「オイラーの公式」の版間の差分

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[[画像:Euler's formula.svg|thumb|オイラーの公式の図形的な表現。複素数平面において、複素数 {{mvar|e{{sup|iφ}}}} は、単位円周上の偏角 {{mvar|φ}} の点を表す。]]
[[数学]]の[[複素解析]]における'''オイラーの公式'''(オイラーのこうしき、{{lang-en-short|Euler's formula}})とは、[[複素指数函数]]と[[三角関数]]の間に成り立つ、以下の[[恒等式]]のことである:
:<math>e^{i\theta} = \cos\theta +i\sin\theta</math>
ここで {{math|''e''{{sup|'''&middot;'''}}}}<ref group="注">{{math|''e'' {{=}} 2.718281828…}} は'''[[ネイピア数]]'''と呼ばれる。</ref>は指数関数、{{mvar|i}} は[[虚数単位]]、{{math|cos '''&middot;''', sin '''&middot;'''}} はそれぞれ余弦関数、正弦関数([[三角関数]])である。この等式は、任意の[[複素数]] {{mvar|θ}} に対して成り立つが、特に {{mvar|θ}} が実数である場合がよく使われる。{{mvar|θ}} が実数のとき、{{mvar|e{{sup|iθ}}}} は、[[複素数の絶対値|絶対値]] {{math|1}}, [[複素数の偏角|偏角]] {{mvar|θ}}(単位は[[ラジアン]])の複素数に等しい。

公式の名前は18世紀の数学者[[レオンハルト・オイラー]]に因むが、最初の発見者は[[ロジャー・コーツ]]とされる。コーツは[[1714年]]に
:<math> \log\left(\cos x + i\sin x \right)=ix \ </math>
を発見した<ref name="Stillwell">{{Cite book |author=John Stillwell |title=Mathematics and Its History |publisher=Springer |year=2002 |url=http://books.google.com/books?id=V7mxZqjs5yUC&pg=PA315}}</ref>が、三角関数の周期性による対数関数の[[多価関数|多価性]]を見逃した。

1740年頃オイラーはこの対数関数の形での公式から現在オイラーの公式の名で呼ばれる指数関数での形に注意を向けた。指数関数と三角関数の級数展開を比較することによる証明が得られ出版されたのは1748年のことだった<ref name="Stillwell"/>。

この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、[[電気工学]]・[[物理学]]などで現れる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者の[[リチャード・ファインマン]]はこの公式を評して''「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」'' {{sfn|リチャード・ファインマン|1977|pp=294, 307}}{{sfn|吉田武|2010}}だと述べている。

オイラーの公式は、複素数の極形式を簡明な表示に導く。すなわち、複素数の極形式 {{math2|''z'' {{=}} ''r''(cos ''θ'' + ''i'' sin ''θ'')}} は {{math2|''z'' {{=}} ''re{{sup|iθ}}''}} に等しい。また、特に、{{math2|''θ'' {{=}} {{π}}}} のとき、
:<math>e^{i\pi} +1=0</math>
が導かれる。この関係式は'''[[オイラーの等式]]''' {{en|(Euler's identity)}} と呼ばれる。

オイラーの公式は、余弦関数、正弦関数の[[双曲線関数]]による表示を導く:
:<math>\cos \theta = \cosh i \theta</math>
:<math>\sin \theta = \tfrac{1}{i} \sinh i \theta</math>
応用上では、オイラーの公式により三角関数を複素指数関数に置き換えることで、[[微分方程式]]や[[フーリエ級数]]などが利用しやすくなる。

== 指数関数と三角関数 ==
実関数としての[[指数関数]] {{math|''e''{{sup|''x''}}}}, [[三角関数]] {{math|cos ''x''}}, {{math|sin ''x''}} をそれぞれ[[テイラー展開|マクローリン展開]]すると
{{numBlk|:|<math>e^x = \textstyle\sum\limits_{n=0}^{\infin} \dfrac{x^n}{n!} \quad (x \in \mathbb{R} )</math>|{{equationRef|Macl1|1}}}}
{{numBlk|:|<math>\cos x = \textstyle\sum\limits_{n=0}^{\infin} \dfrac{(-1)^n}{(2n)!} \, x^{2n} \quad (x \in \mathbb{R} )</math>|{{equationRef|Macl2|2}}}}
{{numBlk|:|<math>\sin x = \textstyle\sum\limits_{n=0}^{\infin} \dfrac{(-1)^n}{(2n+1)!} \, x^{2n+1} \quad (x \in \mathbb{R} )</math>|{{equationRef|Macl3|3}}}}
となる。これらの[[冪級数]]の[[収束半径]]が {{math|∞}} であることは、[[ダランベールの収束判定法]]によって確認することができる<ref group="注">冪級数 <math>\scriptstyle \sum\limits_{n=0}^\infty a_n x^n</math> の収束半径 {{mvar|R}} は、極限
:<math>\scriptstyle r=\lim\limits_{n \to \infty} \left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right|</math>
が存在すれば、{{math|''R'' {{=}} ''r''}} である。(極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。)
{{mvar|e{{sup|x}}}} の収束半径は
:<math>\begin{align}\scriptstyle
\lim\limits_{n\to\infty} \left|\frac{1/n!}{1/(n+1)!} \right|
&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} (n+1) \\ \scriptstyle
&\scriptstyle = \infty
\end{align}</math>
となる。{{math|cos ''x''}} の収束半径は、{{math|''x''{{sup|2}}}} についての級数と考えたときの収束半径に等しい。
:<math>\begin{align} \scriptstyle
\lim\limits_{n\to\infty} \left| \frac{(-1)^n/(2n)!}{(-1)^{n+1}/\{ 2(n+1) \}!} \right|
&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} \frac{\{2(n+1)\}!}{(2n)!} \\ \scriptstyle
&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} (2n+2)(2n+1) \\ \scriptstyle
&\scriptstyle = \infty
\end{align}</math>
{{math|sin ''x''}} の収束半径は、同様に
:<math>\begin{align} \scriptstyle
\lim\limits_{n\to\infty} \left| \frac{(-1)^n/(2n+1)!}{(-1)^{n+1}/\{ 2(n+1)+1 \}!} \right|
&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} \frac{(2n+3)!}{(2n+1)!} \\ \scriptstyle
&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} (2n+3)(2n+2) \\ \scriptstyle
&\scriptstyle =\infty
\end{align}</math>
以上で {{equationNote|Macl1|(1)}}, {{equationNote|Macl2|(2)}}, {{equationNote|Macl3|(3)}} の右辺の収束半径が {{math|∞}} であることが証明された。</ref>。従ってこれらの級数は、変数 {{mvar|x}} を複素数全体に拡張することができ、[[コンパクト一様収束|広義一様収束]]する。つまりこれらの級数によって表される関数は[[整関数]]である<ref group="注">これらは多項式でないので超越整関数であり、[[無限遠点]]を[[真性特異点]]に持つ</ref>。[[解析接続]]すると、[[一致の定理]]より、複素数全体での[[正則関数]]としての拡張は一意であり、この収束冪級数で表される。

ここで、 {{mvar|e{{sup|x}}}} の {{mvar|x}} を {{mvar|ix}} に置き換え、{{mvar|e{{sup|ix}}}} の冪級数が絶対収束することより級数の項の順序は任意に交換可能であることを考慮すれば
:<math>\begin{align}
e^{ix}
&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^n}{n!} x^n \\
&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^{2n}}{(2n)!}x^{2n} + \sum\limits_{n=0}^{\infin} \dfrac{i^{2n+1}}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\
&= \textstyle\sum\limits_{n=0}^{\infin} \dfrac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} + i \sum\limits_{n=0}^{\infin} \dfrac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\
&= \cos x + i\sin x
\end{align}</math>
が得られる。

この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、[[複素数]]の世界では密接に結びついていることを表している。例えば、三角関数の加法定理は、指数法則 {{math|''e{{sup|a}}e{{sup|b}}'' {{=}} ''e''{{sup|''a''+''b''}}}}<ref group="注">
:<math>\begin{align}\scriptstyle
e^{a+b}
&\scriptstyle = \sum\limits_{n=0}^{\infin} \frac{(a+b)^n}{n!} \\
&\scriptstyle = \sum\limits_{n=0}^{\infin} \frac{1}{n!} \sum\limits_{r=0}^n \frac{n!}{r!(n-r)!} a^r b^{n-r} \\
&\scriptstyle = \sum\limits_{n=0}^{\infin} \sum\limits_{r=0}^n \frac{a^r b^{n-r}}{r!(n-r)!} \\
&\scriptstyle = \sum\limits_{r=0}^{\infin} \sum\limits_{n=r}^{\infin} \frac{a^r b^{n-r}}{r!(n-r)!} \\
&\scriptstyle = \sum\limits_{r=0}^{\infin} \frac{a^r}{r!} \sum\limits_{n=r}^{\infin} \frac{b^{n-r}}{(n-r)!} \ (m \, \equiv \, n-r) \\
&\scriptstyle = \sum\limits_{r=0}^{\infin} \frac{a^r}{r!} \sum\limits_{m=0}^{\infin} \frac{b^m}{m!} \\
&\scriptstyle = e^a e^b \quad //
\end{align}</math></ref>に対応していることが分かる<ref name="複素関数を学ぶ人のために" />。

オイラーの公式により、三角関数を複素指数関数で表すことができる。余弦関数、正弦関数は
:<math>\begin{align}
\cos z &= \frac{e^{iz} + e^{-iz}}{2}, \\
\sin z &= \frac{e^{iz} -e^{-iz}}{2i}
\end{align}</math>
となる。

== 証明 ==
== 証明 ==
この公式には、[[#指数関数と三角関数|上記の冪級数展開による証明]]の他にも異なる幾通りかの証明が知られている。ここにいくつかの例を挙げる。ただし、以下の[[微分]]を用いた証明については、実変数を複素数変数におき換えても、これらの議論が成立していることを、別途で証明する必要がある([[複素解析]]論)。
この公式には、[[#指数関数と三角関数|上記の冪級数展開による証明]]の他にも異なる幾通りかの証明が知られている。ここにいくつかの例を挙げる。ただし、以下の[[微分]]を用いた証明については、実変数を複素数変数におき換えても、これらの議論が成立していることを、別途で証明する必要がある([[複素解析]]論)。

=== 微分による証明 ===
{{math proof|
関数の[[微分]]を用いた証明を示す。実変数 {{mvar|x}} の関数 {{math|''f''&thinsp;(''x'')}} を次のように定義する。
{{numBlk|:|<math>f(x) \overset{\underset{\mathrm{def}}{}}{=} (\cos x-i\sin x)\cdot e^{ix}.</math>|{{equationRef|D1|1}}}}
{{math|''f''&thinsp;(''x'')}} を形式的に微分すると以下のようになる。
:<math>
\begin{align}
f'(x)&= (\cos x-i\sin x)'\cdot e^{ix} +(\cos x-i\sin x)\cdot (e^{ix})' \qquad \mbox{(Leibniz's rule)} \\
&= (-\sin x-i\cos x)\cdot e^{ix} +(\cos x-i\sin x)\cdot ie^{ix} \\
&= \left\{(-\sin x-i\cos x) +(i\cos x + \sin x)\right\}\cdot e^{ix} \qquad (i^2 = -1)\\
&= 0
\end{align}</math>
したがって、すべての実数 {{mvar|x}} について {{math|''f{{'}}''&thinsp;(''x'') {{=}} 0}} が成り立つ。これは {{math|''f''&thinsp;(''x'')}} が[[定数関数]]であることと[[同値]]である。よって {{math|''f''&thinsp;(''x'') {{=}} ''f''&thinsp;(0)}} より、
{{numBlk|:|<math>f(x)=(\cos 0-i\sin 0)\cdot e^{i\cdot 0}=1</math>|{{equationRef|D2|2}}}}
となる。{{equationNote|D2|(2)}} を {{equationNote|D1|(1)}} に代入すると次のようになる。
{{numBlk|:|<math>(\cos x-i\sin x)\cdot e^{ix} =1.</math>|{{equationRef|D3|3}}}}
ここで {{equationNote|D3|(3)}} の両辺に、{{math|(cos&thinsp;''x'' - ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x'')}} の[[複素共役]] {{math|(cos&thinsp;''x'' + ''i''&thinsp;sin&thinsp;''x'')}} を掛ければ、三角関数に関するピタゴラスの定理 {{math|sin{{sup|2}}''x'' + cos{{sup|2}}''x'' {{=}} 1}} よりオイラーの公式が得られる<ref name="複素数の取り扱い" />。
:<math>e^{ix} =\cos x+i\sin x.</math>
|drop=no}}{{math proof|
別の証明として、実変数 {{mvar|x}} の関数 {{math|''f''&thinsp;(''x'')}} を次のように定義する。
{{numBlk|:|<math>f(x) \overset{\underset{\mathrm{def}}{}}{=} (\cos x+i\sin x)\cdot e^{-ix}.</math>|{{equationRef|D4|4}}}}
{{math|''f''&thinsp;(''x'')}} を ''x'' について微分すると以下のようになる。
:<math>
\begin{align}
f'(x)&= (\cos x+i\sin x)'\cdot e^{-ix} +(\cos x+i\sin x)\cdot (e^{-ix})' \qquad \mbox{(Leibniz's rule)} \\
&= (-\sin x+i\cos x)\cdot e^{-ix} -(\cos x+i\sin x)\cdot ie^{-ix} \\
&= (-\sin x+i\cos x-i\cos x+\sin x)\cdot e^{-ix} \qquad (i^2 = -1)\\
&= 0.
\end{align}</math>
したがって、すべての実数 {{mvar|x}} について {{math|''f{{'}}''&thinsp;(''x'') {{=}} 0}} が成り立つ。
ゆえに {{math|''f''&thinsp;(''x'')}} は定数である。
よって {{math|''f''&thinsp;(''x'') {{=}} ''f''&thinsp;(0)}} より
{{numBlk|:|<math>f(x)=(\cos 0+i\sin 0)\cdot e^{-i\cdot 0}=1</math>|{{equationRef|D5|5}}}}
が成り立つ。
{{equationNote|D5|(5)}} を {{equationNote|D4|(4)}} に代入すると
:<math>(\cos x+i\sin x)\cdot e^{-ix} =1</math>
が導出される。この両辺に {{math|''e''{{sup|''ix''}}}} を掛け、任意の複素数 ''a'', ''b'' に対して成り立つ指数法則 {{math|''e''{{sup|''a''}}''e''{{sup|''b''}} {{=}} ''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} を利用すれば<ref name="複素関数を学ぶ人のために"/>
:<math>\begin{align}
e^{ix}
&=(\cos x+i\sin x)\cdot e^{ix}e^{-ix}\\
&=(\cos x+i\sin x)\cdot e^{(ix-ix)}\\
&=(\cos x+i\sin x)\cdot e^0\\
&=(\cos x+i\sin x)\cdot 1.
\end{align}</math>
以上より
:<math>e^{ix} =\cos x+i\sin x.</math>{{sfn|藤田宏|1993}}
|drop=no}}


=== 微分方程式による証明 ===
=== 微分方程式による証明 ===

2021年2月4日 (木) 14:44時点における版

オイラーの公式の図形的な表現。複素数平面において、複素数 e は、単位円周上の偏角 φ の点を表す。

数学複素解析におけるオイラーの公式(オイラーのこうしき、: Euler's formula)とは、複素指数函数三角関数の間に成り立つ、以下の恒等式のことである:

ここで e·[注 1]は指数関数、i虚数単位cos ·, sin · はそれぞれ余弦関数、正弦関数(三角関数)である。この等式は、任意の複素数 θ に対して成り立つが、特に θ が実数である場合がよく使われる。θ が実数のとき、e は、絶対値 1, 偏角 θ(単位はラジアン)の複素数に等しい。

公式の名前は18世紀の数学者レオンハルト・オイラーに因むが、最初の発見者はロジャー・コーツとされる。コーツは1714年

を発見した[1]が、三角関数の周期性による対数関数の多価性を見逃した。

1740年頃オイラーはこの対数関数の形での公式から現在オイラーの公式の名で呼ばれる指数関数での形に注意を向けた。指数関数と三角関数の級数展開を比較することによる証明が得られ出版されたのは1748年のことだった[1]

この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学物理学などで現れる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」 [2][3]だと述べている。

オイラーの公式は、複素数の極形式を簡明な表示に導く。すなわち、複素数の極形式 z = r(cos θ + i sin θ)z = re に等しい。また、特に、θ = π のとき、

が導かれる。この関係式はオイラーの等式 (Euler's identity) と呼ばれる。

オイラーの公式は、余弦関数、正弦関数の双曲線関数による表示を導く:

応用上では、オイラーの公式により三角関数を複素指数関数に置き換えることで、微分方程式フーリエ級数などが利用しやすくなる。

指数関数と三角関数

実関数としての指数関数 ex, 三角関数 cos x, sin x をそれぞれマクローリン展開すると

(1)
(2)
(3)

となる。これらの冪級数収束半径 であることは、ダランベールの収束判定法によって確認することができる[注 2]。従ってこれらの級数は、変数 x を複素数全体に拡張することができ、広義一様収束する。つまりこれらの級数によって表される関数は整関数である[注 3]解析接続すると、一致の定理より、複素数全体での正則関数としての拡張は一意であり、この収束冪級数で表される。

ここで、 exxix に置き換え、eix の冪級数が絶対収束することより級数の項の順序は任意に交換可能であることを考慮すれば

が得られる。

この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、複素数の世界では密接に結びついていることを表している。例えば、三角関数の加法定理は、指数法則 eaeb = ea+b[注 4]に対応していることが分かる[4]

オイラーの公式により、三角関数を複素指数関数で表すことができる。余弦関数、正弦関数は

となる。

証明

この公式には、上記の冪級数展開による証明の他にも異なる幾通りかの証明が知られている。ここにいくつかの例を挙げる。ただし、以下の微分を用いた証明については、実変数を複素数変数におき換えても、これらの議論が成立していることを、別途で証明する必要がある(複素解析論)。

微分による証明

微分方程式による証明

2階線型微分方程式による証明

ロンスキー行列による証明

ド・モアブルの定理による証明

関連項目

脚注

参照

注釈

  1. ^ e = 2.718281828…ネイピア数と呼ばれる。
  2. ^ 冪級数 の収束半径 R は、極限
    が存在すれば、R = r である。(極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。) ex の収束半径は
    となる。cos x の収束半径は、x2 についての級数と考えたときの収束半径に等しい。
    sin x の収束半径は、同様に
    以上で (1), (2), (3) の右辺の収束半径が であることが証明された。
  3. ^ これらは多項式でないので超越整関数であり、無限遠点真性特異点に持つ
  4. ^
  5. ^ i2 = −1 より i = −1/i であることを利用した。
  6. ^ e0 = 1 および sin 0 = 0, cos 0 = 1 を利用した。
  7. ^ cos x + i sin x は関数として 0 でないので。
  8. ^ 三角関数の半角公式を利用した。

参考文献

  • リチャード・ファインマン 著、坪井忠二 訳『力学』 I、岩波書店〈ファインマン物理学〉、1977年、294, 307頁。ISBN 4-00-007711-2OCLC 47339138 
  • 吉田武『オイラーの贈物—人類の至宝 e = −1 を学ぶ』(新装版)東海大学出版会、2010年1月1日。ISBN 978-448601863-6OCLC 502982012 
  • 小笠英志『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』ベレ出版、2011年1月20日、165-171頁。ISBN 978-486064-267-9 
  • 藤田宏『応用数学 (放送大学教材)』放送大学教育振興会、1993年。ISBN 978-4595-56532-8 
  • Dunham, William (1999). Euler: The Master of Us All. The Mathematical Association of America. ISBN 978-088385328-3. http://paginas.fisica.uson.mx/horacio.munguia/Personal/Documentos/Libros/Euler%20The_Master%20of%20Us.pdf 
  • 杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会〈基礎数学2〉、1980年3月31日。ISBN 978-4-13-062005-5 
  • 田村二郎『解析関数(新版)』裳華房〈数学選書3〉、1983年11月15日。ISBN 978-4-7853-1307-4 

外部リンク