パイオニア・ヴィーナス計画
パイオニア・ヴィーナス計画(パイオニア・ヴィーナスけいかく、Pioneer Venus project)は、別々に打ち上げられた2機の探査機によって行われた。パイオニア・ヴィーナス1号(パイオニア・ヴィーナス・オービター)は1978年に打ち上げられて軌道投入後十数年にわたって金星を探査し、パイオニア・ヴィーナス2号(パイオニア・ヴィーナス・マルチプローブ)は4つの小さなプローブを金星の大気中に運んだ。アメリカ航空宇宙局のエイムズ研究センターがパイオニア計画の一環として運用した。
パイオニア・ヴィーナス・オービター
[編集]パイオニア・ヴィーナス・オービター | |
---|---|
パイオニア・ヴィーナス・オービター | |
所属 | エイムズ研究センター |
任務 | オービター |
周回対象 | 金星 |
軌道投入日 | 1978年12月4日 |
打上げ日時 | 1978年5月20日 |
打上げ機 | アトラス・セントール |
任務期間 | 1978年5月20日-1992年8月 |
軌道減衰 | 1992年8月 |
COSPAR ID | 1978-051A |
公式サイト | National Space Science Data Center (NASA) |
質量 | 517 kg |
消費電力 | 312 watts |
軌道要素 | |
離心率 | .842 |
軌道傾斜角 | 105° |
遠点高度 | 1.03 RV |
近点高度 | 12.01 RV |
軌道周期 | 24時間 |
パイオニア・ヴィーナス・オービターは、1978年12月4日に金星の楕円軌道に入った。オービターは直径2.5m、高さ1.2mの平たい円筒形で、後方の4.7mのブームの先に付く磁気センサを除き、全ての機器とシステムが前端に収められている。円筒の周囲には太陽電池が展開し、デスパンアンテナが地球とのS帯及びX帯の通信を担った。ヒューズ・エアクラフト社によって製造された。
実験機器
[編集]パイオニア・ヴィーナス・オービターは、合計45kgになる17個の実験機器を運んだ。
- 雲写真旋光計(OCPP)は、雲の垂直分布を測定した。
- 地表レーダーマッパー(ORAD)は、地形と地面の特徴を決定した。観測は、地表から4,700km以内に近づいた時に行われた。周波数1.757GHz、強さ20Wの信号がS帯で伝送され、地表で反射されたエコーが分析された。近点での解像度は、23×7kmであった。
- 赤外線放射計(OIR)は、金星の大気からの赤外線放射を測定した。
- 紫外線分光計(OUVS)は、散乱または放射紫外線を測定した。
- 中性質量分析器(ONMS)は、大気上層の組成を決定した。
- 太陽風プラズマ分析器(OPA)は、太陽風の性質を測定した。
- 磁気センサ(OMAG)は、金星の磁場を観測した。
- 電界検出器(OEFD)は、太陽風とその相互作用を調査した。
- 電子温度計(OETP)は、電離圏の熱的性質を調査した。
- イオン質量分析器(OIMS)は、電離圏のイオン組成を決定した。
- 荷電粒子逆電圧分析器(ORPA)は、電離圏の粒子を調査した。
- 2つの電波科学実験装置は、金星の重力場を決定した。
- 電波掩蔽実験装置は、大気の性質を調査した。
- 大気抵抗実験装置は、上層大気を調査した。
- ガンマ線バースト検出器(OGBD)は、ガンマ線バーストを記録した。
- 大気と太陽風の乱流の測定。
ミッションの詳細
[編集]1980年7月に金星の軌道に入り、レーダーの補助と電離圏の測定のために近点は142kmから253kmの間に保たれ、遠点66,900kmの周期24時間の楕円軌道を回った。その後、近点は最高2290kmまで引き上げられ、燃料の節約のため再び下げられた。1991年、レーダーマッパーが再起動され、到着したマゼランとともに、以前はできなかった南半球の調査を行った。1992年5月、ミッションの最終段階に入り、燃料が枯渇して8月に大気圏再突入して燃え尽きるまで、近点は150kmから250kmに保たれた。
結果
[編集]パイオニア・ヴィーナス・オービターのレーダー高度計のデータから、金星表面の最初の地形図が作られた。
パイオニア・ヴィーナス・マルチプローブ
[編集]パイオニア・ヴィーナス・マルチプローブは、1つの大きなプローブと3つの小さなプローブを運ぶ1つのバスから構成された。そのプローブのいずれも写真を撮影する能力はなく、土壌の分析もできなかった。また、ソフトランディングさえできず、地上で活動できれば幸運と考えられていた。大きなプローブのパラシュートはある程度の高度で切り離されるように設計してあり、小さなプローブにはパラシュートもなかった。大気圏に突入した全てのプローブは少なくとも衝突の瞬間までは、金星の厚い大気の中で機能していたが、衝突後もかなりの時間、機能を保ったのは1つだけであった。
大きなプローブは、1978年11月16日、3つの小さなプローブは11月20日に放出された。4つとも12月9日に、バスに続いて金星の大気圏に突入した。
大プローブ | 北プローブ | 昼プローブ | 夜プローブ | バス | |
---|---|---|---|---|---|
大気圏突入時刻 (200km) | 18:45:32 | 18:49:40 | 18:52:18 | 18:56:13 | 20:21:52 |
衝突時刻 | 19:39:53 | 19:42:40 | 19:47:59 | 19:52:05 | (信号は高度110kmで途絶) |
信号途絶時刻 | 19:39:53 | 19:42:40 | 20:55:34 | 19:52:07 | 20:22:55 |
衝突地点 | 北緯4.4東経304.0 | 南緯59.3東経4.8 | 南緯31.3東経317.0 | 南緯28.7東経56.7 | 南緯37.9東経290.9 (推定) |
太陽天頂角度 | 65.7 | 108.0 | 79.9 | 150.7 | 60.7 |
金星時間 | 7:38 | 3:35 | 6:46 | 0:07 | 8:30 |
バス
[編集]パイオニア・ヴィーナス・バス | |
---|---|
プローブが接続したパイオニア・ヴィーナス・バス | |
所属 | エイムズ研究センター |
任務 | 大気プローブ |
周回対象 | 金星 |
打上げ日時 | 1978年8月8日 |
打上げ機 | アトラス・セントール |
COSPAR ID | 1978-078A |
公式サイト | National Space Science Data Center (NASA) |
質量 | 290 kg |
消費電力 | 241 W(太陽電池) |
パイオニア・ヴィーナス・バスは、浅い進入角度で金星の大気圏に突入し、突入に伴う熱で破壊されるまでデータを伝送した。その目的は、地表までの大気の構造と組成、雲の性質と組成、大気下層の放射場とエネルギー交換、局地的な大気循環パターンの調査である。
バスは直径2.5mの円筒型で、重さは290kgであり、プローブが大気下層で減速するまで測定を行わなかったため、金星の大気上層の様子を唯一直接見せてくれた。
熱シールドもパラシュートも持たず、バスはイオン質量分析器(BIMS)と中性質量分析器(BNMS)を用いて、1978年12月9日に高度約110kmで崩壊するまで測定を続けた。
大プローブ
[編集]大プローブ | |
---|---|
パラシュートを開いたパイオニア・ヴィーナスの大プローブ | |
任務 | 大気プローブ |
周回対象 | 金星 |
打上げ日時 | 1978年11月16日 |
打上げ機 | パイオニア・ヴィーナス・バス |
COSPAR ID | 1978-078D |
質量 | 315 kg |
消費電力 | バッテリー |
パイオニア・ヴィーナス大プローブは、7つの測定機器を備え、それらは密閉された球形の加圧容器の中に収められた。科学機器は、次の通りである。
- 中性質量分析器は、大気の組成を測定した。
- ガスクロマトグラフィーは、大気の組成を測定した。
- 太陽流束放射計は、大気を透過する太陽流束を測定した。
- 赤外線放射計は、赤外線放射の分布を測定した。
- 雲粒子サイズ分光計は、粒子の大きさと形を測定した。
- 比濁計は、雲の粒子を探索した。
- 温度、気圧、加速度のセンサー
加圧容器は、船尾の保護カバー内に収められた。金星の夜の側の赤道付近で約11.5km/sの速度で大気圏突入し、高度47kmでパラシュートが展開した。大プローブの直径は約1.5mで、加圧容器自体の直径は73.2cmであった。
小プローブ
[編集]小プローブ | |
---|---|
任務 | 大気プローブ |
周回対象 | 金星 |
打上げ日時 | 1978年11月20日 |
打上げ機 | パイオニア・ヴィーナス・バス |
質量 | 90 kg (それぞれ) |
消費電力 | バッテリー |
3つの小プローブはどれも同じ形で、直径は0.8mであった。これらのプローブも防護殻に囲まれた球形の加圧容器から構成されていたが、大プローブと異なり、パラシュートはなく、防護殻はプローブから分離しなかった。
それぞれの小プローブは、大気中の放射エネルギーの源と滞留の分布をマッピングするための比濁計と温度、気圧、加速度のセンサー、流束放射計を備えていた。4つのプローブからの無線信号は、風、乱流、大気の伝搬を調べるのにも用いられた。
小プローブは、それぞれ金星の異なる地点を目標とし、それに応じた名前が付けられた。
- 北プローブは、昼の側の北緯60°の地点で大気圏に突入した。
- 夜プローブは、夜の側で大気圏に突入した。
- 昼プローブは、昼の側で大気圏に突入し、衝突後も1時間以上信号を送信した唯一のプローブとなった。
1986年のハレー彗星の観測
[編集]金星を周回するパイオニア・ヴィーナス・オービターは、1986年2月にハレー彗星が太陽の後ろに隠れた時、それを最前列で観測することができた。2月9日にハレー彗星が近日点にいた時には、紫外線分光計で水の消失を観測した[1]。
出典
[編集]- ^ “Pioneer Venus Observations during Comet Halley's Inferior Conjunction”. University of California, Los Angeles. 2009年2月10日閲覧。
外部リンク
[編集]- NASA: Pioneer Venus Project Information
- Pioneer Venus Program Page by NASA's Solar System Exploration
- NSSDC Master Catalog: Spacecraft Pioneer Venus Probe Bus. (Other components of the mission have their own pages at this site too.)
- Several articles in Science (1979), 205, pages 41-121
- Kasprzak, W. T - The Pioneer Venus Orbiter: 11 years of data. (May 1, 1990) - NASA