丑の刻参り
丑の刻参り、丑の時参り(うしのこくまいり、うしのときまいり)とは、丑の刻(午前1時から午前3時ごろ)に神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を毎夜五寸釘で打ち込むという、日本に古来伝わる呪術の一種である。
目次 |
[編集] 概要
有名な神社としては、京都府の貴船神社や岡山県の育霊神社などがある。 古くは祈願成就のため、丑の刻に神仏に参拝することを言った。後に呪詛する行為に転ずる。「うしのときまいり」という言葉の方が古い[1]。(右図参照) 丑の刻参りの方法は、江戸時代に完成した方法を基本的な部分では踏襲している。しかし細かい部分では、藁人形に呪いたい相手の体の一部(毛髪、血、皮膚など)や写真、名前を書いた紙を入れる必要があったり、丑の刻参りを行う期間に差があったり、打ち付けた藁人形を抜かれてはいけないと地方・伝わり方で違いがあり、呪うために自身が鬼になるのではなく、五寸釘を打った藁人形の部位に呪いをかけることができるという噂が広く知られるなど、現代では少し変化している。
一般的な描写としては、白装束を身にまとい、顔に白粉を塗り、頭に五徳をかぶってそこにロウソクを立て、一本歯の下駄を履き、胸には鏡、腰には護り刀、口に櫛を咥えて神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を毎夜五寸釘で打ち込むというものが用いられる。また、丑の刻参りをしている者の姿を他の人に見られると、参っていた人物に呪いが跳ね返って来ると言われ、目撃者も殺してしまわないとならないと伝えられる。
[編集] 式神・妖怪
陰陽師が使役する式神というものがあるが、式神は荒ぶる神としての妖怪としても描かれ、人の善悪を監視する役目を持っていたとされ、様々な不思議な力を発揮したと言われる。丑の刻参りも、たびたび妖怪を伴って描かれ、神木に釘を打って結界を破り、常夜(夜だけの神の国)から、禍をもたらす邪神(魔や妖怪)を呼び出し、神懸りまたは使役し、恨む相手を祟ると考えられていた。丑の刻参りも、妖怪を呼び出し祟るために使役する点においては、式神といえる。
[編集] 歴史
丑の刻参りは古くからあるようで、鎌倉時代後期に書かれ、裏平家物語として知られる屋代本『平家物語』「剣之巻」に登場する。「長なる髪をば五つに分け、五つの角にぞ造りける。顔には朱を指し、身には丹を塗り、鉄輪を戴きて、三の足には松を燃し、続松(原文ノママ)を拵へて、両方に火をつけて、口にくはへつつ、夜更け人定まりて後、大和大路へ走り出て……」とある。「宇治の橋姫」と呼ばれる女性が、現在伝わる丑の刻参りと似た方法で、怨みをはらすため鬼になりたいと願をかけ、願いを成就させている。
この時に宇治の橋姫が丑の刻参りを行ったのが、当時、心願成就・呪咀神信仰で有名であった貴船神社ある。
しかし、この話に登場する宇治の橋姫は、五寸釘や藁人形を用いておらず、現在の形で丑の刻参りが行われるようになったのは、室町時代に成立した謡曲「鉄輪」において、陰陽道の人形祈祷と丑の刻参りが結びついたためという説が有力視されている。
[編集] 源流
人形を用いた呪詛自体はかなり古くから行われており、『日本書紀』用明天皇2年(587年)4月条に、「中臣勝海連(なかとみのかつみのむらじ)が家(おのがいえ)に衆(いくさ)を集えて、大連をいたすく。ついに太子彦人皇子の像を作りて、まじなう」と記され、古墳時代から人形を媒体とした呪いがあった。ただし、この時点では、まだ像を刺す行為は確認できない。
考古学資料の遺物として、奈良国立文化財研究所所蔵の8世紀の木製人形代(もくせい ひとがたしろ)があり、胸に鉄釘が打ちこまれた状態の物も出土している。木簡を人形に切り取り、墨で顔が描かれている。丑の刻参りと共通する呪殺を目的とした形代だったと考えられている。この遺物からも、人形に釘を打ち込み、人を呪うと言った呪術体系自体は古代(奈良時代)からあった事が分かる。研究者によっては、鉄釘自体が渡来文化であり、こうした呪術体系自体が大陸渡来のものではないかとしている。この他にも類例として、島根県松江市タテチョウ遺跡から出土した木札には、女性が描かれており、服装から貴人女性と見られるが、3本の木釘が打ちこまれていた。その位置は、両乳房と心臓に当たり、明らかに呪殺目的であった事が分かる。
[編集] その他
- 呪いの効果については、科学的に実証されたわけではない。誰かが自分を呪っていると認識することで、自己暗示にかかってしまうためであって、気にしなければ何もおこらないという研究結果がある。いわばプラシーボ効果というものであるが、この説においては上記に書かれているように呪いというものは誰かに知られてしまえば効果が発揮しなくなるどころか本人に跳ね返ってくるという伝承が考慮されていない点に注意すべきである。
- 日本においては、刑法学における「不能犯の典型例」として挙げられることが多い。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 『日本国語大辞典』小学館