離陸

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離陸(りりく, takeoff)とは、航空機などが地表面を離れて、浮上した状態を保持すること、あるいは、浮上ののち安定した上昇体勢を維持することである。

概要[編集]

多くの固定翼機では、滑走路などの表面で動力を始動し、必要な揚力が得られる速度に達するまで滑走することで浮き上がり、離陸を行う。機体が重いほど、また翼が小さいほど、離陸に要する滑走距離が長くなる。一方、垂直離着陸機ヘリコプターなどの回転翼機飛行船などの軽航空機では滑走手順は原理的には不要であるが、行う場合も多い(後述)。

離陸手順[編集]

滑走路端への移動[編集]

離陸に用いる滑走路の端に位置を合わせ滑走路方位に向きを合わせる動作をタキシングとよぶ。移動は、固定翼機の場合地上走行によって行う。固定翼機の車輪は動力を持たないため、飛行に用いる動力(プロペラエンジンやジェットエンジンなど)をタキシングのためにも用いる。飛行中の空中より地上は、エンジン効率が悪く、タイヤの転がり抵抗もあるので、タキシングには移動距離・速度の割には多大な燃料(時間を無視して同じ距離を移動するなら約4倍)を必要とする。移動時間や燃料の節約のため、あるいは交通整理のため、離陸性能が満足すれば、滑走路の端までタキシングをせずに滑走路の途中から滑走路に進入して離陸することもあり、これはインターセクションテイクオフと呼ばれている。なお、東京国際空港(羽田)やジョン・F・ケネディ国際空港ニューヨーク)などにおいて、交差する複数の滑走路を同時に離着陸に使用する場合は、インターセクションテイクオフにする必要がある。

離陸許可が出ている場合、滑走路端で止まらずにそのまま離陸する(ローリングテイクオフ)場合と、いったん停止して、ある程度エンジン出力を出してからブレーキを離し離陸する(スタンディングテイクオフ)場合があり、それぞれ一長一短がある。混雑する空港では、先に離陸した航空機が十分に安全な距離まで離れていき、かつ、その後方乱気流が収まるまで、次の離陸機は待たなくてなならない。そのため、次の離陸機は滑走路に入ることはできても、所定の時間(2分程度)が経過するまで離陸できず、滑走路上で待つことになる。このため、必然的にスタンディングテイクオフになる[1]。一方で、騒音問題に配慮しなくてはならないような空港では、地上の滑走路上で停止してエンジンをふかすことはせず、速やかに離陸する(ローリングテイクオフ)[2]

滑走開始[編集]

スラストレバー(一般的な旅客機では2席ある操縦席の間にあるケースが多い)を操作して、動力源を定められた離陸推力まで上げ、浮上できる速度 (VR) まで加速する。このとき揚力増加と抗力増加のバランスによっては、フラップ(補助翼)を少し降ろしていることが多い(航空機の種類で定められている)。

後述のとおり、離陸はオートパイロットは利用できないが、推力を自動制御するオートスロットルを利用することはある。まず、ギアブレーキをかけた状態で滑走路上でパイロットが7割程度に手動でエンジンの推力を上げてみて、エンジンの動作に異常がないことを確認する。それから、ギアのブレーキを解除したうえでオートスロットルのスイッチを入れる[3]。オートスロットルが作動すると、スラストレバーが自動的に動き、エンジン出力が離陸に適した推力まで自動的に上昇し、離陸滑走を開始する。このとき、機長(左座席)は、機首上げに備えて左手で操縦桿を持ち、万一の離陸中止 (RTO) に備えて右手でスラストレバー上部に手を添える[4]。同時に副操縦士(右座席)は、左手でスラストレバー下部を支える。

航空機の種類や条件(重量・気温など)と滑走路の長さによっては、その速度から・その速度に達する位置から残りの滑走路を使って離陸中止できる離陸決心速度V1がVRより低く先に到達することがある。V1を超えての停止操作は危険であるため、V1を超えたらいかなる事態(エンジン片発故障など)でも離陸操作を継続しなければならない(反射的に停止操作をしないようにV1とともに、先に述べたスラストレバーから手を離す決まりがある場合もある)。

整備された空港の滑走路のセンターラインには滑走路中心線灯が埋め込まれており、これによりわずかに滑走路表面に凹凸がある。離陸滑走を行うにあたって、このライトを踏むと航空機の揺れの原因となる。そのため、風などの気象条件や滑走路の路面状態がよいときにおいて、熟練したパイロットは、わざと滑走路のセンターラインを外して、ライトを踏まないように離陸滑走して、揺れの少ない乗り心地のよい離陸を行うことがある。この行為については、センターラインを外すため滑走路から逸脱する可能性があり、危険であるからと行わないパイロットもいる[5]

離陸・上昇[編集]

VRを超えたらエレベータを引き、機首を上げる。機首上げ動作に大きな力が必要ないように、このときまでにエレベータトリムはやや下がり気味(離陸位置)にしてある。地面から離れた直後に大きく機首を上げると失速の原因になるため、加速を継続して上昇可能な速度 (V2) に達してから大きく機首を上げ上昇に転じる。またこのときまでに高度がやや上がっていなければ、尾部を擦ることもある。

離陸後は着陸装置・フラップは抗力増加の原因になるため、定められたタイミングで引き込む。また、キャブレターヒート(排気の一部で吸気を暖めエンジンが詰まらないようにする・低空で必要ないことが多い)など推力を低下させる原因になるものはオフにしておく。このように、離陸ではすべての使えるエネルギーを加速と高度上昇にあてる必要がある。機体重量は航空機の離陸-巡航-着陸という運航において最も重い状態(燃料を消費していない)であるため、着陸時より厳しい上昇の条件が必要になるからである。

滑空機の上昇[編集]

滑空機は自身では動力を持たないため、滑空に入る前に他の動力機に牽引されて上昇しなければならない。

固定翼機の離陸[編集]

固定翼機の離陸について、まず、一般的な通常離着陸機(CTOL機)の離陸について述べる。

巡航や着陸は自動操縦が実現されているが、固定翼機において、離陸の完全な自動化は2013年現在実現されていない。また、多くの操縦士にとって、一連の操縦操作において離陸は、もっとも重圧を感じる操作のひとつといわれている(事故の多い着陸よりも、離陸の方が重圧を感じるという者もいる[6])。これらの要因として、離陸はやり直しができないという点があげられる。離陸滑走を始めた航空機は、加速して離陸決心速度を一旦超えてしまうと、離陸動作を完了してしまわなければならない。離陸決心速度に達するまでに、自身の航空機の状態のみならず他の航空機や気象状態(霧・雲や突風)に五感を駆使して細心の注意を払い、離陸するか離陸中止 (RTO; Rejected TakeOff) するかを判断しなければならない。このような重大な判断を自動化するのは現状では難しいとされ、人間にゆだねられている。

特殊な固定翼機の離陸[編集]

固定翼機には、垂直離着陸機(VTOL機)や短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)、垂直/短距離離着陸機(V/STOL機)、短距離離着陸機(STOL機)といったカテゴリーに属する、特殊な離着陸性能を有する航空機もある。

これらは、滑走路を使用せずに垂直に離陸したり、短距離の滑走で離陸が可能である。

回転翼機の離陸[編集]

回転翼機では原理的には垂直上昇ができるが、ほとんどの場合は固定翼機同様に滑走路上で低空の滑空をしてから上昇する。着陸同様に空港の管制設備を使い、定められた経路を取るためという理由もあるが、技術的にはほとんどの回転翼機が上昇のための余剰パワーをそれほど持っていないこと、飛行回避領域に突入しないように制御することが大きな理由の一つである。

まず地上からやや浮上し(スキッドを装備した回転翼機では駐機場から滑走路端へのタキシングですでに浮上していることが多い)、機を滑走路方向に前進させて加速して速度が乗ってきたら機首を上げ(エレベータを引く)上昇に転じる操作を行う。

回転翼機が上昇できる余剰のパワーは、ホバリング(空中静止状態)ではエンジンの実用最大出力の数%程度である。また高度が高い・気温が高いときはこの余剰パワーはほとんどなくなる。対して移動状態では、固定翼機同様に移動のエネルギーを高度に変換することができる。上昇して移動しないのと移動して上昇しないのではパワーの使い方は同じように思えるが、地上付近では地面効果によりより少ないエネルギーで浮上したまま移動できるため、いわば空港の敷地の横方向の広さを利用して、後で上昇のエネルギーに転じるための横移動のエネルギーを蓄えるのが回転翼機の離陸操作といえる。条件によってはホバリングができないほどの高地にある空港からでも離陸できる場合がある。

ヘリコプターの基本的な操縦法も参照

脚注[編集]

  1. ^ 三澤慶洋 『図解・旅客機運航のメカニズム―航空機オペレーション入門』 講談社ブルーバックス〉、2010年、137頁。ISBN 978-4062576895 
  2. ^ 航空環境研究センター (2007年2月5日). “大阪国際空港”. 空港環境情報. 航空環境研究センター. 2013年9月23日閲覧。
  3. ^ このスイッチはTO/GAスイッチとも呼ばれる。(en:Takeoff/Go-around switch参照)
  4. ^ オートスロットルが作動している状態でも、手動でスラストレバーを大きく動かせば、オートスロットルは解除される。
  5. ^ 山形和行 『世界一のココロの翼を目指した“名物機長"のホスピタリティ―いつも笑顔で目指そう!完璧!感動!感謝!』 ごま書房新社2013年、91頁。ISBN 978-4341085483 
  6. ^ 内田幹樹 『機長からアナウンス』 新潮社新潮文庫〉、2004年、74頁。ISBN 978-4101160412 

関連項目[編集]