モロー博士の島
| モロー博士の島 The Island of Dr. Moreau | ||
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| 著者 | H・G・ウェルズ | |
| 発行日 | 1896年 | |
| ジャンル | SF小説 | |
| 国 | イギリス | |
| 言語 | 英語 | |
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『モロー博士の島』(モローはくしのしま、原題:The Island of Dr. Moreau)は1896年に発表されたH・G・ウェルズのSF小説。動物を人間化する実験を行う狂気の博士の島で1年近く過ごして脱出を果たした青年の手記という形で展開される書簡体小説。風刺小説の側面も持ち、苦痛と残酷さ、道徳的責任、人間のアイデンティティ、人間による自然への干渉など様々なテーマを扱う[1]。
本作は初期SFの古典であり、ウェルズの代表作の1作である[2]。また、高度な知的生物が、低度知的生物の進化を促すというSFモチーフ(アップリフト)の嚆矢とされる[3]。本作は映画を始めとして多くの翻案作品が制作された[4]。
プロット
[編集]本作はイギリス出身の青年科学者エドワード・プレンディックの手記という形で展開される。
1887年2月、プレンディックは南太平洋を航行する帆船レディ・ヴェイン号に乗っていたが、船が難破して偶然通りかかった運搬船に救助される。その船は普通の男の乗客モンゴメリーのほか、珍しいピューマを含む多数の動物が積まれ、異様な外見の人間も乗っていた。やがて目的地の孤島に到着するとモンゴメリーはプレンディックを島に受け入れることはできないと説明するが、プレンディックと折り合いが悪かった船長は彼を置き去りにする。島には滅多に船が来ることはなく、同情したモンゴメリーによりプレンディックは島の外縁部に住むことになる。
やがてプレンディックは、この島の持ち主が残酷な動物実験を理由に学界を追放された著名な生物学・解剖学者のモロー博士であることを知る。施設からはピューマの悲鳴のような痛々しい鳴き声が聞こえ、居た堪れなくなったプレンディックはジャングルへと逃げ込む。そこで豚のような獣人を発見し、さらに別の獣人の追跡を受ける。恐怖に駆られたプレンディックは住居に戻ってくるとモンゴメリーに問いただすが、彼は決して答えない。翌朝、プレンディックはモロー博士の手術室が半開きになっていることに気づき、中に入ると包帯を巻かれた人型の生きたものを発見する。プレンディックはモロー博士が自分を材料に獣人を作り出そうとしていると考えて恐怖に慄き、再びジャングルへと逃げ込む。
ジャングルでプレンディックは猿型の獣人と出会い、ここに住む獣人達の集落に案内される。ここではリーダー格の獣人が、他の者たちに「四本脚で歩いてはいけない」「樹皮を爪で引っかいてはならない」など、モロー博士が作った人間として振る舞う「掟」を復唱させている。そこにプレンディックを捕まえるべくモロー博士が現れ、再び逃亡劇が始まり、ついに海辺へと追い込まれる。プレンディックは死を覚悟するが、そこで諦めたモロー博士が説明を始める。曰く、獣人たちは「ビーストフォーク」と呼ばれる自身が生み出した存在だが、元は動物である。11年の研究によって動物を人間に改造することに成功しつつあるが、放置すれば元に戻ってしまう。それを避けるには掟を復唱させ、痛みを与える必要がある。痛みとは真の人間にはない動物的な本能である。そしてその証拠としてモロー博士は自らの太ももをペンナイフで斬るが、何の反応も示さなかった。ひとまず身の危険はないと知ったプレンディックは、以降モロー博士たちと過ごすことになる。
ある日、プレンディックとモンゴメリーは捕食された野ウサギの残骸を発見し、掟を破った獣人がいることを察知する。モロー博士は島の獣人達を呼び集め、犯人はヒョウの獣人だと特定する。ヒョウの獣人は博士の施設で多大な痛みを与えられることを知り、逃走する。一行はヒョウの獣人を追い詰めるが、その境遇に同情したプレンディックは銃で撃ち殺し楽にしてやる。生け捕りを命じていたモロー博士は激怒するが、もはや何もできない。同時にプレンディックは他にも動物に戻りかけている獣人がいることを危惧し、ハイエナと豚の交雑獣人であるハイエナ・スワインに注意する。
さらに日が過ぎたある日、完成間近の例のピューマの獣人が逃げ出す。追いかけたモロー博士は、その獣人と相打ちになり死亡する。精神が限界に達したモンゴメリーは獣人達と酒盛りを始めるが、最後に殺し合いとなり、モンゴメリーや彼に忠実な獣人、掟の語り手が戦いで命を落とす。また、プレンディックの不注意で施設は火事となり、備蓄食料が燃えてしまう。島を去ることを決意したプレンディックであったが、島に唯一あった船はモンゴメリーによって破壊されていた。
プレンディックは残った獣人達と島で過ごすことになるが、数カ月経つと、次第に獣人達は野生に戻り始めていた。彼の指示を聞かなくなる中、ハイエナ・スワインに狙われるようになる。プレンディックは何とか返り討ちにして銃殺する。筏を作ろうとする中、2人の遺体が乗った救命ボートが島に漂着する(プレンディックは例の運搬船の船長と船員と推測する)。救命ボートで沖合に出たプレンディックは3日後に運良く発見され、イギリスに帰ることに成功する。
ロンドンに戻ったプレンディックであったが、島での話は誰にも信じてもらえず、狂人扱いされるために記憶喪失の振りをして過ごすようになり、さらに周りの人々が野生化するのではないかと怯えると明かす。そして田舎に引っ越すと人と関わらずに化学と天文学の研究に没頭し、今は安らぎを得ていることを説明し、物語は終わる。
執筆背景
[編集]本作が出版された当時、ヨーロッパでは人類が退化する可能性についての議論が高まっていた。動物の生体解剖に対する反対運動の増加は、1875年の「全国動物実験反対協会」(National Anti-Vivisection Society)や1898年の「英国動物実験廃止連盟」(British Union for the Abolition of Vivisection、BUAV)のような団体の結成に繋がった[5]。本作はこれらテーマと、1800年代末の社会規範を大きく揺るがしていたダーウィンの進化論によって提起された、倫理的、哲学的、科学的な懸念や論争を反映している。
ウェルズは、1924年に出版された全集の第2巻の序文において、本作はオスカー・ワイルドの裁判に着想を得たものだと明かしている。
『モロー博士の島』は1895年に執筆を開始し、その当時はまだ『驚異の訪れ』を書き進めている最中でした。この作品は、いわば「神学的なグロテスク(奇怪譚)」と申せましょう。スウィフトの影響が色濃く出ていることは明らかです。ちょうどその時期、スキャンダラスな裁判がありました。一人の天才の無慈悲で哀れな没落劇です。この物語は、その出来事から得た「人間とは、理性的な形に荒削りされた動物に過ぎず、本能と戒律との間で絶え間ない内部闘争を抱えている」という気づきに対する、私自身の想像力の応答として生まれたのです。この物語は、まさしくこの考えを具現化したものであるが、それを除いて寓意的な意図はありません。ただただ、人間が削り取られ、混乱し、苦しめられている獣であるというこの概念を、読者に可能な限り鮮烈なリアリティをもって伝えるためだけに書かれたものです。読者諸兄が、本全集に収められた私の歴史に関する著作をお読みになれば、「人間は形を変えた動物である」という同じ概念が、もはや炎のような風刺画としてではなく、熟慮され、確固たる信念として語られていることに気づかれるでしょう。 — The Works of H. G. Wells (Atlantic Edition) / Preface to Volume 2
評価
[編集]当時、本作は激しい否定的な批評を受けた。ロンドン・タイムズ紙は、本作を「忌まわしい、ゾッとする」と評した。著名な動物学者であったピーター・チャルマーズ・ミッチェルは、サタデー・レビュー誌から依頼を受けて批評を行い、ウェルズを「科学の異端者」(scientific heretic)と呼んだ。パンチ誌は、ジェームズ・F・サリバンによる『ドクター・メニューの島』というパロディを掲載した。しかし、注目を浴びたことでウェルズにとって当時最高の売上を記録した作品となった[6]。
映画
[編集]- 『獣人島』(1932年)
- 『ドクター・モローの島』(1977年)
- 『D.N.A./ドクター・モローの島』(1996年)
日本語訳
[編集]児童書では「博士」の読みが「はかせ」の場合もある。
| 出版年 | タイトル | 書籍名 | 出版社 | 文庫名 | 訳者 | ISBNコード | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1924年 | モロオ博士の島 | モロオ博士の島 | アルス | アルス・ポピュラアー・ライブラリー | 木村信次 | ||
| 1956年 | モロー博士の島 | 世界大ロマン全集 第7巻 | 東京創元社 | 世界大ロマン全集 | 宇野利泰 | ||
| 1958年 | モロー博士の島 | 偕成社 | 名作冒険全集 | 一色次郎 | 児童書 | ||
| 1961年 | モロー博士の島 | タイム・マシン | 岩崎書店 | 少年少女宇宙科学冒険全集 | 西原康 | 児童書 | |
| 1962年 | モロー博士の島 | H.G.ウェルズ短篇集 | 早川書房 | ハヤカワ・SF・シリーズ | 宇野利泰 | ||
| 1967年 | モロー博士の島 | 角川書店 | 角川文庫 | 能島武文 | |||
| 1977年 | モロー博士の島 | 早川書房 | ハヤカワ文庫. SF | 宇野利泰 | |||
| 1989年 | 改造人間の島 | 旺文社 | 必読名作シリーズ | 橋本槙矩 | ISBN 4-01-067016-9 | 児童書 | |
| 1993年 | モロー博士の島 | モロー博士の島 : 他九篇 | 岩波書店 | 岩波文庫 | 橋本槙矩・鈴木万里 | ISBN 4-00-322763-8 | |
| 1996年 | モロー博士の島 | 偕成社 | 偕成社文庫 | 雨沢泰 | ISBN 4-03-652140-3 | 児童書 | |
| 1996年 | モロー博士の島 | 東京創元社 | 創元SF文庫 | 中村融 | ISBN 4-488-60707-1 |
脚注
[編集]- ↑ Barnes & Noble. “The Island of Doctor Moreau: Original and Unabridged”. Barnes & Noble. 2025年12月6日閲覧。
- ↑ See Mason Harris's introduction and notes for the 2009 Broadview Books edition of The Island of Dr. Moreau
- ↑ Booker, Keith M. (2014). Historical Dictionary of Science Fiction in Literature. Rowman & Littlefield. p. 311
- ↑ “How Hollywood fell for a British visionary”. The Telegraph. 2022年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年3月14日閲覧.
- ↑ “Welcome”. politics.co.uk. 2019年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年2月11日閲覧。
- ↑ The Island of Dr. Moreau
外部リンク
[編集]- The Island of Doctor Moreau - プロジェクト・グーテンベルク(英語)
- モロー博士の島(日本語訳)
- Reading of The Island of Doctor Moreau(英語)
- Text of the novel - ウェイバックマシン(2002年11月20日アーカイブ分)(英語)