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アンテラキサンチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アンテラキサンチン
識別情報
CAS登録番号 640-03-9 (all-trans) チェック, 68831-78-7 (9Z) チェック
PubChem 5281223
ChemSpider 4444635
ChEBI
特性
化学式 C40H56O3
モル質量 584.87 g mol−1
外観 黄色固体
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

アンテラキサンチン(Antheraxanthin)は、光合成を行う多くの生物で見られる明るい黄色の補助色素である。ギリシア語でánthosは「花」、xanthosは「黄色」を意味する。キサントフィルサイクルの色素であり、カロテノイドキサントフィルサブグループに分類される油溶性アルコールである。アンテラキサンチンは、緑藻紅藻ユーグレナ藻植物による光合成の光防護に関わっており、またその生成物でもある[1][2]

キサントフィルサイクル

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アンテラキサンチンは、植物等の大部分の光合成真核生物や一部の細菌で、キサントフィルサイクルの中間体分子である。キサントフィルサイクルでは、特定のカロテノイド色素が酵素反応により光防護性の生体色素に変換される[3]

植物は、橙色のビオラキサンチンをアンテラキサンチン、そして明るい黄色の色素ゼアキサンチンに変換することで、非光化学的消光能を向上させ、過剰な熱を消失させることができる[4]。キサントフィルサイクルの色素の合計量は、"VAZ"と呼ばれることがある[5]

"VAZ"は、このサイクルの主な色素を光防護能が低い方から順に並べたものである。アンテラキサンチンは真ん中の"A"に相当し、"V"はビオラキサンチン、"Z"はゼアキサンチンである[6]

チラコイド膜内の局在

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アンテラキサンチンは、日照の良いタンポポに高濃度で含まれる。

キサントフィルサイクルは、葉緑体中のチラコイド膜内で行われる他の光色素反応と連動して行われる[7]。アンテラキサンチンがチラコイド膜に与える熱及び光安定能は、ビオラキサンチンよりも高く、ゼアキサンチンよりも低い[8]

アンテラキサンチンを中間体とするキサントフィルサイクルの反応は、光や放射への曝露の変化に対する応答であり、チラコイド内部のpHを変化させる。キサントフィルサイクルによる光防護能の変化により植物は自身の光合成のための光取込みを調整することができる[6]

葉緑体の大部分は、葉や茎の表皮の直下にある葉肉組織に局在する。チラコイドは葉緑体に含まれるため、アンテラキサンチンやその他の光合成色素は太陽の放射に多くさらされる植物の葉に最も多く含まれる。

アンデス山脈の高高度でのタンポポの研究で、高度1600mの北西に面する斜面の日照が大きい葉ではアンテラキサンチンの含量が高く、3600mの頂上ではさらに含量が高いことが明らかになった[9]

酵素と反応

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アンテラキサンチンは、ビオラキサンチンの部分的脱エポキシドである。ビオキサンチンの2つのエポキシ基のうちの1つが除去され、アンテラキサンチンが生成する[10]。このため、キサントフィルサイクルはビオラキサンチンサイクルと呼ばれることもある。

ビオラキサンチンデエポキシダーゼは、ビオラキサンチンの1つのエポキシ基を二重結合へ還元することでアンテラキサンチンを生成する酵素である。ビオラキサンチンのエポキシ基を2つ還元し、ゼアキサンチンを作る機能も持つ。

ゼアキサンチンエポキシダーゼは、ゼアキサンチンにエポキシ基を1つ付加しアンテラキサンチンを、2つ付加しビオラキサンチンを生成する反応を触媒する[10]

出典

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  1. ^ Duan S, and Bianchi T, 2006. Seasonal changes in the abundance and composition of plant pigments in particulate organic carbon in the lower Mississippi and Pearl Rivers. Estuaries and Coasts 29, 427-442
  2. ^ Sandman, G. 2009. Evolution of carotene desaturation: the complication of a simple pathway. Archives of Biochemistry and Biophysics 483, 169–174
  3. ^ Yamamoto HY, 1979. Biochemistry of the violaxanthin cycle in higher plants. Pure Applied Chemistry 51, 639–648
  4. ^ Adir N, Zer H, Shochat S, & Ohad I. 2003. Photoinhibition—a historical perspective. Photosynthesis Research 76, 343–370
  5. ^ Krause GH & Weis E, 1991. Chlorophyll fluorescence and photosynthesis: the basics. Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology 42, 313–349
  6. ^ a b Kováč D, et al 2013. Response of green reflectance continuum removal index to the xanthophyll de-epoxidation cycle in Norway spruce needles. Journal of Experimental Botany 64, 1817-1827
  7. ^ Eskling M, Arvidsson P, & Akerland H, 1997. The xanthophyll cycle, its regulation and components. Physiologia Plantarum 100, 806-816
  8. ^ Havaux M, 1998. Carotenoids as membrane stabilizers in chloroplasts. Trends in Plant Science 3, 147-151
  9. ^ Molina-Montenegro MA, Penuelas J, Munne-Bosch S, & Sardans J, 2012. Higher plasticity in ecophysiological traits enhances the performance and invasion success of Taraxacum officinale (dandelion) in alpine environments. Biology of Invasions 14, 21-33
  10. ^ a b Eskling M, Arvidsson P, & Åkerlund H, 1997. The xanthophyll cycle, its regulation and components. Physiologia Plantarum 100, 806-816