ヘレラサウルス

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ヘレラサウルス
生息年代: 中生代三畳紀後期, 230–220 Ma
Herrerasaurus ischigualastensis DSC 2929.jpg
ヘレラサウルス復元骨格(ゼンケンベルグ自然史博物館)
地質時代
中生代後期三畳紀
(約2億3,000万-2億2,000万年前)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
: ヘレラサウルス科Herrerasauridae
学名
Herrerasaurus ischigualastensis
Reig, 1963
シノニム

Ischisaurus Reig, 1963
Frenguellisaurus Novas, 1986

和名
ヘレラサウルス

ヘレラサウルス (属名:Herrerasaurus) は、後期三畳紀カーニアン期にあたるアルゼンチンイスチグアラスト層英語版から産出している、最大で全長6メートル[1][注 1]、平均体重350キログラムの肉食恐竜。

人との大きさ比較

2020年時点では最古の大型肉食恐竜として有名[注 2]。肉食性だったことは間違いないが、身体の各所に獣脚類らしからぬ特徴[注 3]を持つことから、本属(を含むヘレラサウルス科)が獣脚類に属するかどうかは不明であり、近年は獣脚類に含めないとする考えが主流になりつつある[2][3]。学名の意味は「ヘレラのトカゲ」で、化石の発見者であるアルゼンチン人 Victorino Herrera にちなむ。

古生物学[編集]

Lightly-built bipedal reptile
画家による生体復元

二足歩行を行う肉食性の恐竜であった[注 4]。全長は最大6メートル[1]、体重は350キログラ厶。体格的には成人男性と互角と言える。ヘレラサウルス科を代表する属であり、スタウリコサウルスサンユアンサウルス(サンファンサウルス)、グナトボラクス英語版よりも大きな体躯をしていた。

三畳紀後期の一時期(カーニアン)には有力な捕食者としてのニッチを保持していたが、やがてコエロフィシスのような真正獣脚類に取って代わられた[4]。同時期にリンコサウルス類など三畳紀特有の四肢動物も大きく衰退しているため、生態系全体に何らかの変動があった可能性がある。

頭部[編集]

ヘレラサウルスの頭骨(B、標本番号PVSJ 407)と左上顎骨(C、標本番号PVSJ 053)。いずれも実骨で、スケールバーは5センチメートル。

長方形の頭骨に高さのある前上顎骨、そして控えめな前眼窩窓が特徴的。下顎には、有鱗目に見られる特殊な関節を備えていた。上顎骨からは、まるで犬歯のような長大な歯が数本生えていた。それと対応するように歯骨の下部には、唇の痕跡と思われるラインが確認できる。

頭骨模型

かつて『ヘレラサウルスの唾液は有毒』だとする内容がWikipedia日本語版に掲載されていたが、ヘレラサウルス有毒説なるものは全く存在しない。発端はヘンリー・シールイス・レイが空想と事実とユーモアを織り交ぜた著書『恐竜野外博物館』において、『ヘレラサウルスの唾液にはが含まれている』とした事にある[5]。恐竜全体で見ればシノルニトサウルスなど、有毒説を唱えられた恐竜は確かに存在するが、ヘレラサウルス自体にそうした事は一度としてないため、気をつけなければならない。

ヘレラサウルスの頭骨の背面。右に見える穴が側頭窓

頭骨の横幅は狭く、ティラノサウルスのような際立った立体視野を持ってはいなかった。

四肢[編集]

フィールド博物館に展示されたヘレラサウルスの復元骨格(レプリカ)

前肢の指は5本。そのうち第一指から第三指[注 5]に鉤爪が生えている一方、第四指と第五指[注 6]はほとんど退化していた。ジュラ紀白亜紀の大半の恐竜と異なり、第二指よりも第三指のほうが長く、これは四足歩行の頃の名残りと思われる[3]

後ろ脚の大腿骨と脛では大腿骨のほうが長いため、後のオルニトミムスなどより走行性能は劣っていたと考えられる。だがそれでも三畳紀の世界においては十分に敏捷だった[3]

胴体と尻尾[編集]

骨化腱が未発達だったため、尻尾の柔軟性は、後のテタヌラ下目より遥かに高い。

古生態学[編集]

獲物のリンコサウルス類(幼体)を咥えた復元模型

糞化石や胃内容物などの研究から、ヘレラサウルスはリンコサウルス類ヒペロダペドン、またの名をスカフォニクス英語版ディキノドン類イスチグアラスティア[注 7]を主食としていた事が示されている[3][6]

ヘレラサウルス(大)とエオラプトル(小)の全身骨格とプラテオサウルスの頭骨

しばしばヘレラサウルスとセットで語られるエオラプトルについては、比較するとかなり身体が小さかったため、ヘレラサウルスの標的となった可能性が否定できない。

競合相手[編集]

多種多様な肉食動物が生息したイスチグアラスト層において、ライバルとの競合を避けるのは難しかっただろう。

クルロタルシ類

中でも最大勢力だったのが現生のワニに近縁なクルロタルシ類で、例えば全長5メートルのサウロスクスは、リンコサウルス類やディキノドン類はもちろん、時に初期の恐竜さえ餌食する頂点捕食者だった[3]。そこでヘレラサウルス(を含む恐竜形類)は、自らの敏捷性[注 8]を武器に巨大なクルロタルシ類と棲み分け食い分けを行っていたと見られている[7]

キノドン類
Bipedal dinosaur leaning down to feed on a small, dead mammal-like reptile
獣弓類(のキノドン類)を食べるヘレラサウルス

クルロタルシ類ほどの勢力ではないにしろ、哺乳類にごくごく近縁な獣弓類のキノドン類[注 9]もまた優れた肉食獣だったため、少なからずニッチを争う関係にあっただろう[8]。ただしヘレラサウルスとキノドン類とではかなり体格に開きがあったため[注 10]、ヘレラサウルスがキノドン類自体を獲物にすることもあったと思われる。ちなみに、『キノドン類は恐竜やワニ類との対決に敗れて小型化していった』とする説明がなされることがあるが、トルシキノドンなど例外も存在する。

分類[編集]

ヘレラサウルスは恐竜としては非常に原始的な形質を持つため、分類学的な位置を明確にすることは難しい。同じく初期の恐竜であるエオラプトルなどと共に原始的な獣脚類とする見方が強まったが、その後エオラプトルは歯の特徴から原始的な竜脚形類であることが示唆され、ヘレラサウルス科英語版の恐竜も獣脚類より竜脚形類に近縁である可能性が解剖学的特徴から示唆されている[1][2]。また、ヘレラサウルス科を恐竜ですらないとする研究も複数ある[1]

種は現在までに H.ischigualastensis 一種のみが確認されている。北米産のレヴェルトラプトル (Revueltoraptor) や、同じ南米ではサンユアンサウルス(Sanjuansaurus)などが特に近縁とされともにヘレラサウルス科に分類される。現在ではシノニムとされるものにフレングエリサウルス(Frenguellisaurus)がある。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 大抵の図鑑などでは3メートルとされているが、かつてのフレングエリサウルスを加味すると更に大きくなる。
  2. ^ コエロフィシスはせいぜい体重30キログラム、リリエンステルヌスはより新しいノーリアン期に生息した。
  3. ^ 例えば下顎にトカゲを彷彿とさせる関節を備えていた。
  4. ^ 獣脚類かどうかは不明。オルニトスケリダも参照されたし。
  5. ^ ヒトで言うところの親指、人差し指、中指。
  6. ^ 薬指と小指。
  7. ^ 成体は巨大すぎるため、おそらく幼体などを狙ったと思われる
  8. ^ 趾行性が有利に働いた
  9. ^ チニクオドントルシキノドンに代表されるエクテニニオン科英語版、そしてプロベレソドン英語版など
  10. ^ 約3〜6倍

出典[編集]

  1. ^ a b c d ダレン・ナイシュ、ポール・バレット『恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎』小林快次・久保田克博・千葉謙太郎・田中康平監訳、吉田三知世訳、創元社大阪府大阪市中央区淡路町4-3-6、2019年2月20日、第1版、47頁。ISBN 978-4-422-43028-7
  2. ^ a b デイヴィッド・E・ファストヴスキーデイヴィッド・B・ウェイシャンペル『恐竜学入門 ─かたち・生態・絶滅─』真鍋真監訳、藤原慎一・松本涼子訳、東京化学同人東京都文京区千石3丁目36-7、2018年5月25日(原著2015年1月31日)、第2版、p. 313。全国書誌番号:22535495ISBN 978-4-8079-0856-1NCID BB17901360OCLC 904989280ASIN 4807908561
  3. ^ a b c d e 『地球最古の恐竜展(図録)』P50〜53、P73、P110、P116〜117(監修)小林快次、(執筆)小林快次、大橋智之ほか(発行)NHK:2010年
  4. ^ The origin and early evolution of dinosaurs(Max C Langer:2009)
  5. ^ 『恐竜野外博物館』ヘレラサウルスの項 (著)ヘンリー・シー、ルイス・レイ(出版)朝倉書店:2006年
  6. ^ 『大恐竜展 -失われた大陸ゴンドワナの支配者-(図録)』P24(編集)冨田幸光(執筆)ロドルフォ・コリア(発行)読売新聞社:1998年
  7. ^ 『地球最古の恐竜展(図録)』P114〜115(監修)小林快次、(執筆)小林快次、大橋智之ほか(発行)NHK:2010年
  8. ^ 『地球最古の恐竜展(図録)』P94〜99(監修)小林快次、(執筆)小林快次、大橋智之ほか(発行)NHK:2010年

関連項目[編集]