デュークス・カウンティ (戦車揚陸艦)

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LST-735 デュークス・カウンティ
「デュークス・カウンティ」の後身である「高雄」。2013年5月、台湾宜蘭県蘇澳鎮中正軍港にて撮影。
「デュークス・カウンティ」の後身である「高雄」。2013年5月、台湾宜蘭県蘇澳鎮中正軍港にて撮影。
基本情報
建造所 ペンシルバニア州ピッツバーグドラヴォ・コーポレーション英語版
運用者 アメリカ合衆国の旗 アメリカ海軍
級名 LST-542級戦車揚陸艦
艦歴
起工 1944年1月30日
進水 1944年3月11日
就役 1944年4月26日
退役 1) 1946年3月
2) 1957年
除籍 1974年11月1日
その後 1957年5月に中華民国へ移管
改名 LST-735(新造時)
デュークス・カウンティ(1955年7月1日)
要目
排水量 軽荷 :1,780ロングトン (1,809 t)
満載 :3,640ロングトン (3,698 t)
長さ 328 ft (100 m)
50 ft (15 m)
吃水 船首 8 ft 0 in (2.44 m)
船尾 14 ft 4 in (4.37 m)
主機 GM12-567ディーゼルエンジン×2基
推進器 シャフト×2軸、ツインラダー
速力 12ノット (22 km/h; 14 mph)
航続距離 24,000海里 (44,000 km)/9ノット
乗員 将校7名、下士官兵104名
搭載人員 将校16名、下士官兵147名
兵装 40mm連装機銃×2基
40mm単装機銃×4基
20mm単装機銃×12基
搭載艇 LCVP×4隻
その他 コールサイン : NGCY
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デュークス・カウンティ (USS Dukes County, LST-735)は、アメリカ海軍LST-542級戦車揚陸艦。艦名はマサチューセッツ州デュークス郡に因み、アメリカ海軍においてこの名を持つ唯一の艦である。

アメリカ海軍を退役後、1957年に中華民国海軍に供与され「中熙」(LST-219/ AGC-143)と改名された。1962年には揚陸指揮艦へ改装され「高雄」(AGC-1/LCC-663/LCC-1)と改名し、2024年現在も運用されている。

艦歴[編集]

アメリカ海軍[編集]

本艦は、当初「LST-735」として1944年1月30日にペンシルバニア州ピッツバーグネヴィル島英語版ドラヴォ・コーポレーション英語版で起工、1944年3月11日にG・W・ファーンサイド夫人の手で進水[1]。1944年4月26日にルイジアナ州ニューオーリンズにて初代艦長セオドア・F・オルダス大尉の指揮下で就役した[2]

第二次世界大戦中、「LST-735」はアジア太平洋戦域に配備され、複数の上陸作戦に参加した。これらには、サイパンの戦い (1944年8月)、リンガエン湾の戦い英語版(1945年1月)、サンバレススービック湾の戦い(1945年1月)、そして沖縄の戦い(1945年3月から6月)が含まれる[1]

「LST-735」は終戦後の1946年3月に退役し、保管状態に置かれた。しかし、朝鮮戦争勃発を受けて1950年11月3日に再就役し、朝鮮戦争や太平洋機雷戦部隊司令部で活動した。1951年7月に掃海支援艦として割り当てられ、1952年から1953年にかけて朝鮮戦争に派遣された。さらに、1953年から 1954年、1955年から1956 年には西太平洋で巡行を実施した。1955年7月1日に新たな艦名が与えられ、「デュークス・カウンティ」(USS Dukes County, LST-735)と改名された[2]

中華民国海軍[編集]

LST-219/AGC-143 中熙
AGC-1/LCC-663/LCC-1 高雄
2015年10月、高雄市左営区左営軍港で一般公開される「高雄」。
2015年10月、高雄市左営区左営軍港で一般公開される「高雄」。
基本情報
運用者  中華民国海軍
級名 中海級戦車揚陸艦中国語版
艦歴
就役 1944年4月26日
現況 現役
改名 中熙(1957年)
高雄(1962年)
要目
乗員 士官14名、下士官兵100 - 115名
搭載人員 海軍陸戦隊 170名
兵装 3インチ単装両用砲×1基
40mm連装機銃×2基
40mm単装機銃×6基
T-75 20mm単装機銃×4基
Mk 41VLS(試験用)
レーダー AN/SPS-6C(のち撤去)
AN/SPS-10
Mk 51射撃指揮装置
その他 ペナントナンバー:LST-219/AGC-143(中熙)
AGC-1/LCC-663/LCC-1(高雄)
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「デュークス・カウンティ」は年月日不詳ながらアメリカ海軍を退役し、1957年5月に中華民国台湾)へ供与され、中華民国海軍揚陸艦「中熙」(LST-219)と改名された。同年8月に南沙諸島への輸送任務に就くが、結局この輸送は台風で引き返す結果となった[3]。以降の数年間、「中熙」は複数の上陸演習に参加した[4]:148

1958年に金門砲戦(八二三砲戦)が発生すると、アメリカは中華民国に対し水陸両用作戦能力向上のため新たな指揮通信モジュールを提供することにした。この装備艦として本艦が選定され、艦番号がAGC-143に変更された。また、運用上も艦長が上校(大佐)に変更され、中校(中佐)級をトップとする人員90名の統合作戦センターが艦内に設置された[4]:150

改装完了後の1962年1月に、「中熙」は揚陸指揮艦高雄」 (AGC-1) と改名された。その後艦番号は、アメリカ海軍の方式に倣いLCC-663に変更された。1974年11月1日にアメリカ海軍籍英語版から除籍され、売却に切り替えられた。1979年11月1日に艦番号がLCC-1に変更されている[5]

本艦を含むLSTは大戦中に建造された戦時急造艦であり、艦体の老朽化が懸念された。そのため、中華民国海軍は1966年から1971年にかけて保有するLST(中海級戦車揚陸艦中国語版)の内部設備を台湾造船公司で新たに製作した艦体に移植するという大工事(新中計劃)が実施され、これには本艦も含まれた。1996年には主機や電気系統の更新工事も実施されている[6]

1991年12月16日、「高雄」は二級艦に格下げされ、艦長も中校級の人物が充てられるようになった。就役後期になると、離島への補給任務や上陸演習での指揮任務を担当した。改修の甲斐もあって、建造から年月を経ても本艦を含むLSTの状態は良好であり、新たにアメリカからニューポート級戦車揚陸艦中和級戦車揚陸艦中国語版)を導入した後も運用が続けられている[7]。2012年3月にアメリカ太平洋艦隊のジョン・ミンヤード最上級上等兵曹が「高雄」を訪問した際も、「彼女の状態は素晴らしく、戦闘準備が整っている」(She is in outstanding condition and is battle ready.)と報告している[5]

「高雄」は、2017年に国家中山科学研究院の新装備用試験艦に選ばれた[8]。2017年から2019年にかけて、「高雄」艦上には軍艦の上部構造物を模した八角形のレーダータワー、敵味方識別装置Mk 41VLSが設置され、これらは康定級フリゲートの近代化改修(迅聯専案)用海弓3型艦対空ミサイルの試験に用いられた模様である[9][10]:74

2021年6月には、海劍二型ミサイル発射機、CS/MPQ-90レーダーのほか、形状が異なる八角形レーダータワーが設けられており、これはアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナの試験用ではないかと推測されている[9]

栄典[編集]

「LST-735」は第二次世界大戦の戦功で4個の、朝鮮戦争での戦功で3個の従軍星章英語版を獲得したほか、以下の勲章を授与された[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b LST-735”. Naval History and Heritage Command. 2024年3月18日閲覧。
  2. ^ a b c NavSource Online: Amphibious Photo Archive USS Dukes County (LST-735) ex USS LST-735 (1944 - 1955)”. 2024年3月18日閲覧。
  3. ^ 朱成才 (2014年6月18日). “護我南疆”. 《榮光雙周刊》 (國軍退除役官兵輔導委員會) (2242期). オリジナルの2022年8月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220823205221/https://epaper.vac.gov.tw/zh-tw/C/1656%7C2/25277/1/Publish.htm 2022年8月23日閲覧。. 
  4. ^ a b 曹少滋、謝文福、宋效廷、譚日中、陳和辛、陳彥錞 (2007). 艦隊之山中傳奇. 中華民國國防部海軍司令部. ISBN 9789860100945 
  5. ^ a b 鄧志忠 (2017-02). “跨越世紀的艨艟巨艦—海軍高雄軍艦”. 海軍軍官季刊 (海軍軍官学校) 36 (1): 22-25. オリジナルの2022-06-03時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220603003149/https://www.mnd.gov.tw/NewUpload/201801/%E8%B7%A8%E8%B6%8A%E4%B8%96%E7%B4%80%E7%9A%84%E8%89%A8%E8%89%9F%E5%B7%A8%E8%89%A6-%E6%B5%B7%E8%BB%8D%E9%AB%98%E9%9B%84%E8%BB%8D%E8%89%A6_291524.pdf 2022年6月23日閲覧。. 
  6. ^ 中海級戰車登陸艦”. 中國軍艦博物館. 2013年11月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年6月8日閲覧。
  7. ^ 中海級戰車登陸艦”. 中華民国海軍 (2017年6月22日). 2020年8月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月18日閲覧。
  8. ^ 程嘉文 (2017年1月2日). “老軍艦迎第二春 將成新式飛彈測試平台”. 聯合新聞網. 2017年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月18日閲覧。
  9. ^ a b 羅添斌 (2021年6月10日). “台海軍情》24聯裝「海劍羚」飛彈測試 戰系型系統將配置大型軍艦”. 自由時報. 2021年10月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月18日閲覧。
  10. ^ 杨刚、林麟 (2022-01). “进度落后 几近停摆—台海军新一代护卫舰”. zh:舰船知识 (舰船知识杂志社) (508): 69-77. 

出典[編集]