カリーナ・カネラキス

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カリーナ・カネラキス (Karina Canellakis, 1982年 - ) は、アメリカ合衆国指揮者ヴァイオリニストである[1]

カーティス音楽院(フィラデルフィア)
ジュリアード音楽院(ニューヨーク)
メトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)
PMFのコンサート主会場の一つ、札幌芸術の森・野外ステージ(2017年)
PMFのコンサート主会場の一つ、札幌芸術の森・野外ステージ(札幌)
BBCプロムスが行われるロイヤル・アルバート・ホール(ロンドン)

略歴[編集]

ジュリアード音楽院で出会った両親のもと[2]ニューヨークで生まれ育った[3]。なお、父のマーティンはニューヨークのクイーンズ・カレッジ・オーケストラル・ソサエティ、クイーンズボロー・オーケストラ、およびウェストチェスター交響楽団の音楽監督を務めた指揮者であり、母のシェリルはピアニストである[4][5]

セサミストリート』におけるイツァーク・パールマンの演奏に惹かれ、3歳からヴァイオリンを始める[4]。指揮者になろうという意志は12歳ごろから抱いており、のちにチェリストとなった弟ニコラス(2017年に、ベートーヴェンの『ピアノとヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲』で指揮者としての姉と初めて共演した[2][6])とともに指揮のクラスに出席して、ユース・オーケストラを指揮していたが、ヴァイオリンの練習のために一旦中断した[4][7]。その後、フィラデルフィアカーティス音楽院でヴァイオリンをアイダ・カヴァフィアンに師事し、在学中からソロ・室内楽活動を行ない、2004年に卒業した[1][8]

2005年から2年間、カラヤン・アカデミーの学生としてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でヴァイオリンを演奏したが、カネラキスが第一ヴァイオリン奏者の一人として参加したシェーンベルク作曲『浄夜』の室内楽コンサートを聴いたサイモン・ラトルは、指揮の道に進むようカネラキスに勧めた[3][8][9]。その後、ヴァイオリンの演奏を続けながら、ニューヨークのジュリアード音楽院の指揮科に入学し、アラン・ギルバートから「ヴァイオリンを離れる時間を心配することはない」と諭された[7]。なお、ジュリアード音楽院ではファビオ・ルイージにも学んでおり[10]、ルイージがメトロポリタン歌劇場で行なった『ニーベルングの指環』ツィクルスのリハーサルを見学している[7]。また、パシフィック・ミュージック・フェスティバル (PMF) 2012のコンダクティング・アカデミーや、タングルウッド音楽祭に参加した[7][8]2013年にはプロの指揮者として正式にデビューし、同年12月にはヤープ・ヴァン・ズヴェーデン音楽監督を務めていたダラス交響楽団のアシスタント・コンダクターに就任した[7][8][11][12][13]。なお、2014年10月には、肩を痛めて急遽降板したズヴェーデンに代わって、リハーサルなしでショスタコーヴィチ交響曲第8番を指揮しており、このコンサートは新聞にて「今年のハイライト」に選ばれた[8][14]2015年には、オーストリアグラーツニコラウス・アーノンクールの代役としてヨーロッパ室内管弦楽団を指揮してヨーロッパデビューを果たし、2016年にはショルティ財団が主催するサー・ゲオルク・ショルティ・コンダクティング・アワードを受賞した(フランクフルトのショルティ国際指揮者コンクールとは別のアワード)[8][11][15][16]。また、2017年にはイギリスプロムスに指揮者としてデビューした(ちなみにカネラキスは2008年に、ベルナルト・ハイティンクが指揮するシカゴ交響楽団のヴァイオリン奏者として初めてプロムスに参加しており、マーラー交響曲第6番を演奏している)[8][17][18]。さらに2018年には、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団パリ管弦楽団ウィーン交響楽団にデビューするとともに、ノーベル賞の授賞式にてロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した[19][20]2019年には、BBC交響楽団BBCシンガーズを指揮して、女性指揮者として初めてプロムスのオープニングを飾ったり[8][21][22][23][24]、批評家たちからザ・イマージング・タレント賞を受賞したりしている[17]

2019年より、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者と、ベルリン放送交響楽団の首席客演指揮者を務めている[15][25][26][27]。また、2020年2月にはフィラデルフィア管弦楽団にデビューし[28]、同年9月からはロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者に就任する[15][29][30]

ヴァイオリニストとしてはシカゴ交響楽団で演奏したり、ベルゲン交響楽団のゲスト・コンサートマスターを務めたり、オーケストラのソリストとして活動したりしている[3]ブーレーズラトルハイティンクらの指揮のもとで演奏しているほか[11]、ヴァイオリン演奏と指揮を兼ねる「弾き振り」も行っている[13]。なお、使用楽器は、個人パトロンから特別貸与された、1782年のマンテガッツァ製ヴァイオリンである[3]

「女性指揮者」として[編集]

活躍する女性指揮者に贈られるタキ・コンコルディア・コンダクティング・フェローシップを、2013年に受賞している[31][32]。カネラキスは「女性指揮者」への特別な支援はもういらないと語りつつ、女性が指揮者として活躍する道を切り開いたマリン・オールソップに敬意を示している[7]

ディスコグラフィ[編集]

  • 『アンソニー・チュン:モア・マルギナリア/アズームド・ロールズ/バガテル集』 - パイヤ・パパッチのヴィオラ独奏のもと、インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブルを指揮してアンソニー・チュン作曲の『アシュームド・ロールズ』を演奏している[33]
  • 『藤倉大:チャンス・モンスーン/レア・グラヴィティ/チェロ協奏曲(アンサンブル版)』 - カティンカ・クレインのチェロ独奏のもと、インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブルを指揮して藤倉大作曲の『チェロ協奏曲(アンサンブル・バージョン)』を演奏している[34]

初演作品[編集]

  • デイヴィッド・ラングのオペラ『ザ・ルーザー』[35][36]
  • ピーター・マクスウェル・デイヴィスのオペラ『ザ・ホグブーン』[3]
  • セバスティアン・カリアー『ヴァイオリン協奏曲』[17]

脚注[編集]

  1. ^ a b Meet the Maestro: Karina Canellakis” (英語). Rhinegold. 2020年5月25日閲覧。
  2. ^ a b Symphonic Siblings Play with the Albany Symphony” (英語). Hudson Valley Magazine (2017年1月23日). 2020年5月24日閲覧。
  3. ^ a b c d e Karina Canellakis” (英語). Karina Canellakis. 2020年5月17日閲覧。
  4. ^ a b c Glauber, Bill. “Rising star Karina Canellakis to conduct a Milwaukee Symphony searching for music director” (英語). Milwaukee Journal Sentinel. 2020年5月24日閲覧。
  5. ^ Sherman, Robert (1982年3月28日). “Music; LOOK AT NEW BATON OF THE SYMPHONY” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/1982/03/28/nyregion/music-look-at-new-baton-of-the-symphony.html 2020年5月24日閲覧。 
  6. ^ Brahms' Fourth” (英語). Albany Symphony. 2020年5月24日閲覧。
  7. ^ a b c d e f Holt, Author: Askonas (2015年8月14日). “Karina Canellakis” (英語). Askonas Holt. 2020年5月17日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h 「音楽評論家 奥田佳道が推す今どきのマエストロ、オーケストラ」第17回【日本ではまだノーマーク! 美貌の実力派指揮者カリーナ・カネラキス】”. CLASSICA JAPAN. 2020年5月17日閲覧。
  9. ^ Diana Burgwyn (Fall 2016). “Conducting Energy”. Overtones. https://www.curtis.edu/globalassets/media/about/overtones/fall-2016/meet-the-alumni---conducting-energy.pdf 2018年5月10日閲覧。 
  10. ^ Canellakis will be ASO guest conductor | The Daily Gazette”. dailygazette.com. 2020年5月25日閲覧。
  11. ^ a b c LPO appoints Karina Canellakis as principal guest conductor” (英語). the Guardian (2020年4月6日). 2020年5月22日閲覧。
  12. ^ A surprise debut in Dallas” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  13. ^ a b Review: Make this L.A. Chamber Orchestra guest conductor feel at home” (英語). Los Angeles Times (2015年1月27日). 2020年5月25日閲覧。
  14. ^ Critic’s Choice: Scott Cantrell’s Classical Music Highlights” (英語). Art&Seek (2014年12月30日). 2020年5月23日閲覧。
  15. ^ a b c Karina Canellakis” (英語). Askonas Holt. 2020年5月17日閲覧。
  16. ^ Karina Canellakis | NAC Podcasts” (英語). nac-cna.ca. 2020年5月23日閲覧。
  17. ^ a b c One of the players: Karina Canellakis on her journey to the podium” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  18. ^ American talent on display with the BBCSO” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  19. ^ Cooper, Michael (2018年5月9日). “After a Last-Minute Conducting Triumph, Her Own Orchestra” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2018/05/09/arts/music/karina-canellakis-netherlands-radio-philharmonic-orchestra.html 2020年5月23日閲覧。 
  20. ^ Canellakis, Aimard and the LPO escape to the country” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  21. ^ Jeal, Erica (2019年7月21日). “First night of the Proms review – the moon, and female stars” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/music/2019/jul/21/first-night-of-the-proms-review-karina-canellakis 2020年5月23日閲覧。 
  22. ^ Bradley, Mike; Virtue, Graeme; Davies, Hannah J.; Verdier, Hannah; Howlett, Paul (2019年7月19日). “TV tonight: one giant leap for the Proms!” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/tv-and-radio/2019/jul/19/tonights-tv-first-night-of-the-proms 2020年5月23日閲覧。 
  23. ^ Prom 1: Karina Canellakis opens the 2019 BBC Proms season in style” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  24. ^ Savage, Mark (2019年7月19日). “Karina Canellakis makes Proms history” (英語). BBC News. https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-49050662 2020年5月23日閲覧。 
  25. ^ ベルリン発 〓 ベルリン放送響の首席客演指揮者にカリーナ・カネラキス | 月刊音楽祭”. m-festival.biz. 2020年5月17日閲覧。
  26. ^ Classical Music Statistics for 2018” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  27. ^ Karina Canellakis nieuwe chef-dirigent Radio Filharmonisch Orkest” (オランダ語). Radio Filharmonisch Orkest (2018年5月8日). 2020年5月25日閲覧。
  28. ^ Karina Canellakis makes impressive Philadelphia debut” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  29. ^ ロンドン発 〓 カリーナ・カネラキスがロンドン・フィルの首席客演指揮者に | 月刊音楽祭”. m-festival.biz. 2020年5月17日閲覧。
  30. ^ New Principal Guest Conductor: Karina Canellakis | News | Explore”. www.lpo.org.uk. 2020年5月25日閲覧。
  31. ^ Woolfe, Zachary (2013年12月20日). “Missing From Podiums: Women” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2013/12/22/arts/music/female-conductors-search-for-equality-at-highest-level.html 2020年5月25日閲覧。 
  32. ^ Taki Concordia Conducting Fellowship” (英語). Taki Concordia Conducting Fellowship. 2020年5月25日閲覧。
  33. ^ アンソニー・チュン:モア・マルギナリア/アズームド・ロールズ/バガテル集(チェイス/ロンバウト/ウィンストン・チョイ/スペクトラル四重奏団)”. NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー. 2020年5月17日閲覧。
  34. ^ 藤倉大:チャンス・モンスーン/レア・グラヴィティ/チェロ協奏曲(アンサンブル版)(グリーンバーグ/クレイン/インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル/カネラキス)”. NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー. 2020年5月17日閲覧。
  35. ^ A ghost of an opera at BAM” (英語). bachtrack.com. 2020年5月23日閲覧。
  36. ^ Tommasini, Anthony (2016年9月8日). “Review: In This One-Man Opera, It’s All in His Head” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2016/09/09/arts/music/review-david-lang-the-loser-brooklyn-academy-of-music.html 2020年5月25日閲覧。 

外部リンク[編集]