あぶくま洞

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あぶくま洞内

あぶくま洞(あぶくまどう)は福島県田村市にある鍾乳洞である。

歴史

あぶくま洞は1969年9月、現在の釜山採石場跡地から発見された。この地一帯は阿武隈高地と呼ばれる高原地帯であり、中央に位置する大滝根山の西側斜面には仙台平と呼ばれるカルスト台地が広がっている。したがって古くから石灰岩大理石の採掘が盛んな土地であった。あぶくま洞が発見されたのも石灰岩採掘中のことである。釜山採石場はあぶくま洞発見の年に操業を停止したが、その切羽である石灰岩露頭は現在の駐車場横などに残っている。

当初発見されたあぶくま洞の入り口は現在の観光洞の出口付近に位置する。洞穴自体も深さ12mの縦穴と、北へ60m、南西方向へ15mの横穴から成る小規模なものであった。翌1970年3月に日本大学の探検隊が洞内を探索し、それまで終点とされていた北端部の風穴の先にあぶくま洞主洞部を見出した。発見から4年後の1973年には見学用に洞内が整備され、一般に公開されるようになった。

地質

結晶質石灰岩の露頭

前述の大滝根山西側斜面から田村市大越地区にかけ、南北およそ4km、東西0.5〜1kmに滝根層と呼ばれる石灰岩層が走っている。この石灰岩は、約3億年前の石炭紀からペルム紀有孔虫などの生物の遺骸が海底に堆積して形成されたものである。

あぶくま洞を胚胎する石灰岩が結晶質の石灰岩へ変成したのはおよそ8,000万年前、白亜紀後期であると推定されている。この頃、なお地下深部にあった滝根層の石灰岩が周囲に貫入した花崗岩花崗閃緑岩から接触変成を受け、一部が結晶質石灰岩(大理石)へと変化した。

広域的な隆起によって石灰岩層が地表に現れ、地下水による侵食が始まって洞窟が形成されたのは、それからさらに後、恐らく第三紀末から第四紀にかけてのことと推定される。詳細については分かっていない。

洞内

あぶくま洞内の鍾乳石

あぶくま洞の一般見学ルートの長さは600mほどである。入り口から150mほどの地点に「探検コース」(約120m)への分岐があり、このルートを含めると720mになる。一般には公開されていない経路を含めた洞内の総延長は約3,300m(日本国内第11位、洞窟#日本の大洞窟を参照)で、今後の探索によってはさらに伸びる可能性がある。 洞内には様々な形状の鍾乳石が発達している。石筍や石柱をはじめ、洞穴シールド(盾板状の平たい鍾乳石)や地下水の侵食痕も見られる。

洞内の平均気温は14℃前後で、一年を通して大きくは変動しないが、詳細にみると観光開発後の1975、1977年に上層部では夏季に15~17℃、冬季に15℃、下層部では夏季に14℃、冬季に0~10℃である[1]。外気に近い入り口付近では冬季に氷柱が見られるが、内部の水路や壁面は氷結しない。

本洞最奥部から湧き出す地下水流は、2001年○月に行われた調査によって、大滝根山麓から浸透した地下水に由来する事が明らかになり、水温9.3℃、pH8.1の弱塩基性であった[2]

洞内の名称

あぶくま洞の中でも特に特徴的なエリアや鍾乳石には様々な名前が付けられている。洞内に名称の表示があるものを列挙する。なおこれらの他に、洞内の設備として概要案内板、旧入り口、探検コースへの分岐、非常連絡路などがある。また、洞内の安定した環境を利用したワインセラーも設置されている。

  • 妖怪の塔
  • 白磁の滝
  • 洗心の池
  • せせらぎの間
  • 石化の樹林
  • クリスマスツリー
  • 樹氷
  • リムストーン
  • 観音像
  • 滝根御殿 - 天井高約30mの大空洞。
    • ビッグフローストン
    • 洞穴サンゴ
    • クリスタルカーテン
    • 洞穴シールド
    • ボックスワーク
  • 竜宮殿 - 滝根御殿に次ぐ大空洞。
    • きのこ岩
  • 月の世界 - 洞内の主な鍾乳石が一覧できる場所。

洞穴生物

あぶくま洞には多くの洞穴生物が見られる。コウモリトビムシの仲間をはじめ、水路にはサンショウウオも生息している。コウモリは数種類が生息しており、環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に評価されているテングコウモリ(ニホンテングコウモリ)も確認されている。洞内は鍾乳石の観賞用と安全の確保のためにライトアップされているが、特に照明の近傍では壁面に蘚苔類藻類が付着し生育している。これらは洞の解放後に外界から持ち込まれたもので、洞穴生物には含めない。

周辺地理

阿武隈高原

仙台平にはピナクルと呼ばれる石灰岩の露岩が随所に見られ、カルスト地形特有の風景を形成している。付近にはあぶくま洞の他にも鬼穴と呼ばれるドリーネ入水鍾乳洞などの窪地・洞窟が存在する。大きなドリーネではその内部にミズナライタヤカエデといった木本が生育し、林床には蘚苔類が広がる。イタヤカエデは秋には紅葉し、春のとともに仙台平の風物詩となっている。阿武隈高原全体の植生としてはアカマツが優占するが、仙台平にはケヤキのような落葉高木も見られる。動物はイノシシタヌキキツネといった中型~小型の哺乳類が生息している。

鬼穴

長径140m、短径120m、深さ85mの巨大なドリーネ。石灰岩層と頁岩層との境界面に発達したドリーネで、石灰岩側は断崖、頁岩側は侵食されて斜面となっている。地下はあぶくま洞と連結しており、鬼穴から流入した雨水はあぶくま洞経由で流出する。

2004年以降、あぶくま洞内に生息するニホンテングコウモリ保護のため、鬼穴からこれに通じる穴には扉が設置されている。なお、鬼穴の長さ70mの横穴にはコキクガシラコウモリが生息している。

鬼穴にはこれにまつわる伝説がある。西暦800年頃(平安時代初期、延暦年間)この地方は大多鬼丸なる豪族が治めていたが、朝廷と対立するに至り、朝廷軍として当時の征夷大将軍であった坂上田村麻呂が派遣されてきた。大多鬼丸は大滝根山に白金城を構えて田村麻呂と対峙したものの、次第に追い込まれて最後はこの鬼穴で自害したと言われている。大多鬼丸は仙台平の高台に葬られたが、今でも鬼穴最大のホール「大多鬼丸ホール」や同じく鬼穴内の「大多鬼丸の腰かけ石」などにその名を残している。大多鬼丸ホールは長さ100m、天井高は60m以上あり、壁面には45mにも及ぶ日本最大の高低差をもつフローストーン(流華石)が見られる。

入水鍾乳洞

あぶくま洞の北方約4kmに位置する鍾乳洞。1934年12月に国天然記念物に指定されており、あぶくま洞とは別事務所の管轄である。地質的位置づけはあぶくま洞と同じである。総延長は約900mで、名前のとおり洞内は水路が多い。

仙台平の猫杓子ドリーネなどに降った雨水は、この入水鍾乳洞へと流入している。見学ルート[3]はA、B、Cの3種類あり、水への備え無しで見学できるのはAルートのみである。ただしAコースでも時期によって水深に大きな差があり、膝上まで水につかることもある。また大雨の後は入洞できなくなる。洞内にはコウモリの他、サンショウウオやヤスデなどの洞穴生物が生息している。

入水鍾乳洞の流水の水温は2001年○月の調査時にあぶくま洞よりも1.8℃ほど低く[2]、見学ルートでも一部で水深が数十cmあるために、B、Cルートはそれなりの装備が必要となる。Cルートは原則として案内人付きでなければ立ち入れない[4]

その他

仙台平は国民休養地および県立自然公園(阿武隈高原中部県立自然公園)の指定を受けており、レジャーや休養の場として利用されている。また、都市部から離れており光害の影響が少ないことから、天体観測が盛んな場所でもある。あぶくま洞の近くには口径65cmの反射望遠鏡を備えた星の村天文台や、プラネタリウム館などが併設されている。

施設・交通案内

施設案内
  • 開洞時間: 8:30~17:00(2月1日~11月30日)12月・1月は 16:30 閉洞
  • 休業日: なし
  • 駐車場: 乗用車700台、観光バス30台(無料)
  • 料金: 大人1200円、小人(中学生)800円、小人(小学生以下)600円。団体割引、身体障害者その他の割引あり。
交通案内

脚注

  1. ^ 幻想の地底への誘い あぶくま洞・入水鍾乳洞, 1979. 80pp. 高橋紀信著, 滝根町鈴木勝治発行
  2. ^ a b http://www.j-ace.org/abukuma/index.html NPO法人日本洞穴探検協会○奥本洞の水源
  3. ^ コースは一本道でどこまで行くかで区別される。
  4. ^ かつてはBルートも案内人なしでは入洞できなかった。

関連項目

参考文献

  • あぶくま洞観光パンフレット『鍾乳洞なるほどガイド』

外部リンク

座標: 北緯37度20分39.5秒 東経140度40分25.6秒 / 北緯37.344306度 東経140.673778度 / 37.344306; 140.673778