ヘリオス航空522便墜落事故

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ヘリオス航空 522便
Helios Airways Boeing 737-300 5B-DBY PRG 2005-3-31.png
事故機(プラハ・ルズィニエ国際空港にて、2005年3月撮影)
出来事の概要
日付 2005年8月14日
概要 機内の減圧に伴うパイロットの意識喪失、燃料切れ
現場 ギリシャの旗 ギリシャ上空
乗客数 115
乗員数 6
負傷者数
(死者除く)
0
死者数 121(全員)
生存者数 0
機種 ボーイング737-300
運用者 キプロスの旗 ヘリオス航空
機体記号 5B-DBY
出発地 キプロスの旗 ラルナカ国際空港
経由地 ギリシャの旗 アテネ国際空港
目的地 チェコの旗 ヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港
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522便の飛行地図

ヘリオス航空522便墜落事故 (ヘリオスこうくう522びんついらくじこ、Helios Airways Flight 522)は、2005年8月14日ギリシャで発生した航空事故である。キプロスの新興格安航空会社ヘリオス航空522便の乗客と乗員あわせて121名が全員死亡した、ギリシャ航空史上最悪の事故であった。与圧システムの異常による酸素欠乏で操縦士が意識不明となり、機体はオートパイロットで飛び続けた後、グランマティコ英語版村近くの山間部に墜落した。

ギリシャ政府の高官は、事故の翌日に「事故機があと5分飛行してアテネの市街地上空に到達したならば、市街地への墜落を避けるために戦闘機に撃墜させるつもりであった」と発言した。

事故当日のヘリオス航空522便[編集]

1997年に製造され、ドイチェBA(英国航空の子会社)に機体記号 D-ADBQとして納入。2004年にヘリオス航空にリースされていた[1]
機長:Hans-Jürgen Merten(ハンス・ユルゲン・メルテン) 58歳
副操縦士:Pampos Charalambous(パンポス・チャラランボス) 51歳
客室乗務員:Andreas Prodromou(アンドレアス・プロドロモウ)25歳[2] 他、計4名
  • 乗客:115名
  • 乗員乗客、合計121名
メルテン機長は繁忙期のための契約パイロットだが、1990年まで35年間インターフルークに勤務し、16,900飛行時間を持つベテランだった[3]

事故の経過[編集]

当日の早朝、機体がロンドンから到着したとき、前の乗務員は凍ったドアシールと右後部サービスドアから来る異音を報告し、ドアの全面検査を要求した。 地上整備員はドアの検査に加えて与圧漏れ検査を行った。このとき地上整備員は、エンジンを停止させた状態で検査を実行するために、与圧システムを「手動」に設定したが、完了時に「自動」に戻さなかった[4]
522便の乗組員には、1.飛行前の手順実行中、2.発進後チェック中、3.離陸後チェック中と、 与圧システムの状態に気付くチャンスが3度あったが、すべてのチェックにおいて、気付くことなく見逃してしまった。こうして522便は与圧システムが「手動」に設定されたまま離陸した。このとき、機体後部に位置する圧力調整弁[5]は開いたままになっていた[6]
このため機体の上昇につれ、客室内の気圧は徐々に低下。 12,040フィート(3,670 m)の高度を通過したとき、機内高度警告音が鳴り、乗組員に上昇を停止するように促した[7] 。しかしその音は離陸設定警告と全く同じものであったため、彼らは誤作動によるものと思い込んでいた[7]
次の数分で、コックピットのオーバーヘッドパネルのいくつかの警告灯が点灯。 冷却警告灯が点灯し、冷却ファンを通る空気の流れが少なくなったこと(空気密度の低下の結果)、およびマスター警告灯が点灯したことを知らせる。 機体が高度約18,000フィート(5,500m)に達したとき、客室内の酸素マスクが落下し、酸素ランプが点灯した[8][9]
機長はヘリオス航空に連絡し「離陸設定の警告灯が点いている」「冷却系は正常で予備系は切っている」と報告した[10]:4。さらに機長は地上整備員に「冷却換気ファンのランプは消えていた」と繰り返し告げた[11]:4。この整備員は与圧漏れ検査を実施した本人で、機長に対して「与圧システムが自動モードか確認できるか?」と尋ねたが、既に低酸素症に陥っていたのか、機長はこの質問を無視して「機器冷却系回路のブレーカーは何処だ?」と尋ね返した[10]:5。これが事故機からの最後の交信となった[10]:125
522便は、約34,000フィート(10,000 m)に達し、 FL340で水平になるまで上昇を続けた。 ニコシアATCは9時30分から9時40分の間、何度も航空機へのコンタクトを試みたが、成功しなかった。 同機は09時37分、アテネATCと連絡が取れないまま、キプロス飛行情報地域 (FIR)からアテネFIRに移った。10時12分から10時50分の間、管制官は19回にわたって呼びかけを行ったが、すべて無反応に終わった。10時40分に航空機はアテネ空港のホールディングパターンに入り、以降70分間、オートパイロットの管理下でホールディングパターンのままだった[12]
ギリシャ空軍第111戦闘機隊のF-16戦闘機2機が、Nea Anchialos空軍基地からスクランブルをかけて視界を確保した 。 彼らは11:24に旅客機のジェット機を迎撃し、副操縦士が操縦席で動かずに倒れ、機長の座席が空いていたことを確認した。 彼らはまた、酸素マスクが客室にぶら下がっていると報告した[13]
11時49分、客室乗務員のプロドロモウが、機内の酸素供給装置を使用して意識を保ったまま、コクピットに辿り着き、機長席に座った。プロドロモウはF16に対し非常に短い時間手を振ったが、彼がコクピットに入った直後、左のエンジンが燃料の消耗により燃え上がり、機体はホールディングパターンを離れて降下し始めた。 左エンジン停止から10分後、右エンジンも機能を失った[14]
12時04分、522便はアテネから40 km(25マイル)に位置するグランマティコ村付近の山間に墜落し、乗員乗客121名全員が死亡した[15]
事故後の捜索活動で、118人の遺体が回収された。乗客の目的地はアテネまでが67人、残りはプラハへ向かう途中だった。 乗客リストには大人93人と子供22人が含まれていた。
国籍 乗客 乗組員 合計
キプロスの旗 キプロス 103 4 107
ドイツの旗 ドイツ 0 1 1
ギリシャの旗 ギリシャ 12 1 13
Total 115 6 121


タイムライン

Date: 14 August 2005
All times EEST (UTC + 3h), PM in bold
時刻 出来事
09:00 出発予定時刻
09:07 ラルナカ国際空港
09:12 機内高度警告が鳴る
高度12,040フィート (3,670 m)
09:14 パイロットが空調の問題を報告
09:20 乗組員との最後の連絡;
高度28,900フィート (8,809 m)
09:23 現在高度34,000フィート (10,400 m);
恐らく自動操縦
09:37 522便がアテネの管制領域に入る
ニコシアATCからアテネATCに、無線が通じなくなった事が通知される[16]
10:12–10:50 アテネATCからの呼びかけに応答なし
10:45 アテネ到着予定時刻
10:54 アテネ共同救助調整センター英語版が墜落に備え待機に入る[17]
11:05 2機のF-16戦闘機がNea Anchialosを出発
11:24 F-16戦闘機がエーゲ海、ケア島上空に到達
11:32 F-16戦闘機は副操縦士が倒れているのを確認
客室には酸素マスクが降りているが、テロの気配はなかった
11:49 F-16戦闘機がコクピット内に人影を確認
その人物は機体のコントロールを取り戻そうとしているように見えた
11:50 左エンジン停止
11:54 コクピットボイスレコーダー(CVR)が2回のMAYDAYメッセージを記録
12:00 右エンジン停止
12:04 墜落

調査[編集]

2004年にロンドン・ルートン空港で撮影された事故機
フライトデータレコーダーとコックピットボイスレコーダーは分析のためにパリに送られた[18][19]。CVRの録音を聞いた同僚により、飛行機を救おうとして操縦席に入った人物が、客室乗務員のプロドロモウであったことが確認された。 彼は「メーデー」と5回呼んだが、無線の周波数はアテネではなくラルナカに合わせられていたため、アテネATCには届かなかった[20]
遺体の多くは、男女の見分けも付かないほどに焼け焦げていた[21]。解剖の結果、衝突時には全員が生存していたことが判明した[22]
客室内への酸素供給は、化学式酸素発生器により酸素マスクを通じて12分間行われる。これは通常、呼吸可能な高度10,000フィート(3,000m)への緊急降下には十分なものである。しかしパイロットたちがすでに意識を喪失していたため降下は行われず、やがて酸素が尽き、客室にいた乗員乗客も意識を失った。
ボーイング737には、有事に際して乗務員たちが行動するための、座席数よりも多い酸素マスクが備え付けられていた。酸素マスクが降りていながら降下が行われないことで異常を察知したプロドロモウは、これを利用して酸素を補給しながらコクピットへ向かった。さらにキプロス共和国でダイバーや特殊部隊員の経験があり、鍛えられた体力と対応力が彼の行動を支えたことが推察された。しかし操縦室扉の暗証コードを知らされていなかったため解除に手間取り、操縦室に入った時には酸素が底を尽いてしまった[23][2][24]
プロドロモウはパイロット志望で、英国の事業用操縦士資格[25]を持っていたが、ボーイング737操縦のための技能は不足していた。また低酸素症による思考力、判断力の著しい低下により、メーデーの発信とF-16のパイロットに合図を送ることが精一杯だった。しかし、機体はオートパイロットにより旋回を続けた後山中に墜落し、かろうじて市街地への墜落は回避された[24]

事故原因[編集]

ギリシャの航空事故調査および航空安全委員会 (AAIASB)は、事故の原因は以下の問題の連鎖によるものと結論付けた[26]

  • 与圧システムが「手動」に設定されていたことがパイロットたちに認識されなかった。
  • 問題の本質を乗組員が識別できなかった(見えにくい表示ランプ、警告音が使い分けられていないなどシステムの欠陥による警告の誤認)。
  • 低酸素状態による乗組員の無力化。
  • 最終的な燃料不足。
  • 地面との衝突。

事故の予兆[編集]

「オリンピア」には墜落事故の予兆というべき事態が起こっていた。2004年12月16日、 ワルシャワからのフライトの途中、機内圧力が急速に減少したため急降下していたのである。このとき客室乗務員は、後部サービスドアからの衝撃音があり、ドアのシールに手の大きさの穴があると報告していた。
キプロスの航空事故・事件調査委員会 (AAIIB)はこのインシデントの原因を特定できなかったものの、1.圧力調整弁の開放を引き起こす電気的故障、2.または後部サービスドアの不注意による開放という2つの可能性をあげている[27]
乗客からはエアコンの不具合について苦情が出ており、事故前の10週間の間に、オリンピアの環境制御システムは7回の修理ないし点検を受けていた[28][29]。また、墜落事故の犠牲となった副操縦士の母親は、息子が航空機が寒くなるとヘリオスに繰り返し訴えていたと主張している[30]

事故後[編集]

ヘリオス航空は2005年8月29日、所有する機体の安全性が確認されたと発表。 その後、「Helios Airways」から「αjet」に社名を変更して運営を続けた。しかし、キプロスの当局が同社の航空機を拘束し、約1年後に同社の銀行口座を凍結。ヘリオスは2006年10月31日に業務を停止すると発表した。

2011年3月、 米国の連邦航空局は Airworthiness Directives (ADs、耐航空性改善命令) を発表。同国で登録する-100から-500モデルまでのすべてのボーイング737型航空機に、2014年3月14日を期限として2つの追加コックピット警告灯を取り付けることを義務付けた。 これらは、離陸構成または与圧システムに問題があることを示すものだった[31]

事故周辺の騒動[編集]

  • 事故機があと5分間飛行を続けていた場合、アテネ市街地への墜落の危険を回避するために撃墜命令を出す態勢にあったことを8月15日にギリシャ政府高官が明らかにした。またキプロス政府およびギリシャ政府は、本事故の発生を受けて3日間の喪に服すことを決定した。
  • 事故を起こしたヘリオス航空は、事故機の乗客名簿を6時間経過しても公表出来ないという不手際があり、家族が同社の事務所に入ろうとして小競り合いになった。また事故の翌日にはブルガリア行きの同社便への乗務を乗員が拒否し乗客もキャンセルする騒ぎが起きた。そのため同社はボーイング737の運航を中止し、それにともない路線を縮小することになった。事故がおきたプラハ線は廃止された。同社は翌年11月に他社に事業を譲渡し運航停止に追い込まれた。
  • 事故発生当初の報道は様々な事故原因の憶測が錯綜しており、「アテネの管制官に機内の温度が急低下した旨を連絡した後に消息を絶った」、「パイロットの1人が体調不良を訴えていた」、「1名の乗客が携帯電話のメールで機内が冷たく身体が冷え切っていることを伝えてきた」、「回収された遺体は内部まで凍っていた」、「墜落時には全員が凍死か窒息死していた」などの情報が流されていた。そのうち、メールは何者かがイタズラ目的で流したものであることが判明し、ギリシャ当局は32歳の男を逮捕した。この男は後に懲役6か月、執行猶予42か月の刑事処分を受けた。

映像化[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b 737 Production List Data”. Planespotters.net. 2018年6月1日閲覧。
  2. ^ a b Flight Attendant Tried to Save Cypriot Plane - Aviation Pros”. 2019年1月21日閲覧。
  3. ^ Two trying to save jet ID'd”. News24 (2005年8月16日). 2009年1月7日閲覧。
  4. ^ AAIASB final report, section 3.2.3, p. 159 (PDF page 171 of 198)
  5. ^ 与圧制御板(cabin pressure control panel)、与圧制御器(cabin pressure controller)とともに、客室与圧調整系統を構成する装置。エンジンにより加圧された空気は圧力調整弁から排出されるが、その開度を調整することで機内の気圧は保たれている。客室与圧調整系統
  6. ^ AAIASB final report, section 1.16.2, p. 66 (PDF page 78 of 198)
  7. ^ a b AAIASB final report, section 2.2.4, p. 121 (PDF page 133 of 198)
  8. ^ AAIASB final report, section 2.2.4, p. 122 (PDF page 134 of 198)
  9. ^ AAIASB final report, section 1.1, p. 5 (PDF page 17 of 198)
  10. ^ a b c Air Accident Investigation and Aviation Safety Board (AAIASB) (2006年11月). “Aircraft Accident Report: Helios Airways Flight HCY522 at Grammatiko (PDF)”. http://www.aaiasb.gr. Air Accident Investigation and Aviation Safety Board (AAIASB). 2018年9月閲覧。
  11. ^ AAIASB 2006, p. 4.
  12. ^ AAIASB final report, section 1.1, pages 5–6 (PDF pages 17–18 of 198)
  13. ^ “Helios Crash: Background information”. Famagusta Gazette. http://famagusta-gazette.com/helios-crash-background-information-p237-69.htm 2012年7月22日閲覧。 
  14. ^ AAIASB final report, section 2.2.7, p. 127 (PDF page 139 of 198)
  15. ^ AAIASB final report, section 1.1, p. 7 (PDF page 19 of 198)
  16. ^ AAIASB final report, section 1.1, p.5 (PDF page 17 of 198)
  17. ^ AAIASB final report, section 1.1, p.6 (PDF page 18 of 198)
  18. ^ AAIASB final report, section 1.11.1 "Cockpit Voice Recorder (CVR)", p. 39 (PDF page 51 of 198)
  19. ^ AAIASB final report, section 1.11.2 "Flight Data Recorder (FDR)", p. 40 (PDF page 52 of 198)
  20. ^ AAIASB final report, section 2.2.7 "Descent", p. 127 (PDF page 139 of 198)
  21. ^ AAIASB final report, section 1.13.1 "Medical Information", p. 57.
  22. ^ AAIASB final report, section 1.13.1 "Medical Information", p. 57 (PDF page 69 of 198)
  23. ^ AAIASB final report, section 1.6.3.5.2.2 "Passenger Portable Oxygen", p. 32 (PDF page 44 of 198)
  24. ^ a b "Ghost Plane." Mayday
  25. ^ キプロス共和国はイギリス連邦加盟国であるためキプロス出身者はイギリス人と同じ条件でライセンスを取得できる。
  26. ^ AAIASB final report, section159
  27. ^ AAIASB final report, section 1.18.1.1, p. 102 (PDF page 113 of 198)
  28. ^ AAIASB final report, section 1.18.1.2, p. 103 (PDF page 115 of 198)
  29. ^ "Helios 737 crashed with no fuel and student pilot at the controls" Radar Vector, 21 August 2005
  30. ^ news in.gr – Βεβαρημένο το παρελθόν του αεροσκάφους που συνετρίβη, σύμφωνα με μάρτυρες”. In.gr. 2014年3月13日閲覧。
  31. ^ Hradecky, Simon. “FAA requires separate configuration and cabin altitude warning lights on Boeing 737s”. Aviation Herald. 2011年2月8日閲覧。
  32. ^ 上空1万メートル 史上最大の航空ミステリー 奇跡体験!アンビリバボー 2012年9月6日(インターネットアーカイブ
  33. ^ 世界衝撃映像100連発★命がけの映像SP TBSテレビ


参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]