アザミ
アザミ(薊)は、キク科アザミ属 (Cirsium) 及びそれに類する植物の総称。標準和名を単にアザミとする種はない[1]。スコットランドの国花。アザミの根は、山牛蒡(やまごぼう)として漬け物に用いられている。
特徴
葉は深い切れ込みがあるものが多い。また、葉や総苞にトゲが多く[1]、さわるととても痛いものが多い。触れれば痛い草の代表である。
頭状花序は管状花のみで作られていて、多くのキクのように周囲に花びら状の舌状花が並ばない。花からは雄蘂や雌蘂が棒状に突き出し、これも針山のような景色となる。花色は赤紫色や紫色がほとんどで、まれに白色もある[1]。種子には長い冠毛がある。
若いときには根出葉があり、次第に背が高くなり茎葉を持つが、最後まで根出葉の残る種もある。草原や乾燥地、海岸などに出るが、森林内にはあまり出現しない。別名刺草。名前の由来は、アザム〈傷つける、驚きあきれる意〉がもとで、花を折ろうとするととげに刺されて驚くからという説がある。
文化
- 食用
- 食用とする部位は、主に若い茎葉である[1]。例えばノアザミは若い茎葉を、サワアザミは春の太い芽立ちを根本近くから摘んで食べる[1]。その他のアザミ類でも、スジが固かったり、香りが少なかったりはしても、芽先だけ摘んでくれば食べることは出来る[1]。新芽は山菜として、灰汁があるため茹でて灰汁抜きしたあとに、油でいためてから煮物にしたり、そのほか和え物、天ぷらなどにして食べられる[1]。青森県津軽地方や青森市、東北町を中心とする東北地方や長野県の一部では、春先にアザミの若芽がスーパーマーケットに並び、食用として売られ、主に味噌汁の具として使われる。
- 根はゴボウのように食べることができ、きんぴらや味噌漬物などにする[1]。「山ごぼう」や「菊ごぼう」などといわれることもあり、味噌漬けなどの加工品として山間部の観光地・温泉地などで販売される「山ごぼう」は多くの場合、栽培されたモリアザミの根である[1][注 1]。
- 民間医療
- 古代では、育毛剤。近代では、頭痛、ペスト、潰瘍の痛み、めまい、黄疸の治療薬と考えられた[3]。
なお、繊維加工分野では、毛布などの起毛に植物の実を使う通称アザミ起毛(薊起毛)と呼ばれている手法があるが、厳密にはキク科のアザミの実ではなくマツムシソウ科のチーゼルの実が使われている(チーゼル加工)[6][7]。
種
世界に250種以上があり、北半球に広く分布する。地方変異が非常に多く、日本でも70種以上あるとされるが[1]、現在も新種が見つかることがある。種類を見分けるのは容易ではなく[1]、さらに種間の雑種もあるので分類が難しい場合もある。
以下の種は比較的分布が広いものである。
- ノアザミ C. japonicum DC.:春のアザミは大体これと考えてよい。本州〜九州。この種の園芸品種をドイツアザミというが、実際はドイツとは無関係である。
- タイアザミ C. nipponicum var. incomptum:大薊。大きなアザミのことで、別名、トネアザミ(利根薊)という。ナンブアザミの変種で関東地方に多い。
- フジアザミ C. purpratum (Maxim) Matsum.:花の直径が8cmにも達する(花の画像:フラボン)。関東〜中部地方の山地。
- ノハラアザミ C. tanakae :秋に花を咲かせる。本州中部地方以北の山地。
- ハマアザミ C. martitimum Makino:海岸性のアザミで、葉が厚くてつやがある。本州中部以南、九州までの太平洋岸。
- モリアザミ C. dipsacolepis (Maxim) Matsum.:本州〜九州の草原。時に食用に栽培される。
- ナンブアザミ C. nipponicum (Maxim) Makino:本州中北部では普通。変種を含めると、四国まで一帯に分布。
- オニアザミ C. borealinipponense Kitam.:中部地方、東北地方の日本海側。
- キセルアザミ C. sieboldii :湿原。
- サワアザミ C. yezoense :近畿以北の日本海側沢沿。
- タチアザミ C.inundatum Makino: 北海道から本州の日本海側の湿地。
- ツクシアザミ C. suffltum (Maxim.) Matsum.:九州では一番普通なアザミ。四国、九州に分布。
- タカアザミ C. pendulum Fisch. ex DC.:北海道、本州の北部に分布。東アジアにも分布する。
ごく分布の限られたものも多い。
- チョウカイアザミ C. chokaiensis Kitam.:東北鳥海山の高山の草原。
- オゼヌマアザミ C. homolepis Nakai:尾瀬およびその周辺の湿地のごく一部区域。
- アイズヒメアザミ C. aidzuense Nakai ex Kitam.:本州日本海側のごく一部区域。
- ジョウシュウオニアザミ C. okamotoi Kitam.:群馬県、新潟県の県境の山域のごく一部区域。
南方島嶼には以下の種がある。
繁殖方法
根が冬越しする他に、綿毛(冠毛)の着いた果実が風で飛散して増える。受粉は昆虫による虫媒花である。
近縁な群
アザミ属の植物とよく似ていたり、名前に「アザミ」が付いたりするが、アザミ属の植物でない物もある(ヒレアザミ、キツネアザミ、ミヤコアザミ、マツカサアザミ、ルリタマアザミなど)。また、トウヒレン属やヒゴタイ属もよく似た花を咲かせる。ゴボウも花はよく似ている。「チョウセンアザミ」の和名を持つアーティチョークはアザミ属ではなく、チョウセンアザミ属である[注 2]。
有毒植物との区別と注意
学術上の種名、ヤマゴボウとヨウシュヤマゴボウはいずれもキク科ではなく、モリアザミなどのアザミとは類縁関係の遠いヤマゴボウ科であり、薬用にはなるが、食用になるどころか有毒植物であり、混同して誤食しないよう注意を要する。
その他の画像
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蕾の状態。
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細長い管状花の集合体であることが分かる
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痩果の先端に綿毛(冠毛)がついており、風で遠くまで飛ぶ
脚注
注釈
- ^ ヤマゴボウ(ヤマゴボウ科)という名の植物も別にあるが、この植物の根は有毒のため食べてはいけない[2]。
- ^ フェリーニの映画『道』のヒロイン・ジェルソミーナがピエロのイルマットに「アザミ顔」と言われているアザミはアーティチョーク(伊: carciofo)のことである。
出典
- ^ a b c d e f g h i j k 吉村衞 2007, p. 28.
- ^ 吉村衞 2007, p. 29.
- ^ Grieve, Maud. “A Modern Herbal”. 2011年6月3日閲覧。
- ^ W. T. Parsons; Eric George Cuthbertson (2001). Noxious Weeds of Australia. Csiro Publishing. pp. 189–. ISBN 978-0-643-06514-7
- ^ Watt, John Mitchell; Breyer-Brandwijk, Maria Gerdina: The Medicinal and Poisonous Plants of Southern and Eastern Africa 2nd ed Pub. E & S Livingstone 1962
- ^ “泉州毛布の始まり~明治・大正~”. 日本毛布工業組合. 2022年9月12日閲覧。
- ^ “今話題のニットの起毛加工(アザミ起毛?)に使用する花の実をご紹介致します。”. ニットマテリアル. 2022年9月12日閲覧。
参考文献
- 吉村衞『おいしく食べる山野草』主婦と生活社、2007年4月23日。ISBN 978-4-391-13415-5。