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ルー (神)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イルダーナから転送)

ルーLugh、古期アイルランド語ではルグLug])は、ケルト神話太陽神(光の神)[1]。アイルランド伝承文学ではトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の一人で、長腕のルー[2]のあだ名で知られる。

工芸・武術・詩吟・古史・医術・魔術など全技能に秀で、サウィルダーナハSamildánach、「百芸に通じた」の意)や[3][4]、あるいはイルダーナハIldánach、「諸芸の達人」)とあだ名されている[5][注 1]ドルドナDul-Dauna)は、民話によるその訛り[6][注 2]。こうした彼の万能性からカエサルガリア戦記の中でメルクリウスと呼んだガリアの神と同一視する学者もある[7]

概要

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ルーは医術の神ディアン・ケヒトの孫であり、フォモール族の「邪眼のバロール」の孫。 父親はキアンで、母親は、エスリウ / エスニウ英語版。ルーは、英雄クー・フーリンの父ともされる。

神話物語群

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ルーはマグ・トゥレドの戦いで、トゥアハ・デ・ダナーン神族の側に味方して戦い、投石器の石を放って、祖父にあたるフォモール族の「邪眼のバロール」を討ち取ったと、この合戦の軍記及び『来寇の書英語版』に記述される[8][9][注 3]

父親のキアンは、トゥレンの子らに殺され、ルーはその賠償として魔法の槍や犬などの数々の財宝を求めた[10][11]。賠償品の槍や治癒の豚皮などは、マグ・トゥレドの戦いでルーが必要とした品々だが[12]、戦で使用した際の詳述はない。

マグ・トゥレドの戦い』の物語では、ルーは諸芸の達人サウィルダーナハと呼ばれ、自分は大工、鍛冶、強者(つわもの)、竪琴弾き、戦士、詩人で史家(語り部)、魔術師、酌杯係、金工師(鋳掛師)のすべてのだと門番に言って、中に入れてもらうエピソードがある。このあと各芸の達者と業比べをするのだが、たとえば八十基の牛枷につないだ牛たちで動かすほどの敷石をオグマが投げたのを見事投げかえしたばかりか、そのとき破損した館の破片も投げ返して元通りにした[13][注 4]

出自

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古写本ではルーのことを「ルー・マク・エスリン」(エスリウの子ルー)と称す場合も(「長腕のルー」の呼称より)ある[14][15]。母親はエスリウ / エスニウなので、これは母称名ととればよいのだが、ややこしいことに、エスリウがルーの父親の別名だとする記述もある[16]

さらにはルーみずからエスリウの息子ルーと名乗る物語『幻影の予言英語版 』 も存在する[注 5][18][19]

ルーについて、フィルボルグ族の王妃のタルトゥ英語版に養われたという記述がある[20]

バロールが隠した育てた娘と、宝の牛の探求に来たキアンが恋愛し、そのときもうけた子である長腕のルーは、海神マナナーン・マクリルが育てた、あるいは鍛冶師ゴブニュの弟子となった、という設定の物語は、中世写本の神話には残っておらず、実は19世紀に集められた口承文学を根拠としている。

バロールの娘とキアンの民話

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グレゴリー夫人版では、バロールのもとから豊穣の牝牛グラス・ガヴナン(?)(アイルランド語: Glas Gaibhnenn)[21]を奪い返しに行ったキアンと、バロールの娘とのあいだにルーが生まれる。
グレゴリー女史の再話は、同類の民話の二つのバージョン(魔法牛グラスの項で詳述)をたくみに合成して首尾一貫した話を作り上げている。一方の民話[22]では、キアンと名乗る一介の騎士?が、城主バラルのもとで働き、ほどなくバラルの娘に生ませた子や宝の牛を奪って逃げる。子供は、海神マナナーン・マクリルに預けて育てられ、ドルドナ (Dul Dauna) と名づけられる(これは綽名イルダーナハの転化で、長腕のルーをさす、と説明される[23])。この子が、ある日浜辺から、艦隊で通り過ぎる祖父バロールにむかって、ポケットからとりだしたダート(投げ矢)を投げつけ、これが命中してバロールは死んだ。

もう一篇の民話では、キアンのかわりにマック・キニーリーという人物が登場するが、やはり宝の牛グラス・ガヴナンにまつわる類似の民話である[24]。マック・キニーリーは、守護霊の妖精女(バンシー)の助けを借り、邪眼の盗賊バロールの牙城トーリー島英語版で、バロールの娘が幽閉される獄塔に忍び入り、自分の子を孕ませる。マック・キニーリーはバロールに殺されるが、生まれてきた児(≒ルー)は亡き父の兄弟、鍛冶師ガヴィダに預けられ[注 6]、その弟子として成熟する。このルーと思しき遺児は、ある日、鍛冶場に現れて槍の製作を注文したバロールから、自分の父親を殺した自慢話を聞かされ、赤熱した鉄棒でバロールの邪眼めがけて突き殺してしまう。

ルーの最期

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ダグザの息子ケルマト英語版はルーの妻と関係を持ったことが原因でルーによって処刑される[注 7]。父親であるケルマトを失った三人の息子たちは後にルーを殺害し、復讐を果たした。

アルスター物語群

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アルスター物語群『クアルンゲの牛捕り』(クーリーの牛争い)では、ルーは英雄クー・フリンの超自然的な父親として登場する。
アルスターの王コンホヴォルの妹デヒテラは、鳥達に導かれて妖精の丘に行き、ある夫婦の家で一晩過ごす。デヒテラは、その夫婦のあいだに誕生したばかりの男児と2頭の仔馬を預かり、我が子のように可愛がるが、その甲斐もなく、その子供は病気で死んでしまう。悲しみにくれるデヒテラは、コップの水に入った虫を誤って呑み込んでしまう[注 8]。同じ夜、彼女の夢の中にルーが現れ、妖精の丘に連れ出し一夜の宿を与えたのも、可愛がっていた子供の親も自分であると名乗った。さらに、その子はおまえの胎内に居るゆえ生まれたらセタンタと名付けるべし、また2頭の仔馬はセタンタが成人した時その戦車を引く馬になるから一緒に育てよ、と告げた。懐妊したデヒテラは、やがてセタンタ(後のクー・フリン)を産んだ。

また、クー・フリンがスカアハの治める「影の国」へ向かう最中、「不幸の野原」(アイルランド語: [Mag] ndobail)の沼地に足を取られ、暗闇の中で苦しんでいた。そこにエオフ・バルヘ(?)(Eochu Bairche)という青年が現れてクー・フリンに車輪を渡し、車輪を転がしてその後を進むよう助言した。(一説によればこの青年はルーの仮の姿であった[26])。クー・フリンがそのようにすると、車輪からは火花が飛び散り、周囲を明るく照らしながら熱で沼地を乾かしたので、クー・フリンは「不幸の原」を通りきった。[27] クーリーの牛争いでは、孤軍奮闘でコナハト軍を相手に戦うクー・フリンは、ロフとの対決でモリガンの妨害で負傷する。このクー・フリンの前にルーが現れ、彼に眠る猶予を与えるため、そののち3日間クー・フリンの身代わりにメイヴ女王の軍と戦った。[28]

歴史物語群

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歴史物語群英語版幻の予言ドイツ語版』において、ルーは妖精として登場し、百戦のコン英語版に対して未来のアイルランド王の名を予言した。しかし『幻の予言』においてルーの(母親ではなく)父親はエスリウ、エスリウの親はティゲルンワスとされており、神話物語群における彼の家系図とは相違点がある。

所持品

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ルーの槍は、トゥアハ・デ・ダナーン四神器の一つとされるが、アイルランド伝統文学では、これとは異なる槍の由来も伝承される。ルーが賠償として求めた槍は、《来寇の書》ではゲイ・アッサルすなわちアッサルの槍といい、これは呪文を唱えれば的中させたり召還したりできる。だが近世物語では賠償品はアラドヴァルと称すペルシア王ピサルの槍で、水をたたえた釜に漬けおかないと発火性を発揮する槍。ルーの槍は森一番のイチイとも呼ばれるが、これをさらにルーンと同一視する古文書のくだりも存在する。

ルーがマグ・トゥレドの戦い(モイトゥラの戦い)でバロールを斃した、あるいはその目を射抜いたのは投石器の石である。これをタスラムだとするのはわずかな文献に過ぎない。

『トゥレンの息子たちの最期』の物語では、ルーが賠償で求めた品々のほかに、マナナン・マク・リルより賜った、あるいは借り受けたフラガラッハや、陸海を駆ける馬アンヴァル、魔法の船舶《静波号》などがある。

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アイルランド文学の原典でみるとルーの槍については以下に紹介するような描写がある(#四秘宝のルーの槍#アッサルの槍#アーラーワル(アラドヴァル)#森一番のイチイの名木#ルイン#5本に分かれた槍)。

ルーの槍は「ブリューナク」(Brionac)という名であると日本のファンタジー系の書籍やテレビゲームなどで記述されるが[29][30]、この名はアイルランドの伝統文学には無い。似た名として挙げられるのが、マイケル・ムアコック作のファンタジー小説《紅衣の公子コルム》シリーズの主人公コルムがもつブリオナック(Bryionak)という槍である[31][注 10]

ルーの槍の様々な異称

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アイルランド文献での槍名(要約)
アイルランド古来の文献では、四秘宝のルーの槍ヌアザの剣に特に固有名は無い。
四秘宝のルーの槍
四秘宝の一つに数えられるルーの槍(アイルランド語: sleg)は、≪バリモートの書英語版≫所収『トゥアハ・デ・ダナーンの四秘宝英語版』本文で「ルーやその槍を手にした者に対し戦(の優位を)保ちつづけることこれかなわず」[32]とされる、不敗の槍である。トゥアハ・デ・ダナーンが北方の地ロフラン英語版[注 11]の都市ゴリアスからルーの槍を持込んだと、『アイルランド来寇の書』(en:Lebor Gabála Érenn)に記される[33][注 12][注 13]
アッサルの槍
アッサルの槍、ガエ・アッサル(アイルランド語: Gae Assail)は、ルーが、自分の父親キアンを殺された賠償のひとつとして、トゥリル・ビックレオ(Tuirill Piccreo/Biccreo)から要求した槍。イヴァル(イチイの樹の意 Ibur)の呪文で命中し、「再イチイ」を意味する逆呪文アスィヴァル(Athibar)で召還できる。《アイルランド来寇の書》(¶319および第LXV詩) [33] の原文にしたがえば、
峰ばった黄金のアッサルの槍、ひとたび血をこぼせば後誰も生かしてはおかず、イヴァルと唱えて投げればけっして逸れないこと疑うべくもなく、アスィヴァルと呼べばたちどころ戻ってくる[36]
という必殺必中の槍である。また、ピサール王の槍ともされている。
アーラーワル(アラドヴァル)
ペルシアの王ピサルが所有する槍アラドヴァル(?)〔古語発音〕、アーラーワル(?) 〔現代発音〕[37](O'Curry 英訳: Ar-éadbair[38], O'Duffy 英訳: Areadbhair[39] 原文 Aɼéadḃaiɼ)は、物語『トゥレンの息子たちの最期』(18世紀以降の写本)に登場する、ルーがトゥレンの息子たちから求める賠償のひとつである。その槍は、穂先を水をはった大釜に漬けこんでおかないと都市が焼けて(溶けて)しまうという。この槍名は「屠殺者」[40]や「殺戮者」[41] (Slaughterer) とも訳出されている [42][注 14]
森一番のイチイの名木
ルーの槍は、「森でこよなきすばらしき(イチイ)の樹」[注 15][45] と『トゥレンの息子たちの最期』で詩人に扮したブリアンに歌われる。これとほぼ同じ文言の美称「森の名だたるイチイの樹」が[注 16]、やはりルーの槍の呼び名として、16世紀のある写本のあるくだり(TCD所蔵1336本(旧H 3. 17本)の723欄)に言及されるのだが、重要なのは、そのくだりではルーの槍が、アルスター戦士の時代のケルトハルのルーンと同一であり、別時代(西暦260年頃[46])のコルマク・マク・アルトを失明させたクリヴァル(Crimall)と同一だと示していることだ[47]
ルイン
アラドヴァルと称すルーの槍と、アルスター伝説の勇者ケルトハルやドゥフタハが用いるルーン(Luin)と呼ばれる槍は共通した性質を持っている。また、#森一番のイチイの名木と名づくルーの槍とルインはそもそも同じ槍だったという伝承があることは上述した。
5本に分かれた槍
ルーは、疲れ果てたクーフーリンに代行して戦うために『クアルンゲの牛捕り』 に現れるが、そのときに五尖槍を携えている。黄色い巻き毛のルーは、次のようないでたちだった。

その者は緑のマントを身に纏い、マントには白銀のブローチが胸にし、その白肌じかに純金で赤刺繍した王風の膝まで届く絹チュニクを着ていた。白黄銅の硬い丸鋲突起がある黒盾を持ち、五尖槍と叉分かれの投槍を手にしていた[注 17][注 18][48]

この五尖槍は[注 19]、特にルーだけでなく、伝説群の垣根をこえて何人もの英雄が普通の武器として所持している。尖端こそ5本に分かれているが、これはもっとも普通に槍をさす種類の武器である。

ルーの持物の自然神学論な解釈

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ルーの持つ投擲武器や弾を、「稲妻の武器」(lightning-weapon)として解釈し、神話解説を展開したのは en:T. F. O'Rahilly [49]が著名な例である。

ルーは天の川をトルクとし、虹を投石紐(あるいはスタッフスリング用のスタッフ)としたといわれている。

スリング石

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マグ・トゥレドの戦い(モイトゥラの戦い)でルーが、投石器から放たれた石 によって[注 20]、祖父バラルを斃したというのが、《アイルランド来寇の書》の略述[50]に書かれる内容であるが、ここではルーの祖父は「強撃のバラル」) という意味の綽名で呼ばれ[注 21]、バロールの目が武器だとも、その目を射抜かれたとも書かれてはいない。

後世の『マグ・トゥレドの戦い』の物語(唯一16世紀半ばの写本に現存)になると、ルーは投石器の石を放って[注 22]。「刺すような目のバロール」の邪眼を射抜いたことになっている[注 23][52]

タスラム

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この武器(弾)は、既述の原典では何の変哲もない石としか書かれていないが、ルーが放った弾がタスラム (セメント材料を固めた投石器の石弾[注 24]) だとする詩がオカリー講義集に発表されている:[注 25]

同詩はそして、このタスラム弾は、蝦蟇、熊、獅子、蝮、オスムン(Osmuinn)の首の付け根から血を集め[注 26]、清めたアルモリア海と紅海の砂を使ってベサルの息子ブリオンが製造し[注 27]、ルーに渡され、マグ・トゥレドの戦いで投じられた、と続く。

フラガラッハ

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ルーはまた、フラガラッハという剣を、 マナナーン・マク・リールから借り受けており、『トゥレンの子らの最期』でもトァハ・デ・ダナーン神族の集合においてこの剣を佩いている。

ルーの馬と船

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ルーはアンヴァルという名の海陸かまわず駆けることができる馬を持っていたが[注 28][57] 、その甲冑武器と同様、海神マナナーンから預かり受けたものだった。トゥレンの子らが、賠償品を探求する旅に出るため、この馬の借用を願い出たが、ルーは、借物を又借りさせることはまかりならぬ、と断った[58]

しかしその方便は二度は使えず、ルーは、マナナーンの船の貸し出しを求められると拒むことができなかった。この船は狭いが、行き先を言葉で命じれば、そこまで自動的に航行してくれる魔法の船で、「静波号」〔ウェイヴ・スウィーパー〕[59]とも表記される。これは英訳名 "Wave-Sweeper" の大意訳と音写である[注 29]

また、《アイルランド来寇の書》によれば、ルーが賠償に求めた二頭の馬は、ガーネ(?)[注 30]とレー(?)(アイルランド語: Gainne & Rea)といい、ティレニア海 のシチリア島の王の持ち物であった。怪我、波、落雷に害されず、女神エルンワス英語版の死とも無縁と歌われる[60]

ルーの犬ファリニシュ

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ルーが賠償として求めた中には、ファリニシュアイルランド語: Failinis)という名の犬がおり、これはイルアーゼ(?)(Ioruaidhe)[注 31]の王が大事にしている犬であった(近代版『トゥレンの子らの最期』)。この犬名は、古写本の詩にも記載されている[61]

脚注

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注釈

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  1. ^ イルダーナについては、Squire, 1905 & p-237, n1 では発音を Ildāna としている。
  2. ^ Squire 1905, p. 237 では、Dul-dauna は 「盲目頑固 "Blind-Stubborn"」の意味になるが、これは Ioldanach (発音 Ildâna)「全ての知恵の達人 ("Master of All Knowledge")」の訛りと説明する。『よくわかる英雄と魔物』(PHP研究所、p. 22)でドルドナを「全知全能の意」と説明するのは端折り。
  3. ^ 原典ではこの武器は投石器の石(槍ではない): "sling stone" cloch a tabaill (『来寇の書』), "sling stone" liic talma (『マグ・トゥレドの戦い』物語)
  4. ^ "Then Ogma threw the flagstone, which required fourscore yoke of oxen to move it,.."原文では"cethri xx"つまり4x20頭。
  5. ^ 厳密にはルーが自分を "Lug mac Ethlend maic Tigernmais (ティゲルンワスの息子エスリウの息子ルー)と父称形で名乗る。しかしそれだとルー神の祖父がアイルランド上王ティゲルンワス英語版ということになり、明らかな混同だとマカリスターは指摘する[17]
  6. ^ Gavida
  7. ^ このルーの妻の名は不明である。ルーの妻として名前が残っているのはBuíとNás(この2名は姉妹である)、及びEchtachにÉnglicであるが、不貞を働いた妻はこの四名とは別人とされる[25]
  8. ^ 呑み込んだ虫から超自然手に子供が宿るというのは、『エーディンへの求婚』にもみられる共通モチーフ。
  9. ^ 井村君江『妖精学大全』は"銀の手(ラアウ・エライント)のリュッズ "と表記。
  10. ^ 持主はコルム・ルロウ・エレイント(=銀手の公子コルム)とも名乗り、これはウェールズ文学の「銀の手のスェウ」ことスェウ・スァウ・エライント(Lludd Llaw Eraint)のもじりだが[注 9]、後者はルーでなく銀腕のヌアザに相当する神格である。
  11. ^ 侵略者達の住む地域。現代ではスカンジナビア半島、その中でも特にノルウェーと同一視されるが、ジョン・リース英語版によればこうした地理的な特定は8世紀におけるバイキングの侵攻以降に成されたものであり、元来はフォモール族のような超自然的存在の住む異界であったとされる。
  12. ^ 『アイルランド来寇の書』校訂本一・二・三(p. 305, 315, 357)のいずれとも、ルーの槍は"Goirias"から持込まれたとする。
  13. ^ ≪バリモートの書≫『トゥアハ・デ・ダナーンの四秘宝』では、本文(散文部分)ではない引用詩には「剣は..ゴリアス」、「ヌアザの槍は都市フィンジアスから」と「ゴリアス」としており(原文"From far-away Findias over the sea / Was brought the deadly spear of Nuada.")、持主・都市と武器があべこべに入れ替わって記されている[34])。また、『アイルランド来寇の書』の第三稿本や、ジェフリー・キーティング英語版のアイルランドでは「ルーの剣はゴリアスから、…ルーの槍はフィンジアスから」などと両方ともルーが持主のように歌っている刊行版[35]がある。
  14. ^ 接頭語を ár '屠殺、殺戮' [43]、語尾は古語 adbar '物体、装備'[44]
  15. ^ A [yew] tree, the finest of the wood. アイルランド語: eó bo háille d'ḟíoḋḃaiḃ.
  16. ^ the famous yew of the wood. アイルランド語: ibar alai fhidbaidha.
  17. ^ foga fogablaigi. eDIL s.v. foga 'a small spear, a javelin, in heroic lit. distinguished from gae and sleg, and generally forming part of a warrior's equipment' + eDIL s.v. fogablaige 'pronged'. )。
  18. ^ 英訳:"He has a green mantle wrapped about him and a brooch of white silver in the mantle over his breast. Next to his white skin he wears a tunic of royal satin with red-gold insertion reaching to his knees. He carries a black shield with a hard boss of white-bronze. In his hand a five-pointed spear and next to it a forked javelin.".
  19. ^ five-pointed spear (アイルランド語: Sleg cóicrind
  20. ^ sling-stone, アイルランド語: cloich tabaill
  21. ^ Balar the Strong-Smiter. アイルランド語: Balar Balc-beimnig.
  22. ^ ここでは liic talma という別の表現が使われるが、「タルマ」というのは(革)紐が二本ついているタイプを意味する可能性があり、通常の「タバル」という革ひも一本を木製の取っ手にくくりつけたタイプと区別できる、と説明される[51]
  23. ^ Balor of the Piercing Eye. アイルランド語: Bolur Birugderc. Evil Eye, アイルランド語: Súil milldagach
  24. ^ tathlum. eDIL s.v.táthluib '(slingstone made of) cement'.
  25. ^ この詩を収録した羊皮紙写本は、元 Mr. W. Monck Mason 所有であったが、のち Egerton MS. 1782となった[53][54]
  26. ^ オカリーは Osmuinn と斜体で示すので、固有名と解釈したようであるが、マイヤー編纂のテキストでは ós muin とするが、エドワード・J・グウィンは他の動物は列挙してもこのós muin は飛ばしているので、何の意味か知れない。オカリーは"trunk"すなわち'体幹'と訳したが、辞書の上では、首と体幹の境界あたりらしい[56]
  27. ^ Briuin mac Bethrach, Briun son of Bethar
  28. ^ Aenbharr
  29. ^ 原典では船名は Sguaba Tuinne と表記し、編者オカリーの脚注によれば原義は「波の箒(ほうき)」を意味する(O'Curry)。
  30. ^ 古音表記だが定訳ではない。近代発音だとGaine ガイネまたは Gainne ガーニア(人名グラーニアと韻)。
  31. ^ 架空の異郷。O'Curry 1863, p. 190は、アイスランドだと説くが、簡単に言えば、ロフランとは別なる北欧あたりの伝説上の国か地。ヘオロットという説もあるらしい:Hogan, Edumund (1910) (UCC (DOI Project)), Onomasticon Goedelicum, Dublin, http://publish.ucc.ie/doi/locus 2012年1月16日閲覧。 , Letter "I"; "hirota" の項。

出典

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  1. ^ インターノーツ 2007など多数。
  2. ^ 『トゥレンの子らの最期』,O'Curry 1863, pp. 162/3, "Luġ Láṁḟada. loinnḃéimionnaċ "Lugh Lamh-fada [i.e. Lugh of the long arms and furious blows]"
  3. ^ Samildánach 『マグ・トゥレドの戦い』, Gray 1982, pp. 38/9 (CMT §53)
  4. ^ 辺見葉子「中世アイルランド文学における竪琴というモノ」『モノ学・感覚価値研究 : 科研:モノ学・感覚価値研究会年報』第2号、29–35頁、2008年。  2007年11月4日 辺見葉子:2007年度第3回研究会発表
  5. ^ 『トゥレンの子らの最期』,O'Curry 1863, pp. 166/167.さらに脚注155で"The Ioldanach, that is, the Master of many (or all) Arts"と説明。
  6. ^ Squire 1905, p. 237.
  7. ^ グリーン 1997, p. 27.
  8. ^ Gray 1982 tr., The Second Battle of Moytura §135, ed. CMT §135; Stokes 1891, pp. 100–101
  9. ^ 『来寇の書』。Macalister 1941 ed. tr. LGE ¶312, 118–121; ¶331–332, pp. 148–151; ¶364, pp. 180–181
  10. ^ 『来寇の書』。Macalister 1941 ed. tr. LGE ¶319 pp. 134–135: "The adventures of Tuirill Biccreo and of his sons, Brian, Iuchar, and Iucharba..", 挿入歌 LXVI, pp. 282–291.
  11. ^ 『トゥレンの子らの最期』物語(O'Curry 1863)
  12. ^ 『トゥレンの子らの最期』 O'Curry 1863, p. 215, "..the Children of Tuireann had obtained all the things that were wanting to himself(Lugh) against the battle of Magh Tuireadh"(この時点でまだ集め残している焼串と叫びは必要品ではなかった。)
  13. ^ Gray 1982 tr., The Second Battle of Moytura §53–83, ed. CMT §53–83; Stokes 1891, pp. 74–83
  14. ^ 『来寇の書』。Macalister 1941 ed. tr. LGE p. 101; ¶319 pp. 135–137; ¶368 pp. 186–187
  15. ^ クアルンゲの牛捕り』等
  16. ^ 『来寇の書』、Macalister 1941 ed. tr. p. 101; ¶319 pp. 135–137; ¶368 pp. 186–187。これが後世の挿入文英語版だということは、マッカリスターが序、p. 101 で"interpolation"と解説している。
  17. ^ Macalister 1941, p. 101.
  18. ^ Meyer, Kuno (1901) Baile in Scáil @ CELT corpus
  19. ^ Dillon, Myles Dillon, ed. (1946), “Baile in Scáil: The Phantom's Frenzy”, The Cycle of the Kings (Oxford: OUP), https://books.google.com/books?id=7YIrAQAAMAAJ&q=%22Baile+in%22  Mary Jones 改編 text @ Celtic Literature Collective
  20. ^ 『アイルランド来寇の書』, Macalister 1941 ed. tr. LGE ¶311, "Tailltiu daughter of Mag Mor king of Spain, queen of Fir Bolg... Cian son of Dian Cecht [aka] Scal Balb, gave her his son in fosterage, namely Lug."
  21. ^ Gregory(参考文献)
  22. ^ "The Gloss Gavlen", Larminie 1893, pp. 1–9所収
  23. ^ Squire 1905, pp. 233–239.
  24. ^ O'Donovan 1856の脚注に所収する民話
  25. ^ "Lugh", Mackillop (1998) ed., Oxford Dictionary of Celtic Mythology
  26. ^ 井村君江 1983『ケルトの神話』157頁。
  27. ^ 前話『エウィルへの求婚』(とクー・フリンの修練) Meyer 英訳 "Wooing of Emer"
  28. ^ 『クアルンゲの牛捕り』本編。Kinsella 英訳 p.142-にルーが登場。
  29. ^ 『伝説の「武器・防具」がよくわかる本』(佐藤俊之監修、造事務所編、PHP研究所〈PHP文庫〉、2007年、ISBN 978-4-569-66918-2[要ページ番号]
  30. ^ 佐藤俊之とF.E.A.R.著『聖剣伝説』新紀元社、1997年、ISBN 4-88317-302-X、14頁。
  31. ^ 水槌氏(幻想の武器博物館管理者)。神話に行き、幻想に死ぬブログ、2009年7月17日投稿
  32. ^ Hull 1930, 英訳: "No battle was maintained against the spear of Lug or against him who had it in his hand".
  33. ^ a b マッカリスター編訳本(Macalister 1940)。
  34. ^ Hull 1900, p. 88.
  35. ^ Keating, Geoffrey (1998), Comyn, ed., History of Ireland, p. 203, http://books.google.co.jp/books?id=MjBKAAAAYAAJ&pg=PA203 
  36. ^ Macalister 1941,First Redaction (第1稿本) ¶319および Poem LXV "The spear of Assal .. he lives not whose blood it sheddeth: and no cast 'goeth amiss so long as one saith "Yew!" of it; but when one saith "Re-Yew! " it goeth backward forthwith."
  37. ^ アラドヴァル(?)は、古語発音にもとづくが、中アイルランド語の写本に例がないので、復元的といえる。現代発音は、Areadbhar をそのまま現代風に発音しても、おそらく/アラーワル/となるが、オカリー教授のヒントにもとづきこの槍名を語釈した場合、標準現代語だと ár-ábhar という綴りになる。ár は "slaughter (DIL)"の意、発音[ɑːɾˠ] ár(wiktionary)、: ábhar は "matter, gear, equipment (DIL)"の意、 発音 [ˈaːwəɾˠ]である。これら単独の発音を合成すると発音/アーラーワル(?)/だが、連声効果(en:sandhi)で/アーラウル/などに変化することもありうる。
  38. ^ O'Curry 1863, pp. 188/189, 脚注#198
  39. ^ O'Duffy 1888
  40. ^ 健部 1990, p. 137
  41. ^ 小辻 1995, p. 37
  42. ^ Joyce, P. W. (Patrick Weston), tr. "The Fate of the Children of Turenn; or, The Quest for the Eric-Fine", Old Celtic Romances (3rd ed., 1907) (reprint 1920)
  43. ^ s.v. ár 'slaughter'
  44. ^ eDIL s.v. adbar 'matter, gear'. 現代語 : ábhar
  45. ^ O'Curry 1863, Atlantis IV: 204/5
  46. ^ O'Curry, Manners II, 325-6 "Ibar Alainn Fidh-bhaidhea",.. "Luin Cheltchair.. in the possesion of King Cormac, about the year 260, but then under the name of the Crimall, that is, the "Blood-spotted."
  47. ^ このくだりは、 Hennessy, Edmund, ed. tr.Mesca Uladintroduction, p. xivで紹介されている以外は、きちんと編訳されていない。
  48. ^ O'Rahilly, Cecile tr.,Táin Bó Cúalnge Recension 1 (1976), line 2072-, LU, English (p.183), Irish Irish (p.64) Kinsella tr., Táin (1969)p.142(第1稿本)
  49. ^ T. F. O'Rahilly, Early Irish History and Mythology (1946), pp.60-5
  50. ^ Macalister 1941, Vol. 4, ¶312, ¶312, ¶364
  51. ^ eDIL s.v. liic(lía) '石' + eDIL s.v. tailm '投石器' "perh. differing from táball, q.v., in being composed of two thongs, instead of one and wooden handle, ZCP xix 306–7".
  52. ^ Gray 1982 tr., The Second Battle of Moytura §133, ed. CMT §133; Stokes 1891, pp. 100–101, glossary p. 113
  53. ^ a b O'Curry, Eugene (1873). “Lecture XII Sling-Stones of composition manufacture”. On the Manners and Customs of the Ancient Irish. 2. Williams and Norgate. p. 252. https://books.google.com/books?id=IX0OAAAAQAAJ&pg=PA252 
  54. ^ Gwynn, Edward J. (1935). Some Irish Words. 24. 64–65. JSTOR 23037229. https://books.google.com/books?id=tEkUAAAAIAAJ&q=%22Monck+mason%22 
  55. ^ Meyer, Kuno, ed. (1905), “Von dem Schleuderstein Tathlum”, Zeitschrift für Celtische Philologie 5: 504, https://books.google.com/books?id=s7Qw1tGXmCUC&pg=PA504 
  56. ^ eDIL s.v. méide 'the lower part of the neck at its union with the trunk '
  57. ^ 「伝説の武器・防具がよくわかる本」(PHP), p. 144: "絶対に落馬しない白馬アンヴァル"。
  58. ^ 『トゥレンの子らの最期』, O'Curry 1863
  59. ^ 井村 1990「トゥレン3兄弟の試練の旅」による表記
  60. ^ Macalister 1941, ¶319)
  61. ^ Stern 1900(≪レンスターの書≫版); Stokes, ZCP 3, p.431(≪リズモア書の≫第fo. 153 b2よ葉に所収された版の"Dámh trir thancatur ille.."に始まる詩。

参考文献

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『アイルランド来寇の書』
『マグ・トゥレドの戦い』
『トゥレンの子らの最期』
『トゥアハ・デ・ダナーンの四秘宝』
宝の牛の民話
その他
  • 井村君江『ケルトの神話』筑摩書房、1983年。ISBN 978-4-480-02392-6 所収「トゥレン3兄弟の試練の旅」「光の神ルーの子ク・ホリン」など
  • 小辻梅子『ケルト魔法民話集』社会思想社、1995年。 訳編「トゥレンの子たちの運命」、37、56、61、65、68、72頁
  • 市川裕見子 訳『ケルトの神話』丸善株式会社、1997年。ISBN 4-621-06062-7