音速

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音速のグラフ X軸:温度(℃)、Y軸:音速(m/s)。赤線は近似式(オイラー級数:331.5+0.6*x)、緑線はより厳密な式(20.055*√(x+273.15)による。なお、331.5に替えて331.3を当てる場合もある

音速(おんそく、: speed of sound)は、物質(媒質)中を伝わる速さのこと。 物質自体が振動することで伝わるため、物質の種類により決まる物性値の一種(弾性波伝播速度)である。

速度単位の「マッハ」は、音速の倍数にあたるマッハ数に由来するが、これは気圧や気温に影響される。このため、戦闘機のスペックを表す際などに、標準大気中の音速 1225km/h が便宜上使われている。なお、英語のsonicは「の」「音波の」から転じて、音のように速い=「音速の」という意味を表すが、本来は音速そのものを指す言葉ではない。

概要

概ね分子量が小さい物質ほど速い傾向を示し、例えば、空気(平均分子量29)より低分子のヘリウムの音速は約3倍で、吸入してしゃべるとかん高いになる現象(ドナルドダック効果)が知られている。 固体では、分子量9のベリリウムが最大値を示している。

実際の音速は、その物質の状態(温度密度圧力など)によって変化し、特に変化による影響は大きく、同じ物質では固体が最大で、次いで液体気体の順となる。 温度は、気体では正の、固体では負の影響を与える。

気体中の音速は主に温度の関数として表され、1気圧の乾燥空気では 331.5 + 0.61t (t摂氏温度)となる。これは以下に示される気体中の音速の式の摂氏0度での接線をとった近似式である。

媒質中を伝わる振動の成分は、気体と液体では進行方向と波が同じ方向になる、縦波(疎密波)だけだが、固体中では地震波と同じように横波(ねじれ波)が遅れて伝わる。 録音した自分の声が違って聞こえる、骨伝導による聴覚への影響の一因でもある。 ちなみに地震の初期微動速度である5~7km/sが、地殻における音速である。

定義

気体

気体中では、音速は比熱比気体定数、温度に依存する。圧力はほとんど影響しない[1]。 ここで κ を気体の比熱比、R を気体定数、T を気体温度、Mを気体の平均分子量とすると音速 c

と表される。なお、この関係から、音速測定によって気体定数を求めることもある[2]

もしくは、気圧 p [N/m2] と密度 ρ [kg/m3] を用いて

とも表せる。

湿り空気

通常、空気中の音速は湿度を無視して乾燥空気に対する近似式で求められるが、湿度の影響を加える場合は以下による[1]

まず、温度から乾燥空気中の音速を求め、cとする。ついで、気圧 H、水蒸気圧 p、水蒸気の定圧比熱定積比熱との比 γw、乾燥空気の定圧比熱と定積比熱との比 γ、より、その水蒸気圧における音速度 c' は、

となる。

液体

物質の違いにあまり影響されず、概ね1000~1500m/sの範囲に集中している。多くは高温ほど遅いが、水は74℃までは上昇し最高速を示す。また、水銀では周波数による差が知られており、高いほど速い。

液体中では、体積弾性率K として、

とされる[1]

固体

固体の場合、伝播される振動が複数あり、速度も異なる。 また、物体の形状や構成(純物質では結晶構造混合物では成分比など)によって影響される。 このほか、結晶方向と伝播方向による差や、周波数による差も大きいなど、固体の音速は非常に複雑となっている。

基本式は、弾性率M 密度を ρ [kg/m3] とすると通常、

となる。

縦波

気体や液体と同じ縦波(疎密波)は、固体の音速で最も速く、等方的で無限に広がっている十分に大きな物体で、剛性率(ずれ弾性率)を G体積弾性率K とすると、次の通り[1]

横波

かなり遅く、物質によっては縦波の半分以下となる。縦波同様に、次の通り[1]

棒の縦振動

縦波と横波の中間よりやや速く、物質によっては縦波とほぼ同じとなる。 物体の形状が波長に対して十分に細いとき、ヤングの弾性率E とすると、次の通り[1]

表面波

物体表面(境界)で観測され、レイリー波(Rayleigh wave)とラブ波(Love wave)が知られている。 横波と同程度か、やや遅い。

屈曲波

物体が板状で、波長に対して十分に広いときに出現し、速度が振動数の平方根に比例する。

ヤングの弾性率E 、振動数を f 、厚さを tポアソン比δ とすると、次の通り[3]

物性値

温度の影響

標準状態の乾燥空気について、音速に対する温度の影響と、関連する物理量[4]

気温[℃] 音速[m/s] 密度[kg/m3] 音響インピーダンス[N·s/m3]
35 351.96 1.1455 403.2
30 349.08 1.1644 406.5
25 346.18 1.1839 409.4
20 343.26 1.2041 413.3
15 340.31 1.2250 416.9
10 337.33 1.2466 420.5
5 334.33 1.2690 424.3
0 331.30 1.2920 428.0
-5 328.24 1.3163 432.1
-10 325.16 1.3413 436.1
-15 322.04 1.3673 440.3
-20 318.89 1.3943 444.6
-25 315.72 1.4224 449.1

物質種による違い

種々の物質中の音速をあげる。原則として気体は 1気圧 0℃での値、その他は概ね常温[1]

物質名 縦波[m/s] 横波[m/s]
乾燥空気 331.45
水蒸気(100℃) 473
1500
海水 1513
3230  1600
水素 1269.5
ヘリウム 970
窒素 337
酸素 317.2
塩素 205.3
水銀 1450
グリセリン 1986
ベンゼン 1295
エタノール 1207
四塩化炭素 930
ベリリウム 12890 8880
アルミニウム 6420 3040
5950 3240
3240 1220
1960 690
溶融水晶 5968 3764
ポリスチレン 2350 1120
軟質ポリエチレン 1950 540
天然ゴム 1500 120

脚注

  1. ^ a b c d e f g 丸善・国立天文台 理科年表(2010年)
  2. ^ Atkins, P. W.『アトキンス物理化学』 上、千原秀昭・中村亘男訳(第6版)、東京化学同人、2001年、20頁。ISBN 4-8079-0529-5 
  3. ^ 社団法人日本騒音制御工学会 [1] Dr.Noise 用語解説
  4. ^ 英語版en:Speed of sound

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