藍藻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
| ?藍色植物門 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
Oscillatoria sp. (ユレモの一種) |
||||||
| 地質時代 | ||||||
| 先カンブリア時代 - 現代 | ||||||
| 分類 | ||||||
|
||||||
| 和名 | ||||||
| 藍藻 | ||||||
| 下位分類(綱~目) | ||||||
※分類は現在過渡期にあり混乱している |
藍藻(らんそう)はシアノバクテリア(藍色細菌)とも呼ばれる真正細菌の一群であり、光合成によって酸素を生み出すという特徴を持つ。単細胞で浮遊するもの、少数細胞の集団を作るもの、糸状に細胞が並んだ構造を持つものなどがある。また、ネンジュモなどの一部のものは寒天質に包まれて肉眼的な集団を形成する。
目次 |
[編集] 特徴
藍藻類はその名の通り、青っぽい緑色、つまり藍色をした藻類である。あまり大きなものはなく、多くが顕微鏡的な大きさである。単細胞単体のもの、少数細胞が群体的に集まったもの、細胞列が糸状に並んだものなどがある。糸状細胞には、偽分枝するものと真の分枝をするもの(スティゴネマ類)がある。細胞外に寒天質の鞘などを分泌してより大きな集団を作る例も知られる。また、一部には休眠細胞(アキネート)、連鎖体(ホルモゴニア)、異質細胞(ヘテロシスト)、内生胞子(baeocyte)などの細胞の分化が見られる。
細胞には細胞壁(ペプチドグリカン)と脂質を含んだ外膜があり、一応グラム陰性菌に分類できる。鞭毛を持つものはないが、線毛をもち単細胞で運動するものや糸状細胞が活発に滑走運動を行うものがある。ユレモの名はこれに由来するが、その運動の機構は十分にはわかっていない。窒素固定をするものがあり、ヘテロシストを形成してその細胞だけで窒素固定をするものと、ヘテロシストのような特別な細胞分化をせずに夜間にすべての細胞が窒素固定するものなどがある。
原核細胞であり、細胞内には他の藻類に見られるような細胞小器官を欠く。細胞内には、光合成の明反応を行うチラコイド膜、炭酸固定を行うカルボキシソーム、有機窒素の貯蔵用のシアノフィシン、リン貯蔵用のポリリン酸顆粒などが存在する。
[編集] 生態
水中に広く分布し、一部は湿った地上に発生する。 夏場に淡水で発生するアオコのなかにはシアノバクテリアが大量に発生した結果引き起こされるものもある。この中には悪臭の原因になったり毒性を持つ種も含まれる。海水に広く分布し、地球の光合成生産に大きな貢献をしている。海洋性のシネココッカスやプロクロロコッカスは、とくに暖かい海に多い。1988年に発見されたプロクロロコッカスは地球上でもっとも多い光合成生物といわれている。赤潮を起こす種類もある。
ネンジュモ属のイシクラゲなどは湿った地上に、キクラゲのような姿で発生する。食用にすることもできる。この仲間は乾燥耐性が強く、何十年も乾燥状態で休眠できるものがいる。
温泉には、好熱性の種が生息している。知られているもっとも高い増殖温度は73℃という。また、南極や北極海でも生息が知られている。
一部の種は他の生物と共生している。アナベナはアカウキクサの葉に、ネンジュモ類はソテツやツノゴケ類の配偶体などに共生して、窒素固定産物を供給している。また菌類と共生して地衣類を形成するものもある。1975年に発見されたプロクロロンはホヤと共生しており、単独の培養はまだ成功していない。
[編集] 系統
かつて植物全体が単系統と考えられていた時代には、もっとも単純な藻類と考えられた。しかし、分類学の発展から原核・真核の区別が重視されるようになると、これが別の界(あるいはドメイン)におかれるようになった。また、細胞内共生説からは藍藻は藻類の祖先型ではなく、それらが持つ葉緑体の起源であると考えられるようになり、細胞本体に関しては系統上の連続性は認められなくなった。
葉緑体のリボソームRNAの塩基配列は単系統を示し、さらにシアノバクテリアの系統樹の中に含まれる。これは、植物や二次共生藻類のすべての葉緑体の直接の祖先がシアノバクテリアであること、さらに葉緑体を生じた細胞内共生が1回だけ起きたという仮説を支持している。シアノバクテリアの系統樹によれば、もっとも古く分岐したのは、チラコイド膜をもたないGloeobacter violaceusである。また、クロロフィルbをもつプロクロロンやプロクロロコッカスなどはシアノバクテリアの系統樹内に散在している。これはクロロフィルbをもつシアノバクテリア(元は原核緑藻とも呼ばれた)の出現が進化の中で比較的新しいことを示唆している。
このような経過によって、現在では藍藻よりシアノバクテリアと呼んで細菌類の一部であることを強調することが多くなっている。細胞壁に外膜があり、グラム陰性菌ということになるが、大腸菌などを含むプロテオバクテリアとは系統的に非常に離れている。酸素非発生型の光合成細菌の光合成装置としては、光化学系Iに似た鉄硫黄クラスター型のものと、光化学系IIに似たキノン型が存在しているが、一つの種にはどちらか一方しか存在しない。したがって、シアノバクテリアの2種の光化学系は2種類の光合成細菌の融合(もしくは遺伝子の水平移動)によって生じたという説がある。
また、近年の系統解析の進展は、クロロフレクサス門(緑色非硫黄細菌)がシアノバクテリアに最も近い系統であることを示しつつある。ただし、これらの系統がどこに属すかはまだ確定的ではない。グラム陰性菌初期の系統か、グラム陽性菌の系統にむしろ近いとする報告もある。
[編集] 最初の光合成生物?
35億年前の最古の化石とされるものがシアノバクテリアに似ていることから最古の光合成生物といわれた時期もある。しかし、この化石は深海の化学合成細菌であるという。確かなストロマトライトの化石は27億年前のものである。一方 16S_rRNA系統解析では緑色非硫黄細菌がもっとも初期に分岐したとされる。さらに光合成にかかわる遺伝子の配列では紅色細菌がもっとも異なった配列を持っているという報告もある。このような知見が重なるとともに、生物間での遺伝子の移動がしばしば起こる現象であることが明らかになるにつれ(遺伝子の水平移動)、代謝経路と生物の進化とを同一に論じることが困難であると認識されるようになった。[要出典]
[編集] 光合成
植物の葉緑体と同じ酸素発生型の光合成を行う。チラコイド膜に存在するタンパク質複合体のほとんどは高等植物の葉緑体のそれとよく似ている。葉緑体との大きなちがいは、シアノバクテリアのチラコイド膜では光合成の電子伝達と酸素呼吸の電子伝達がプラストキノンなどを共有していることである。光捕集アンテナ装置として、多くの種ではフィコビリソームを、また、クロロフィルbやジビニルクロロフィルをもつ種ではPcbと呼ばれる特殊なクロロフィルa/b結合タンパク質をもつ。炭酸固定の基質として、細胞内に重炭酸イオン(HCO3--)を大量に蓄積する。カルボキシソームにはルビスコ(リブロース1,5ビスリン酸カルボキシラーゼ・オキシゲナーゼ)と炭酸脱水酵素が存在し、細胞内に蓄積した重炭酸イオンから脱水反応で二酸化炭素を生成し、ルビスコに供給している。カルボキシソームは真核藻類のピレノイドとほぼ相同な器官といえる。炭酸固定の初期産物はホスホグリセリン酸で、C3型光合成といえるが、細胞内に大量に重炭酸イオンを濃縮するためほとんど光呼吸を示さない点はC4光合成に似ている。
Gloeobacterを除く他のシアノバクテリアは細胞内にチラコイド膜をもち、光化学系複合体などはほとんどチラコイド膜に存在している。一方、原始的なGloeobacterにはチラコイド膜はなく、細胞膜上に光化学系複合体が存在し、フィコビリソームは細胞膜の内側表面に結合している。
Acaryochloris marinaというシアノバクテリアはクロロフィルaの代わりにクロロフィルdを主要な光合成色素としてもっている。光化学系Iや光化学系IIの反応中心では、クロロフィルdが酸化還元することが最近判明した。
[編集] ゲノム
多くのシアノバクテリアのゲノム情報が決定されている。最初にゲノムが決定されたのは、Synechocystis sp. PCC 6803である。これは、1996年に、かずさDNA研究所の田畑らのグループによって報告され、生物として4番目、酸素発生型光合成生物として初めてであった。この種は光合成の研究でもっともよく使われている典型的なモデル生物である。その後、田畑らのグループは、窒素固定をするAnabaena sp. PCC 7120 (2001年)、好熱性のThermosynechococcus elongats BP-1 (2002年)、チラコイド膜をもたないGloeobacter violaceus PCC 7421 (2003年)と次々と代表的な種のゲノムを決定した。平行して、海洋性のProchlorococcusやSynechococcusなどが米や欧州の研究グループによって報告された(2003年以降)。さらに米・JGIや多くの機関で、モデル生物や生態学的に重要な種のゲノムが続々と決定されている。ゲノムサイズは小さいものはProchlorococcus類で180万塩基対、大きいものはNostoc punctiformeでプラスミドを含めて900万塩基対を越える。
[編集] 細胞分化
糸状性のものはさまざま細胞分化を示す高等な真正細菌といえる。異質細胞(heterocyst)は酸素がある条件で窒素固定を行うために分化しており、一度これに分化すると、再び栄養細胞には戻れない。また、窒素固定のための遺伝子を発現するために、染色体の不可逆的な組換をするものもいる。異質細胞の細胞壁は特別に肥厚し、酸素を発生する光化学系Ⅱを失っており、酸素に弱い窒素固定酵素(nitrogenase)を酸素から守っている。
休眠細胞(akinete)は細胞壁が肥厚して、休眠する。
連鎖体(単数hormogonium、複数hormogonia)は小型の細胞が連なったもので、寒天などの物体表面上をなめらかに移動する滑走運動を示す。光合成色素は少なく、細胞分裂はしない。新しい培地に植え継いだときなどに糸状性の栄養細胞から一時的に分化し、1日ほど運動した後、運動能を失い、通常の栄養細胞に戻り、増殖を始める。植物と共生するNostoc punctiformeの場合、植物の抽出物が連鎖体への分化を誘導し、新しい共生相手を探すことに貢献する。
[編集] 利用
[編集] 有機肥料
藍藻は窒素固定能力を持つため、緑肥(有機肥料の一種)に使おうという向きもある。水田で緑肥に使われることがあるアカウキクサ類は葉の内部にアナベナを共生させている。
[編集] 食用
一部の藍藻は、食用になり、伝統的に世界各地で食材とされてきた。アフリカや中南米の塩基性の塩湖で採取されて食用にされてきたスピルリナ(学名はArthrospira、真正のSpirulinaはこれとは別種である)がよく知られるが、日本や中国といった東アジアでも食材としての利用が散見される。
万葉集に「あしつき」という食材を採る女たちの歌がある。
雄神河 くれなゐ匂ふ をとめらし あしつきとると 瀬に立たすらし
この「あしつき」とは、河川のヨシなどの茎に付着生育するネンジュモ目の藍藻で、今日でもアシツキ、あるいはカワタケの和名で呼ばれる(近縁のイシクラゲの項参照のこと)。現在の日本でも、クロオコッカス目のスイゼンジノリは懐石料理の高級食材として養殖され、その他の一部の藍藻も食べる地域がある。ネンジュモ目の髪菜は内陸アジアのステップ地帯の地表に生育し、中華料理の高級食材であるが、乱獲による環境破壊により今日では採取が禁止されている。ただし、藍藻には有毒のものも多いため、素人判断の同定でむやみに食用とすることは危険である。
[編集] アクアリウムにおける藍藻
アクアリウムにおいては、水槽のガラス壁面に沿った形で繁殖する事が多い。富栄養化が進んでしまった水槽や硝化バクテリアのバランスが崩れた(硝酸が多くなる)水槽でよく発生する。外見も悪く悪臭を伴い、放置すると速いスピードで水槽全体に拡大して水草などを覆って台無しにしてしまうため、目の仇にされる。
対策としてメダカ目の魚に食べさせることがある。しかし他の藻類とは違い草食魚が興味を示さない場合も多い。藍藻を除去する薬剤も販売されているが、一時的な効果しかなく水草や魚にとっても有毒であるので安易な使用は薦められない。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 日本生態学会編『生態学入門』(2004年8月26日、東京化学同人) ISBN 4-8079-0598-8

