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[[数学]]の[[複素解析]]における'''オイラーの公式'''(オイラーのこうしき、{{lang-en-short|Euler's formula}})とは、[[複素指数函数]]と[[三角関数]]の間に成り立つ、以下の[[恒等式]]のことである: |
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[[数学]]の[[複素解析]]における'''オイラーの公式'''(オイラーのこうしき、{{lang-en-short|Euler's formula}})とは、[[複素指数函数]]と[[三角関数]]の間に成り立つ、以下の[[恒等式]]のことである: |
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:<math>e^{i\theta} = \cos\theta +i\sin\theta</math> |
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:<math>e^{i\theta} = \cos\theta +i\sin\theta</math> |
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ここで {{math|''e''{{sup|'''·'''}}}} は指数関数、{{mvar|i}} は[[虚数単位]]、{{math|cos '''·''', sin '''·'''}} はそれぞれ余弦関数、正弦関数である<ref group="注">指数関数 {{math|''e''{{sup|'''·'''}}}} は[[冪乗|累乗]]を拡張したもので、複素数 {{math2|''x'', ''y''}} について {{math|''e{{sup|x}}'' × ''e{{sup|y}}'' {{=}} e{{sup|''x''+''y''}}}} という関係が成り立つ。{{math|''e'' {{=}} ''e''{{sup|1}} {{=}} 2.718281828…}} は'''自然対数の底'''あるいは'''[[ネイピア数]]'''と呼ばれる。<br />虚数単位 {{mvar|i}} は {{math|''i''{{sup|2}} {{=}} ''i'' × ''i'' {{=}} −1}} を満たす複素数である。<br />余弦関数 {{math|cos '''·'''}} および正弦関数 {{math|sin '''·'''}} は三角関数の一種である。正弦関数 {{math|sin ''θ''}} は、[[直角三角形]]の[[斜辺]]とその三角形の変数 {{mvar|θ}} に対応する角度を持つ[[鋭角]]の[[対辺]](正弦)の長さの比を表す。余弦関数 {{math|cos ''θ''}} はもう一方の鋭角(余角)の対辺と斜辺の長さの比を表す。単位円(半径の長さを 1 とする円)の中心を原点とする直交座標系をとったとき、単位円上の点を表す {{math2|''x'', ''y''}} 座標はそれぞれ {{math|cos''θ''}}, {{math|sin ''θ''}} に等しい({{mvar|θ}} は円の中心と円周上の点を結ぶ直線と、{{mvar|x}} 軸のなす角の大きさに対応する)。<br />文献によっては、指数関数は、{{en|<u>exp</u>onent}}(指数)から3字取って {{math|exp ''x'' ({{=}} ''e''{{sup|''x''}})}} と表される。また虚数単位には {{mvar|i}} でなく {{mvar|j}} を用いることがある。</ref>。任意の[[複素数]] {{mvar|θ}} に対して成り立つ等式であるが、特に {{mvar|θ}} が実数である場合がよく使われる。{{mvar|θ}} が実数のとき、{{math|''e''{{sup|''iθ''}}}} は、[[複素数の絶対値|絶対値]] {{math|1}}, [[複素数の偏角|偏角]] {{mvar|θ}}(単位は[[ラジアン]])の複素数に等しい。 |
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ここで {{math|''e''{{sup|'''·'''}}}}<ref group="注">{{math|''e'' {{=}} 2.718281828…}} は'''[[ネイピア数]]'''と呼ばれる。</ref>は指数関数、{{mvar|i}} は[[虚数単位]]、{{math|cos '''·''', sin '''·'''}} はそれぞれ余弦関数、正弦関数([[三角関数]])である。任意の[[複素数]] {{mvar|θ}} に対して成り立つ等式であるが、特に {{mvar|θ}} が実数である場合がよく使われる。{{mvar|θ}} が実数のとき、{{math|''e''{{sup|''iθ''}}}} は、[[複素数の絶対値|絶対値]] {{math|1}}, [[複素数の偏角|偏角]] {{mvar|θ}}(単位は[[ラジアン]])の複素数に等しい。 |
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公式の名前は18世紀の数学者[[レオンハルト・オイラー]]に因むが、最初の発見者は[[ロジャー・コーツ]]とされる。コーツは[[1714年]]に |
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公式の名前は18世紀の数学者[[レオンハルト・オイラー]]に因むが、最初の発見者は[[ロジャー・コーツ]]とされる。コーツは[[1714年]]に |
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オイラーの公式は、複素数の極形式を簡明な表示に導く。すなわち、複素数の極形式 {{math2|''z'' {{=}} ''r''(cos ''θ'' + ''i'' sin ''θ'')}} は {{math2|''z'' {{=}} ''re{{sup|θ}}''}} に等しい。また、特に、{{math2|''θ'' {{=}} {{π}}}} のとき、 |
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オイラーの公式は、複素数の極形式を簡明な表示に導く。すなわち、複素数の極形式 {{math2|''z'' {{=}} ''r''(cos ''θ'' + ''i'' sin ''θ'')}} は {{math2|''z'' {{=}} ''re{{sup|θ}}''}} に等しい。また、特に、{{math2|''θ'' {{=}} {{π}}}} のとき、 |
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:<math>e^{i\pi} +1=0</math> |
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:<math>e^{i\pi} +1=0</math> |
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が導かれる。この関係式は'''[[オイラーの等式]]''' {{en|(Euler's identity)}} と呼ばれる<ref group="注">三角関数の周期性(従って複素指数関数の周期性)により、オイラーの等式が成り立つのは {{math|''θ'' {{=}} {{π}}}} に限らない。すなわち、任意の整数 {{mvar|z}} について {{math|''θ'' {{=}} {{π}} + 2{{π}}''z'' {{=}} 2{{π}}(''z'' + {{sfrac|1|2}})}} は {{math|''e''{{sup|''iθ''}} {{=}} −1}} を満たす。</ref>。 |
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が導かれる。この関係式は'''[[オイラーの等式]]''' {{en|(Euler's identity)}} と呼ばれる。 |
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オイラーの公式は、余弦関数、正弦関数の[[双曲線関数]]による表示を導く: |
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オイラーの公式は、余弦関数、正弦関数の[[双曲線関数]]による表示を導く: |
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\lim\limits_{n\to\infty} \left| \frac{(-1)^n/(2n+1)!}{(-1)^{n+1}/\{2(n+1)+1\}!} \right| |
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\lim\limits_{n\to\infty} \left| \frac{(-1)^n/(2n+1)!}{(-1)^{n+1}/\{2(n+1)+1\}!} \right| |
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&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} \frac{(2n+3)!}{(2n+1)!} \\ \scriptstyle |
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&\scriptstyle = \lim\limits_{n\to\infty} \frac{(2n+3)!}{(2n+1)!} \\ \scriptstyle |
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&\scriptstyle = \lim_{n \to \infty} (2n+3)(2n+2) \\ \scriptstyle |
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&\scriptstyle = \lim\limits_{n \to \infty} (2n+3)(2n+2) \\ \scriptstyle |
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&\scriptstyle =\infty |
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&\scriptstyle =\infty |
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\end{align}</math> |
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以上で {{equationNote|Macl1|(1)}}, {{equationNote|Macl2|(2)}}, {{equationNote|Macl3|(3)}} の右辺の収束半径が {{math|∞}} であることが証明された。</ref>。従ってこれらの級数は、変数 {{mvar|x}} を複素数全体に拡張することができ、[[コンパクト一様収束|広義一様収束]]する。つまりこれらの級数によって表される関数は[[整関数]]である<ref group="注">これらは多項式でないので超越整関数であり、[[無限遠点]]を[[真性特異点]]に持つ</ref>。[[解析接続]]すると、[[一致の定理]]より、複素数全体での正則関数としての拡張は一意であり、この収束[[冪級数]]で表される。 |
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以上で {{equationNote|Macl1|(1)}}, {{equationNote|Macl2|(2)}}, {{equationNote|Macl3|(3)}} の右辺の収束半径が {{math|∞}} であることが証明された。</ref>。従ってこれらの級数は、変数 {{mvar|x}} を複素数全体に拡張することができ、[[コンパクト一様収束|広義一様収束]]する。つまりこれらの級数によって表される関数は[[整関数]]である<ref group="注">これらは多項式でないので超越整関数であり、[[無限遠点]]を[[真性特異点]]に持つ</ref>。[[解析接続]]すると、[[一致の定理]]より、複素数全体での正則関数としての拡張は一意であり、この収束[[冪級数]]で表される。 |
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ここで、 {{math|''e''{{sup|''x''}}}} の {{mvar|x}} を {{mvar|ix}} に置き換え、{{math|''e''{{sup|''ix''}}}} の冪級数が絶対収束するために級数の項の順序は任意に交換可能であることを考慮すれば |
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ここで、 {{math|''e''{{sup|''x''}}}} の {{mvar|x}} を {{mvar|ix}} に置き換え、{{math|''e''{{sup|''ix''}}}} の冪級数が絶対収束することより級数の項の順序は任意に交換可能であることを考慮すれば |
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:<math>\begin{align} |
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:<math>\begin{align} |
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e^{ix} |
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e^{ix} |
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&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^n}{n!} x^n \\ |
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&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^n}{n!} x^n \\ |
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&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^{2n}}{(2n)!}x^{2n} + \sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^{2n+1}}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\ |
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&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^{2n}}{(2n)!}x^{2n} + \sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{i^{2n+1}}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\ |
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&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} + i \sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1} |
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&= \textstyle\sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} + i \sum\limits^{\infin}_{n=0} \dfrac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\ |
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⚫ |
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\end{align}</math> |
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\end{align}</math> |
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が成り立つ。この式と三角関数の冪級数展開を比較すれば |
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:<math>e^{ix} = \cos x + i\sin x </math> |
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が得られる。 |
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が得られる。 |
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この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、[[複素数]]の世界では密接に結びついていることを表している。 |
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この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、[[複素数]]の世界では密接に結びついていることを表している。例えば、三角関数の加法定理は、指数法則 {{math|''e{{sup|a}}e{{sup|b}}'' {{=}} ''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} に対応していることが分かる<ref name="複素関数を学ぶ人のために" /><ref group="注">{{math|''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} を冪級数で表し、各項を[[二項定理|二項展開]]し、展開した項を改めて整理すれば、指数法則 {{math|''e''{{sup|''a'' + ''b''}} {{=}} ''e{{sup|a}}e{{sup|b}}''}} を導出できる。 |
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たとえば、三角関数の[[三角関数#加法定理|加法定理]]は、指数法則 {{math|''e''{{sup|''a''}}''e''{{sup|''b''}} {{=}} ''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} に対応していることが分かる<ref name="複素関数を学ぶ人のために" /><ref group="注">{{math|''e''{{sup|''a'' + ''b''}}}} を冪級数で表し、各項を[[二項定理|二項展開]]し、展開した項を改めて整理すれば、指数法則 {{math|''e''{{sup|''a'' + ''b''}} {{=}} ''e''{{sup|''a''}}''e''{{sup|''b''}}}} を導出できる。 |
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:<math>\begin{align}\scriptstyle |
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:<math>\begin{align}\scriptstyle |
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e^{a+b} |
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e^{a+b} |
数学の複素解析におけるオイラーの公式(オイラーのこうしき、英: Euler's formula)とは、複素指数函数と三角関数の間に成り立つ、以下の恒等式のことである:
ここで e·[注 1]は指数関数、i は虚数単位、cos ·, sin · はそれぞれ余弦関数、正弦関数(三角関数)である。任意の複素数 θ に対して成り立つ等式であるが、特に θ が実数である場合がよく使われる。θ が実数のとき、eiθ は、絶対値 1, 偏角 θ(単位はラジアン)の複素数に等しい。
公式の名前は18世紀の数学者レオンハルト・オイラーに因むが、最初の発見者はロジャー・コーツとされる。コーツは1714年に
を発見した[1]が、三角関数の周期性による対数関数の多価性を見逃した。
1740年頃オイラーはこの対数関数の形での公式から現在オイラーの公式の名で呼ばれる指数関数での形に注意を向けた。指数関数と三角関数の級数展開を比較することによる証明が得られ出版されたのは1748年のことだった[1]。
この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学・物理学などで現れる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」 だと述べている。
オイラーの公式は、複素数の極形式を簡明な表示に導く。すなわち、複素数の極形式 z = r(cos θ + i sin θ) は z = reθ に等しい。また、特に、θ = π のとき、
が導かれる。この関係式はオイラーの等式 (Euler's identity) と呼ばれる。
オイラーの公式は、余弦関数、正弦関数の双曲線関数による表示を導く:
応用上は、オイラーの公式を経由して三角関数を複素指数関数に置き換えることで、微分方程式やフーリエ級数などを利用しやすくする。
指数関数と三角関数
実関数としての指数関数 ex, 三角関数 cos x, sin x をそれぞれマクローリン展開すると
(1)
(2)
(3)
となる。これらの冪級数の収束半径が ∞ であることは、ダランベールの収束判定法によって確認することができる[注 2]。従ってこれらの級数は、変数 x を複素数全体に拡張することができ、広義一様収束する。つまりこれらの級数によって表される関数は整関数である[注 3]。解析接続すると、一致の定理より、複素数全体での正則関数としての拡張は一意であり、この収束冪級数で表される。
ここで、 ex の x を ix に置き換え、eix の冪級数が絶対収束することより級数の項の順序は任意に交換可能であることを考慮すれば
が得られる。
この公式は、歴史的には全く起源の異なる指数関数と三角関数が、複素数の世界では密接に結びついていることを表している。例えば、三角関数の加法定理は、指数法則 eaeb = ea + b に対応していることが分かる[4][注 4]。
オイラーの公式を利用して三角関数を指数関数に置き換えることができる。たとえば余弦関数と正弦関数については直接的に、
という表現が得られる。
証明
この公式には、上記の冪級数展開による証明の他にも異なる幾通りかの証明が知られている。ここにいくつかの例を挙げる。ただし、以下の微分を用いた証明については、実変数を複素数変数におき換えても、これらの議論が成立していることを、別途で証明する必要がある(複素解析論)。
微分による証明
証明 —
関数の微分を用いた証明を示す。実変数 x の関数 f (x) を次のように定義する。
(1)
f (x) を形式的に微分すると以下のようになる。
したがって、すべての実数 x について f' (x) = 0 が成り立つ。これは f (x) が定数関数であることと同値である。よって f (x) = f (0) より、
(2)
となる。(2) を (1) に代入すると次のようになる。
(3)
ここで (3) の両辺に、(cos x - i sin x) の複素共役 (cos x + i sin x) を掛ければ、三角関数に関するピタゴラスの定理 sin2x + cos2x = 1 よりオイラーの公式が得られる[5]。
証明 —
別の証明として、実変数 x の関数 f (x) を次のように定義する。
(4)
f (x) を x について微分すると以下のようになる。
したがって、すべての実数 x について f' (x) = 0 が成り立つ。
ゆえに f (x) は定数である。
よって f (x) = f (0) より
(5)
が成り立つ。
(5) を (4) に代入すると
が導出される。この両辺に eix を掛け、任意の複素数 a, b に対して成り立つ指数法則 eaeb = ea + b を利用すれば[4]
以上より
微分方程式による証明
証明 —
微分方程式を用いた証明を示す。x を実数、x の関数 f (x) を以下のように定義する。
また記法を簡潔にするために補助的な方程式
によって y を定める。これらをまとめると以下の方程式を得る。
(1)
(1) に x = 0 を代入すると
(2)
を得る。(1) の両辺を x について微分し、両辺に虚数単位 i を掛けると以下のようになる。
(3)
(3) と (1) より
(4)
を得る[注 5]。任意の 0 でない複素数 α について、関数 eαx は次の関係を満たす。
(5)
(4) と (5) を見比べ、α = i と置き換えれば、f(0) = 1 より
(6)
が成り立つ。最後に (1) および (6) から y を消去すればオイラーの公式が得られる。
2階線型微分方程式による証明
証明 —
2階線型微分方程式を用いた証明を示す。実数 x を変数とする関数
(1)
はいずれも以下の2階の線型常微分方程式の解である。
(2)
(2) は斉次な方程式なので、一般解は基本解の線型結合として表すことができる。
cos x と sin x は (2) の基本解である。実際、ロンスキー行列式
は 0 にならない。よって、(1) および (2) より
(3)
が成立する。また、(3) の両辺を微分したものは
(4)
となる。(3), (4) に x = 0 を代入したものはそれぞれ、
(5)
となるので[注 6]、(5) より (3) の線型結合はオイラーの公式を与える[7]。
ロンスキー行列による証明
証明 —
として cos x + i sin x と eix が線型従属であることを確認する。
ここで、ある定数 C について
が成立する[注 7]。ここで x = 0 を代入すると C = 1 となり
が得られる[8]。
ド・モアブルの定理による証明
証明 —
ド・モアブルの定理を用いた証明を示す[9]。
ド・モアブルの定理より
辺々加えて
右辺の 2 つの項を二項定理によって展開すれば、i の奇数乗の項は相殺し、i の偶数乗の項だけを二重に加えることになるので
を得る。これが cos θ の n 倍角の公式の閉じた表示式である([s] は s の整数部分)。
この式において nθ = x と置き換えると
和の上端を ∞ に書き直したが、k > n/2 のとき二項係数の部分が 0 になるので、これは n/2 までの和に等しい。
n → ∞ の極限においては
となり、各項目において漸近的に等しいことが確認できる。
したがって
となる。よって
が得られる。
同様に sin x について考えれば
より
が得られる。
ここで、n → ∞ の極限を取った際の誤差項の挙動を考えると
とおけば
であるから、an が小さいとき、n 乗すると誤差はおよそ n 倍されるが、an が 1/n よりも早く 0 に近づくときには、極限に影響しない。
本議論において
- [注 8]
であるから
となる。
したがって、ランダウの記号を用いて漸近挙動を示せば
ゆえに
ここで、ド・モアブルの定理に立ち返って
上記式において nθ = x とおくと
ここで、n → ∞ の極限をとったとき
であるから
よって
が得られる。
関連項目
脚注
参照
注釈
- ^ e = 2.718281828… はネイピア数と呼ばれる。
- ^ 冪級数 の収束半径 R は、極限
が存在すれば、R = r である。(極限が存在しない場合、収束半径はこの方法では求まらない。)
ex の収束半径は
となる。cos x の収束半径は、x2 についての級数と考えたときの収束半径に等しい。
sin x の収束半径は、同様に
以上で (1), (2), (3) の右辺の収束半径が ∞ であることが証明された。
- ^ これらは多項式でないので超越整関数であり、無限遠点を真性特異点に持つ
- ^ ea + b を冪級数で表し、各項を二項展開し、展開した項を改めて整理すれば、指数法則 ea + b = eaeb を導出できる。
- ^ i2 = −1 より i = −1/i であることを利用した。
- ^ e0 = 1 および sin 0 = 0, cos 0 = 1 を利用した。
- ^ cos x + i sin x は関数として 0 でないので。
- ^ 三角関数の半角公式を利用した。
参考文献
ウィキメディア・コモンズには、
オイラーの公式に関連するカテゴリがあります。
外部リンク