イスラエル戦時内閣

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イスラエル戦時内閣
イスラエル 第-代内閣
成立年月日2023年10月11日 (2023-10-11)
組織
元首イツハク・ヘルツォグ
首相ベンヤミン・ネタニヤフ
与党リクード
シャス
ユダヤ・トーラ連合
宗教シオニスト党
強いイスラエル
ノアム英語版
国家団結英語版
議会における地位連立政権
詳細
前内閣第6次ネタニヤフ内閣

イスラエル戦時内閣(イスラエルせんじないかく)は、2023年10月に開始されたパレスチナガザ地区を事実上統治するイスラム原理組織ハマースとの戦争に対処するためイスラエルにおいて組閣された、ベンヤミン・ネタニヤフリクード)を首班とする戦時内閣である。ネタニヤフ政権の連立与党に加え野党の国家団結英語版も参加しており、イスラエルとしては1967年の第三次中東戦争勃発に伴い野党も参加したレヴィ・エシュコル政権以来の挙国一致内閣と言えるが[1]、正確には通常の内閣とは別に作られる小規模な内閣という位置づけである[2]

経緯[編集]

2022年11月1日に執行されたクネセト総選挙ベンヤミン・ネタニヤフ率いるリクードは32議席で第1党を維持するなど右派連合が過半数の64議席を獲得し[3]、同年12月29日に第6次ネタニヤフ内閣が発足した。

2023年10月7日午前6時30分、パレスチナガザ地区を事実上統治するイスラム原理組織ハマースがイスラエル領内へ数千発規模のミサイルを打ち込んだほか、戦闘員数百名を侵入させて民家に押し入りイスラエル市民を殺害するといった大規模攻撃を開始し、また拉致も実行した[4]。イスラエル軍もガザ地区に対し報復攻撃を実施し双方の死者が数百名規模となる中、ネタニヤフはハマースに対して重要な軍事活動を解禁すると発表し、1973年の第四次中東戦争以来の宣戦布告を行い[5]、ハマースの全拠点を壊滅させると警告した[6]。翌10月8日にはレバノンイスラム教シーア派の武装組織ヒズボラがイスラエルとの係争地であるシェバー・ファームズにあるイスラエル軍の3拠点を大量の砲弾と誘導ミサイルで攻撃し、前日のハマースによる攻撃に連帯したものだとした[7]

10月7日の攻撃開始直後、野党イェシュ・アティッドヤイル・ラピド党首はネタニヤフに対し、政治的な相違を棚上げし専門的で限定的な緊急政府を共に樹立する意思があることを伝えた[8]。10月8日、ネタニヤフとラピド、国家団結英語版ベニー・ガンツ代表(前国防相)が協議を行い、その中で戦争に対処するため臨時に統一政府を樹立することが議題に上った。野党は挙国一致内閣で対処することには同意したものの、ラピドは現在のネタニヤフ内閣の構成では極端で機能不全状態にあるとして極右宗教シオニスト党強いイスラエルを挙国一致内閣からは排除するようネタニヤフに要望した[1]が、与党リクードはこの要求を断った。10月9日、ガンツは挙国一致内閣への参加をテレビで表明。同日には極右政党でネタニヤフ連立内閣に参加していないイスラエル我が家アヴィグドール・リーベルマン党首も挙国一致内閣への参加を表明したが、そもそも同党が参加を打診されたかは明らかになっていない[9]

10月10日、リクードは主要野党と挙国一致内閣を樹立することを発表し、この時点ではイェシュ・アティッドと国家団結も参加することで基本合意した[8]。翌11日にクネセト(国会)は戦時内閣の設置を承認し[10]、ネタニヤフ首相、ヨアヴ・ガラント国防相、ベニー・ガンツが共同声明を発表。この3人からなる戦争対応内閣が通常の内閣とは別に発足したほか、戦争の遂行に関係ない法案や政府決定は一切凍結されることなどを発表した[2][11]。この3人のほか、元国防軍参謀総長のガディ・エイゼンコット議員、戦略担当相のロン・ダーマー英語版がオブサーバーとして参加することとなったが、ラピド率いるイェシュ・アティッドは最終的に政権に参加しなかった。政権樹立の声明発表後、ネタニヤフら3人はテレビ出演を行い、ガラント国防相はハマースを地球上から消し去ると警告した[12]

挙国一致内閣の発足により全ての上級職の任期は戦争中は自動的に延長されることとなり、2023年末に任期を迎える予定だったイスラエル銀行(中央銀行)のアミール・ヤロン英語版総裁は自身の進退を表明することを予告していたが、まさにその日にハマースによる攻撃が開始され、10月11日には戦争継続中は職務を継続することを表明した[13]

内閣の顔ぶれ[編集]

閣僚級[編集]

出身政党:   リクード   国家団結英語版

氏名 政党 備考
ベンヤミン・ネタニヤフ リクード 首相、リクード党首
ヨアヴ・ガラント リクード 国防大臣
ベニー・ガンツ 国家団結英語版 国家団結代表
前国防大臣

オブザーバー[編集]

出身政党:   リクード   国家団結英語版

氏名 政党 備考
ガディ・エイゼンコット 国家団結英語版 クネセト議員
元国防軍参謀総長
ロン・ダーマー英語版 リクード 戦略担当大臣

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b “Netanyahu, Lapid and Gantz discuss forming emergency government as country faces war”. The Times of Israel. (2023年10月7日). https://www.timesofisrael.com/lapid-urges-emergency-government-says-pm-cant-manage-war-with-extreme-cabinet/ 2023年10月11日閲覧。 
  2. ^ a b “イスラエル、挙国一致政権を樹立へ 地上侵攻に備え”. 日本経済新聞. (2023年10月12日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR11DCB0R11C23A0000000/ 2023年10月12日閲覧。 
  3. ^ “イスラエルで右派政権発足へ 周辺アラブ諸国も警戒”. 日本経済新聞. (2022年11月14日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR133HG0T11C22A1000000/ 2023年10月12日閲覧。 
  4. ^ “ハマスが対イスラエル大規模作戦 空爆で反撃、計298人死亡―「戦争状態」、住民拉致か”. 時事ドットコム. 時事通信社. (2023年10月8日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2023100700357&g=int 2023年10月12日閲覧。 
  5. ^ “Israel declares war after Hamas surprise attack, launches retaliatory airstrikes in Gaza”. FOXニュース. (2023年10月8日). https://www.foxnews.com/world/israel-strikes-hamas-gaza-surprise-attack-exchanges-fire-hezbollah 2023年10月12日閲覧。 
  6. ^ “ハマスの攻撃にイスラエル報復、ネタニヤフ首相「戦争状態」”. AFPBB News. フランス通信社. (2023年10月8日). https://www.afpbb.com/articles/-/3485254 2023年10月12日閲覧。 
  7. ^ “ヒズボラ、イスラエルを攻撃 大量の砲弾・誘導ミサイルで”. AFPBB News. フランス通信社. (2023年10月8日). https://www.afpbb.com/articles/-/3485296 2023年10月12日閲覧。 
  8. ^ a b “イスラエル政権、緊急の挙国一致政府樹立で野党トップと合意”. ロイター. (2023年10月11日). https://jp.reuters.com/world/security/PPTNAW63QNO3PBWLGBCY43HBO4-2023-10-10/ 2023年10月12日閲覧。 
  9. ^ “Gantz, Liberman open to emergency unity government, but demand say in waging war”. The Times of Israel. (2023年10月8日). https://www.timesofisrael.com/gantz-liberman-open-to-emergency-unity-government-but-demand-say-in-waging-war/ 2023年10月12日閲覧。 
  10. ^ “イスラエル、戦時内閣を発足「ハマスを地球上から消し去る」”. 毎日新聞. (2023年10月12日). https://mainichi.jp/articles/20231012/k00/00m/030/020000c?inb=ys 2023年10月12日閲覧。 
  11. ^ “イスラエル、挙国一致内閣を組閣-ハマスとの戦争遂行で”. bloomberg.co.jp. ブルームバーグ. (2023年10月11日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-10-11/S2DAJ8DWLU6901 2023年10月12日閲覧。 
  12. ^ “イスラエル、挙国一致政権樹立 ハマスを「消し去る」と国防相”. ロイター. (2023年10月12日). https://jp.reuters.com/world/us/76FY6F4RGBPTDJMM2U6Z5IO2QI-2023-10-11/ 2023年10月12日閲覧。 
  13. ^ “イスラエル中銀のヤロン総裁、戦争の非常事態終了まで続投へ”. ロイター. (2023年10月12日). https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/XJ5SKFGYDNPU7KBKAMS2AF46VY-2023-10-12/ 2023年10月12日閲覧。