前黎朝
黎朝(レちょう、れいちょう、980年 - 1009年)は、ベトナム北部を支配した王朝。首都は華閭(ホアルウ、現在のニンビン省に位置する)。15世紀に黎利が建国した黎朝と区別して、前黎朝と呼ばれている[1]。
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歴史 [編集]
王朝の創始者である黎桓(レ・ホアン)は、丁朝の建国者である丁部領(ディン・ボ・リン)に仕えていた。黎桓は丁部領(ディン・ボ・リン)の下で十道将軍に任じられ、軍事を司っていた[2]。
979年の丁部領の死後、黎桓は摂政として国政を執る中で楊(ズォン)皇后との仲が親密になり、敵対する勢力を討伐した[3]。同年に呉権の子孫である呉日慶(ゴー・ニャッ・カイン)がチャンパ王国と同盟し、王位を要求して北ベトナムに侵入したが、黎桓は呉日慶を撃破した[4]。丁部領の死を知った中国の宋はベトナムへの出兵を決定し[2]、宋の攻撃を前にしてベトナムの将兵は黎桓を新たな君主に推した[5][6]。楊皇后は子の丁璿を守るために黎桓と再婚し、新たに黎桓が王位に就いた[2]。
981年に白藤(バクダン)江の戦いで黎桓の軍は海路から侵入した宋軍に勝利し、諒山(ランソン)でも陸路から侵入した宋軍を破った。
982年にはチャンパ王国に親征を行ってチャンパの首都インドラプラを攻略し、チャンパ王インドラヴァルマン4世は南方に逃れた。983年に宋への朝貢を再開し、この時にチャンパ遠征の戦利品と思われる乳香や犀角を納めた[7]。黎桓の軍がチャンパから撤退した後、黎桓の配下である劉継宗(ルー・ケ・トン)がチャンパに残って占城王を称した。南ベトナムにはインドラヴァルマン4世と劉継宗の政権が並立し、インドラヴァルマンは宋に助けを求めた[8]。宋は黎桓にチャンパへの侵入を禁じたが、黎桓は宋の禁令に従わず、989年と992年の2度にわたってチャンパに侵入した[8]。
1005年の黎桓の死後、各地に分配した王子たちの内訌によって国力は低下する[2]。黎桓の第3子の黎龍鉞が即位するが、わずか3日で廃位される[9]。代わって黎龍鉞を殺害した黎桓の第5子の黎龍鋌(レ・ロン・ディン/ズィン)が即位する。黎龍鋌は残忍な性格で知られ、罪人に過酷な刑罰を下すことを好んだという[10]。黎龍鋌が没した後、1009年末に僧侶と廷臣の支持を受けた禁軍の指揮官・李公蘊が王位に就いた[11]。後代に中国で編纂された歴史書には、李公蘊が即位の際に幼帝を殺害したと記されている[10]。
社会 [編集]
前黎朝では、君主が軍事と民政の両方を統制し、官人の最高位である太師と最も高名な仏僧である大師が君主を補佐した[12]。大師は宋からの使者をもてなす外交官としての役目も有していた[13]。黎桓は王子を地方に配置して地方勢力の抑制を試み[2]、楊皇后を5人の皇后の筆頭に置いた。
国内は10の路(行政区画)に分けられ、路の下に府と州が置かれた。行政を担当する官吏は軍人が兼任していたが、地方の官吏は不足していた[12]。
軍事においては皇帝と首都を守る禁軍、軍事訓練と農耕を行う地方軍が設置された。
農業、経済 [編集]
毎年春に君主自らが地方を巡行し、豊作を祈る籍田の儀式を執り行った[14]。黎朝では開墾と生産が奨励され、多くの水路が開削された[14]。
また、前黎朝では天福銭という銅銭も鋳造されている[4]。
歴代君主 [編集]
元号 [編集]
脚注 [編集]
- ^ ファン『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』、159,164頁
- ^ a b c d e f 桜井、桃木「レー・ホアン」『東南アジアを知る事典』、490頁
- ^ 小倉『物語 ヴェトナムの歴史 一億人国家のダイナミズム』、69頁
- ^ a b 桃木「レー・ホアン(黎桓)」『ベトナムの事典』、352頁
- ^ 酒井「黎桓」『アジア歴史事典』9巻、342頁
- ^ ファン『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』、158頁
- ^ 桜井「紅河の世界」『東南アジア史1 大陸部』、50頁
- ^ a b 桜井「南シナ海の世界」『東南アジア史1 大陸部』、68-70頁
- ^ 酒井「黎桓」『アジア歴史事典』9巻、342頁
- ^ a b 小倉『物語 ヴェトナムの歴史 一億人国家のダイナミズム』、71頁
- ^ ファン『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』、165頁
- ^ a b ファン『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』、159頁
- ^ ファン『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』、163頁
- ^ a b ファン『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』、161頁
参考文献 [編集]
- 小倉貞男『物語 ヴェトナムの歴史 一億人国家のダイナミズム』(中公新書, 中央公論社, 1997年7月)
- 酒井良樹「黎桓」『アジア歴史事典』9巻収録(平凡社, 1962年)
- 桜井由躬雄「紅河の世界」『東南アジア史1 大陸部』収録(石井米雄、桜井由躬雄編, 世界各国史, 山川出版社, 1999年12月)
- 桜井由躬雄「南シナ海の世界」『東南アジア史1 大陸部』収録(石井米雄、桜井由躬雄編, 世界各国史, 山川出版社, 1999年12月)
- 桜井由躬雄、桃木至朗「レー・ホアン」『東南アジアを知る事典』収録(平凡社, 2008年6月)
- 桃木至朗「レー・ホアン(黎桓)」『ベトナムの事典』収録(同朋舎, 1999年6月)
- ファン・ゴク・リエン監修『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』(今井昭夫監訳、伊藤悦子、小川有子、坪井未来子訳、世界の教科書シリーズ、明石書店、2008年8月)