ヌルデ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。小石川人晃 (会話 | 投稿記録) による 2022年11月2日 (水) 23:14個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎形態・生態: 紅葉画像)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

ヌルデ
Rhus chinensis
Rhus chinensis
(2006年9月18日、大阪府
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : 真正バラ類II Eurosids II
: ムクロジ目 Sapindales
: ウルシ科 Anacardiaceae
: ヌルデ属 Rhus
: ヌルデ(広義) R. javanica
変種 : ヌルデ R. j. var. chinensis
学名
Rhus javanica L.[1]
Rhus javanica L.
var. chinensis (Mill.) T.Yamaz.[2]
シノニム
英名
Chinese sumac

ヌルデ(白膠木、学名: Rhus javanica または Rhus javanica var. chinensis)は、ウルシ科ヌルデ属落葉小高木ウルシほどではないが、まれにかぶれる人もいる。別名フシノキ[3]カチノキ[3](カツノキ)。

ヌルデの名は、かつてを傷つけて白いを採り塗料として使ったことに由来するとされる。フシノキは、後述する生薬の付子がとれる木の意である。カチノキ(勝の木)は、聖徳太子蘇我馬子物部守屋の戦いに際し、ヌルデの木で仏像を作り、馬子の戦勝を祈願したとの伝承から。

形態・生態

雌雄異株落葉広葉樹低木から小高木[3]、ふつう樹高は5 - 6メートル (m) ほどであるが、10 m以上の大木になることもある。若いは紫褐色で、楕円の皮目ができる。年ごと樹皮に縦の割れ目が入り、やがて全体が灰白色になる。

互生し、9 - 13枚の小葉からなる奇数羽状複葉[3]葉軸には翼がある。小葉は5 - 12センチメートル (cm) の長楕円形で、周囲は鋸状がある。小葉の裏面全体に毛が密生している。表には主葉脈上に毛がある。ヌルデの葉にはヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensis寄生し、袋のような虫こぶ(虫癭)を作ることがある[3]。葉は紅葉し、野山を彩る。新芽も赤く染まる。葉でかぶれる人もいるが、ウルシ成分(ウルシオール)は少なく、劇症にはならない[3]

花期は晩夏から初秋(8 - 9月)[3]円錐花序で、白色の小さな花を多数咲かせる[3]。花は数ミリメートル (mm) 程度で、5つの花弁がある。雌花には3つに枝分かれした雌しべがある。雄花には5本の雄しべがあり、花弁は反り返っている。花序は枝の先端から上に出るが、何となく垂れ下がることが多い。果実ができるとさらに垂れ下がる。

果期は秋(10 - 11月)で[3]、直径5 - 8 mmほどの扁平な球形をした果実をつける。果実の表面にあらわれる白い粉のようなものはリンゴ酸カルシウム結晶であり、熟した果実を口に含むと塩味が感じられる。

分布と生育環境

日本中国ヒマラヤ東南アジア各地に自生する[3]。日本では北海道から琉球列島まで、ほぼ全域で見られる。

いわゆるパイオニア樹木の代表的なもので、日本南部ではクサギアカメガシワなどとともに、低木として道路脇の空き地などに真っ先に出現するものである。伐採など森林が攪乱を受けた場合にも出現する。種子は土中で長期間休眠することが知られている。伐採などにより自身の成育に適した環境になると芽を出すという適応であり、パイオニア植物にはよく見られる性質である。

人間との関わり

古来、日本の村里の人々の生活と深く関わり合いがある。葉にヌルデシロアブラムシが寄生すると大きな虫癭(ちゅうえい)ができ[3]、中には黒紫色のアブラムシが多数詰まっている。この虫癭(五倍子、付子)はタンニンが豊富に含まれており、これが腫れ物・歯痛の薬、皮なめしに用いられたり、黒色染料の原料になる[3]染め物では空五倍子色とよばれる伝統的な色をつくりだす。インキや白髪染の原料になるほか、かつては既婚女性、および18歳以上の未婚女性の習慣であったお歯黒にも用いられた。

ヌルデの果実は塩麩子(えんぶし)といい、下痢の薬として用いられた。この実はイカルなどの鳥が好んで食べる。

木材は色が白く材質が柔らかいことから、木彫の材料、木札、木箱などに利用される。地方により、ヌルデ材は呪力を持った木として尊ばれ、病気や災い除けの護符の材として多く使われる[3]

五倍子

ヌルデからは五倍子(ごばいし)あるいは付子(ふし)を得ることができた[4]。五倍子はヌルデの稚芽や葉柄がアブラムシにより刺激され、こぶ状に肥大化した虫癭(虫こぶ)である。工業用のタンニン酸製造の原料として、1938年頃には山口県三重県兵庫県などを中心に200tの五倍子が生産されていた。戦後は、中華人民共和国からの輸入品が急増して生産は激減している。このほかお歯黒[5]腫れ物歯痛などに用いられた。江戸時代の家庭の医学書である『救民医学書』には「五倍子が疱瘡の薬」と記されており、疱瘡(天然痘)の治療に用いられた[3]

ただし、猛のあるトリカブトの根「附子」も「付子」[6]と書かれることがあるので、混同しないよう注意を要する。

文学

ヌルデは『万葉集』に詠まれた歌がある。

  • 足柄の 吾を可鶏山の かづの木の 吾をかつさねも かづさかずとも(詠人知らず)(『万葉集』巻一四)

花言葉は、「肉親の絆」「意外な思い」である[3]

ヌルデ属

ヌルデ属(ヌルデぞく、学名: Rhus)は、ウルシ科の一つ。

脚注

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus javanica L.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2013年10月22日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus javanica L. var. chinensis (Mill.) T.Yamaz.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2013年10月22日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 田中潔 2011, p. 21.
  4. ^ 五倍子』 - コトバンク
  5. ^ 伊藤清三、小野陽太郎「ごばいし 五倍古」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p252 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行
  6. ^ トリカブトの方は「ぶし」または「ぶす」と読む。「付子」よりも「附子」の字を当てるのが多い。

参考文献

  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、21頁。ISBN 978-4-07-278497-6 

関連項目

外部リンク