ラマヌジャン・ピーターソン予想

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数学では、Srinivasa Ramanujan (1916, p.176) によるラマヌジャン予想(Ramanujan conjecture)とは、次のような予想のことを言う。ウェイト 12 のカスプ形式 \Delta(z) を、フーリエ係数によって、

\Delta(z)= \sum_{n>0}\tau(n)q^n=q\prod_{n>0}\left (1-q^n \right)^{24} = q-24q^2+252q^3- 1472q^4 + 4830q^5-\cdots

(ここに q=e^{2\pi iz} とする)として与えられるとする。このフーリエ展開のことをラマヌジャンのタウ函数と言う。p素数とすると、ラマヌジャンのタウ函数は、

|\tau(p)| \leq 2p^{11/2}

を満たすという予想が、ラマヌジャン予想である。一般化されたラマヌジャン予想(generalized Ramanujan conjecture)もしくは、ラマヌジャン・ピーターソン予想(Ramanujan–Petersson conjecture)は、 Petersson (1930) で導入され、他のモジュラ形式や保型形式へと、このラマヌジャン予想を一般化した予想を言う。

ラマヌジャンのL-函数[編集]

リーマンゼータ函数ディリクレのL-函数は、オイラー積

L(s,a)=\prod_p\biggl(1+\frac{a(p)}{p^s}+\frac{a(p^2)}{p^{2s}}\cdots\biggr)

 

 

 

 

(1)

を満たし、完全乗法性英語版のおかげで、

L(s,a)=\prod_p\biggl(1-\frac{a(p)}{p^s}\biggr)^{-1}.

 

 

 

 

(2)

となる。リーマンゼータ函数やディリクレのL-函数以外に、上の関係式を満たすL-函数が存在するのであろうか?実際は、保型形式のL-函数はオイラー積 (1) を満たすが、完全乗法性をもっていないので、(2)を満たさない。しかし、1916年にラマヌジャンは、保型形式のL-函数が次の関係式を満たすであろうことを発見した。

L(s,\tau)=\prod_p\biggl(1-\frac{\tau(p)}{p^s}+\frac{1}{p^{2s-11}}\biggr)^{-1}.

 

 

 

 

(3)

ここに、\tau(p) はラマヌジャンのタウ函数である。(3) の中の項 +1/(p2s-11) は、完全乗法性からの差異と考えられる。上のL-函数をラマヌジャンのL-函数と言う。

ラマヌジャン予想[編集]

1916年、ラマヌジャンは次のことを予想した。

  • 1, \tau(n)乗法的英語版(multiplicative),
  • 2, \tau(p) は完全乗法的ではないが、素数 p に対して、
\ \ \ \ \tau(p^{j+1})=\tau(p)\tau(p^j)-p^{11}\tau(p^{j-1})\ (j=1,2,3,\dots), が成り立ち、
  • 3, |\tau(p)|\le 2p^{11/2}.

ラマヌジャンは (3) の右辺の分母の中の、u=p-s の二次方程式

1-\tau(p)u+p^{11}u^2

が、いつも虚数根を持つことを多くの例から観察していた。二次方程式の根と係数の関係から、第三の関係式が導出でき、これをラマヌジャン予想(Ramanujan's conjecture)と言う。以上は、一般のL-函数に対してであるが、ラマヌジャンのタウ函数に対しては、上記の二次式の根を α と β とすると、等号が成り立つ。

Re(\alpha)=Re(\beta)=p^{11/2}

すなわち、上記の二次方程式の根の実部は、p11/2 となり、リーマン予想と似た形となる。この予想は、任意の \varepsilon > 0 と任意の \tau(n) に対して、O(n^{\frac{11}{2}+\varepsilon}) となっているという少しだけ弱い予想を含んでいる。

1917年、ルイス・モーデル英語版(Louis J. Mordell)は、今日では特別な場合がヘッケ作用素として知られている複素解析的方法で、最初の 2つの関係式を証明した。三番目の関係式であるラマヌジャン予想は、Deligne (1974)ヴェイユ予想の証明に伴って証明された。これが結果として証明されたということを示すことは微妙で、明らかではなかった。この仕事は、佐藤幹夫志村五郎伊原康隆により支えられ、Deligne (1968) によりフォローされた久賀道郎英語版(Michio Kuga)の仕事である。エタール・コホモロジー理論が現れた時代の1960年代の遅くに到達された深い仕事に関連させたことにより完遂された。

モジュラ形式のラマヌジャン・ピーターソン予想[編集]

1937年、エーリッヒ・ヘッケ英語版(Erich Hecke)は、ヘッケ作用素(Hecke operator)を使い、モーデルにより証明されたラマヌジャン予想の最初の 2つの命題の証明方法を、SL(2,R) の離散部分群の保型形式のL-函数へと拡張した。任意のモジュラ形式

f(z)=\sum^\infty_{n=0}a_nq^n\ \ (q=e^{2\pi iz})

に対して、ディリクレ級数

\varphi(s)=\sum^\infty_{n=1}a_nn^{-s}

の形とすることができる。ウェイト k ≥ 2 とする離散部分群 Γ のモジュラ形式である f(z) に対して、 an=O(nk-1+ε) であるため、φ(s) は Re(s) > k の領域では絶対収束する。f はウェイトが k のモジュラ形式に属するので、(s-k)φ(s) は整函数であり、R(s)=(2π)-sΓ(s)φ(s) は次の函数等式を満たす。

R(k-s)=(-1)^{k/2}R(s).

このことは、1929年にウィルトン(Wilton)により証明された。この f と φ の対応は 1 対 1 である(a0=(-1)k/2Ress=kR(s))。x > 0 に対して g(x)=f(ix)-a0 であると、g(x) は次のメリン変換を通して R(s) と関連づく。

R(s)=\int^\infty_0g(x)x^{s-1}dx\Leftrightarrow g(x)=\frac{1}{2\pi i}\int_{Re_{s=\sigma_0}}R(s)x^{-s}ds.

この対応が、上の函数方程式を満たすディリクレ級数を、SL(2,R) の離散部分群の保型形式に関連付ける。

k ≥ 3 のときに、ハンス・ピーターソン英語版(Hans Petersson)はモジュラ形式の空間へピーターソン計量英語版(Petersson metric)(ヴェイユ・ピーターソン計量英語版(Weil-Petersson metric)も参照)を導入した。この予想の名称は彼の名前にちなんでいる。ピーターソン計量の下に、モジュラ形式の空間上にカスプ形式とその直交補空間として直交性を定義でき、これらが有限次元であることを示すことができる。さらに、正則モジュラ形式の場合は、リーマン・ロッホの定理により、それらの次元を具体的に計算することができる。(モジュラ形式の空間の次元を参照)

合同部分群英語版(congruence subgroup)の楕円モジュラ形式の理論の正則カスプ形式のより一般化されたラマヌジャン・ピーターソン予想は、似たような族を持っていて、k を形式のウェイトとすると指数 (k − 1)/2 を持っている。これらの結果は、ヴェイユ予想の結果でもあり、例外として k = 1 の場合がある。このことは、Deligne & Serre (1974) の結果である。

マース形式に対するラマヌジャン・ピーターソン予想は、正則モジュラ形式に対してはうまく機能したデリーニュの方法が実解析的な場合は機能しないので、未だ解決していない(2013年段階でも)。

保型形式のラマヌジャン・ピーターソン予想[編集]

Satake (1966) では、ラマヌジャン・ピーターソン予想が GL2保型形式のことばで保型表現の局所成分が主系列の中にあるということにより定式化され、他の群の上の保型形式へとラマヌジャン・ピーターソン予想の一般化としてこの条件があることを示唆した。このことを別な見方をすると、カスプ形式の局所成分は「扱いやすい(tempered)」であるはずである。しかしながら、成分が無限遠点では「扱いやすく(tempered)」でないような非イソトロピック群英語版(anisotropic group)である反例を、何人かが発見した。Kurokawa (1978)Howe & Piatetski-Shapiro (1979) は、表現 θ10 に関係するほとんどどこでも扱い易くないようなユニタリ群 U2,1シンプレクティック群 Sp4 に対する保型形式を構成することにより、ある準分解(quasi-split)や分解群に対しさえ、この予想が誤っていることを示した。

反例が発見されたのち、Piatetski-Shapiro (1979) は予想の定式化が、それでも成り立っていることを示唆した。一般化されたラマヌジャン予想(generalized Ramanujan conjecture)という現在の定式化は、連結な簡約群の大域的な生成された尖点(カスプ)保型表現であり、そこではもともとの前提が表現がウィタッカーモデル英語版(Whittaker model)を持っていることを意味する。これは、そのような表現が各々の局所成分では扱い易くなっていなければいけないということを言っていることになる。このラングランズ(Robert Langlands)の観察により、GLn の保型表現の対称べきのラングランズ函手性の確立が、ラマヌジャン・ピーターソン予想の証明をもたらすこととなる。

数体上のラマヌジャン境界[編集]

数体の場合の一般化されたラマヌジャン予想のための最も良い境界をえることは、多くの数学者の注意を惹いている。一つ一つの改善が現代の数論の世界のマイルストーンと考えられている。GLnラマヌジャン境界を理解するために、ユニタリなカスプ的な保型表現 π = ⊗' πv を考える。ベルンシュタイン・ゼレヴィンスキー分類英語版(Bernstein–Zelevinsky classification)は、各々のp-進表現 \pi_v が表現 \tau_{1,v} \otimes \cdots \otimes \tau_{d,v} からユニタリな放物的に導出することにより得ることができる。ここに各々の \tau_{i,v} は扱い易い(tempered)な \tau_{i_0,v} をもつ形式 \tau_{i_0,v} \otimes |\det|_v^{\sigma_{i,v}} の付値(place) v の上の GLni 表現である。n ≥ 2 が与えられると、ラマヌジャン境界\max_i |\sigma_{i,v}| \leq \delta となるような数値 δ ≥ 0 である。ラングランズ対応アルキメデス的付値英語版(archimedean valuation)に対して使うことができる。一般化されたラマヌジャン予想は境界が δ = 0 であることと同値である。

Jacquet, Piatetski-Shapiro & Shalika (1981) は、自明な境界として知られている一般線型群 GLn に対する最初の境界 δ ≤ 1/2 を得た。重要なブレイクスルーは、Luo, Rudnick & Sarnak (1999) によるもので、現在、任意の n と任意の数体に対し最良の一般的な境界 δ ≡ 1/2 - 1/(n2+1) を得ている。GL2 の場合には、キム(Kim)とサルナック(Sarnak)が、数体が有理数体のときに δ = 7/64 という画期的な境界を得ている。これは、ラングランズ・シャヒーディの方法を通して得た対称的な 4乗数についての Kim (2002) の函手性という結果として得られた。キム・サルナックの境界を任意の数体へ一般化が、Blomer & Brumley (2011) の結果により可能となっている。

GLn 以外の簡約群に対して、一般化されたラマヌジャン予想はラングランズ函手性の原理に従って導出できる。重要な例として、古典群英語版(classical group)があり、ここではベストな境界は、Cogdell et al. (2004) により、ラングランズの函手の持ち上げの結果として得られる。

大域体上のラマヌジャン・ピーターソン予想[編集]

ウラジーミル・ドリンフェルト(Vladimir Drinfeld)の大域函数体上の GL(2) の大域的ラングランズ対応(Langlands correspondence)の証明は、ラマヌジャン・ピーターソン予想を導き出す。2002年のラフォルゲの定理英語版は、ドリンフェルトのシュトゥーカ英語版(Drinfeld's shtuka)のテクニックを、正の標数の場合の GL(n) へ成功裏に拡張した。大域的な函数体を含むようにラングランズ・シャヒーディの方法を拡張するというもう一つのテクニックを通して、Lomelí (2009)古典群英語版(classical groups)のラマヌジャン予想を証明した。

応用[編集]

ラマヌジャン予想の最も卓越した応用は、アレクサンダー・ルボツキー英語版(Alexander Lubotzky)、フィリップス(Phillips)、ピーター・サルナック(Peter Sarnak)によるラマヌジャングラフ英語版(Ramanujan graph)の明確な構成である。実際、「ラマヌジャングラフ」の名前は、この構成から導き出されている。他の応用として、一般線型群 GLn のラマヌジャン・ピーターソン予想は、いくつかの離散群のラプラシアンの固有値についてのセルバーグの予想を意味する。

参考文献[編集]