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'''シャコ'''(蝦蛄<ref name="hro">[https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/o7u1kr00000009up.pdf 87.シャコ] 北海道立総合研究機構、2017年5月26日閲覧。</ref>、青龍蝦、学名: {{snamei|Oratosquilla oratoria}}) は、[[甲殻類]] [[軟甲綱]] [[トゲエビ亜綱]] [[シャコ目|口脚目]]([[口脚目|シャコ目]]シャコ属する[[節足動物]]の1種である。転じてシャコに属する種の総称も使われる。[[寿司]]ダネなどになる食用種よく知られる。[[地方名]]に'''シャコエビ'''<ref name="hro" />、'''ガサエビ'''<ref name="hro" />、'''シャッパ'''など。
'''シャコ'''(蝦蛄<ref name="hro">[https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/o7u1kr00000009up.pdf 87.シャコ] 北海道立総合研究機構、2017年5月26日閲覧。</ref>、青龍蝦) は、[[甲殻類]] [[軟甲綱]] [[トゲエビ亜綱]] [[シャコ目|口脚目]]([[口脚目|シャコ目]]シャコ類)分類される[[節足動物]]の総称、もしくはそのうちの[[シャコ科]] [[シャコ属]]に属する1[[ (分類学)|種]]([[学名]]: {{snamei|Oratosquilla oratoria}})[[和名]]。本項目では主後者について扱う。[[寿司]]ダネなどになる食用種としてよく知られる。[[地方名]]に'''シャコエビ'''<ref name="hro" />、'''ガサエビ'''<ref name="hro" />、'''シャッパ'''などがある


== 特徴 ==
== 特徴 ==
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分類上は[[甲殻類]](甲殻亜門)のうち[[エビ]]類や[[カニ]]類などと同じ軟甲綱に属しているが、エビ類やカニ類は真軟甲亜綱、シャコ類は口脚亜綱に属している<ref name="hiroshima">{{Cite web |author=富川光、鳥越兼治|url=https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/22762/20141217140131381442/AA11618725_56_17.pdf |title=食卓で学ぶ甲殻類のからだのつくり |publisher=広島大学 |accessdate=2020-01-21}}</ref>。構造は他の甲類と同じく頭部胸部腹部に分かれており、シャコ類は頭部と胸部の前方4節外骨格が覆う(エビ類やカニ類は頭部と胸部のすべて外骨格に覆われている)<ref name="hiroshima" />。外骨格に覆われた部分を背甲という<ref name="hiroshima" />。
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本種を含んだ[[シャコ類]]は[[分類学]]上は[[甲殻類]](甲殻亜門)のうち[[エビ]]類や[[カニ]]類などと同じ[[軟甲綱]]に属しているが、類縁関係は遠く、エビ類やカニ類は[[真軟甲亜綱]][[シャコ類]][[口脚亜綱]]([[トゲエビ亜綱]])に属している<ref name="hiroshima">{{Cite web |author=富川光、鳥越兼治|url=https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/2/22762/20141217140131381442/AA11618725_56_17.pdf |title=食卓で学ぶ甲殻類のからだのつくり |publisher=広島大学 |accessdate=2020-01-21}}</ref>。他の甲類と同じく、19節の体節は頭部胸部腹部に分かれ、19対の付属肢(頭部5対、胸部8対、腹部6対)をもつが、シャコ類は胸部4節が明らかに分節し、頭部背面の[[外骨格]]([[背甲]])に癒合していない<ref>{{Cite journal|last=Haug|first=Carolin|last2=Sallam|first2=Wafaa S.|last3=Maas|first3=Andreas|last4=Waloszek|first4=Dieter|last5=Kutschera|first5=Verena|last6=Haug|first6=Joachim T.|date=2012-11-14|title=Tagmatization in Stomatopoda – reconsidering functional units of modern-day mantis shrimps (Verunipeltata, Hoplocarida) and implications for the interpretation of fossils|url=https://doi.org/10.1186/1742-9994-9-31|journal=Frontiers in Zoology|volume=9|issue=1|pages=31|doi=10.1186/1742-9994-9-31|issn=1742-9994|pmid=23148643|pmc=PMC3542093}}</ref>(エビ類やカニ類は頭部と胸部が完全に癒合して背甲に覆われている)<ref name="hiroshima" />。


体長は12~15cm前後。全長20cmに達することもある<ref name="hro" />。体型は細長い筒状で腹部はやや扁平。頭部から胸部はやや小さく、腹部の方が大きく発達する。頭部先端には二対の[[触角]]とよく発達した[[複眼]]が突き出す。
体長は12~15cm前後。全長20cmに達することもある<ref name="hro" />。体型は細長い筒状で腹部はやや扁平。頭部から胸部はやや小さく、腹部の方が大きく発達する。頭部先端にはよく発達した[[複眼]]が突き出す。


付属肢は19対ある(頭部付属肢5対、胸部付属肢8対、腹部付属肢6対)<ref name="hiroshima" />。付属肢にエビ・カニような鋏を持たず6-7個のトゲがある特徴的な1対の鎌のような捕脚を持つ(英名のmantis shrimp=カマキリエビの由来でもある)。頭部付属肢は前から第1触角第2触角大顎第1小顎第2小顎の5対である<ref name="hiroshima" />。胸部付属肢は前から第1顎脚~第5顎脚と第1歩脚~第3歩脚の8対である<ref name="hiroshima" />。食物を捕えるため鎌状になっているのは第2顎脚~第5顎脚特に第2顎脚が発達している<ref name="hiroshima" />。腹部付属肢は遊泳肢ともいい第1腹肢~第5腹肢の基部には鰓がある<ref name="hiroshima" />。第6腹肢は他の腹肢とは位置や構造が著しく異なるため尾肢と呼んで区別する<ref name="hiroshima" />。なお腹部後方に尾節という節のような構造があるが付属はなく真体節ではない<ref name="hiroshima" />。尾節は鋭いトゲのある尾扇と呼ばれる構造になっている
頭部付属肢は甲殻類と同様、前から2対の[[触角]](第1触角第2触角)と3対の[[顎]]([[大顎]]・第1[[小顎]]・第2小顎)がある<ref name="hiroshima" />。胸部付属肢(胸肢)他のシャコ類と同様、前から5対の[[顎脚]]と3対の歩脚で、エビ・カニような3の顎脚と5対の歩脚はない<ref name="hiroshima" />。エビ・カニのような[[はさみ (動物)|鋏]]を持たず、顎脚は食物を捕えるため先端が鎌状(亜鋏状)になっている。中で第2顎脚が特に発達して捕脚とい、指節(先端の肢節)の内側に6-7本の棘があり、[[カマキリ]]の前脚を彷彿とさせ(シャコ類の英名 mantis shrimp=カマキリエビの由来でもある)<ref name="hiroshima" />。腹部付属肢(腹肢)は鰭状の二叉型で、第1-5腹肢は遊泳肢ともいい、それぞれの基部には鰓がある<ref name="hiroshima" />。第6腹肢は他の腹肢とは位置や構造が著しく異なる(硬化が進んで鰓はなく、発達した棘がある)ため尾肢と呼んで区別する<ref name="hiroshima" />。腹部後方に[[尾節]]というとは別の構造が板状に発達し、直前の尾とともに扇形[[尾扇]]をして<ref name="hiroshima" />。


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[[偏光|円偏光]]の回転方向を識別できる<ref>Tsyr-Huei Chiou et. al., Curr. Biol., '''18''', 429-434 (2008)</ref>。ただし、これは有せず、少なくとも[[シャコ属]]の数種に共通の特徴である<ref>{{cite | title=Polarization Signaling in Stomatopod Crustaceans and Cephalopod Mollusks | first=Tsyr-Huei | last=Chiou | year=2008 | publisher=[[:en:ProQuest|ProQuest]] }}</ref>。円偏光に限定しなければ、偏光の視覚は[[シャコ科]]の広範囲と一部の[[頭足類]]に確認されている。


== 生態 ==
== 生態 ==
シャコ類では最も北の海域に生息<ref name="hro" />。北はロシア沿海州から南は[[台湾]]にかけて分布<ref name="hro" />。
[[シャコ類]]では最も北の海域に生息<ref name="hro" />。北はロシア沿海州から南は[[台湾]]にかけて分布<ref name="hro" />。


内湾や内海の泥底や砂泥底に生息し、海底の砂や泥にU字形の巣穴を掘って生活する<ref name="hro" />。肉食性で、他の[[甲殻類]]や[[類]][[イソメ]]、[[ゴカイ]]などの[[多毛類]][[貝類]]など強大な捕脚を用い捕食するの捕脚撃<ref>しばしば 「シャコパンチ」 と称される。</ref>打撃を伴う強力なもので、カニの甲羅や貝殻を叩き割って捕食するほか、天敵からの防御や威嚇にも用いられる。飼育下においても捕脚の打撃で[[水槽]]のガラスにヒビが入ることがある。このような特性から、釣りや水揚げされた物を不用意に触ると大怪我をするので十分な注意が必要である。
内湾や内海の泥底や砂泥底に生息し、海底の砂や泥にU字形の巣穴を掘って生活する<ref name="hro" />。[[肉食性]]で、他の水生動物を強大な捕脚を用い捕食する。シャコ類の捕食方法は、原則として捕脚内側の棘で柔らかい獲物を捕獲する刺撃型(spearer)と、捕脚外側の縁で硬い獲物の殻を粉砕する打撃型(smasher)という二つのグループに分かれている。ただし本種は両方の中間程度で、捕脚は柔らかい[[]]や[[多毛類]][[ゴカイ]]、[[イソメ]]など)だけでなく、硬い殻に包まれた他の[[甲殻類]][[貝類]]を捕食することもできる一方、純粋な刺撃型と打撃型ほど優れていなかった(左右平たい魚類を捕まには不向きで、小型個体の打は[[アサリ]]ほどの硬い殻を割れない)<ref>{{Cite journal|last=Hamano|first=Tatsuo|last2=Matsuura|first2=Shuhei|date=1986|title=Food Habits of the Japanese Mantis Shrimp in the Benthic Community of Hakata Bay|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/52/5/52_5_787/_article|journal=Nippon Suisan Gakkaishi|volume=52|issue=5|pages=787–794|doi=10.2331/suisan.52.787}}</ref>。この打撃強力なもので、天敵からの防御や威嚇にも用いられる。飼育下においても捕脚の打撃で[[水槽]]のガラスにヒビが入ることがある。このような特性から、釣りや水揚げされた物を不用意に触ると大怪我をするので十分な注意が必要である。


環境の変化に強く、一時[[東京湾]]の汚染が進んだ時期には「東京湾最後の生物になるだろう」といわれていたこともあった<ref>朝日新聞社編 『海の紳士録』P78 昭和37年刊</ref>。
環境の変化に強く、一時[[東京湾]]の汚染が進んだ時期には「東京湾最後の生物になるだろう」といわれていたこともあった<ref>朝日新聞社編 『海の紳士録』P78 昭和37年刊</ref>。
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「シャコエビ」などと呼ばれることもあるが、エビ類との分類学上の類縁は遠い(別に[[ハサミシャコエビ]]という種もいるが、エビ・カニの仲間である真軟甲亜綱の生物で、シャコ目ではない)。
「シャコエビ」などと呼ばれることもあるが、エビ類との分類学上の類縁は遠い(別に[[ハサミシャコエビ]]という種もいるが、エビ・カニの仲間である真軟甲亜綱の生物で、シャコ目ではない)。


また、地域によっては[[アナジャコ]]も「シャコ」と呼ぶ場合もあるが、アナジャコは真軟甲亜綱に属し、シャコ目との類縁は遠い
また、地域によっては別系統である[[エビ]]の1種[[アナジャコ]]も「シャコ」と呼ぶ場合もある。


== 分類 ==
== 分類 ==
シャコに近縁なには以下のものがある。これらは少し前までは同じシャコ属とされていたが、[[20世紀]]末頃からそのうち数種が新たな2属に分類されるようになっている。なお、同じシャコと名のつく生物として[[アナジャコ]]が挙げられるが、近縁なわけではない
シャコに近縁な[[シャコ類]]には以下のものがある。これらはかつては同じシャコ属とされていたが、[[20世紀]]末頃からそのうち数種が新たな2属に分類されるようになっている。


系統やその他のシャコ類については[[シャコ目]]を参照。
系統やその他のシャコ類については[[シャコ目]]を参照。
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同じシャコと名のつく生物として[[アナジャコ]]などが挙げられるが、シャコ類ですらなく、[[エビ]]の1種で近縁ではない。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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[[Category:食用甲殻類]]
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2022年1月15日 (土) 04:09時点における版

シャコ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物Arthropoda
階級なし : 汎甲殻類 Pancrustacea
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
亜綱 : トゲエビ亜綱口脚亜綱Hoplocarida
: 口脚目シャコ目Stomatopoda
上科 : シャコ上科 Squilloidea
: シャコ科 Squillidae
: シャコ属 Oratosquilla
: シャコ O. oratoria
学名
Oratosquilla oratoria (De Haan1844)
和名
シャコ

シャコ(蝦蛄[1]、青龍蝦) は、甲殻類 軟甲綱 トゲエビ亜綱 口脚目シャコ目、シャコ類)に分類される節足動物の総称、もしくはそのうちのシャコ科 シャコ属に属する1学名: Oratosquilla oratoria)の和名。本項目では主に後者について扱う。寿司ダネなどになる食用種としてよく知られる。地方名シャコエビ[1]ガサエビ[1]シャッパなどがある。

特徴

シャコ(2018年8月13日、那珂湊漁港)

本種を含んだシャコ類分類学上は甲殻類(甲殻亜門)のうちエビ類やカニ類などと同じ軟甲綱に属しているが、類縁関係は遠く、エビ類やカニ類は真軟甲亜綱シャコ類口脚亜綱トゲエビ亜綱)に属している[2]。他の軟甲類と同じく、19節の体節は頭部・胸部・腹部に分かれ、19対の付属肢(頭部5対、胸部8対、腹部6対)をもつが、シャコ類は胸部後4節が明らかに分節し、頭部背面の外骨格背甲)に癒合していない[3](エビ類やカニ類は頭部と胸部が完全に癒合して背甲に覆われている)[2]

体長は12~15cm前後。全長20cmに達することもある[1]。体型は細長い筒状で腹部はやや扁平。頭部から胸部はやや小さく、腹部の方が大きく発達する。頭部先端にはよく発達した複眼が突き出す。

頭部付属肢は他の甲殻類と同様、前から2対の触角(第1触角・第2触角)と3対の大顎・第1小顎・第2小顎)がある[2]。胸部付属肢(胸肢)は他のシャコ類と同様、前から5対の顎脚と3対の歩脚で、エビ・カニのような3対の顎脚と5対の歩脚ではない[2]。エビ・カニのようなを持たず、顎脚は食物を捕えるため先端が鎌状(亜鋏状)になっている。中で第2顎脚が特に発達して捕脚といい、指節(先端の肢節)の内側に6-7本の棘があり、カマキリの前脚を彷彿とさせる(シャコ類の英名 mantis shrimp=カマキリエビの由来でもある)[2]。腹部付属肢(腹肢)は鰭状の二叉型で、第1-5腹肢は遊泳肢ともいい、それぞれの基部には鰓がある[2]。第6腹肢は他の腹肢とは位置や構造が著しく異なる(硬化が進んで鰓はなく、発達した棘がある)ため尾肢と呼んで区別する[2]。腹部後方に尾節という体節とは別の構造が板状に発達し、直前の尾肢とともに扇形の尾扇をなしている[2]

円偏光の回転方向を識別できる[4]。ただし、これは本種に特有せず、少なくともシャコ属の数種に共通の特徴である[5]。円偏光に限定しなければ、偏光の視覚はシャコ科の広範囲と一部の頭足類に確認されている。

生態

シャコ類では最も北の海域に生息[1]。北はロシア沿海州から南は台湾にかけて分布[1]

内湾や内海の泥底や砂泥底に生息し、海底の砂や泥にU字形の巣穴を掘って生活する[1]肉食性で、他の水生動物を強大な捕脚を用い捕食する。シャコ類の捕食方法は、原則として捕脚内側の棘で柔らかい獲物を捕獲する刺撃型(spearer)と、捕脚外側の縁で硬い獲物の殻を粉砕する打撃型(smasher)という二つのグループに分かれている。ただし本種は両方の中間程度で、捕脚は柔らかい多毛類ゴカイイソメなど)だけでなく、硬い殻に包まれた他の甲殻類貝類を捕食することもできる一方、純粋な刺撃型と打撃型ほど優れていなかった(左右に平たい魚類を捕まるには不向きで、小型個体の打撃はアサリほどの硬い殻を割れない)[6]。この打撃は強力なもので、天敵からの防御や威嚇にも用いられる。飼育下においても捕脚の打撃で水槽のガラスにヒビが入ることがある。このような特性から、釣りや水揚げされた物を不用意に触ると大怪我をするので十分な注意が必要である。

環境の変化に強く、一時東京湾の汚染が進んだ時期には「東京湾最後の生物になるだろう」といわれていたこともあった[7]

食材としての利用

市場で売られているシャコ
シャコの握り寿司

エビよりもアッサリとした味と食感を持つ。旬は産卵期である春から初夏。秋は身持ちがよい(傷みにくい)。日本では、新鮮なうちに茹で、ハサミで殻を切り開いて剥き、寿司ダネとすることが最も多い。捕脚肢の肉は「シャコツメ」と呼ばれ、軍艦巻きなどにして食べられることが多く、一尾から少量しか取れない珍味。産地では、塩茹でにして手で剥いて食べたり、から揚げにすることが多い。産卵期の卵巣はカツブシと呼ばれて珍重されるため、メスのほうが値段が高い。また、ごく新鮮なうちに刺身として生食する場合もある。香港では、日本のものよりも大振りなものが多いが、素揚げにしてから、ニンニク唐辛子で味付けして炒める「椒鹽瀬尿蝦 ジウイム・ライニウハー」(広東語)という料理が一般的である。

シャコは死後時間が経つと、殻の下で酵素(本来は脱皮時に使われる)が分泌され、自らの身を溶かしてしまう。そのため、全体サイズの割に中身が痩せてしまっていることも多い。これを防ぐには、新鮮なうちに茹でるなどして調理してしまうことである。活きた新鮮なシャコは珍重されるが、勢いよく暴れる上に棘が多いため、調理時に手に刺さる場合があるので取り扱いには注意が必要である。

東京都

岡山県

  • ばら寿司 - 岡山県郷土料理であり、地域や時期によっては具材のひとつとしてシャコが用いられる。

青森県

青森県では花見にシャコを食べる風習がある。

地方名

江戸時代シャクナゲと言われていた。淡い灰褐色の殻を茹でると紫褐色に変わり、それがシャクナゲの花の色に似ていたところから付けられた名である。シャクナゲは石楠花、または石花と書き、シャクカがなまってシャコと呼ばれるようになった。シャク、シャクナギと呼ぶ地域もある。

北陸3県青森県ではガサエビ、福岡県筑後地方南部ではシャッパ、熊本県ではシャクとも呼ばれる。

「シャコエビ」などと呼ばれることもあるが、エビ類との分類学上の類縁は遠い(別にハサミシャコエビという種もいるが、エビ・カニの仲間である真軟甲亜綱の生物で、シャコ目ではない)。

また、地域によっては別系統であるエビの1種アナジャコも「シャコ」と呼ぶ場合もある。

分類

シャコに近縁なシャコ類には以下のものがある。これらはかつては同じシャコ属とされていたが、20世紀末頃からそのうち数種が新たな2属に分類されるようになっている。

系統やその他のシャコ類についてはシャコ目を参照。

同じシャコと名のつく生物としてアナジャコなどが挙げられるが、シャコ類ですらなく、エビの1種で近縁ではない。

脚注

  1. ^ a b c d e f g 87.シャコ 北海道立総合研究機構、2017年5月26日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 富川光、鳥越兼治. “食卓で学ぶ甲殻類のからだのつくり”. 広島大学. 2020年1月21日閲覧。
  3. ^ Haug, Carolin; Sallam, Wafaa S.; Maas, Andreas; Waloszek, Dieter; Kutschera, Verena; Haug, Joachim T. (2012-11-14). “Tagmatization in Stomatopoda – reconsidering functional units of modern-day mantis shrimps (Verunipeltata, Hoplocarida) and implications for the interpretation of fossils”. Frontiers in Zoology 9 (1): 31. doi:10.1186/1742-9994-9-31. ISSN 1742-9994. PMC PMC3542093. PMID 23148643. https://doi.org/10.1186/1742-9994-9-31. 
  4. ^ Tsyr-Huei Chiou et. al., Curr. Biol., 18, 429-434 (2008)
  5. ^ Chiou, Tsyr-Huei (2008), Polarization Signaling in Stomatopod Crustaceans and Cephalopod Mollusks, ProQuest 
  6. ^ Hamano, Tatsuo; Matsuura, Shuhei (1986). “Food Habits of the Japanese Mantis Shrimp in the Benthic Community of Hakata Bay”. Nippon Suisan Gakkaishi 52 (5): 787–794. doi:10.2331/suisan.52.787. https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/52/5/52_5_787/_article. 
  7. ^ 朝日新聞社編 『海の紳士録』P78 昭和37年刊