熊谷正朗

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熊谷 正朗くまがい まさあき
人物情報
生誕 (1974-03-31) 1974年3月31日(50歳)[1]
日本の旗 日本 宮城県 仙台市[2]
出身校 東北大学
学問
研究分野 ロボット工学
研究機関 東北大学
東北学院大学
カーネギーメロン大学
博士課程指導教員 江村超[3]
学位 博士(工学)(東北大学)[3]
主な業績 磁気式モーションキャプチャー
玉乗りロボット
高出力球面誘導モータ
ウェブサイト[4][5]
学会 日本機械学会、日本ロボット学会、計測自動制御学会IEEE
主な受賞歴 IEEE「Top 20 Robot Videos of 2010」No.1[6]
日本機械学会教育賞[5]
公式サイト
ロボット開発工学研究室
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熊谷 正朗(くまがい まさあき、1974年昭和49年〉3月31日[1] - )は、日本のロボット研究者博士(工学)東北大学2000年[3]。自身が運営するロボット開発工学研究室で製作された玉乗りロボットは、国内外で注目された[6][7][8]。熊谷が工学や技術について解説したウェブサイトは広く参照され、日本機械学会教育賞を受賞[4][5]。知能ロボットコンテストの運営にも、実行委員長などで貢献した[9][10]東北大学助手、東北学院大学工学部講師、助教授、准教授を経て教授仙台市地域連携フェロー(ロボットメカトロ系担当)も併任し、カーネギーメロン大学と共同で球面誘導モータの開発にも取り組んでいる[11]

来歴・人物[編集]

幼少期[編集]

宮城県仙台市で生まれ育つ[2]。子供の頃からモノづくりに親しみ、幼少時は厚紙やセロハンテープで工作を行う[9]。小学生になってからは田宮模型のギヤボックスも用いるようになり、小学4年生の時にははんだ付けや理科クラブでのラジオ製作を経験した[12]。小学6年生の時にはパソコンを買い与えられ、プログラミングに打ち込むことになる[12]。セロテープは一月1本まで、パソコンでゲーム禁止、趣味は禁止で受験勉強に専念など、両親から適度に制約を受けたことがリソース管理やプログラミング、理論を学ぶことにつながったという[13]

東北大学時代[編集]

熊谷は東北大学に進学し、趣味の電子工作やプログラミングを活用する前提で機械工学系を選択する[12]UNIXワークステーションやその分散ネットワーク処理などを嗜み[12]大学院では江村超のもとで不整地対応二足歩行ロボットの研究に取り組む。機構や制御のみならず、姿勢センサなどの研究にも取り組み、斜面の認識・歩行も実現する[14][15][16]2000年3月に博士(工学)学位を取得[3]。その後は助手として数年を過ごした後、2003年東北学院大学講師として転出[17]

東北学院大学講師 - 准教授時代[編集]

玉乗りロボット(2008年)

熊谷は2003年に講師として東北学院大学に着任し、「ロボット開発工学研究室[注釈 1]」を主宰する(後、2006年に助教授、2007年に准教授)[17][13]。熊谷は学生の希望により卒業研究のテーマを決定するスタイルを採用[19][20]2004年に配属された学生玉球乗りロボットのアイデアを出し、二輪倒立振子ロボット、パイプ乗りロボットと発展していき、後継学生にも恵まれ玉乗りロボットが開発される[19]ステッピングモータによるダイレクトドライブであった[注釈 2]

玉乗りロボットで一定の成果が出た2008年頃に、熊谷はニコニコ動画で玉乗りロボットの動画を公開。その後IEEE Spectrum英語版にも、学会発表用の動画とともに紹介される[24]。なお、ニコニコ動画ではコメント機能により、玉の摩擦係数を向上について改良案を得ることができ[注釈 3]、IEEE Spectrum による公開動画は、数日で50万回の再生を記録した[24]

2008年には仙台市の地域連携フェローとなり[27]、「基礎からのメカトロニクス講座」や地域企業との連携を担当[17]2009年から2010年にかけては、カーネギーメロン大学ロボット研究所に客員教授として滞在。熊谷同様に玉乗りロボットを製作していたRalph L. Hollis教授とともに、高出力の球面誘導モータの開発を開始する[11]。熊谷は平面誘導モータを試作した上で球面誘導モータの開発に成功し、特許も出願した[11]

なお、2011年には東日本大震災を経験。3月11日の本震時は学生とともに大学におり、研究室学生の送り迎えも行った。熊谷自身や家族に大きな被害はなかったが、学生の安否確認などで苦労しており、IEEE日本ロボット学会の会誌に経験談を記している[28][29]。また、淺間一がチェアマン、中村仁彦がアンカーマンを務める「対災害ロボティクス・タスクフォース」のメンバーにも加わった[30]

東北学院大学教授時代[編集]

2013年、熊谷は東北学院大学教授に昇進[31]。子育てに追われつつも乳幼児の二足歩行を観察・考察し[32]、同年4月から月刊『プラントエンジニア』で「身の回りに見つけるメカトロ雑学」の連載をこなす[33]2014年にはNHK Eテレの「天才てれびくん」に玉乗りロボットが出演している[34]2015年には大掛かりな学科カリキュラムの変更を迎え、必修となったメカトロニクスなどの授業準備に追われている[35]

一方で3次元CAD3Dプリンターにも習熟するとともに、射出成型の外注で玉乗りロボットの車輪を製作するようになる[36][37][13]。また、学生の卒業研究のテーマとしてパイプオルガンを始めている[38][39][40]2018年10月から2019年8月にはオーム社の『ロボコンマガジン』で「ロボット作りのためのメカトロニクス入門」を連載[41][42][43]。『プラントエンジニア』での連載は2019年3月で第72回に達した[44]

主な受賞歴[編集]

  • 2003年度 - トーキン科学技術振興財団 研究奨励賞[45]
  • 2006年度 - 計測自動制御学会 研究奨励賞[46][注釈 4]
  • 2010年度 - IEEE「Top 20 Robot Videos of 2010」No.1[6]
  • 2016年度 - 日本機械学会 日本機械学会教育賞「実践性を重視した若手向けロボット・メカトロニクス向け教育とインターネットでの提供」[5]

著書[編集]

学位論文[編集]

  • 人型2脚ロボットの時変傾斜面への適応に関する研究東北大学〈博士論文(甲第7365号)〉、2000年3月。 NAID 500000198742https://doi.org/10.11501/3177864 

監修[編集]

その他の著作[編集]

解説[編集]

記事[編集]

連載[編集]

  • 「ロボット作りのためのメカトロニクス入門」、『ロボコンマガジン』 オーム社、2018年11月号[41] - 2019年9月号(雑誌休刊)[42][43]

学術論文[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「ロボット開発工学研究室」は「理論には弱く、ロボット工学を名乗るのはおこがましいけど、つくることなら大丈夫」という意図で名付けられた[18]
  2. ^ 熊谷の手法は村田製作所のロボット[21]にも引き継がれているとされる[18][22]。なお車輪式倒立振子ロボットにステッピングモータを採用した先行事例として、平岡延章・則次俊郎の研究が存在する[22][23]
  3. ^ 玉乗りロボットの玉は剛性が高い方が良いが、摩擦係数が問題となる。結局、ボウリングの球に液体ゴムスプレーを塗布したものに落ち着いた[25][26]
  4. ^ 授賞テーマは「光等位相面切断法によるロボット用3次元計測システムの開発」[46]

出典[編集]

  1. ^ a b 熊谷ほか 2002, p. 163.
  2. ^ a b 熊谷正朗 2011b, p. 907.
  3. ^ a b c d 熊谷正朗 2000.
  4. ^ a b 熊谷正朗 2011a, p. 139.
  5. ^ a b c d 2016年度(平成28年度)日本機械学会賞ほか受賞者」『日本機械学会誌』第120巻第1182号、2017年5月、45頁。
  6. ^ a b c Erico Guizzo (2011年1月11日). “Top 20 Robot Videos of 2010”. IEEE SPECTRUM. IEEE. 2015年5月9日閲覧。
  7. ^ 瀬戸文美「研究者が『ロボット』を伝えるために」特集について」『日本ロボット学会誌』第29巻第2号、2011年、123頁。
  8. ^ Guizzo 2010.
  9. ^ a b メカライフ 2006, p. 968.
  10. ^ メカトロ雑学(2) 2013.
  11. ^ a b c 熊谷正朗 (2013年6月14日). “実用性能を有する高出力球面誘導モータの開発と一球車輪型全方向移動車いすへの応用(若手研究B、23760234) (PDF) ”. 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)研究成果報告書(様式F-19). 国立情報学研究所.
  12. ^ a b c d メカライフ 2006, p. 969.
  13. ^ a b c プロトラブズ 2017.
  14. ^ 江村ほか 1999.
  15. ^ 熊谷ほか 2001.
  16. ^ 江村ほか 2002.
  17. ^ a b c メカトロ雑学(1) 2013, p. 79.
  18. ^ a b さくま 2017.
  19. ^ a b 熊谷正朗 2011a, p. 136.
  20. ^ メカトロ雑学(22) 2015.
  21. ^ 森山和道 (2014年9月25日).“10体の玉乗りロボット「村田製作所チアリーダー部」発表 ~CEATEC JAPAN 2014に出展予定”. PC Watch. 2018年11月25日閲覧。
  22. ^ a b Masaaki Kumagai and Takaya Ochiai (2010).“Development of a Robot Balanced on a Ball ― First Report, Implementation of the Robot and Basic Control ―”. Journal of Robotics and Mechatronics 22(3): 348-355.
  23. ^ 平岡延章『ステッピングモータを用いた運動サーボ系に関する研究 ― ステッピングモータ駆動平行二輪車の運動制御 ―』岡山大学〈博士学位論文(乙第3454号)〉、2000年3月25日、doi:10.11501/3168512
  24. ^ a b 熊谷正朗 2011a, pp. 136–137.
  25. ^ 熊谷正朗 2011a, p. 137.
  26. ^ 夢ナビ 2015.
  27. ^ 熊谷正朗 2011b, p. 910.
  28. ^ M. Kumagai 2011.
  29. ^ 熊谷正朗 2011b.
  30. ^ 対災害タスクフォースのメンバーリスト(2011.05.09現在)”. roboticstaskforce. 2020年7月7日閲覧。
  31. ^ メカトロ雑学(2) 2013, p. 75.
  32. ^ メカトロ雑学(8) 2013.
  33. ^ a b メカトロ雑学(1) 2013.
  34. ^ NHK Eテレ「大!天才てれびくん」で工学部の玉乗りロボットが新技披露!”. 新着情報. 東北学院大学 (2014年3月4日) 2020年7月5日閲覧。
  35. ^ メカトロ雑学(24) 2015.
  36. ^ メカトロ雑学(18) 2014.
  37. ^ メカトロ雑学(23) 2015.
  38. ^ メカトロ雑学(43) 2016.
  39. ^ メカトロ雑学(48) 2017.
  40. ^ メカトロ雑学(62) 2018.
  41. ^ a b ロボコンマガジン 2018年11月号 (通巻120号)”. ロボコンマガジン. オーム社. 2020年7月5日閲覧。
  42. ^ a b ロボコンマガジン 2019年9月号 (通巻125号)”. ロボコンマガジン. オーム社. 2020年7月5日閲覧。
  43. ^ a b 『ロボコンマガジン』休刊のお知らせ”. ニュース. オーム社. (2019年8月16日) 2020年7月5日閲覧。
  44. ^ メカトロ雑学(72) 2019.
  45. ^ 熊谷正朗”.Researchmap(2017年2月24日) 2017年5月27日閲覧。[信頼性要検証]
  46. ^ a b 学会賞受賞者”. 学会賞・各種授賞. 計測自動制御学会. 2015年5月9日閲覧。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]

(関連動画)