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「窒素固定」の版間の差分

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[[自然界]]での窒素固定は、いくつかの[[真正細菌]]([[細菌]]、[[放線菌]]、[[藍藻]]、ある種の[[嫌気性生物|嫌気性細菌]]など)と一部の[[古細菌]]([[メタン菌]]など)によって行われる。これらの[[微生物]]には、種特異的に他の[[植物]]や、[[動物]]([[シロアリ]]など)と[[共生]]関係を形成しているものもある。また、[[雷]]の[[放電]]や[[紫外線]]や[[内燃機関]]での燃焼により、窒素ガスの[[酸化]]によって[[窒素酸化物]]が生成され、これらが[[雨]][[水]]に溶けることで、[[土壌]]に固定される。
[[自然界]]での窒素固定は、いくつかの[[真正細菌]]([[細菌]]、[[放線菌]]、[[藍藻]]、ある種の[[嫌気性生物|嫌気性細菌]]など)と一部の[[古細菌]]([[メタン菌]]など)によって行われる。これらの[[微生物]]には、種特異的に他の[[植物]]や、[[動物]]([[シロアリ]]など)と[[共生]]関係を形成しているものもある。また、[[雷]]の[[放電]]や[[紫外線]]や[[内燃機関]]での燃焼により、窒素ガスの[[酸化]]によって[[窒素酸化物]]が生成され、これらが[[雨]][[水]]に溶けることで、[[土壌]]に固定される。


また、人工的に窒素分子を他の窒素化合物に変換する手法も幾つか[[開発]]されており、[[工業]]的に非常に重要な位置を占めている。
また、[[アンモニア]]合成を代表として人工的に窒素分子を他の窒素化合物に変換する手法も幾つか[[開発]]されており、[[工業]]的に非常に重要な位置を占めている。


== 生物学的窒素固定 ==
== 生物学的窒素固定 ==
[[ファイル:Nitrogen Cycle ja.svg|thumb|410px|[[窒素循環]]のモデル図]]
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ある種の細菌がもっている[[酵素]]の[[ニトロゲナーゼ]]は、[[大気]]中の窒素を[[アンモニア]]に変換するはたらきを持ち、この作用を'''[[生物学]]的窒素固定'''といい、窒素固定を行う微生物を'''ジアゾ[[栄養]]生物'''(diazotroph)という。
ある種の細菌がもっている[[酵素]]の[[ニトロゲナーゼ]]は、[[大気]]中の窒素を[[アンモニア]]に変換するはたらきを持ち、この作用を'''[[生物学]]的窒素固定'''といい、窒素固定を行う微生物を'''ジアゾ[[栄養]]生物'''(diazotroph)という。


ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、次式のように表される。
ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、次式のように表される。
:<ce>N2\ + 8H^+\ + 8\mathit{e}^-\ + 16 ATP -></ce>
:<ce>{N2} + {8H^+} + {8\mathit{e}^-} + 16 ATP -></ce>
::<ce>2NH3\ + H2\ + 16ADP\ + 16Pi</ce>
::<ce>{2NH3} + {H2} + {16ADP} + 16Pi</ce>
* [[アデノシン三リン酸|ATP]] = アデノシン三リン酸 , [[アデノシン二リン酸|ADP]] = アデノシン二リン酸 , [[リン酸|Pi]] = リン酸
* [[アデノシン三リン酸|ATP]] = アデノシン三リン酸 , [[アデノシン二リン酸|ADP]] = アデノシン二リン酸 , [[リン酸|Pi]] = リン酸


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* [[モクマオウ]] ({{Snamei||Casuarina}} sp., {{Snamei||Allocasuarina}} sp.)
* [[モクマオウ]] ({{Snamei||Casuarina}} sp., {{Snamei||Allocasuarina}} sp.)
* [[珪藻]] ({{Snamei||Rhizosolenia}} sp. など)
* [[珪藻]] ({{Snamei||Rhizosolenia}} sp. など)
* [[スギナ]] ({{Snamei||Equisetum arvense}}<ref>吉田重方、松本博紀、トルンブイチ、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/grass/31/3/31_KJ00004775312/_article/-char/ja/ 草地雑草根におけるニトロゲナーゼ活性] 日本草地学会誌 Vol.31 (1985) No.3 p.358-361, {{doi|10.14941/grass.31.358}}</ref>


=== シロアリの体内共生菌による窒素固定 ===
=== シロアリの体内共生菌による窒素固定 ===
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[[ファイル:NitrogenReduction.png|thumb|300px|[[リチャード・シュロック|シュロック]]らによる錯体を用いた窒素固定例<ref>Dmitry V. Yandulov and Richard R. Schrock, "Catalytic Reduction of Dinitrogen to Ammonia at a Single Molybdenum Center", ''Science''
[[ファイル:NitrogenReduction.png|thumb|300px|[[リチャード・シュロック|シュロック]]らによる錯体を用いた窒素固定例<ref>Dmitry V. Yandulov and Richard R. Schrock, "Catalytic Reduction of Dinitrogen to Ammonia at a Single Molybdenum Center", ''Science''
'''301''', 76(2003). {{DOI|10.1126/science.1085326}}</ref>]]
'''301''', 76(2003). {{DOI|10.1126/science.1085326}}</ref>]]
窒素的にも固定され、[[肥料]]をはじめ様々な工業プロセスに使用されている。最も一般的な方法は[[ハーバー・ボッシュ法]]によるものである。[[石灰窒素]]をふくむ人工肥料の生産は非常に大きな量に達しており、現在では[[地球]]の[[生態系]]において最大の窒素固定源となっている。
内燃機関や燃焼に伴う窒素酸化物の目的外生成のほか的にも固定され、[[肥料]]をはじめ様々な工業プロセスに使用されている。最も一般的な方法は[[ハーバー・ボッシュ法]]によるものである。[[石灰窒素]]をふくむ人工肥料の生産は非常に大きな量に達しており、現在では[[地球]]の[[生態系]]において最大の窒素固定源となっている。
{{see also|アンモニア]]

また、高温高圧を必要とするハーバー・ボッシュ法に代わる新たな化学的窒素固定の研究も行われており、これまでに[[モリブデン]]や[[タングステン]]の[[錯体]]を用いて、温和な条件で窒素をアンモニアまで[[還元]]した例が報告されている。例えば、[[西林仁昭]]のグループは、モリブデン触媒を用いて、窒素 1分子、[[コバルトセン]] 6分子、[[ルチジン]][[トフラート]] 6分子から、常温常圧でアンモニア 2分子が得られる事を報告している。しかし、従来のハーバー・ボッシュ法に比べると1万倍以上の費用が掛かる為、現在でも、ハーバー・ボッシュ法に代わる化学的窒素固定は開発されていないと言える。


== 窒素固定の総量 ==
== 窒素固定の総量 ==
全世界の[[アンモニア]]の年間生産量(2010年)は1.6億tで、そのうち8割が[[肥料]]用であると言われている<ref>[http://www.ueri.co.jp/jhif/12Conference090610/doshisyauniv.pdf]</ref>。生物による窒素固定は1.8億t、[[雷]]等の[[自然放電]]による生成と排気ガスの[[NOx]]で0.4億tと言われている<ref>[http://www2u.biglobe.ne.jp/%257egln/13/1327.htm]</ref>。
全世界のアンモニアの年間生産量(2010年)は1.6億tで、そのうち8割が[[肥料]]用であると言われている<ref>[http://www.ueri.co.jp/jhif/12Conference090610/doshisyauniv.pdf]{{リンク切れ|date=2017年8月}}</ref>。生物による窒素固定は1.8億t、[[雷]]等の[[自然放電]]による生成と排気ガスの[[NOx]]で0.4億tと言われている<ref>[http://www2u.biglobe.ne.jp/%257egln/13/1327.htm]{{出典無効|date=2017年8月}}</ref>。


== その他 ==
== その他 ==
[[稲妻]]の語源は、雷が稲を実らせるという信仰からきているが、これは実際に雷よって[[窒素酸化物]]が生成され収穫量が増えたため、という説がある。同様に落雷した[[ほだ木]]では[[きのこ]]の収穫量が増えると[[古代ギリシア]]の[[プルタルコス]]の著作である『食卓歓談集』にも記述される程、古来より言われてきた<ref>{{Cite journal|和書|author=[[プルタルコス]]|date=2001年12月14日|title=食卓歓談集|url=|journal=|pages=|publisher=[[岩波書店]]|author2=[[柳沼重剛]]|asin=|isbn=9784003366431}}</ref><ref>[http://www.asahi.com/special/dokonjou/TKY200910260204.html 雷落とすとキノコ育った 岩手大成果]</ref>。
[[稲妻]]の語源は、雷が稲を実らせるという信仰からきているが、これは実際に雷よって[[窒素酸化物]]が生成され収穫量が増えたため、という説がある。同様に落雷した[[ほだ木]]では[[きのこ]]の収穫量が増えると[[古代ギリシア]]の[[プルタルコス]]の著作である『食卓歓談集』にも記述される程、古来より言われてきた<ref>{{Cite journal|和書|author=[[プルタルコス]]|date=2001年12月14日|title=食卓歓談集|url=|journal=|pages=|publisher=[[岩波書店]]|author2=[[柳沼重剛]]|asin=|isbn=9784003366431}}</ref>。


== 脚注 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==

2017年8月24日 (木) 06:02時点における版

窒素固定(ちっそこてい)とは、空気中に多量に存在する安定な(不活性)窒素分子を、反応性の高い他の窒素化合物アンモニア硝酸塩二酸化窒素など)に変換するプロセスをいう。

自然界での窒素固定は、いくつかの真正細菌細菌放線菌藍藻、ある種の嫌気性細菌など)と一部の古細菌メタン菌など)によって行われる。これらの微生物には、種特異的に他の植物や、動物シロアリなど)と共生関係を形成しているものもある。また、放電紫外線内燃機関での燃焼により、窒素ガスの酸化によって窒素酸化物が生成され、これらがに溶けることで、土壌に固定される。

また、アンモニア合成を代表として人工的に窒素分子を他の窒素化合物に変換する手法も幾つか開発されており、工業的に非常に重要な位置を占めている。

生物学的窒素固定

窒素循環のモデル図

ある種の細菌がもっている酵素ニトロゲナーゼは、大気中の窒素をアンモニアに変換するはたらきを持ち、この作用を生物学的窒素固定といい、窒素固定を行う微生物をジアゾ栄養生物(diazotroph)という。

ニトロゲナーゼによる窒素固定反応は、次式のように表される。

  • ATP = アデノシン三リン酸 , ADP = アデノシン二リン酸 , Pi = リン酸

この反応による直接の生成物はアンモニア(NH3)であるが、これはすぐにイオン化されてアンモニウム(NH4+)になる。生きているジアゾ栄養生物であれば、ニトロゲナーゼで作られたアンモニウムは、グルタミンシンセターゼ/グルタミン酸シンターゼ経路によって同化され、グルタミン酸塩となる。また、亜硝酸菌硝酸菌といった硝化細菌の存在下では、最終的にアンモニウム塩は硝酸塩として、植物が利用できる形になる。

生物学的窒素固定はオランダの微生物学者、マルティヌス・ベイエリンクとロシア(ウクライナ)のセルゲイ・ヴィノグラドスキーによって発見された。

真正細菌であるリゾビウム属などの根粒菌は窒素固定能を持つ[1]パエニバシラス・ポリミキサ(P. polymyxa)は窒素固定能を持つ[2]

マメ科植物との共生的窒素固定

クローバー、枝豆などのマメ科植物は根に根粒があり、窒素化合物を生産する根粒菌リゾビウム属)の共生細菌を宿しているため、土壌を肥やすはたらきをすることが知られている。マメ科の大部分はこの共生関係を持つが、2,3の属(例えば、Styphnolobium)は持っていない。

マメ科植物に荒れ地でも生育可能なものが多いのは、いわば根で窒素肥料合成できるためである。また、沖縄のギンゴウカン群落に見られるように、ある種のマメ科植物は土質を窒素過多にし、そのため他の植物の侵入が困難となり、長期にわたって単独種の群落を維持する場合がある。

マメ科以外との共生的窒素固定

以下の植物は、マメ科植物と同様に窒素固定生物と共生している。共生微生物はそれぞれ異なっており、藍藻や放線菌と共生するものもある。

シロアリの体内共生菌による窒素固定

シロアリの体内共生菌には窒素を固定する種が含まれる[4]

化学的窒素固定

シュロックらによる錯体を用いた窒素固定例[5]

内燃機関や燃焼に伴う窒素酸化物の目的外生成のほか人為的にも固定され、肥料をはじめ様々な工業プロセスに使用されている。最も一般的な方法はハーバー・ボッシュ法によるものである。石灰窒素をふくむ人工肥料の生産は非常に大きな量に達しており、現在では地球生態系において最大の窒素固定源となっている。 {{see also|アンモニア]]

窒素固定の総量

全世界のアンモニアの年間生産量(2010年)は1.6億tで、そのうち8割が肥料用であると言われている[6]。生物による窒素固定は1.8億t、等の自然放電による生成と排気ガスのNOxで0.4億tと言われている[7]

その他

稲妻の語源は、雷が稲を実らせるという信仰からきているが、これは実際に雷よって窒素酸化物が生成され収穫量が増えたため、という説がある。同様に落雷したほだ木ではきのこの収穫量が増えると古代ギリシアプルタルコスの著作である『食卓歓談集』にも記述される程、古来より言われてきた[8]

脚注

  1. ^ アン・マクズラック著、西田美緒子訳 『細菌が世界を支配する』 p186、白楊社、2012年9月30日、ISBN978-4-8269-0166-6
  2. ^ F. H. Grau and P. W. Wilson (1962). “Physiology of nitrogen fixation by Bacillus polymyxa. J. Bacteriol. 83 (3): 490–496. http://jb.asm.org/content/83/3/490. 
  3. ^ 吉田重方、松本博紀、トルンブイチ、草地雑草根におけるニトロゲナーゼ活性 日本草地学会誌 Vol.31 (1985) No.3 p.358-361, doi:10.14941/grass.31.358
  4. ^ 腸内微生物との共生関係の不思議
  5. ^ Dmitry V. Yandulov and Richard R. Schrock, "Catalytic Reduction of Dinitrogen to Ammonia at a Single Molybdenum Center", Science 301, 76(2003). doi:10.1126/science.1085326
  6. ^ [1][リンク切れ]
  7. ^ [2][出典無効]
  8. ^ プルタルコス柳沼重剛「食卓歓談集」、岩波書店、2001年12月14日、ISBN 9784003366431 

関連項目