天宮計画

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完成形の宇宙ステーション (CG)

天宮計画(てんきゅうけいかく)では、中華人民共和国が進める宇宙ステーション計画について記述する。天宮(てんきゅう、拼音: Tiangong)は天帝の住む宮殿に由来する名称で、中国は独自の宇宙ステーション計画として2011年天宮1号2016年天宮2号の2機の試験機の後、2022年に完成形となる中国宇宙ステーションを建設した[1][2]

背景[編集]

中国は2003年神舟5号によって有人宇宙飛行を、2008年には神舟7号によって宇宙遊泳を成功させた。次いで、かつてのアメリカのスカイラブ計画、ソ連のサリュート計画と同様に中国独自の宇宙ステーション保有を目指すようになった。

しかし本格的な宇宙ステーションの実現にはまだ技術的な課題が多かった。中国は2008年までに有人宇宙船および船外活動技術を実現しているが、加えて大型打ち上げロケットの開発、宇宙船同士のランデブー・ドッキング技術、物質の循環を伴う長期運用可能な生命維持システム、そして物資の補給船といった技術の習得が不可欠であった。中国はこれらを10年の歳月をかけ、小規模の試験機を通じて1つずつ技術を蓄積していく道を選んだ。

沿革[編集]

2011年に9月より試験機の打ち上げを始め、2022年に完成形となる宇宙ステーションの建設を完了した[1][2]。打ち上げには新規開発の長征5号が使われているが、開発遅延により長征5号の運用は2016年から始まった。試験機である天宮1号の打ち上げには長征2号FT1ロケットが、天宮2号の打ち上げには長征2号FT2が使われた。

天宮1号[編集]

天宮1号

最初の試験機である天宮1号は2011年9月29日に打ち上げられた[3][4]。天宮1号は宇宙実験室のひな形及びドッキング試験宇宙船で、ドッキング技術の習得が目的として上げられた。無人の神舟8号の自動ドッキング、ならびに有人の神舟9号神舟10号による手動・自動ドッキングが行われ、いずれも成功した。

実験装置室と物資保管室を持っており、宇宙飛行士が搭乗している神舟9号・10号では、実際に宇宙飛行士が「天宮」へと移動し、研究実験も行われた[5]。ただし、宇宙飛行士が滞在できる期間はそれほど長くはなく、重量は8.5トンという、宇宙ステーションとしては小型の試験機であった。

2016年3月16日からは制御不能状態にあり[6]2018年4月2日に南太平洋に落下した[7]

天宮2号[編集]

天宮2号(左)と神舟11号(右)

天宮2号は2016年9月15日に打ち上げられた[8]。当初、天宮2号は1号の予備機として作られていた同型機を打ち上げる計画で、長征2Fロケットで2014年に打上げが予定されていた。後に、長征5号ロケットで2016年に打ち上げられることになり、1号より一回り大きい、後述の天宮3号に相当する[9]22トン級の試験機を打ち上げる計画となった。しかし、最終的に打ち上げには長征2号FT2が使われることになり、2号自体も1号をベースに改良製造された8.6トン級宇宙ステーション試験機へと戻された。

ドッキング標的機だった天宮1号に対し、こちらは「宇宙実験室」と位置付けられる。サイズこそあまり変わらないものの、天宮1号に比べて様々な実験が行えるように改良されており、輸送・補修用に10mクラスのロボットアームが新たに取り付けられている。滞在も最長1か月程度は可能とされている。2016年10月18日には神舟11号がドッキングし、有人運用が始まった[10]。同年11月16日に神舟11号が切り離され、有人運用を終了した[11]。以後は有人での運用は行われなかった。

次いで、約6トンの物資と約2トンの燃料の補給能力も持つ無人補給船天舟1号2017年4月20日に打上げられ、2日後の22日にドッキング試験が無人で行われた[12]。この天舟1号は天宮1号をベースに開発された準同型機である。天舟1号によるドッキング試験は同年9月まで3回行われた。

天宮1号とは異なり、天宮2号の再突入は計画的に行われた。同機は2019年7月19日に南太平洋に制御落下に成功した[13]

天宮3号[編集]

さらなる試験機として天宮3号も計画されていた。2016年以降に新型ロケットで拡大型宇宙ステーション試験機を打ち上げる計画であった。一時そのコンセプトは天宮2号に繰り上げて実現される見通しになったが、最終的にその計画は取り止めとなり、一方で天宮3号も復活することがないまま、後述の完成型の宇宙ステーションの打ち上げとなった。

中国宇宙ステーション[編集]

中国宇宙ステーション構想図

中国宇宙ステーションまたは天宮は2021年に打ち上げ開始された宇宙ステーション[14]。試験機ではなく、旧ソ連ミールに匹敵するサイズの完成した宇宙ステーションと位置づけられている。コアモジュール「天和」、2つの実験モジュール問天英語版」と「夢天英語版」、無人補給船「天舟」といった構成要素からなる。打ち上げには長征5号B型ロケットが用いられる[15]。計画当初は天宮の名称で呼ばれていたが、2021年現在の公式発表などでは単に中国宇宙ステーションと呼ばれている[14]

2021年4月29日に最初のモジュールである天和が長征5Bで打ち上げられた。翌月の5月30日には補給船天舟2号英語版がドッキングに成功した[16]。6月17日には神舟12号もドッキングし、有人運用が開始されている。2022年10月には最後のモジュールが打ち上げられ[2]2022年11月30日にドッキングした神舟15号英語版のミッションによる検証や調整をもって2022年12月に建設が完了した[17][18][19][20]

天宮は国際宇宙ステーションと同程度の軌道高度で、質量は約五分の一である[21]

脚注・出典[編集]

  1. ^ a b 出口隼詩 (2021年1月14日). “中国、2021年前半に独自の宇宙ステーションを建設開始へ”. sorae. 2021年1月18日閲覧。
  2. ^ a b c 中国の宇宙ステーション完成 「強国」象徴、軍事応用も”. 産経新聞 (2023年1月11日). 2023年5月27日閲覧。
  3. ^ “「天宮一号」打ち上げ 宇宙基地建設へ一歩”. 産経新聞. (2011年9月29日). オリジナルの2011年9月29日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110929134552/http://sankei.jp.msn.com/world/news/110929/chn11092919240004-n1.htm 2011年9月29日閲覧。 
  4. ^ “「天宮1号」を打ち上げ=宇宙基地建設へ実験-中国”. 時事通信. (2011年9月29日). http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2011092900529 2011年9月29日閲覧。 [リンク切れ]
  5. ^ 平松茂雄 (2010年). 日本核武装入門. 飛鳥新社. ISBN 978-4870319868 
  6. ^ 中国実験モジュール「天宮1号」、3月末〜4月中旬頃に落下予測 被害の可能性は極小”. sorae.jp (2018年3月8日). 2018年3月9日閲覧。
  7. ^ 中国モジュール「天宮1号」南太平洋上空で突入 大部分が燃え尽きる”. sorae.jp (2018年4月2日). 2018年4月9日閲覧。
  8. ^ “中国、宇宙実験室「天宮2号」打ち上げ 独自ステーションに前進”. AFPBB News (フランス通信社). (2016年9月16日). https://www.afpbb.com/articles/-/3101108 2016年9月16日閲覧。 
  9. ^ 中国、2016年に宇宙ステーション「天宮二号」と補給船「天舟一号」を打ち上げ”. sorae.jp (2015年3月12日). 2018年6月2日閲覧。
  10. ^ 塚本直樹 (2016年10月19日). “中国人の有人宇宙船、宇宙実験室「天宮二号」にドッキング成功 30日の滞在ミッションへ”. sorae.jp. http://sorae.info/030201/2016_10_19_china.html 2018年6月2日閲覧。 
  11. ^ 塚本直樹 (2016年11月19日). “中国人飛行士、宇宙実験室「天宮二号」より無事帰還 約1ヶ月の滞在ミッションに成功”. sorae.jp. http://sorae.info/030201/2016_11_19_china.html 2018年6月2日閲覧。 
  12. ^ 無人補給船「天舟一号」ドッキング成功! 中国宇宙実験室「天宮二号」と”. sorae.jp (2017年4月24日). 2018年6月2日閲覧。
  13. ^ Darrell Etherington(塚本直樹 訳) (2019年7月20日). “宇宙空間で1000日以上運用された中国の宇宙ステーション実験機「天宮2号」が役目を終える” (日本語). https://jp.techcrunch.com/2019/07/20/2019-07-20-chinas-tiangong-2-space-station-is-officially-no-more/ 2019年7月20日閲覧。 
  14. ^ a b 中国が宇宙ステーションをもつ日 - 最初のモジュール「天和」打ち上げ成功”. マイナビニュース (2021年5月3日). 2021年6月22日閲覧。
  15. ^ 中国、有人宇宙計画のロゴと宇宙ステーションの名前を発表”. sorae.jp (2013年11月2日). 2018年6月2日閲覧。
  16. ^ “中国の宇宙貨物船「天舟2号」、コアモジュールとのドッキングに成功”. AFPBB NEWS. (2021年5月30日). https://www.afpbb.com/articles/-/3349124 2021年5月30日閲覧。 
  17. ^ 中国、有人宇宙船を打ち上げ 宇宙ステーション完成へ”. CNN (2022年11月30日). 2022年12月1日閲覧。
  18. ^ 中国宇宙船が接続成功=ステーション運用本格化”. 時事通信 (2022年11月30日). 2022年12月1日閲覧。
  19. ^ 中国 独自の宇宙ステーション“すでに完成” 本格的運用開始へ”. NHK (2023年1月5日). 2023年1月6日閲覧。
  20. ^ 習近平国家主席が2023年新年の挨拶を発表”. 北京週報 (2022年12月31日). 2023年1月6日閲覧。
  21. ^ Spectrum59-1 2022, p. 41.

参考文献[編集]

  • Koziol, Michael (Jan 2022). “A Permanent Space Station for China”. IEEE Spectrum 59 (1). 

関連項目[編集]