登場年 人物 邦題
原題
製作国 概要 備考
1995 カイザー・ソゼ ユージュアル・サスペクツ
The Usual Suspects
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 実在しないとも言われる伝説的ギャング
1999 ダース・シディアス スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス
Star Wars: Episode I – The Phantom Menace
黒いローブを着た姿で、暗躍する
シスの暗黒卿

出典[編集]

  1. ^ Van Hise, James (1990). Serial Adventures. Pioneer Books. p. 46. ISBN 9781556982361 
  2. ^ a b Lupoff, Richard A.; Thompson, Don, eds (1970). All in color for a dime. Arlington House. p. 92. ISBN 9780870000621 
  3. ^ a b c Brasch, Ilka (2018年10月12日). “4. Detectives, Traces, and Repetition in The Exploits of Elaine”. Amsterdam University Press. doi:10.1515/9789048537808-005/html. 2022年3月6日閲覧。
  4. ^ Brasch, I., & Mayer, R. (2016). Modernity management: 1920s cinema, mass culture and the film serial. Screen, 57(3), 302-315.
  5. ^ a b Heller-Nicholas, Alexandra (2019). Masks in Horror Cinema: Eyes Without Faces. University of Wales Press. pp. 52, 68, ?. ISBN 978-1-78683-496-6 
  6. ^ Jess-Cooke, Carolyn (2009). Film Sequels: Theory and Practice from Hollywood to Bollywood. Edingburgh: Edinburgh University Press. p. 56. ISBN 978-0-7486-2603-8 
  7. ^ a b c d e f g h i j Cline, William C. (2000). Serials-ly Speaking: Essays on Cliffhangers. McFarland. ISBN 9780786409181 
  8. ^ a b Bah, Aisha (2018). “Cultural Transgression and Subversion: The Abject Slasher Subgenre”. The Mall 2 (1): 72–83. https://digitalcommons.butler.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1093&context=the-mall 2021年4月19日閲覧。. 
  9. ^ a b Benson, Michael (2000). Vintage Science Fiction Films, 1896-1949. McFarland. ISBN 9780786409365 
  10. ^ Milligan, Cindy Ann (28 July 2015). Sonic Vocality: A Theory on the Use of Voice in Character Portrayal (PhD). Georgia State University. p. 5. 2021年5月10日閲覧
  11. ^ Rutherford, Paul (1994). “The Cannes Lions, Etc. (1984-92)”. The New Icons? - The Art of Television Advertising. University of Toronto Press. p. 142. ISBN 0-8020-2928-0 

参照[編集]