悪役

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漫画などで描かれる悪役のステレオタイプ
歌舞伎の有名な敵役(悪形)、江戸兵衛(えどべえ)/画像は、東洲斎写楽役者大首絵『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』で、主人公から大金を奪い盗ろうとにじり寄る悪人・江戸兵衛を演じる歌舞伎役者・三代目大谷鬼次(二代目中村仲蔵)を描いたもの。[* 1]
映画の有名な悪役、ダース・ベイダー/強大な超常能力と邪悪性をもって、主人公達にとっての最凶の敵役として立ち回る。黒尽くめの異様な姿形と不気味な呼吸音は悪役然としている。

悪役(あくやく)とは、第1義には、物語性のある芝居やその他の作品全般において、悪人を演じる、また、その演者をいう[1][2]。 第2義には、第1義から転じて比喩的に憎まれ役(他者から憎まれる役回り)[2]を指す。 さらには、人間の織りなす歴史を物語に譬える概念の下、特定の価値観において悪人と見える立ち回りの目立つ人物を「悪役」呼ばわりすることもある。また、政治的意図をもって悪人もしくは悪役に仕立て上げられる人物がいるのも、歴史である[* 2]

歌舞伎では、「悪役」の第1義を指して、悪人形[1]/悪人方[3][2](あくにんがた)、悪形/悪方(あくがた)[1]悪方(いやがた)[3]など、様々に呼んでいたが、最終的には「悪役」とはニュアンスの異なる「敵役(かたきやく)」という言い回しに落ち着いた[3][* 3]

英語では "villain" の第2義が日本語「悪役」の第1義と同義にあたり、その日本語音写形「ヴィラン」は、一般用語ではないものの、アメリカンヒーローもの(アメリカンコミックスに代表される、勧善懲悪を基本とする、ヒーローが活躍する物語作品の類型)などで主人公らの敵役(時として好敵手も)[* 4]として存在する悪人や悪役[* 5]を指す語としては用いられることがある。もっともこれは、「母国語(英語)での呼称を意訳することなくカタカナ語として日本語話者が使用している(だけ)」と言ったほうが適切かも知れない。

概要[編集]

悪役は特に勧善懲悪などの要素を含む物語では必要不可欠の要素である。悪役がふてぶてしく立ち回ることにより主人公の存在感をより鮮明にし、また主人公やその仲間に倒されることで、見る者にカタルシス浄化作用)を与える。基本的には物語の根底を彩り、主役たちを引き立たせる重要な存在である。したがって、悪役が魅力的であればあるほど物語の完成度は高くなる。

悪役俳優[編集]

20世紀21世紀日本においては、悪役を務めることの多い俳優を特に悪役俳優と呼ぶことがあり、これを専門とする者もいる。そういった俳優の具体的な役どころとしては、粗暴犯、暴力団構成員、ギャング権力に結託した悪人などが典型と言える。時代劇刑事ドラマアクションシーンの多い作風のものや、悪役が組織的戦闘を繰り広げるものでは、有名無名の悪役俳優が入り乱れ、迫真の演技力で主役を引き立てて倒されてゆくのが、大きな見せ場となっている。東映京都撮影所など時代劇が多く制作される場所では、悪役側の戦闘要員としてクライマックスの大立ち回りにのみ映像に登場し、主人公らに襲いかかるも返り討ちに遭って刀剣などで斬られたり殴り倒されたりする演技を多くこなす、あるいはこの手の役回りを専門とする俳優までもが存在し、これを指して斬られ役ともいう。

この悪役俳優と主役(または主人公側の人物を演じる俳優)は劇中では敵味方であるが、作品出演を通じて役者としての格を超えて、強い仲間意識を持つことも多い。主役級の俳優が物語上重要な悪役などを演じる時に、役作りの方法や演技での表現技法について、役者としての格は関係なく、本職といえる悪役俳優へと教えを乞いに行くことも珍しくない。逆に主役俳優が自分の名前で舞台興行を行う時に、その演技力や人柄を見込んで、テレビなどでは知名度の低い悪役俳優を指名して起用することも見られる。

悪役を演じる俳優は、その役柄とは対照的に善人であったり、主役級の俳優以上に実生活におけるモラルや金銭などに対して高潔であったり、自身を厳しく律している人物も多い。ドラマや映画では悪人役でも実際の家庭では良き父親・夫という例も少なくない。また、良からぬゴシップは少ない傾向もある。

1950年代から1970年代にかけての日本ではアクション映画時代劇が盛んに製作されていたためか、あるいは当時の俳優に戦時下(太平洋戦争戦時下)などで苦労した人も多かったせいか、出水憲司[4]、汐路章、天津敏、安部徹、名和宏らのように「いかにも悪役らしい」風貌や憎々しさを表現できる俳優も多かった。しかし1980年代以降に画面に登場する俳優には、中産階級の増加などの社会の変化もあったからか、そうした悪役然とした風貌の個性的な俳優は減り、「こんな優しい顔の敵役を斬ってもいいのか」という俳優も増えている。また、善悪渾然としたキャラクターや、善人面をして悪事を働くキャラクターも多いなど、21世紀には悪役としての表現技法は多様化している。

なお、20世紀の終わり頃からは、表現や価値観の多様化を背景に、いわゆる「大部屋俳優」などともいわれる無名の悪役俳優たちにも従来より多くの注目を集める者が現れようになった。インターネットが急速に普及し始める2000年代以降はさらにその傾向が加速した。時代劇で毎週のように斬られていたことでベテランの域に達してから「あれは何者か」という話題と注目を集め、ハリウッド映画にまで出演した福本清三は、そのような大部屋俳優出身の有名俳優の代表例と言える。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 本図のために取材された演目『恋女房染分手綱』は寛政6年(1794年)上演で、本図も同年に刊行されている。
  2. ^ 例えば、徳川史観での石田三成
  3. ^ なお、勧善懲悪と役回りの固定化が様式として特徴的な歌舞伎という演劇においては、「悪役」と「敵役」が同義語になり得るが、歌舞伎以外の全般においてはそうとは限らない。
  4. ^ 「敵役」は主役と敵対するからこそ「敵役」であるが、「好敵手(ライバル)」は常に敵性を帯びてはいても必ず敵対するものではない。
  5. ^ 「悪人」は悪をなす人。「悪役」は悪をなす人を演じる役やその演者。

出典[編集]

  1. ^ a b c 大辞泉
  2. ^ a b c 大辞林』第3版
  3. ^ a b c 平凡社世界大百科事典』「敵役」
  4. ^ 出水憲 ORICON NEWS

関連項目[編集]