妖怪大戦争 (1968年の映画)

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妖怪大戦争』(ようかいだいせんそう)は、大映が製作配給し、1968年(昭和43年)12月14日に封切り公開した時代劇特撮映画作品。大映京都撮影所制作。フジカラー、大映スコープ、79分。併映作品は『蛇娘と白髪魔』。


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


あらすじ

1751年(宝暦元年)、時は江戸時代古代バビロニヤウル遺跡に忍び込んだ墓荒らし達は、凶悪な吸血妖怪「ダイモン」を4,000年の眠りから目覚めさせてしまう。

漆黒の塊に姿を変え、雷鳴とともに南蛮船[1]に取り憑き、日本に上陸した妖怪は伊豆の地に降り立ち、たまたま居合わせた代官・磯辺兵庫を襲って吸血しこれを亡き者とし、憑依した。代官に成り代わった妖怪は、仏神の威光をすべて拒んで神棚仏壇の類をすべて壊し、以後、藩下の若い娘・子供を屋敷奉公の名目で呼びつけ、これを吸血し命を奪い、逆らう者はすべて処刑し、人々を恐怖のどん底に陥れてゆく。

一方、磯部が勤める代官所の庭池にはひょうきん者の河童が1匹、主として長い間棲み続けていた。彼は信心善行深かった代官の悪変を不思議に思い、すぐにもその正体を禍々しき妖怪であると見抜く。そして、この不愉快な余所者を取り除こうと戦いを挑みはしたものの、あえなく撃退されてしまう。古寺に駆け込んだ河童は、仲間の妖怪にダイモンの襲来を告げるが、誰もこれを信じない。しかし父磯部の豹変に心を痛める一人娘・千絵、その家来の真山新八郎と知り合い、彼らの協力を仰ぎながら、捲土重来を期すことになった。

磯部の豹変を妖怪変化の仕業と見た新八郎は、千絵の身を案じ、叔父の修験者・大日坊に助力を乞う。しかし、怨敵退散の祈祷と夜を徹しての護摩焚きもダイモンには通じず、大日坊は殺されてしまう。家来の一人、川野左平次もダイモンの分身に憑依されてしまい、新八郎はダイモンの片目を矢で射てこれを潰すものの、ダイモンはさらに新任の代官大館伊織を駕籠内で殺して成り替わる。新代官伊織(ダイモン)は、新八郎を謀反の咎で捕縛し、処刑を申しつけてしまう。

代官の家来に追われる子供たちを助けた油すましら妖怪たちは、ようやく河童の言を信じ、ダイモンと一戦交えることとなる。やがて、古狸の雲外鏡らによる二の矢がダイモンに向けて放たれる。妖怪たちは代官屋敷に乗り込んで、捕えられた子供たちを救いだし、ダイモンとの戦いが始まる。しかし西洋妖怪の威力はものすごく、非力な日本妖怪たちは手も無く敗れ、散々な目に遭わされてほうほうの体で逃げ帰るありさまであった。妖怪世界のまとめ役たる油すましは、「このままやったら日本妖怪の名折れやで!」と一同に奮起を促し、全国の妖怪に係る窮状を訴え、招集を掛ける事にした。これに応えて海・山・河から雲霞のごとく無数の妖怪達が集まってくる。

そして、小さく力弱くはあるが結束力では負けない日本妖怪達は、強大・凶悪な西洋妖怪ダイモンに決戦を挑むこととなった。

概要

『妖怪百物語』および本作は、続く『東海道お化け道中』と併せて、「大映の妖怪三部作」、または、『妖怪シリーズ』と称される。出演は青山良彦川崎あかね大川修ら。

本作は、前作『妖怪百物語』(1968年)が春休み興行のなか、予想外の好評を博し、「怪獣ブーム」沈静化の流れの中で「妖怪ブーム」を見越し、「妖怪」をテーマにした作品に高い需要があるとみた大映京都撮影所によって制作され、冬休み興行として大映東京撮影所制作の『蛇娘と白髪魔』(湯浅憲明監督)と併せて公開された。前作での気味の悪い「怪異譚」的要素は影を潜め、物語に明確な善悪対峙の構図を採り入れた、勧善懲悪のヒロイズムを強めた、からっとした作風となっている。脚本時の題名は『妖怪大合戦』だった。

大映は前作『妖怪百物語』の後、時代劇に新路線を求め、京都撮影所で立て続けに『怪談雪女郎』、『牡丹灯籠』といった異色の時代劇を制作し、以後「邦画斜陽」を受けた「エログロ映画」時代の中で、同時期の東映の「異常性愛シリーズ」と競合する制作体制を採っていく。また本作で前作に加え新規造形された妖怪群のイメージは、「怪獣」にとってかわる等身大キャラクターとして、同じエキスプロによって造形されたテレビ番組『仮面ライダー』(1971年、東映毎日放送)に登場する「ショッカー怪人」に引き継がれていった[2]。戦いを終えて帰途に着く日本妖怪達が深い夜霧の中を舞い踊りながらゆっくりと消えてゆくさまは、後世の様々な作品に少なからず影響を与えている。

監督は『大魔神』(1966年、大映京都)の特撮監督として腕を振るった黒田義之。同作で大映京都撮影所に導入された11m×4.6mの大規模ブルーバック用ライトスクリーンを再び活用し、巨大化し変幻自在に分身する兇悪な西洋妖怪「ダイモン」の描写などに効果を上げている。

スタッフ

配役

登場妖怪

本作の妖怪陣は、『妖怪百物語』に引き続き、八木正夫を代表とする造形会社エキスプロダクションが中心になって造形された。妖怪の衣装は東京のエキスプロで制作され、京都まで運んで撮入している。撮影にはエキスプロも立ち会っている。エキスプロ以外にも何社か造形に加わったようだが、詳細は不明。

日本妖怪の大半は、前作に続き、大阪の児童劇団の子役が演じている。これは「等身に幅を持たせたい」との黒田監督の意図による。黒田監督は妖怪役者それぞれに「こういうような芝居をやってくれ」と指示をして、役者の演技に任せたという。「それは普通の時代劇を撮るときと一緒です」と語っている。本作では妖怪たちが会話するが、ほとんどの妖怪は役者自身がアフレコしたという。

決戦での陸海空からの妖怪大集合では、それぞれの妖怪の演技を3倍速や5倍速で撮影し、さらに最大8重まで合成して効果を上げている。

ダイモン
骨格が浮き出た緑色の体に猛禽のような手足と翼を持つ古代バビロニヤの異形の怪物。手に持つ「魔笏」(ましゃく)と呼ばれる4尺長の杖で日本妖怪の妖力を弾き、突風を起こし火焔を放つ。幾多にも分身して多面攻撃を行い、日本妖怪を翻弄する。磯辺兵庫に乗り移り、片目をつぶされたのちは新任代官の大館伊織に乗り移る。20尺ほどに巨大化する。異国の妖怪なので、油すましの持つ「妖怪紳士録」や「日本妖怪大図鑑」にも載っていない。
「吸血ダイモン」を演じたのは、『大魔神シリーズ』で大魔神を演じた巨漢俳優の橋本力。「大魔神」での「眼の演技」に惚れ込んだ黒田監督直々の指名を受けて登板となった。
橋本は大魔神では戸惑いの多かったスーツアクターとしての演技が、本作では楽しんで演じられるほどになり、様々なアイディアを演技に盛り込んだという。大魔神と同様に、目瞬きをせずに演じた橋本の真っ赤に充血した双眼の迫力・眼力は、内外でも評判となった。
ダイモンのぬいぐるみの他に、巨大化後の実物大の手や足が制作され、効果を上げた。ぬいぐるみは八木功によると、2000年ごろまでエキスプロに保管されていたが、社屋移転の際に廃棄された。
河童
磯辺兵庫の屋敷の庭水の主。日本の妖怪で最初にダイモンと一戦交えるなど、事実上妖怪サイドの主役級の扱い。ただし、最終決戦での戦闘中にダイモンの火炎で負傷して以降は最後の復活まで出番がない。
黒木現が演じ、声は飛田喜佐夫があてた。衣装は前作『妖怪百物語』(1968年)のぬいぐるみスタイルから一新され、新規造形によるマスク形式の頭部と、装飾衣装による表現になっている。口から放水するシーンは、上半身のみの実物大人形を使って撮影された。
黒田監督は本作の河童を「三枚目でちょっとおっちょこちょいな性格」と設定し、三枚目の出来る役者を選んだという。黒田監督は本作で一番気に入った妖怪としてこの河童を挙げ、黒木現を指して「ああいう役をきちんとやれる役者がたくさんいたから、あの映画は出来たんでしょう」と語っている。
油すまし
知恵者で、大阪弁を操る、日本妖怪の大将格。戦闘でもメインでダイモンと張り合い、巨大化したダイモンにから傘小僧とともに空中から挑み、ダイモンに止めを刺す。
青坊主
身軽な身のこなしで、油すましを補佐して活躍する。決戦では「分身ではなく、本体を攻めよ」と油すましに助言する。
ろくろ首
土佐弁を操る。千絵を救うために一肌脱ぐ、人情に厚い妖怪。前作『妖怪百物語』に引き続き、黒田監督の指名で毛利郁子が再演している。最終決戦では鉢巻を締め、日本刀を手にダイモンに斬りかかる。
二面女(にめんじょ)
見かけは小娘だが、頭の後ろに醜い顔をもう一つ持っている。正義感が強く、子供たちの世話を焼く。最終決戦の際に笛を吹き妖怪たちを呼ぶ。行友圭子が演じ、被り物ではなく特殊メイクで表現された。
雲外鏡(うんがいきょう)
日本妖怪の相談役。江戸の妖怪絵とは違い、デザインは「ふくろさげ」という狸妖怪の要素を加えて、鉢巻を締めた古狸のキャラクターとなっている。大きな腹が、千里眼のごとく遠くの景色を映し出す鏡となる。これは、映写機を使って腹に投影する手法で撮影された。
から傘小僧
大将の油すましを一本足に掴まらせ、ダイモンを空から攻撃する。
ぬっぺっぽう
子役が演じた。熊本弁を操る。
海坊主
水軍妖怪として、口から水流を吐いてダイモンに立ち向かった。
三つ目坊主
本作の新妖怪。水軍妖怪として参戦するが、特に活躍場面は無かった。ウーパールーパーのような姿をしており、劇場公開後に佐藤有文が著作で「海ぺろりん」と命名している。
うしおに
最終決戦に参加するが、目立った活躍は無かった。
陰摩羅鬼
うしおにとともに最終決戦に参加。
ひょうすべ
子役の長友宗之が演じた。
ぬらりひょん
「大映妖怪三部作」全作に登場。
一つ目小僧
子役の島岡安芸和が演じた。
泥田坊
「大映妖怪三部作」全作に登場。
火吹き婆
明りを吹き消す「吹き消し婆」とは対極の妖怪。
とんずら
地獄の獄卒。土佐光信の『百鬼夜行図』から採った妖怪。
烏天狗
『赤胴鈴之助 三つ目の鳥人』(1958年)(大映京都)で大橋史典が制作した「鳥人」の被り物を『釈迦』(1961年)と前作『妖怪百物語』を経て再流用。
天狗
扇を持ち、長い鼻をした一般的な天狗である。空軍到着の場面と最後の行進に、二体登場。
雷神
同じ大映京都作品の『赤胴鈴之助 黒雲谷の雷人』(1958年)に登場した怪物の造形物(造形は大橋史典)を、『釈迦』(1961年)で再利用した後、再び改造流用したもの。
毛女郎
「大映妖怪三部作」全作に登場。
白粉婆
「大映妖怪三部作」全作に登場。
狂骨
前作『妖怪百物語』とは別の操演模型が作られた。水木しげるの元デザインに忠実な顔になっている。
水軍の河童
前作『妖怪百物語』に登場したリアル造形の河童。決戦で水軍に加わって登場。
一つ目の妖怪
泥田坊のような胴体に、一つ目で頭の長い姿をしている。水軍到着の場面に登場。
のっぺらぼうの妖怪
泥田坊のような胴体に、白いのっぺらぼうのような顔をしている。一つ目の妖怪と共に水軍の行進に加わる。
その他
陸軍到着の場面では、雲外鏡に似た小柄な妖怪が参加。

商品化

プロマイド
「株式会社丸昌」から、一枚5円のプロマイド(ブロマイド)が発売され、劇場にも置かれた。全31種類のうち、18種類が前作『妖怪百物語』のプロマイドの流用だった。図柄は劇中の妖怪たちの立ち姿の写真が使われた。また「山勝」からも全18種類のプロマイドが発売された。
シール
登場妖怪たちの絵柄シールが各種発売された。

ソノシート

朝日ソノラマから1968年12月16日付で発売。声優を使った劇中再現ドラマが収録された。「妖怪三部作」でソノシート化されたのは本作だけ。中西立太のイラストで構成され、付録に「妖怪紳士録」がつき、定価330円だった。

雑誌掲載

週刊少年キング』(少年画報社)
1968年41号、44号、50号で特集グラビア・イラスト掲載。44号では「百鬼夜行」と題して15頁にわたる大特集を組んだ。
週刊少年マガジン』(講談社)
1968年41号で「ダイモン」の写真が表紙に使われた。
『まんが王』(秋田書店)
1969年1月号・2月号で特集掲載。1970年7月号付録「ビッグ・マガジン」でもイラスト特集。
冒険王・別冊秋季号』
1968年11月発売。「ダイモンの戦法」と銘打ったダイモンのイラスト図解、カラーグラビアなど総力特集。表紙は海坊主。

漫画化

井上智成田マキホによって『妖怪大戦争』として漫画化され、上記の『冒険王・別冊秋季号』に掲載された。全48頁で、単行本化され劇場でも販売された。

脚注

  1. ^ 南蛮船のミニチュアは、同年公開の『鉄砲伝来記』(森一生監督)で使われたものの流用。
  2. ^ 『ガメラ画報』(竹書房)

参考文献

  • 『大映特撮コレクション 大魔神』(徳間書店)
  • 『ガメラ画報』(竹書房)
  • 『僕らが好きだった特撮ヒーローBESTマガジン』(講談社)「橋本力インタビュー」
  • 『蘇れ! 妖怪映画大集合!!』(竹書房)「黒田義之八木功インタビュー」

関連項目