マスノスケ

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マスノスケ
マスノスケ Oncorhynchus tschawytscha
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: サケ目 Salmoniformes
: サケ科 Salmonidae
亜科 : サケ亜科 Salmoninae
: タイヘイヨウサケ属 Oncorhynchus
: マスノスケ O. tschawytscha
学名
Oncorhynchus tschawytscha
Walbaum, 1792
英名
Chinook salmon

マスノスケ Oncorhynchus tshawytscha (鱒の介、英名:Chinook salmon(チヌークサーモン))は、サケ目サケ科に属する。他に、キングサーモンKing salmon) の名も知られる。

分布

サケ属中では最も冷水を好み、アラスカからカムチャツカ半島にかけての北太平洋を中心にオホーツク海日本海北部などに分布するが、分布数はアラスカ沖の北太平洋に偏る。日本国内ではロシアに回帰する一部の個体が、主に北海道の太平洋沿岸で漁獲されるものの、数は多くない。尚、国内には恒常的な産卵場所となる河川は存在しないが、佐渡島東北地方以北の河川で捕獲された例がある[1]。孵化後、海洋で1 - 5年ほど生活し、多くの個体は4 - 6年で成熟するが、オスでは、海洋生活が1年程度と考えられる小型早熟の個体が現れる。その後は産卵のため、再び生まれ育った川を目指して遡上する。また、アラスカユーコン川産の個体では、川に入ってから産卵場所となる上流にたどり着くまで、遡上する距離が1,000kmを超えるものも存在する。

寄生虫の分析により、アジア系、カムチャッカ系、アメリカ系の3系統の群れがいることが判明しており、各々の群れの生活様式(遡上から産卵・孵化、降海生活、回遊海域、遡上時期)は異なっている[2]

1900年代にアメリカからニュージーランドに移植され定着している。

別名

キングサーモン以外の別名にはスケ(介)・スケマス(介鱒)・オオスケ(大介)などがある。標準的な和名であるマスノスケやこれらの名称に含まれる「スケ」とは、国司の四等官のうち次官である介(すけ)を意味する。現地赴任する国司のうちの官位筆頭者で任国で強権を振るった受領は次官の介が多く、普通のサケ(シロザケ)やマス(サクラマス)よりも巨大なこの種を、サケやマスの親分格の存在と看做し、国衙に君臨する介に例えたものである。

生態

釣り上げられたマスノスケのオス。
身体には婚姻色が表れている。

孵化・浮上後直ち(3ヶ月以内)に降海する個体群は「海洋型」に分類され、孵化後1年から2年をベニザケの様に淡水生活を行った後に降海する個体群は「河川型」分類される。生活史は型の個体群で大きく異なる。同一河川では海洋型よりも河川型の方が産卵時期が早い傾向がある。降海時期は共に、融雪水の増加する4月から6月。産卵期には、幅があり夏の集団と秋の集団が存在する。

  • 海洋型(秋サケ)は、主にアラスカの北緯56度以南に生息し、沿岸を生息海域とし海洋での越冬はせず産卵直前に母川回帰する。数ヶ月間の海洋生活の後、7月から12月に遡上を開始し河川型ほど上流までは遡上せず中流から下流域で産卵する。
  • 河川型(夏サケ)は、アジア系、カムチャッカ系とも呼ばれ、沖合を生息海域とし1 - 4回の海洋での越冬を行い、2月から7月に遡上を開始し、より上流まで遡上を行い産卵をする。産卵期は、秋から冬。カムチャツカ系の産卵期は7-8月。

いわゆるサケ科魚類の中では、北海道に生息するイトウと並んで最大級の大きさを誇るが(大きなものでは体長が1.47m、体重は60kg近くに達するものも存在する)、通常漁獲される個体は概ね体長80 - 90cm、体重は5 - 20kg程度である。体色は、背面は黒色点が散在する青緑色、腹部は銀白色をしている。尾鰭には銀色の放射条と黒色斑があることで他のサケ・マスと区別できる。また体に対する目の大きさも、他のサケ・マス類と比較してやや小さめである。

用途

本種はサケ類の中でも特に脂肪分が多く、美味とされる。国内で流通するものの多くはアラスカやロシアなどからの輸入もの(主に海中で養殖された個体)であり、日本産は少ない。主な用途は缶詰加工、塩漬けの切り身(焼き魚用)、燻製スモークサーモン)、刺身など。またも他のサケ同様、イクラなどに加工される。尚、鮮魚店などでは「キングサーモン」の名称で販売されていることが多いが、別種であるタイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)が同じ名称で並べられている場合も多い。

資源量

タイヘイヨウサケ属の魚はサケ(シロザケ)、ベニザケカラフトマスのような動物プランクトンを主に食べて育つ種と、サクラマスギンザケのように他の魚類を主に捕食する種に大別されるが、マスノスケは同属の中でも魚食性の代表格で、海域によって変化するが成魚はニシンイカナゴイカなどを捕食する。食物連鎖の上で高位にあることもあり、プランクトン食のサケ類と比べて資源量ははるかに少ない。

1970年代には400万尾の漁獲量があったが、2000年頃には100万尾まで減少している。この間、沖合サケマス漁が資源減少の原因とされた為、公海上の沖合サケマス漁は1992年以降禁漁となったが、資源減少には歯止めが掛かっていない。つまり、資源減少の原因は海洋上での捕獲ではなく、遡上河川に建設されているダムが原因となり淡水生活が大きな影響を受けていると考えられるが、解明はされていない[2]。この他、表面水温の変動の影響を強く受けている[3]との調査結果もある。

日本国内での放流事業は1959年(昭和34年)以降、発眼卵を輸入し北海道内の河川に稚魚を放流している、1964年には十勝川及び日高沿岸で回帰した個体も捕獲された[4]が、現在は行われていない。

遺伝子組み換えへの利用

マスノスケの成長促進遺伝子タイセイヨウサケに組み込み、2倍に成長させる技術が実用化段階にあり、2010年現在、アメリカ政府(アメリカ食品医薬品局)の認可を待っている状態にある。認められれば、アメリカ国内における遺伝子組み換え動物による食品第一号となる[5]

関連項目

脚注

  1. ^ 日本海におけるマスノスケの漁獲記録 - 日水研報告 (33):41-54,1982 (PDF)
  2. ^ a b マスノスケ (PDF) - 独立行政法人 水産総合研究センター
  3. ^ ベーリング海を中心とした流し網さけます資源モニタリング2006 (PDF) - 独立行政法人 水産総合研究センター
  4. ^ 十勝川及び日高沿岸で再捕されたマスノスケ成魚と幼魚 - 北海道さけ・ますふ化場研究報告
  5. ^ 遺伝子組み換え動物、承認第1号目前のサケに待った - AFP.BBnews.(2010年11月22日閲覧)

外部リンク